「ったく……」
私は再び、エスプチモスを再具現化させて動向を監視した。
早速ヒツギの寮部屋にて、コオリの悲鳴が木霊する。
「い、いやあああああーーーーー!!」
その声だけを聴けば、何かの事件性のあるものだと感じでしまうだろう。
だが、中身を開けてみれば……。
「なに!? なんなの!? この可愛い生き物は!?」
美少年であるアル君の姿を目にしたコオリが発狂しているだけだった。
「やだやだやーーだーー!! かーわーいーいー!! キン・パツ! ヘキ・ガン!! そしてダボ袖着こなし! 奇跡すぎるよ!!!」
ドッドッドッ!と音を立ててアル君に接近するコオリを前に、アルは心底怯えた表情でヒツギにしがみついて助けを求めた。
「フヘヘェェェ……♡ そんな邪険にしないでよぅ♡ おねーさんといい事しよーよー♡ 何も悪いことしないからさー♡」
サキュバスのような眼光と笑みを浮かべたコオリは、ネットリとした口調で誘惑した。
傍から見れば事案である。
そもそも、これほど信用出来ない言葉もないだろう。
清楚な少女を、ラブホの前まで連れてきて「何もしないから休もうぜ」と言うレベルに信用出来ない。
もしくは、「行けたら行く」レベル。
そんな淫乱ブラウンに比肩するレベルの変態コオリさんに呆れ顔になったヒツギはコオリの肩を持って「落ち着け」と一言。
「コオリ、あんた男苦手じゃなかった?」
「オトコの娘は別腹だよ別腹♡」
「音じゃ分からないところで、とんでもないこと言っただろ……今」
変態度合いだけで言えば、ダークファルス級なコオリの前に、ただただ呆れるしかないヒツギ。
そんな事を無視してコオリは話を続ける。
「それでヒツギちゃん。この
「…………………………笑わずに聞いてよ?」
そう言って、アルのお持ち帰りした経緯をコオリに話した。
30分ぐらい経過しただろう。
コオリはpcチェアに、ヒツギとアルはベッドに座っていた。
「pso2の中から……うーん、うーん、うーん」
ヒツギの話を前に、流石のコオリも訝しんだ表情で唸るような声をあげて頭を捻っていた。
「にわかには信じ難いけど、嘘じゃないの。状況的に考えて間違いない」
「疑ってないよ。私、ヒツギちゃんを疑ったこと、1度でもあった? でも、それが本当となると、私でも、そんな可愛い子を持って帰って来れるのかな?」
ブレない、ある意味ポジティブなコオリに、ヒツギは「私は真面目な話をしているの」と咎める。
「ちょ、ちょっとしたお茶目だよー」
誤魔化すコオリ。
「でも、ヒツギちゃんがpso2内からアル君を連れてきちゃったって思うのは、そう思うなりの事件があったって事でしょ?」
珍しく真面目な事を言うコオリ。
「どういうことがあったのかを振り返れば理屈はともかく、原因の心当たりくらい浮かんで来るんじゃないかな?」
「うーん、そうは言っても……昨日起きた事は全部想定外の事で、どれが原因だったか、見当もつかない」
ヒツギの言葉を聞いたコオリは、アルの方を見てから「アル君、君は何か覚えてない?」と優しい声で質問する。
しかし、アルは、分からないと言わんばかりに首を横に振った。
「うーーーん。あとはー、そうだねー。他の当事者に話を聞いたり出来れば、何か分かったりするかもしれないけど……」
「他の当事者となると……」
ヒツギの頭に浮かんだのはアッシュだが……。
今のヒツギに、アッシュの事まで説明できる自信がなかった。
むしろ、誰がヒツギに説明してくれという状態だ。
ヒツギは、心の中で考えを張り巡らせていると……
「へっ……くしっ!!」
と、アルがすんごい可愛いくしゃみをした。
それをヒツギとコオリがマジマジと見つめていた。
「聞くの忘れてたけど、どうしてあんな服装なの?」
「う……アルの着られそうな服が、今これしかなくて……」
ヒツギは少しだけ申し訳なさそうに説明をした。
それを聞いたコオリは「ふむふむ」と言って、話を続ける。
