私は身体中に湿布を貼りつつ、呻くようにつぶやく。
ソファーに座り、マザーの検診までボケーっとしようと考えていた矢先……。
「みことちゃあああああああん!!!」
ペルソナの断末魔が聞こえてくる。
「綴木みことちゃあああああああん!!!」
肺が萎むレベルのため息を吐いた。
また始まったよ……。
ペルソナの欠乏症が……。
「みことちゃん!! みことちゃんどこ!? 私のみことちゃあああああああん!!」
「対魔忍の世界に行かなきゃ会えんやろ」
私は超小声でツッコミを入れ、またくだらない事に巻き込まれたくない私は、そそくさと月面基地へと避難する。
マザーに呼ばれていたので、丁度良かった。
「エルミル、またみことちゃんになって!」
「イヤだよ!! 何で僕なのサ!?」
「(あぁ、エルミルよ。南無……)」
私は合掌をして、月面基地まで転移した。
8月14日
8時30分
『筋肉痛が酷いな……。』
「ええ、ファレグさんの稽古の賜物ですね」
マザーの指摘に私は苦笑する。
私は今、マザーに身体の様子を見てもらっている。
私の中に流れる血や身体の様子を確認してもらっているのだ。
余談だが、今日はファレグさんの稽古はおやすみである。
理由は簡単で、全員筋肉痛になってしまい、それをみたファレグさんが「筋肉痛の状態で稽古をしてもあまり意味がないので、1週間ほどお休みにしましょう」と言われたのだ。
『ふむ。』
「ど、どうですか?」
『エスカファルス……いや、幻創深遠なる闇の影響を受けている。』
「と、いうと?」
『順に説明する。』
マザーは映し出されたホログラムを見て、話始める。
『まず、君はもう老いる事は無い。』
「はい???」
マザーの言葉に私は眉を細めて言う。
不老って事か?
マジで?
『未来永劫、老いる事がなくなった。』
「……不老……。不死ではなく?」
『そうだ。ただ、絶対に老いる事が無い為、老衰による死は無くなった。』
「じゃあ、私が死ぬとしたら、他者からの攻撃や自殺でないと死ぬ事が不可能と?」
『そうなる。』
「……」
私が絶句して固まっていると、それを見たマザーは少し気まずそうに口を開いた。
『……続けるが良いか?。』
「あ、はい。お願いします」
『そして、最悪、不滅の存在となる。』
「え?」
『要するに、不老不死になる可能性が高いということだ。』
「ならない可能性もある感じですか?」
私がそう言うとマザーは少し悩む仕草をしてから『その可能性も否定はできない』と言った。
マザーの説明は続く。
『君の中にある幻創深遠なる闇は、現在、未覚醒状態にある。』
「なるほど」
『もし、幻創深遠なる闇が覚醒すれば、君は深遠なる闇となり、不老不滅の存在となる。』
「なぜ、未覚醒状態なんですか?」
『君の身体にいる存在が、完全に力を託していないからだ。』
私は「まさか……」と声を上げた。
その言葉にマザーはコクリと頷いて話を続ける。
『幻創ニーズヘッグ、幻創ミラボレアス。この2体は深遠なる闇だ。』
「ま、マジで言ってます?」
恐る恐る私がマザーに訊ねると、マザーは『間違いない。』と頷く。
それを聞いて、私は少し困惑してしまう。
「え、えっと、因みに、なぜその2匹が深遠なる闇に??」
私がマザーに聞くと、少し考えるような素振りをして、私に問いかけた。
『君が3年前に幻創龍に身体を支配された時、何を想像した?』
マザーにそう言われて、私は眉を顰めて首を傾げた。
長考モードに突入である。
「……えーと、確か……自分もエスカファルスになろうと思って……深遠なる闇レベルの強さを持った感じの……って、そゆこと?」
『ああ、君がエスカファルスに成る為にその想像した時、邪眼に意識を移した2匹の幻創が割り込んだ。その時に、その2匹は深遠なる闇と一体化した。』
「……」
マザーの憶測を聴いて、私は即座に幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスに意識を集中させた。
〚そのようだな。もっとも、我にはその自覚はないが……〛
〚同じく。それよりアイス食べたいな。板チョコアイス! 検診終わったら板チョコアイス30個買ってよ〛
「……」
変わらぬ2人に私は少し安心した。
って、ちょっと待て!!
