エスカファルス【非在】   作:楠崎 龍照

52 / 95
52話 りなく無は日明るえ消、平穏が何事もなく

 

 

 

 

「……?」

 

私は意識が朦朧としたまま、ゆっくりとベッドから起き上がった。頭痛と共に、奇妙な気持ち悪さが眼から顔に広がっていた。

 

「あぁ、頭が痛い……」

 

口元から漏れる言葉は、弱々しいものだった。

眼を細めながら、私は周囲を確認した。

白い壁、薄い桃色のカーテン、そして訳の分からない機材たち。

どうやら、病院の個室にいるようだった。

 

「……何があった?」

 

頭の中で、思考が混沌と交錯する。

自分がどういう状況にいるのか、全く理解できなかった。

 

「んあ゛あ゛ぁぁぁ……」

 

私は汚いため息を吐いて、力なく体を起こした。

しかし、頭痛と気持ち悪さは強く、立ちくらみがして、再びベッドに倒れ込んでしまった。

 

あの時、突然巨大なレーザーが宇宙から飛んできて、私はそれを身を挺して受け止めた。

……そっからの記憶が曖昧だ。

 

「やぁべえ、そこからの記憶が無い……」

 

頭を抱えたが、ここが病室であることを踏まえると、地球は無事だと言うことは確かだ。

ひとまず安心する私。

心が安らいだためか、奇妙な緊張が解けた私は、別の思考が頭をよぎり始めた。

 

「あれ、今、何時や?」

 

不快感が目に染みる中、私は周囲をキョロキョロと病室を見回した。

 

「2時か……」

 

壁に掛けられた時計を確認すると、針は2時を指していた。

 

「午前か、午後か?」

 

必死に身体を起こして、窓から外を覗き込んだ。私の目に映るのは、青い空に白い雲が一面に広がっていた。

 

「昼の2時か……」

 

そう呟いた後、再びベッドに寝転がって、再度襲ってくる不快感に苛まれた。

そんな事をしていると、ガラッと病室の扉が開き、1人の少女が入ってきた。

 

「……?」

 

ゆっくりと扉を開け、茶色いロングヘアーをたなびかせた可憐な女性が現れた。

その瞬間、私に向けられた驚愕の視線は、まるで私が怪物であるかのように感じた。

 

「えっ!?」

 

彼女の口から漏れた一言に対して、私は「ペルソナおはよう」と返した。

 

「龍照が目覚めた! 良かった!良かったああああああ!!」

 

もう一人の私、エスカファルス・ペルソナは、涙を浮かべてベッドから身を起こしていた私に駆け寄ってきた。

彼女の声は、病院だと言うにも関わらず面白いぐらい大きく、目覚めたばかりの私の鼓膜を大いに響かせた。

 

「うおっ、どうしたどうした!?」

 

私が驚いた声を上げるが、彼女は「良かった、良かったよぉ……」と涙声で答えるばかりで何が起こったのか分からなかった。

だが、彼女の様子に、私は仲間が全員死んだのでは?

と嫌な予感が頭に浮かび上がり、変な汗が吹き出た。

ひとしきり泣きわめいた彼女は、涙目で鼻をすするように答えた。

 

「ごめん、今から他のエスカファルス達も呼んでくるね!」

 

そう言って小走りで病室から出ていった。

ペルソナの言葉を聞いて、私は、仲間たちが生きていることに胸をなで下ろした。

一方で、彼女が泣き崩れた様子には、何か深刻な出来事があったのだろうと感じた。

とりあえず、嫌な予感しかしなかったが、彼女が戻ってくるまで私は静かに待つことにした。

 

私はベッドに仰向けになり、エスカファルス達がやって来るのを待っていた。

足音が聞こえ、彼らが一人一人入ってくるのがわかりました。皆、元気そうで何よりだ。

 

「大丈夫か?」

 

エルダーが私に声をかけてきた。

彼の大きな声が私の頭に響き渡り、頭痛が激しくなった。

 

「あーうん、みんなおはよう」

 

私は頭を抑えながら、エスカファルス達や大原、藤野に微笑んだ。

そんな中、ルーサーが真剣な表情で私を見つめ、訊ねてきた。

 

