「……?」
私は意識が朦朧としたまま、ゆっくりとベッドから起き上がった。頭痛と共に、奇妙な気持ち悪さが眼から顔に広がっていた。
「あぁ、頭が痛い……」
口元から漏れる言葉は、弱々しいものだった。
眼を細めながら、私は周囲を確認した。
白い壁、薄い桃色のカーテン、そして訳の分からない機材たち。
どうやら、病院の個室にいるようだった。
「……何があった?」
頭の中で、思考が混沌と交錯する。
自分がどういう状況にいるのか、全く理解できなかった。
「んあ゛あ゛ぁぁぁ……」
私は汚いため息を吐いて、力なく体を起こした。
しかし、頭痛と気持ち悪さは強く、立ちくらみがして、再びベッドに倒れ込んでしまった。
あの時、突然巨大なレーザーが宇宙から飛んできて、私はそれを身を挺して受け止めた。
……そっからの記憶が曖昧だ。
「やぁべえ、そこからの記憶が無い……」
頭を抱えたが、ここが病室であることを踏まえると、地球は無事だと言うことは確かだ。
ひとまず安心する私。
心が安らいだためか、奇妙な緊張が解けた私は、別の思考が頭をよぎり始めた。
「あれ、今、何時や?」
不快感が目に染みる中、私は周囲をキョロキョロと病室を見回した。
「2時か……」
壁に掛けられた時計を確認すると、針は2時を指していた。
「午前か、午後か?」
必死に身体を起こして、窓から外を覗き込んだ。私の目に映るのは、青い空に白い雲が一面に広がっていた。
「昼の2時か……」
そう呟いた後、再びベッドに寝転がって、再度襲ってくる不快感に苛まれた。
そんな事をしていると、ガラッと病室の扉が開き、1人の少女が入ってきた。
「……?」
ゆっくりと扉を開け、茶色いロングヘアーをたなびかせた可憐な女性が現れた。
その瞬間、私に向けられた驚愕の視線は、まるで私が怪物であるかのように感じた。
「えっ!?」
彼女の口から漏れた一言に対して、私は「ペルソナおはよう」と返した。
「龍照が目覚めた! 良かった!良かったああああああ!!」
もう一人の私、エスカファルス・ペルソナは、涙を浮かべてベッドから身を起こしていた私に駆け寄ってきた。
彼女の声は、病院だと言うにも関わらず面白いぐらい大きく、目覚めたばかりの私の鼓膜を大いに響かせた。
「うおっ、どうしたどうした!?」
私が驚いた声を上げるが、彼女は「良かった、良かったよぉ……」と涙声で答えるばかりで何が起こったのか分からなかった。
だが、彼女の様子に、私は仲間が全員死んだのでは?
と嫌な予感が頭に浮かび上がり、変な汗が吹き出た。
ひとしきり泣きわめいた彼女は、涙目で鼻をすするように答えた。
「ごめん、今から他のエスカファルス達も呼んでくるね!」
そう言って小走りで病室から出ていった。
ペルソナの言葉を聞いて、私は、仲間たちが生きていることに胸をなで下ろした。
一方で、彼女が泣き崩れた様子には、何か深刻な出来事があったのだろうと感じた。
とりあえず、嫌な予感しかしなかったが、彼女が戻ってくるまで私は静かに待つことにした。
私はベッドに仰向けになり、エスカファルス達がやって来るのを待っていた。
足音が聞こえ、彼らが一人一人入ってくるのがわかりました。皆、元気そうで何よりだ。
「大丈夫か?」
エルダーが私に声をかけてきた。
彼の大きな声が私の頭に響き渡り、頭痛が激しくなった。
「あーうん、みんなおはよう」
私は頭を抑えながら、エスカファルス達や大原、藤野に微笑んだ。
そんな中、ルーサーが真剣な表情で私を見つめ、訊ねてきた。
「身体の方は大丈夫か?」
私は頭痛がすることを伝えましたが、概ね大丈夫だと答えた。
「それより、何が起きたの?」
私は皆に質問をしました。
これ以上、黙っていると質問攻めに合いそうだからと感じたからだ。
すると、ペルソナがあの後に何が起きたか、私に話をしてくれた。
あの時、宇宙から飛来した特大なレーザーを龍照が全てを身代わりにしてくれた事で、ドールズとSEED以外の全ての物質や元素が守られた。
地球にいた仲間の言う事には、「視界が真っ白になって、何が起こっているのか分からなかった」らしい。
月にいたペルソナとマザーも「攻撃されているのは分かったけど、何も出来なかった」とのこと。
だが、あの時の特大レーザーによって、地球にいたドールズとSEEDは完全に消滅した。
特大レーザーが止んで、龍照が倒れたのを見たマザーは直ぐに応急処置を行った。
その間に、
その事で、この悲劇によって死傷した人々や崩れ去った平穏が元に戻った。
あのドールズとSEEDの事件は、我々マザークラスタ一メンバーのみが知る歴史となった。
「そんなことがあったんか」
驚きを隠せない私に、ペルソナが深刻な表情で答える。
「うん、大変だったよ。龍照も全く目が覚めなかったし……」
ペルソナの言葉を聞いて、私は恐る恐る訊ねた。
「え、待って。私、どれくらい寝てたん?」
私の質問にペルソナは重たい口調で返答した。
「約3ヶ月」
「はっ!? 3ヶ月!?」
私は驚愕の声を上げた。
それによって再び頭痛が襲った。
頭を抑えながら話す。
「そんなに寝てたんか!?」
「うん、そのまま目が覚めないんじゃないかって、本当に心配したよ……」
ペルソナの言葉に、私は改めて自分がどれだけ危ない状況にいたのかを思い知った。
「ほぼ植物状態に近い状態だ。ってオフィエルさんが言ってたよ」と、アプレンティスが告げると、私の血の気が引いた。
