エスカファルス【非在】   作:楠崎 龍照

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「……?」

深夜の3時に小野寺龍照の携帯に突然電話がかかってきた。

「……あい。もしもし?」






「んあー……了解。こっちでどうにかしとく。そっちも気をつけてや。あいよ。そんじゃあ、あいよ。お疲れ様」


「はぁ……さて、どう説明するか……まさか、こうも歴史が変わるとは……」




65話 偽装の42・21

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝のニュースは全世界の人々を仰天させた。

時代の寵児 YMTコーポレーション社長 亜贄萩斗死亡。

別荘のリビングで何者かによって"滅多刺し"にされて殺されたようだ。

それは今朝の朝刊一面に掲載され、テレビでも大々的に報道された。

YMTコーポレーションは今頃大慌てだろう。

無論、マザークラスタ極東支部も例外では無い。

支部内でも勤務地の支部長が殺害されたとなれば、大騒ぎになるのも必須だと考える。

 

「……」

 

無論、私……エスカファルス・ペルソナもその1人だ。

支部が騒然としており、何事かとアリサ・グランダルさんに訊ねてみると……。

 

「亜贄支部長が殺害されたらしい!! ヤバくない!?」

「……え?」

 

普段ニュースとか見ない私にとって寝耳に水の出来事だった。

幹部連中からも特にそのような連絡が無かった為、私は完全にフリーズする。

まぁアイツらもニュースなんて見ないから当然か……。

 

「嘘?」

「本当! ヤバくない!? 別荘のリビングで誰かに惨殺されたとか!」

「それはヤバい」

 

テンションMAXのアリサに対し、私は真顔で素の声でつぶやく。

完全に状況が飲み込めてない。

え、だって正史だと萩斗は最後まで生存するはずじゃ……。

私は、必死に小野寺龍照としての記憶の中にあるPSO2EP4のストーリーを辿っていると……。

 

 

─♪ピーンポーンパーンポーン♪─

 

 

アナウンスが鳴り響く。

スピーカーからは男性の声が聴こえてきた。

 

「支部の皆さんおはようございます。小野寺龍照です」

 

小野寺龍照の声が聴こえてくる。

なんか、どことなくくたびれてるような声色をしている。

 

「朝から大変申し訳ありません。重大な話がありますので、第二島の大会議室まで皆さんお越しください。繰り返します……」

 

彼の言葉を聴いた全員が、「間違いなく萩斗支部長の件だ」と思っただろう。

私も思った。

私たちはゾロゾロと支部の第二島にある大会議室に向かった。

 

 

第二島の大会議室

 

 

大勢の職員が大会議室に集まった。

そんな中で壇上に1人の青年が現れた。

明らかに寝てなさそうな態度がありありと出ている。

 

「マザークラスタ極東支部の皆さん。朝からお呼び出してしまい大変申し訳ありません。マザークラスタ幹部【四神】赤の使徒を務めております。小野寺です」

 

そんな前置きの自己紹介を龍照は行うが、みんな知ってる内容である。

 

「えーと、もう皆さんは既にご存知だろうと思いますが、ウチの支部長の亜贄萩斗氏が何者かによって殺害されたのと報告がありました」

 

萩斗支部長の事だと分かっていたが、稀に見る真面目な龍照の様子に全員の緊張が走る。

だけど、どこか面倒臭そうな雰囲気があるように私は感じた。

 

「なし崩し的に、私が支部長代理を務めることになりましたが、方針は萩斗支部長の時と同様ですのでご心配なく。また新たな支部長の抜擢は当面の間は行わず、大体数ヶ月は現状維持で行きます」

 

その言葉に職員の皆が若干訝しむ様子を見せたが、龍照の事だから何か考えがあるのだろうと感じて追求はしなかった。

 

「長々と話すのもアレですし、現状の報告はこれで終わります。仕事中にお呼びしたことを心よりお詫び申し上げます。皆さん、各自の持ち場に戻っても大丈夫です」

 

