「ここは?」
私は辺りを見渡す。
周囲は青々とした海のような空間に包まれていた。
私がいま立っている床は蜂の巣のようなハニカム状で構成されている。
『お前をここで滅ぼそう』
エコーが掛かったような声が私の耳に入ってくる。
私は直ぐに、その声がした方を振り向く。
「……往生際の悪い人間だこと……」
ドールの言葉に、私は呆れ口調で吐き捨てた。
申し訳ないが、私はここで滅ぶ訳にはいかない。
この後、色々とやらなければならない事が沢山ある。
「滅びるつもりはないぞ。我々は」
私は翼を羽ばたかせて空を飛んだ。
が、この位相空間とやら、意外と狭い。
リオレウスの形態でこれなら、ミラボレアスやニーズヘッグの大きさでは動く事が出来ないだろう……。
空を主体とした形態のリオレウスでは、この場で戦うのは厳しい。
「……」
私は形態を解いて、人の姿……というか元の姿へと戻った。
2匹の龍が深遠なる闇の力を私に渡した以上、人の状態でもある程度なら戦えるだろう。
私は両腕に力を込めて、闇の刃を形成する。
「(ふうま小太郎みたいやな……)」
私は対魔忍RPGの主人公の姿を思い出し、心の中で呟いた。
「ほいっ!!」
そんな事を思いつつ、両手から生み出された闇の刃をイージスへと目掛けて飛ばした。
『無駄だよ!!』
レザークローを展開したタレットを投げて、私が放った闇の刃を打ち消した上で、私を叩き潰そうとした。
「アカンやつ!!」
咄嗟に回避しようとしたが、タレットの速度が尋常ではなく回避が遅れてしまった。
奴が放ったタレットは、私の身体の右半分をゴッソリと持っていた。
「……っっっ!!」
脳や臓物、大量の血が位相空間の床を赤く染める。
ここまで抉られたら、痛みという痛みは感じなかった。
ただ、身体の片方の感覚が完全に無くなり、"あ、多分これ半分無くなってるな"と冷静に判断できた。
そう思っている間にも、私の失った右半分は体内にエーテルによって肉体が再構築されていく。
それを見たドールは舌打ちをする。
『お前のその、不死身の力が厄介だな』
「……私もそう思うよ」
完全に再構築された肉体で地を蹴って殴りかかる。
しかし、イージスの展開されたバリアによって伏せがれる。
「ぐっ……!」
弾かれた私は、そのまま吹き飛ばされて背中から地面に叩きつけられる。
「いって……」
『不死身であっても、痛覚が消えた訳では無い。それなら徹底的に痛めつけ、精神的に追い込んで壊すだけだ』
「まぁ、そうなるな……」
私はそう言い終えるや否や、「だが……」と言葉を続けら立ち上がった。
「私は、こう考えることにしたよ。未来対魔忍達が受けた痛みに比べたら、私の受ける痛みなど……産湯に浸かる前の赤子の如しであると……!!」
『対魔忍……?』
私の言葉にドールは少し何かを考えた後、『あぁー』と何か思い出したような声をあげて続ける。
『別の次元の地球にいる忍組織の事か』
「……っ!?」
ドールの言葉に私は目を見開いてイージスを凝視した。
心臓の鼓動が早くなり、全身から黒い霧が漏れ出てくる。
「まて、お前は対魔忍を知ってるんか?」
私の言葉にドールは『知っているよ』とだけ言った。
そんなドールが放った一言に対し、私は「なぁ、彼ら彼女らに何かしたんか?」と、震える口を必死に抑えながら喋る。
そのお陰で、かなりドスの効いた声になっただろう。
ドールは『ハッ……』と鼻で笑い、話をした。
『あんな舞の神 マイ様が着てるスーツに酷似した珍妙奇天烈な忍者集団、こちらから手を出すまでもなく壊滅する運命だよ』
「……は?」
『異次元侵略者、ブレインフレーヤーとかいう集団によってね』
「あぁ……そういう事か……」
『それに何かをする場合、僕的には対魔忍よりブレインフレーヤー共に手を出すよ。奴らの持つ"テセラック"と呼ばれる秘宝を手に入れる為にね』
「テセラック……」
ドールの言葉に私はゆっくりと呟く。
テセラックとは対魔忍RPGに登場する物体であり、詳細はよく分からないが、魔力や対魔粒子(pso2でいうフォトン)を完全に封じ込める力を持った代物だ。
pso2的に言うと、フォトン、クラススキル、OP、SOP、潜在能力、強化値等全てを封じられた状態でウルトラハードのダークファルス集団と戦えと言っている様なものだ。
これにより、未来対魔忍は絶望と混沌に包まれた世界となっている。
アイツら絶対許さん壊す。
『……あのテセラックさえ手に入れば、イージスやドールズ達もより一層強化され、多元宇宙を支配することも出来る。この世界を支配した後、対魔忍や魔族共が滅んだ隙を見計らって奴ら攻撃を仕掛けるつもりだよ』
そう語るドールの口調は、明らか舞い上がっていた。
テセラックを手に入れた自分自身を妄想し、興奮しているのだろうな……。
「それなら、尚更ここで滅ぼすぞ。それにブレインフレーヤーを滅ぼすのは
龍の眼でドールを睨みつける。
気分が昂り、私の周囲の地面から闇の泡を無数に噴出させた。
『対魔忍にでもなるつもりか?』
「あぁ、この世界で救える存在を救い終えたら、あの世界に行くつもりや。まだ行ける方法は分からないがな……」
輝く闇が溢れ出る。
さて、行くか……!!