私は、ある危機感を覚えた。
「マザー、あの、ちょっと……というかかなりヤバいと思うんですけど……」
『どうした?。』
「仮に私が深遠なる闇になった場合、私の人格ってどうなるんですか?」
『その事について、まだ確実とは言えないが……君がオラクルのダークファルスを元に、想像したのであれば、オラクルのダークファルスの特徴である「依代の感情の影響を強く受ける」と類似する現象が起こるだろう。』
私は絶句した。
え?
大丈夫だよな?
私の人格消えないよな?
私が混乱している中、マザーは話を続けた。
『人格が消える事はないが、ある程度の人格が改変されると思っていた方がいいだろう。』
「マジっすか……」
『そこは、君の心の強さ次第だ。』
「あ、はい……」
私は肩を下ろした。
マザーは『検診は以上だ。お疲れ様。』と、微笑んだ。
あー、可愛い。
すっごい癒される……。
絶対にマザー救おう……。
否が応でもマザー生存ルートに持って行ってやる。
私は立ち上がり、マザーに一礼をして去ろうとした時、あることを思い出してマザーに聞いた。
「あ、そうだ。マザー、1つよろしいですか?」
『どうした?。』
マザーは「?」とした表情でこちらを見つめている。
ちょっとドキッとするんだよな……。
「山原真衣菜さんについて、お聞きしたいことがありまして……」
そう言うと、マザーは少しだけ眉を顰めた。
あー……なんか、その表情で何となく察してしまった……。
「山原さんって、裕樹が死んだ事はご存知なのですか?」
『……。』
「昨日、山原さんが裕樹の事を一切出さなかったので、こちらも何となく指摘しなかったんですが……」
私がそこまで話すと、マザーは少し悲しげな表情で山原さんの事を話してくれた。
その内容は私を絶句させるに相応しいものだった。
ていうか、そんな鬼畜系エロ同人とか鬼畜系エロゲーみたいな展開が、現実で起こり得るモノなのかと、我が耳を疑ってしまった。
多分、アプレンティスとペルソナが聞けば、マジでブチギレる内容だろう。
アイツらは自分がそういう目に合うのは好きだけど、他人がそういう目に合うのは、ふざけんなって派だし。
それは私も同意見なのだが……。
その後、マザーと会った時は大変な状態だったようだ。
とある男から裕樹の死亡を知り、精神が錯乱状態になっていたようだ。
ずっと、ごめんなさいごめんなさいと壊れたラジオのように呟いていたそうだ。
その後、マザーに救助されてメンタルケアやら身体の療養をする事になったらしい。
「……そんなことが……」
『……あまり香山裕樹の事は言わない方がいい。今は落ち着いているが、また錯乱してしまう可能性もある。』
「わかりました。変な事をきいて申し訳ございません」
私は再び一礼をして、この場を去ろうとした。
しかし、私は1つ聞き忘れていた事があったので、再び席に座ってマザーに聞いた。
「あ、そうや。マザー、1つ伝え忘れていた事がありました。」
『??。』
「私が具現化したエスカファルス達についてです」
私のその問に、マザーは少しだけ神妙な表情になる。
『君が生み出したエスカファルス達がどうかしたか?。』
「あの方々は、私と同じエスカダーカー因子を持っているのですか?」
『あのエスカファルス達は、君のようにエスカダーカー因子は持たず、ただのエーテルで構成された幻創種だ。』
「そうですか」
『うむ。エスカファルスと呼ばれている超強力な幻創種といったところだろう。』
「わかりました。すみません。ありがとうございます」
私は、またまた感謝と一礼をして、自宅へと戻った。
8月14日
12時50分
「ふぅ……」
帰ってきて早々に、私はソファーに寝転がって深いため息をついた。
まさか、幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスが深遠なる闇の力を持っていたとは……。
挙句、その力を得たら不老不死になり、人格もある程度改変される……。