「身体の方は大丈夫か?」

 

私は頭痛がすることを伝えましたが、概ね大丈夫だと答えた。

 

「それより、何が起きたの?」

 

私は皆に質問をしました。

これ以上、黙っていると質問攻めに合いそうだからと感じたからだ。

すると、ペルソナがあの後に何が起きたか、私に話をしてくれた。

 

あの時、宇宙から飛来した特大なレーザーを龍照が全てを身代わりにしてくれた事で、ドールズとSEED以外の全ての物質や元素が守られた。

地球にいた仲間の言う事には、「視界が真っ白になって、何が起こっているのか分からなかった」らしい。

月にいたペルソナとマザーも「攻撃されているのは分かったけど、何も出来なかった」とのこと。

だが、あの時の特大レーザーによって、地球にいたドールズとSEEDは完全に消滅した。

特大レーザーが止んで、龍照が倒れたのを見たマザーは直ぐに応急処置を行った。

その間に、深遠なる闇(ダークファルス・ペルソナ)を顕現させたペルソナが時間遡行を地球に対して行った事で、ドールが地球にやってくる前の状態へと時間を巻き戻した。

その事で、この悲劇によって死傷した人々や崩れ去った平穏が元に戻った。

あのドールズとSEEDの事件は、我々マザークラスタ一メンバーのみが知る歴史となった。

 

「そんなことがあったんか」

 

驚きを隠せない私に、ペルソナが深刻な表情で答える。

 

「うん、大変だったよ。龍照も全く目が覚めなかったし……」

 

ペルソナの言葉を聞いて、私は恐る恐る訊ねた。

 

「え、待って。私、どれくらい寝てたん?」

 

私の質問にペルソナは重たい口調で返答した。

 

「約3ヶ月」

「はっ!? 3ヶ月!?」

 

私は驚愕の声を上げた。

それによって再び頭痛が襲った。

頭を抑えながら話す。

 

「そんなに寝てたんか!?」

「うん、そのまま目が覚めないんじゃないかって、本当に心配したよ……」

 

ペルソナの言葉に、私は改めて自分がどれだけ危ない状況にいたのかを思い知った。

 

「ほぼ植物状態に近い状態だ。ってオフィエルさんが言ってたよ」と、アプレンティスが告げると、私の血の気が引いた。

植物状態に陥るなんて、全く予想だにしていなかったのだ。

しかし、疑問が湧き上がってきた。

 

「ちょい待ち、私、深遠なる闇に成ったから、不死身になったんじゃないの? それで植物状態に陥るって、あり得るの?」

 

ペルソナは少し気まずそうな表情を浮かべ、私はまた嫌な予感がしてきた。

 

「その事だけど、マザーから直接話を聞いた方があいよ」

 

と、ペルソナが提案した。

それに私は深くうなずくしかなかった。

 

「私とエルミルで、マザーを呼んできますね」

「センパイお大事にね!」

 

ハリエットはそう言って、エルミルと一緒に走ってマザーの元へと向かった。

私はベッドに横たわって、周りの人たちが見守る中、自分の身体に何が起きているのか考え込んでいた。

 

しばらくして、マザーが走ってやってきた。

 

『小野寺龍照、大丈夫だったか!?。』

 

彼女は心配そうに尋ねた。

 

「ええ、先程目覚めたところです。体調の方は度々頭痛がしますが、特に問題はないかと……」

 

私は彼女に答えた。

それを聞いた彼女は膝から崩れ落ちるように座り込み、私の前に謝罪を繰り返した。

 

「いえいえ、お気になさらずに。皆さんが無事だったのが何よりですよ」

 

私は彼女に対して笑顔で応じた。

 

「ところで、私の身体に何が起きているのか教えて欲しいのですが……」

 

私は彼女に訊ねた。

 

『分かった。』

 

彼女は深く深呼吸をして、私を見つめた。

彼女の表情は深刻で、私は彼女の言葉に耳を傾ける準備をした。

 

『君が気絶している時に検査をしたが、後遺症が非常に酷い。まず不死身ではなくなった。』

 