「分からない事はいっぱいだけど、まずやるべき事があったね」
「そうだね。アル。あんたの服、買いに行こっか!」
12時ぐらいだろうか。
買い物を終えた3人は、東京の市街地で新調されたアルのコーデを眺めていた。
「フワああああああ♡ 堪らないよー♡ 想像通り……うぅん、想像以上の出来♡」
コオリは大勢の人がいる中でも、関係ないと言わんばかりに発狂していた。
だが、アル君のコーデは非常に可愛く、コオリでなくても「これは可愛いな」と思える出来栄えだ。
しかし、喜びに浸りきっているコオリとは裏腹に、アルは窮屈なようで脱ぎたそうにしていた。
「僕、服を着るなら、お姉ちゃんみたいなのがいい」
「あんたは男でしょ」
「男の娘「コオリは黙れ」
コオリの発言に直ぐ様被せて黙らせるヒツギ。
「いいから着ておきなさい。せっかく似合ってるんだから」
「うん。分かった。お姉ちゃんが選んでくれたものだし」
いい子だよアルくん。
「選んだのは、私じゃなくてコオリだけどね。しっかし、よくこんな感じにコーディネートできたわね」
「私も大したことしてないよ。エーテル上で検索したのをそのままだもん」
コオリはスマートフォンから、アプリを起動してヒツギに見せた。
曰く、このアプリは「トレンドクリエーション」と呼ばれるアプリで、YMTコーポレーションが開発したものだそうだ。
身長、年齢、予算を入力、そして、その人の全身の写真を読み込むだけで、コーディネートを自動で行ってくれる優れものだ。
更に、AIによって3Dでその人の全身が出力される為、360度から見渡せるため、試着も不要なヤバいアプリである。
言うならば、pso2のエステのようなものを現実の世界で行えるというものだ。
頭おかしい。
「へー、そんなのあるんだ」
「ヒツギちゃんは、こういうのに興味持たなすぎだよ。その服だって私が選んだものじゃん」
「服なんて何着たって死にゃーしないし。それよりも本とか買って読みたい」
小野寺龍照と似たような事を言っているヒツギ。
まぁ、龍照は本ではなくr18イラスト依頼とr18ボイス依頼だが……。
「もー、ヒツギちゃんダメだよー。食事にゲームにファッションに、もっともっと青春を謳歌しないと」
「今あげた要素って、ホントに青春?」
コオリの青春に、少しだけ疑問を浮かべたヒツギだった。
「ねー、これなーに?」
アル君がコオリの持っているスマホに興味を示した。
「エーテル通信用のアプリだよ。アル君の服を選んだのもこれだし、ショップの場所もこれで調べたの」
「すごーい!! あれ?でも、この「おきにいりこーでぃねいと」って言うのはなに?」
何かに気づいたアルは、そこ場所をタップする。
「あ、そ、それは……!」
やばいと感じたコオリだが、時すでに遅く、お気に入りコーディネートが映し出される。
映し出されたソレは、アルがヒツギと同じ服を着たものだ。
そのコーディネートをみたアルは目を輝かせる。
「お姉ちゃんと同じ格好してる! 僕、こっちの方がいい!」
純粋無垢でいたいけのない少年が、ヒツギに訴えかける。
「……………………」
ギロリと睨みつけるヒツギ、何も言わずに意地でもヒツギの方を見ないコオリ。
「お姉ちゃん、お腹空いた」
「あー、そういえば、もうそんな時間か。折角だしどこかで食べに行こうか!」
「フッフッフー、そんな時もこのデバイスでチョチョイのちょいだよ!」
得意げに語るコオリ。
「最早依存症ね……スマホ依存症……いや、エーテル依存症かな?」とヒツギは呟く。
「そんなそんなー、私だって可愛いものだよー。というか、今の時代、世界中の人々がエーテル依存症だと思うよー」
「まー、最早エーテルがなければ成り立たない世の中だしね」
彼女達のいる東京の一角でも、スマホを弄る人々が9割を超えていた。
「はーい、そう言ってるうちにランチやってるお店予約できたよー」
多分、この光景を見たシエラさんは、眉を顰めるだろう。