なんじゃそれは……。
凄い複雑……。
対魔忍になるまで死にたくはないけど、未来永劫死ねないのも苦痛だよな……。
でも、深遠なる闇になれば、対魔忍達の未来を破壊したアルサール共を消し潰せるっていうのは、かなりのメリットなんだよなー。
まぁでも、この2匹の龍が力を託してくれるとも限らんし……。
参ったなー。
私はそんな事を考えながら、テーブルに散乱している資料を読み漁る。
「あー、そういえば近い内に、チームを組んで幻創種を討伐する的な任務があったな……」
私は幻創種討伐の報告書を見ながら、独り言を呟いた。
「何やってるの?」
「どぉわっ!?」
アプレンティスがヒョコッと顔を覗かせた。
突然すぎるものだから、私は驚いて報告書を宙に放ちながらソファーから転げ落ちた。
「わ、ちょっと大丈夫?」
急に私が転げ落ちたものだから、アプレンティスは慌てて私の顔を除き込んだ。
宙を舞う報告書は、桜の花びらの如くヒラヒラと辺りに散らばった。
「あ、ああ、大丈夫や」
私はそう言ってゆっくりと立ち上がり、散らばった報告書を集め始める。
アプレンティスはそんなことも気にせずに私に話しかけてくる。
「ねえねえ、犬飼っていい?」
「犬?」
アプレンティスの言葉に私は聞き返した。
彼女は「うん」と頷く。
「このマンションってペットOKだよね?」
「確かいけるはずやが……」
私が言葉を詰まらせていると、じとーっとした目つきで「なによ」とアプレンティスは言った。
「珍しいなって」
ショタロリ大好きなアプレンティスが犬を欲しがるなんて、私からすれば前代未聞だ。
いや、他のエスカファルス達からしても前代未聞の出来事だろう。
「飼えるけど、生き物を飼うというのは、どういう事か分かるよな?」
「もちろん、確りお世話するよ」
そう言いながら、ペットについての事が載った資料を大量に見せてきて、必要な物等を私に熱弁した。
「分かった。そこまで言うのなら飼ってもいいよ」
「本当!?」
「ああ、ただ責任をしっかりと持てよ? もし犬を捨てたりするようなら……」
「なら?」
「その瞬間から、ロリショタの観察、それらに準拠する事その一切を禁止にするからな」
私はアプレンティスの顔を見て真剣に言った。
アプレンティスからすれば死活問題とも言える内容だろう。
その言葉を聞いたアプレンティスは、顔色1つ変えることなく「分かった。その時は好きにしていい」と答えた。
その瞳には1点の曇りも無く、それ相応の覚悟が見て取れた。
「それなら良いよ」
「龍照、ありがとう」
アプレンティスは真剣に頭を下げて感謝を述べた。
こんなアプレンティスは、見たことないので少し驚いた。
「ちなみに、何の犬を飼うの?」
「ダックスフント」
「はへー、ええやん! 因みに名前は決めてるの?」
「勿論! ナーサラにしようと思ってる!」
その名前を聞いて、私は思わず飲んでいたお茶を吹き出した。
その光景を見たアプレンティスは「急にどうしたのよ!?」と慌てふためく。
「あ、あの、何故その名前を?」
「何故って、何となくだけど?」
「あ、そうですか」
「???」
私の態度に疑問を抱くが、犬を飼って良い事でアプレンティスはルンルン気分で部屋から出ていった。
「……」
ナーサラか……。
私は飛び散ったお茶をタオルで拭いながら、小さく呟く。
彼女はアプレンティスであり、ふうま亜希さんの人格も入っているんだな……と。
……私はふと、ある事が頭に浮かび上がった。
この世界でやる事を終えて、全てを見届けた時、私はこの世界を去って、対魔忍の世界へと向かうだろう。
勿論、行き方なんてものは分からないが、全てを見届けた頃には、その世界へと行く術は得ているはずだ。
勿論、エスカファルス達も連れてな。
そして、対魔忍の世界に行った時、エスカファルス・アプレンティスと、ふうま亜希さんが出会ったらどんな事が起こるんだろうか……。
多分、ナーサラさんに出会ったらアプレンティスも、ふうま亜希さんと同じような反応をするのかな?