私は力を込める。
『お前達が対魔忍になれる訳がないだろう。あの世界に行っても、その強さなら魔界の九貴族と謳われるだけだ』
「お前の方がお似合いだ。光子卿としてな」
『私が九貴族か。それもいいな。お前達を殺して、あの世界の魔界にでも行ってみるとしよう』
イージスの下腹部にあるコアのハッチが開き、そこからビームを放った。
龍照は、ほぼゼロ距離のコアビームをモロに受けた。
『お前が不死身の存在でも、封印してしまえば終わりだ。徹底的に痛みを与え、精神を追い詰め、そして封印させる!!』
「……させれるのか?」
『そんな事を言ってられるのは今のうちだよ!!』
コアビームの出力が最大まで上がる。
龍照は地面を焼く勢いのビームに飲まれた。
全身に焼かれる感覚に襲われながら、彼は語る。
「……私は対魔忍になる。なって、ブレインフレーヤーを叩き壊す……!! こんな所で封印される訳にはいかない!!!」
彼の雄叫びと共に、コアビームが吹き飛んだ。
『なっ!?』
「お前やブレインフレーヤー……人類を滅ぼそうとする奴らの思い通りにはさせない……!!」
全身大火傷を負うも、次第に再生する中で私は力を込めた。
この場では完全体(龍形態)では戦う事が難しい。
それなら、人型形態……所謂ヒューナル形態で戦えば良い。
なら深遠なる闇である私も成れるはずだ。
「人類がお前らに敗北するなぞ有り得ない」
私はヒューナル形態を妄想する。
全身がエーテル粒子に包まれていく。
頭の中で姿を構築していく。
それに連動するように、私の肉体も妄想した姿形になる。
「ふぅ……」
身体に纏っていたエーテル粒子を解き放ち、ヒューナル形態へと変貌を遂げた私は一息をついた。
その姿は先程とはあまり変わらない私自身の姿だ。
基本ヒューナル形態になれば、人間体の時よりも3倍ほど巨大になり、怪物の見た目になるが私のヒューナル形態は違う。
服装以外、私の姿そのものである。
ただ、私が着ている服装こそが、私がヒューナル形態である姿だ。
「これが私のヒューナル形態……ファルス・タイマニンや」
マザークラスタのシンボルを現し、私の姿は対魔忍達が着るようなデザインをしていた。
それもそのはず、私が頭に思い浮かべたのは……
天宮紫水、七瀬舞、篠原まり、星乃深月、柳六穂、綴木みこと。
大好きな対魔忍達だ。
その6人の対魔忍スーツを足して2で割ったようなスーツを着ている。
「私は……対魔忍になったぞ……!!」
私はスマホを取り出して、対魔忍RPGのメインストーリー43章に流れたコーラスを流し、狂気のような笑みを浮かべる私。
右手に星乃深月さんが使用する巨大な扇を具現化し、地を蹴ってイージスに接近する。
「行くぞ、ドール!!」
『っ!?』
あまりの速度にドールは驚愕するが、咄嗟にバリアを展開して防御態勢を取る。
─天宮紫水=波遁・獅子奮迅─
私は波遁の能力を発動し、ガーディアンと呼ばれる巨人を生み出して、バリアに向けて肩で突き当てる突進攻撃を行った。
だが、それでもイージスのバリアは砕ける事はなかった。
─天宮紫水=波遁・揚弓挙矢─
故に今度は波遁の能力を使って、掌から光のエネルギー波を発射させてバリアを破壊しにかかる。
『こ、こいつ……!!』
光のエネルギー波を受け続けたバリアにヒビが入り始め、ドールは狼狽した声をあげる。
「対魔忍の力……舐めんなや!!」
─天宮紫水=波遁・以心伝心─
イージスの展開するバリアの周辺にガーディアンの手を複数召喚し、全力で殴りかかる。
『馬鹿な……何が起きて……!?』