オラクル船団と比べて、製造技術は非常に劣ってはいるが、通信技術に関してはアークスと比肩するレベルだ。
その事に何らかの作為を感じると思うが、その根幹はまだ分からないだろうな。
1時
レストラン・ロゼ
3人は、そこでランチをとっていた。
そのレストランのあちこちには、バラが幾つも飾られており、広いオープンテラスのあるのが特徴のオシャレな場所だ。
昼時だからだろう、他の人々も美味しそうにランチを堪能していた。
そんな中で、アルもまた、初めて食べるだろう地球のご飯を前に夢中になって食べていた。
「おいひーー! とっても美味しいよお姉ちゃん!」
口まわりにケチャップで赤くなりながら、オムライス……というかお子様定食をガツガツと頬張っていた。
「はいはい食べながら喋らない。口周りに着いてるじゃない。ほら、拭いてあげるから動かないで」
そう言ってヒツギはケチャップ塗れのアルの口周りをティッシュで拭いた。
完全にお姉ちゃんである。
そして、その行動を見たコオリは悪知恵を働かせた。
「ひ、ヒツギちゃん! 私もこぼれちゃって汚しちゃった! くちまわりー♡」
目をつぶりながら、自身の顔を近づける。
「あそう。はいこれ」
しかし、誘うコオリに対してヒツギは、氷のような冷たい態度でティッシュをコオリの前に置いた。
それくらい自分で拭け。
その言葉がありありと聞こえてくる彼女の態度に、コオリは物凄い不機嫌な態度で、自身の口周りを拭いた。
「しっかし、お店の選別から予約、注文まで終わっちゃってるなんて、便利な世の中になったものよね」
「ヒツギちゃんも持てばいいと思うよー。便利だよこれ」
「私は誰にも見られずに、部屋という自分だけの砦で落ち着いてPC触るのが好きなの」
「んー、それも分かるけど……。そうはいってもこのご時世、こういうのがないと不便だよー。専用のアプリもいっぱい開発されてるしね。特に、このYMTコーポレーションの作るアプリは、かゆいところに手が届いててとっても使いやすいんだよねー」
YMTか。
正直、私もあの会社にはお世話になってる。
何でお世話になってるかは……まぁ追々……。
なんかもう、マザークラスタ幹部の特権をフル悪用したようなもんだし……。
「この店を予約するアプリも、さっき見せたコーディネートのアプリも、全部YMTコーポレーションが開発したやつだよ。しかも、そこの社長さんって私たちの学校の卒業生らしいよ」
「なんでそんなに詳しいのよ」
「ヒツギちゃんが疎すぎるのー。最近話題になってるんだよ。本当に。あっ、ちょうど今、ワイドショーに出てるよ。その社長さん」
そう言って、ビルにある大型ビジョンに映るYMTコーポレーション社長を見た。
─今、大大大、大注目のYMTコーポレーション。
その社屋にお邪魔させてもらっています!─
女性リポーターの声が東京に轟いている。
─しかもしかも、今や時代の寵児とも呼ばれている亜贄萩斗社長自らの案内なんですよー!─
「(萩斗支部長……w)」
亜贄萩斗、pso2をやってるやつなら分かるだろうYMTコーポレーション社長にして、マザークラスタ幹部【オリンピア】を勤める金の使徒。
そして、この世界では、マザークラスタ極東支部の支部長まで兼任している。
簡潔に言うと、我々【四神】勢と【神淵】エスカファルス達の上司だ。
面識はあるどころか、いつも空いた時間に鍛錬やら、雑談等を繰り広げたりしている。
─社長、今日はよろしくお願いしますね!─
─こちらこそ、よろしく─
いつも聞いたことのある声が聞こえてくる。
萩斗支部長、ホンマに頑張っとるなぁ……。
自社の仕事もあるのに、それに兼任で金の使徒と支部長の仕事も卒がなくこなしてるんやから、ようやるよ。
─社名、社長のお名前とかではないんですね。どうしてYMTコーポレーションと? 何かの略称、なんですよね?─
─何の略称だと思う?─
「(大和やろ?)」