「ふっ……それはちょっと見てみたいな……」
私は、ナーサラさんの左右にアプレンティスとふうま亜希さんがいて、愛でている様子を妄想し、笑ってしまった。
「早く行きたいなぁ……」
五車を隈無く散策して、ヨミハラとかアミダハラにも行ってみたいな。
多分、ゲームじゃあ見ることのできない様々な光景があるんだろうな……。
〚おい!龍照!!〛
「うおっ!? なんや!?」
せっかく妄想ワールドに入り浸っていたのに、幻創ミラボレアスの怒声によって現実に引き戻された。
〚板チョコアイスはまだか!?〛
「あ、忘れてた」
〚板チョコアイスーーーーー! 板チョコアイスーーーーー!〛
長い首をブンブン振りながら、頭の中で暴れまくる幻創ミラボレアス。
「お前は食い患いのビッグマムかよ……」
〚板チョコアイスーーーーー!〛
「クロカンブッシュみたいなイントネーションで言うな。分かったから1回黙れ!」
〚30個ーーーーーー!〛
「わぁった!わぁった! 買いに行くから落ち着けバカ!」
私は暴れる幻創ミラボレアスを宥めつつ財布を持って、品川へと向かった。
その前に、この2匹やな……。
それをクリアしないと対魔忍どころかEP4にも辿り着けねえ……。
現実を突きつけられた私は、肩を降ろしながら東品川にある"エイオン"という大型スーパーに足を運んだ。
8月14日
1時20分
大型スーパーについて早速、ある人に出会った。
「エルダーやん!」
「おう! 龍照か、こんな所で会うなんて奇遇だな!」
大きな荷物を抱えたエルダーと、バッタリ遭遇した。
「お前も買い物か?」
「まー、そんな所や。エルダーは今から帰るところか? 見たところエラいデカイ買いもんした感じやが……」
私はエルダーが担いでいる荷物を眺めながら言う。
「もう少ししたら、シーナとディアの誕生日だからよ。何か誕生日プレゼントでもしようと思ってな」
エルダーは少しだけ照れくさそうな表情をして語った。
……何か涙出てくるわ……。
「そうか、そっちは仲良くしてる感じか」
「ああ、まぁな! じゃあ、俺は先に帰るぜ!」
「おう、そんじゃーな!」
そう言って、私とエルダーは別れた。
さて、板チョコアイス30個買いに行くかー。
私は冷凍食品コーナーへと向かった。
「えーと、板チョコアイスは……」
私は縦型冷凍食品庫に陳列されてあるアイスの中から、板チョコアイスを探す。
ただ、不思議なことに私の持っている買い物カゴには板チョコアイス以外のアイスが増えていってしまうのだ。
不思議な事もあるもんだ……。
結果は、私は買い物カゴ2個分のアイスを買ってしまった。
……板チョコアイスの量に店員さんがドン引きされたのは言うまでもない。
「買ったぞー」
〚やったー、ありがとう!!〛
私がそう言うと、頭の中の幻創ミラボレアスは嬉しそうにはしゃぐ。
何か異質だなぁ……。
〚それじゃあ、早く月面に移動して!〛
「あー、分かった。まずは板チョコアイス以外のやつを家の冷凍庫に入れてからな」
〚……〛
「それくらい辛抱せい」
無言で訴える彼女を無視して私は急ぎ足で自宅へと帰還。
その後、月面へと移動して龍形態になった私はバキバキバリバリと30個の板チョコアイスを貪った。
8月14日
1時50分
龍形態の小野寺龍照がアイスを食べている最中、月面基地にて、ルー語で話す男性が頭を抱えながらブツブツ何かを喋っていた。
「うーん、困ったNE〜」
特徴的なアフロヘアーとサングラスの男、木の使徒 べトール・ゼラズニイだ。
彼は今、次の映画の題材を何にするか悩んでいるのである。
「次の作品は、エキサイティングで……クールな……」
独特なポージングで喋るべトールは、傍から見たら頭のおかしい人である。
だが、べトールのことをよく知るマザークラスタの人からすれば、いつもの事で何も言わないだろう。
「巨大なモンスターが……ん?」
べトールは、ガラスから見える黒い物体に気がついた。
目を細めて、それが何かを確認する。
「あれは、龍照ボーイじゃないかぁ! ドラゴンの姿で何をやっているんだ?」
彼はブツブツと呟いているが、その直後に彼の脳に電流が走る。
「これだ!!! グッッド!!! ベルゥィグッドッ!!!」
べトールは高らかにそう叫び、目にも止まらぬスピードで龍照へと走り出した。
「龍照ボーイ!! 次の映画のアクターになってくれYO!!」
続く
ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?
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いいよ。
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ダメ。