ペコリと頭を下げてから、壇上を降りていった。

その様子を見た職員達はザワザワしつつも、とりあえず方針が変わらない事に安心しながら自分の持ち場に戻って行った。

そんな中で、私は走って龍照の元へと向かった。

 

 

「はぁ……エライ事になったもんだ……」

 

マザークラスタ極東支部の本島へと続く通路……というか橋を歩きながら、頭を抱える青年がいた。

彼の名は小野寺龍照。

このマザークラスタ極東支部に務めている幹部で、権力と力、共に持っている男性であり、その強さは折り紙つきだ。

嘘か誠か、数年前にこの世界は終末レベルの災害に見舞われ、人々が異形の存在に変える中で希望を捨てずに終末へと立ち向かい、それを食い止めたとか。

そんな英雄クラスの人が物凄いため息を吐いた。

それは身体の中にある幸せが全て逃げてしまうレベルのため息だ。

 

「マァジで……ホンマに……くっそ面倒くさいことに……。こんな歴史やぁなかったんやんけ……」

 

若干の苛立ちが含まれた口調で愚痴を零す。

その様子を見ながら、私は後ろから「龍照ー!」と大声で叫びながら抱きついた。

 

「うわぁぁぁ!!? お前いきなり抱きつくな──!!」

「あっ!?」

 

私が突然後ろから抱きついた事でバランスを崩してしまい、横に倒れてしまう。

本島と第二島を繋ぐ連絡橋橋であり、一応落下防止用に柵を設けてはいるが、バランスが崩れた私達はそのまま柵を乗り出して海へと落下してしまった。

 

「ペルソナお前バカだろおおおおおおおおおお!!!?」

「ごめんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!」

 

2人の断末魔が響き渡り、そして……。

ザッブーンッ!巨大な水柱が立った。

 

「……え、ちょっ!? ペ、ペルソナさんと龍照さん!?」

 

それを近くにある食糧管理棟の窓で見ていた職員の1人がコーヒーを吹き出して慌てて他の職員も呼び出して救助に向かった。

 

「す、すまん。マジで助かった……」

「うへぇーーー……」

 

数人の職員に救出された2人はビッショビショの状態で浜辺に揚られる。

 

「タイタニック号の真似でもしてた?」

 

私達と近い年齢の青年、"千里眼 聖(せんりがん ひじり)"さんがからかうように話しかける。

 

「馬鹿野郎、んなわけあるか。ペルソナのバカがいきなり抱きついてきて橋から転落したんやんか」

「ごめん。ほんとにごめん。ヘックションッ!!」

 

両者ずぶ濡れで、私は謝罪の言葉を言いながら、割と大きめのくしゃみをする。

 

「暖かいコーヒー持ってきた! これ飲んで体を温めた方がいいよ!」

 

そう言いながら10代後半の黒髪の女の子、"神楽ヒグラシ"さんが熱々のコーヒーが入ったコップを持ってきてくれた。

 

「セミちゃんありがとう!」

 

私はセミちゃん(あだ名)の持ってきたコップを笑顔で受け取りそれを一気に飲んだ。

 

「ぶぇあっちぃいいいいいいいいい!!!」

「……なにしてんの?」

 

熱々のコーヒーを一気に飲んだ私は舌を出して絶叫する。

私の間抜けにも程がある様子を見た、その場にいた人々は呆れたような表情をした。

 

「アンタ猫舌なんだから、そんな一気に飲んだらそうなるでしょうよ……」

 

白髪ロングの読者モデルに出てそうな美少女、深淵 忍(ふかえ しのぶ)は呆れ笑いながら私に言った。

寒いんだから仕方ないのよ!!