─えーと、YMTだから、イヤーとかマルチとか入りそうですね!─
─残念、正解はヤ・マ・トだよ─
─ヤ・マ・ト?─
─ヤマト。とは、心意気のことを指してもいる。僕が日本人であるのも理由の一つ─
「(ホンマかい。新極東支部設立と同時に行われた支部長の挨拶の時、YMTコーポレーションの由来、戦艦大和の事しか言ってなかったやないかい)」
─そしてなにより、かの有名な「戦艦大和」の事をリスペクトしての名称。それ故のYMTさ─
「(同じこと言うとる)」
─は、はぁ、戦艦大和……ですか─
「(ちょっとリポーターの方、引いとるやん……w)」
余談だが、私が元いた地球でこの話題が出た時、全員が「コイツが幻創戦艦大和の犯人やろ」と確信していた。
某笑顔動画でも、「意図的かどうかはさておき、こいつのせいやな」「コイツが緊急クエストの黒幕だな」等と言われていた。
─そういえば、会社の入口にも模型が飾ってありましたよね。あれも?─
─残念。あれは大和ではなく、武蔵だよ。就役1942年の、大和型二番艦さ─
─え、そうなんですか?─
─まぁ、区別がつかないのも無理はないね。大和と武蔵は同型艦だし、今の流れからすれば勘違いしても仕方がないだろう─
─は、はぁ─
─戦艦大和は、私の魂とも言える存在だからね。ここではなく、私の自宅の、最も映える場所に飾ってるんだ─
以下略
萩斗支部長……じゃなくて社長のウンチクを聞いた2人の感想は……
「オタクだ」
「オタクだね」
「オタクって?」
ヒツギとコオリの感想にアルは首を傾げる。
「コオリみたいな人の事よ」
アルの質問に、速攻で答えるヒツギ。
「説明がざっくり過ぎるよヒツギちゃん」
流石に待ってくれと言わんばかりにコオリは立ち上がって、ヒツギにツッコミを入れた。
再度座り直したコオリは、オタクについて、しっかりと解説をした。
「アル君。オタクっていうのは、趣味に夢中になっちゃう人の事だからね」
「ふーん、コオリは何に夢中になってるの?」
「え、あ、そ、それは……」
物凄い気まずそうな表情で、ヒツギから目をそらすコオリを見て、「……どうしてそこで言い淀むのよ……」と半笑いで言った。
どう考えてもヒツギオタクである。
「(そういえば、極東支部の支部長室にもいっぱい模型が置かれてたな)」
凄いどうでもいいが、私と萩斗支部長は何だかんだ言って大和の事で話をしたりしている。
私は幻創戦艦大和で、大和の事に興味を惹かれた身だ。
1度でも、彼の自宅に案内されたが……。
うん。ヤバすぎて落ち着けなかった。
庶民が気軽に言っていい場所では無い。
豪邸でめっちゃ緊張した。
あと、凄い映えるところに大和が飾られていた。
いや、大和どころじゃない、ありとあらゆる戦艦の模型が飾られており、ちょっとした軍港になっていた。
エルミルとも仲が良い。
オタク同士惹かれ合うのだろう。
萩斗はマブラヴに登場する戦術機に興味を持ち、エルミルは戦艦大和に興味を持ち、仲良くなっている。
「ん?」
そんな時、マザークラスタ極東支部から緊急の連絡が入った。
ハリエットが取って、通話をしていた。
どうやら、大阪の梅田にて不審人物が暴れているとの通報だそうだ。
奴は具現武装使用者と思われる為、幹部の出動が要請されることになる。
「では、私が行きます」
エスカファルス・ハリエット。
初代深遠なる闇 ゴモルスとソダムになる事のできるバケモノの一人である。
「お願いします!」
オペレーターの女性にお願いされたハリエットは、「かしこまりました」とお辞儀をしてワープする。
続く
ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?
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いいよ。
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ダメ。