植物状態に陥るなんて、全く予想だにしていなかったのだ。
しかし、疑問が湧き上がってきた。
「ちょい待ち、私、深遠なる闇に成ったから、不死身になったんじゃないの? それで植物状態に陥るって、あり得るの?」
ペルソナは少し気まずそうな表情を浮かべ、私はまた嫌な予感がしてきた。
「その事だけど、マザーから直接話を聞いた方があいよ」
と、ペルソナが提案した。
それに私は深くうなずくしかなかった。
「私とエルミルで、マザーを呼んできますね」
「センパイお大事にね!」
ハリエットはそう言って、エルミルと一緒に走ってマザーの元へと向かった。
私はベッドに横たわって、周りの人たちが見守る中、自分の身体に何が起きているのか考え込んでいた。
しばらくして、マザーが走ってやってきた。
『小野寺龍照、大丈夫だったか!?。』
彼女は心配そうに尋ねた。
「ええ、先程目覚めたところです。体調の方は度々頭痛がしますが、特に問題はないかと……」
私は彼女に答えた。
それを聞いた彼女は膝から崩れ落ちるように座り込み、私の前に謝罪を繰り返した。
「いえいえ、お気になさらずに。皆さんが無事だったのが何よりですよ」
私は彼女に対して笑顔で応じた。
「ところで、私の身体に何が起きているのか教えて欲しいのですが……」
私は彼女に訊ねた。
『分かった。』
彼女は深く深呼吸をして、私を見つめた。
彼女の表情は深刻で、私は彼女の言葉に耳を傾ける準備をした。
『君が気絶している時に検査をしたが、後遺症が非常に酷い。まず不死身ではなくなった。』
その言葉に私は眉を顰めて「えっ?」と言葉を漏らした。
『君は深遠なる闇に成っているが、あの時の身代わりが効いたようだ。深遠なる闇の能力がかなり低下している。』
「えーと、具体的に言うとどんなことに?」
『まず、君の能力"生命の完全掌握"だが、後遺症によって3分程度しか他の存在を身代わりに出来なくなった。』
マザーの衝撃発言に、私は開いた口が塞がらなくなった。
「え、3分間しか能力を使えないって事ですか?」
『……』
私の言葉にコクリと頷くマザーに、私は呆気に取られてしまい、消え入るようなか細い声で「うそやろ?」と言った。
『それと、能力を使用してから1時間程は使用できない。』
「リキャスト1時間かぁ……」
私は頭を抱えながら項垂れる。
あー、頭痛がしてきた。
リキャスト1時間は長いわ……。
「先程不死身ではなくなったって事ですけど、普通に死ぬんですか?」
そう言うと、一瞬考える素振りをしてから私の目を見て話をし始める。
『正確に言うと、小野寺龍照が第三者等の攻撃で死亡した時、君の肉体は霧散する。そして、長い時間を掛けて因子が集まり、形を成して蘇る。』
「えーと、その復活するまでに有する時間はどれくらいですか?」
『約1000年。』
「は!?」
気が遠くなる月日に私は呆然とする他無かった。
1000年って長いとかの問題じゃないぞ……。
「なるほど……確かに後遺症が酷いですね……」
『ただ、再生力もかなり低下しているが、これは最たる問題ではないな。』
「そうですか。ん? 不死身ではなくなった訳ですよね?」
『そうだ。』
「以前、私は不老になっていると聞きましたけど、まさか不老でも無くなったわけですか?」
私は恐る恐るマザーに訊ねた。
しかし、彼女から出た言葉は意外なものだった。
『いや、不老の部分は消えていない。その若さを永遠に保ったまま永劫を過ごすことになる。』
と言った。
そこは変わらないのか。
「しかしまぁ、とんでもない弱体化がされたもんだね」
マザーの話を訊いて項垂れる私を見たキイナが呑気にそういった。
「ホントだよ……。
私は乾いた笑いをあげながら凹んだ。
参ったなぁ……。
『本当に申し訳ない。私が弱いせいで君に負担をかけ過ぎた……』
「マザーが気にすることないですよ。まぁ、弱体化されても、また一から鍛えれば良いだけですからね」
再び謝罪するマザーをなだめていると、何かを思い出したようにキイナが口を開いた。
「あ、そうそう。言い忘れてたけど、マザークラスタ極東支部が移転するんだって」
「えっ? マジ?」
キイナの言葉に私は驚きを隠せなかった。
今日は驚きの連続だ。
「そうそう。和歌山県の離島に新しく建設されるんだって。それに伴って新宮から新しい路線も開通するって話だよ」
「おー、それは楽しみやな」
子供のようなワクワクした表情を浮かべていると、大原とキイナがニヤリと微笑み、私に質問を投げかけた。
「ちなみに、新しい支部長は誰だと思う?」
「にゃー、あれはビックリしたのぉ」
2人の反応に、私は首を傾げながら考える。
しばらく考えた結果、私が出した答えは……。
「私?」
地味なナルシスト的回答に、マザー以外の全員がズッコケて、マザーは『おもしろいジョークだな。』と小さく笑っていた。
「違うよ!」
すかさずキイナがツッコミを入れる。
私は笑いながら謝った。
「ごめんごめん。でも、マジで分からん。誰?」
私は降参して、大原とキイナに答えを促した。
すると、キイナは支部長の名前を言った。
「亜贄萩斗支部長だよ!」
続く
ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?
-
いいよ。
-
ダメ。