その言葉に私は眉を顰めて「えっ?」と言葉を漏らした。

 

『君は深遠なる闇に成っているが、あの時の身代わりが効いたようだ。深遠なる闇の能力がかなり低下している。』

「えーと、具体的に言うとどんなことに?」

『まず、君の能力"生命の完全掌握"だが、後遺症によって3分程度しか他の存在を身代わりに出来なくなった。』

 

マザーの衝撃発言に、私は開いた口が塞がらなくなった。

 

「え、3分間しか能力を使えないって事ですか?」

『……』

 

私の言葉にコクリと頷くマザーに、私は呆気に取られてしまい、消え入るようなか細い声で「うそやろ?」と言った。

 

『それと、能力を使用してから1時間程は使用できない。』

「リキャスト1時間かぁ……」

 

私は頭を抱えながら項垂れる。

あー、頭痛がしてきた。

リキャスト1時間は長いわ……。

 

「先程不死身ではなくなったって事ですけど、普通に死ぬんですか?」

 

そう言うと、一瞬考える素振りをしてから私の目を見て話をし始める。

 

『正確に言うと、小野寺龍照が第三者等の攻撃で死亡した時、君の肉体は霧散する。そして、長い時間を掛けて因子が集まり、形を成して蘇る。』

「えーと、その復活するまでに有する時間はどれくらいですか?」

『約1000年。』

「は!?」

 

気が遠くなる月日に私は呆然とする他無かった。

1000年って長いとかの問題じゃないぞ……。

 

「なるほど……確かに後遺症が酷いですね……」

『ただ、再生力もかなり低下しているが、これは最たる問題ではないな。』

「そうですか。ん? 不死身ではなくなった訳ですよね?」

『そうだ。』

「以前、私は不老になっていると聞きましたけど、まさか不老でも無くなったわけですか?」

 

私は恐る恐るマザーに訊ねた。

しかし、彼女から出た言葉は意外なものだった。

 

『いや、不老の部分は消えていない。その若さを永遠に保ったまま永劫を過ごすことになる。』

 

と言った。

そこは変わらないのか。

 

「しかしまぁ、とんでもない弱体化がされたもんだね」

 

マザーの話を訊いて項垂れる私を見たキイナが呑気にそういった。

 

「ホントだよ……。実装(なって)早々弱体化って、デウスエスカ・ゼフィロスじゃないんやから……」

 

私は乾いた笑いをあげながら凹んだ。

参ったなぁ……。

 

『本当に申し訳ない。私が弱いせいで君に負担をかけ過ぎた……』

「マザーが気にすることないですよ。まぁ、弱体化されても、また一から鍛えれば良いだけですからね」

 

再び謝罪するマザーをなだめていると、何かを思い出したようにキイナが口を開いた。

 

「あ、そうそう。言い忘れてたけど、マザークラスタ極東支部が移転するんだって」

「えっ? マジ?」

 

キイナの言葉に私は驚きを隠せなかった。

今日は驚きの連続だ。

 

「そうそう。和歌山県の離島に新しく建設されるんだって。それに伴って新宮から新しい路線も開通するって話だよ」

「おー、それは楽しみやな」

 

子供のようなワクワクした表情を浮かべていると、大原とキイナがニヤリと微笑み、私に質問を投げかけた。

 

「ちなみに、新しい支部長は誰だと思う?」

「にゃー、あれはビックリしたのぉ」

 

2人の反応に、私は首を傾げながら考える。

しばらく考えた結果、私が出した答えは……。

 

「私?」

 

地味なナルシスト的回答に、マザー以外の全員がズッコケて、マザーは『おもしろいジョークだな。』と小さく笑っていた。

 

「違うよ!」

 

すかさずキイナがツッコミを入れる。

私は笑いながら謝った。

 

「ごめんごめん。でも、マジで分からん。誰?」

 

私は降参して、大原とキイナに答えを促した。

すると、キイナは支部長の名前を言った。

 

「亜贄萩斗支部長だよ!」

 

 

 

 

 

続く

 

 

ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?

  • いいよ。
  • ダメ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。