あまりの攻撃を受けて、ドールは焦りの声を荒げた。
その間にも私の攻撃は止むことはなく、遂にはイージスが展開したバリアは音を立てて砕け散った。
『ぐぁぁぁぁあああああ!!!』
バリアが破壊された衝撃でイージスは吹き飛び、この空間の壁に激突して、金属音とドールの断末魔を轟かせ、イージスの全身が力無く項垂れるように大ダウンする。
『い、いったい……何の力だ……!?』
「対魔忍の力や」
ドールの声に、私は冷たく言い放つ。
私のヒューナル形態の能力。
それは6人の対魔忍の忍法を使用できる力。
先程使った技は皆、天宮紫水が持つ波遁の力だ。
波遁は、自然に存在するエネルギーを自らの力に変える術。
そのエネルギーを使って「ガーディアン」と呼ばれる下半身の無い巨人を生み出して自在に操る事ができる。
他にも星乃深月の風を操る風遁、柳六穂のあらゆる毒を生み出す血流毒化、篠原まりの自在に土を操る土遁、七瀬舞の紙を操る紙気、綴木みことのハッキング能力。
この全てを使う事ができる。
なんか、6人に凄い失礼なことをしてしまった気がする……。
まぁ、今はそれを気にしていられない。
あの世界に行ったら詫びの1つ2ついれよう。
「死ぬ準備をしろ!!」
─星乃深月=風遁・激烈風─
私は大ダウンして動かなくなっているイージスに飛び掛かるようにジャンプし、持っている巨大な扇を横に扇ぎ、巨大な竜巻を生成した。
ただ、これだけでは終わらない。
─柳六穂=毒化・毒霧
私は口から毒の霧を先程生成した竜巻目掛けて噴射する。
毒霧と竜巻が合わさり、毒の竜巻という凶悪な自然現象が大ダウンしているイージスに迫る。
『イージス!! 動け!! お前は僕の最高傑作なんだ!!!』
ドールの焦ったような声を上げながら動かそうと必死になっていた。
彼の声以外にガチャガチャと操縦桿を動かす音が聴こえてくる。
『動けええええええええ!! イージスぅぅぅぅううう!!!!!』
彼の叫ぶ声はイージスに届いたようで、毒の竜巻が直撃するすんでのところで飛び上がって直撃を免れた。
『対魔忍だろうと、僕のイージスの前には!!!』
光の剣を私の頭上に降らしながら、レーザークローを展開したタレットを投擲してきた。
私は紙を具現化させた。
─七瀬舞=紙気・絶対防御領域─
「……紙気展開」
私は紙を操り、巨大な鎌倉を形成。
その中に入ってイージスの攻撃を全て防いだ。
『なんて厄介な力だ……!!』
「隙あり!!」
『っ!?』
─篠原まり=土遁・剛拳─
悔しげな声を出すドール。
その一瞬の隙をついた私は地を力強く蹴り、土で固めた拳を使ってイージスの顔面をぶん殴った。
ノーガードで受けた為か、再び吹き飛ばされて壁に衝突するイージス。
『馬鹿な……何故だ……。何故、イージスの出力が奴を上回らない!? 最高の動力炉を搭載してるのに……どうして!!?』
「そんなもんに頼ってるからやろ」
私は辛辣な言葉を投げかける。
その言葉にドールは強く否定した。
『そんなはずは無い! この世に絶望を抱いて死んだ"香山裕樹"と呼ばれた男の遺体の一部を埋め込んでいるんだ!』
「……え?」
続く
ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?
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いいよ。
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ダメ。