 

「ヒィィィィあちィィィィィ!」

 

想像以上に熱く舌を出して涙目で騒いでいる中、千里眼 聖さんが龍照に何か話をしていた。

 

 

「なぁ龍照。あの支部長の件は本当なのか?」

「あぁ、警察からも連絡が来たから本当や。笑えん事が起きてるな」

「殺人事件なんだよな?」

「おん。まだ犯人は捕まってない」

「支部長って相当な具現武装の使い手だろ? それなのに殺されたって……」

「まぁ、相手はそれを上回る手練である事に間違いは無いな」

「アークスが来てるこんな時に……なぁ、アークスが犯人って説はないか?」

「まぁ……それは無きにしも非ずだな。実際にちょっと前にドンパチやったし」

「……アークスか……マザークラスタ内の人って事は無いよな?」

「…………………………さぁ。それはないんちゃうか? 狙う理由がない」

「……だよな」

 

 

……ダメだ。舌が熱すぎて何の話をしてるのか聞き取れない。

 

「ほら、冷えたお茶具現化したから、それで冷やしな」

「ありがとう!」

 

呆れ顔になりつつも、深淵忍はキンキンに冷えた水を具現化してそれを私に差し出した。

私は笑顔でそれを受け取ってグビグビと飲み干す。

 

「プハァ! 生き返るー!」

「上位存在なのに結構人間的なのは、どういう事なのよ?」

「それは私よりも、私達を作った支部長代理に聞いてー」

 

私は深淵さんに何度も水を具現化して貰いながら龍照に丸投げする。

だが、その言葉は龍照の耳には入っておらず、千里眼さんと何やら真剣な話をしていた。

 

「そういえば、最近よく爆破事件が起きてるけど……犯人分かってないんだよね?」

「みたいだね。……萩斗支部長の殺害されたのと何か関係があるのかな?」

「(……爆破事件)」

 

私は神楽さんと深淵さんの話を聞いて、眉をひそめた。

最近噂になっている無差別爆破の事だ。

悲しい事にその爆破事件で、1人男子高校生が死亡した。

正確に言うと、表向きは死亡してるのが正しい。

犯人は今も掴めていない。

 

「……でも、萩斗支部長殺害事件とは関係ないと思うよ。だってそれなら支部長を爆殺してると思うし」

 

深淵さんの爆破の犯人と萩斗支部長殺害の犯人同一人物説を、神楽さんが最もな理由で否定する。

 

「あー、そうだよね。ってことは殺人者が2人もいるってことになるよ。怖すぎでしょ」

 

それを聞いた深淵さんは納得するが、それはそれで別の恐怖が生まれてしまい身を震わせる。

 

「ねえ、これって私たちも動いた方がよくない?」

 

深淵さんの提案に神楽さんも「それがいいと思うけど……水面下で動かないと、犯人にバレたら暗殺されそうだなぁ……」と同意しつつ、少し不安な表情になる。

 

「ねえ、ペルソナはどう思う?」

「やっぱ、動いた方がいいんじゃない? 流石に警察だけではやばいと思うよ」

「うーん……確かに動いた方がいいと思うけど……ちょっとこっちで話し合ってみるね」

 

と私は言った。

爆破犯人は、恐らくべトールの仕業だろう。

確か史実では、アークス連中を誘き出すために様々な場所を爆破してたはず。

だから、この爆破事件は無視してもいい。

ただ、萩斗殺害に関しては流石に動いた方が良いと思う。

……思うけど、あれだけの具現武装の使い手を殺害するとなると、その犯人も相当な手練であることは疑いの余地は無い。

流石にこの子達に任せるのはまずい……。

ここは私たち幹部勢が動いた方がいいな。

 

「あっ、そういえば私、龍照に用があったんだ」

「んあ? どうした?」

「萩斗支部長が殺されたのって本当なの? あの化け物支部長が殺害されるって信じられないんだけど」

 

そう訊ねると、龍照は「ああ。さっき千里眼さんにも言ったけど、確かな情報やで」と少し悔しそうな表情で言った。

 

「まさか、アイツが殺されるとはな……」

 

そう言いながら拳を握りしめる彼。

その表情を見た私は、確実に彼が殺されたのだと確信する。

 

「萩斗支部長を殺した人は、我々神淵と四神で捜索する予定や。千里眼さん達はいつも通りに仕事をしててくれ。私はちょっと用事があるから、これで失礼するわ」

 

そう言って龍照はそそくさとどこかへと行ってしまった。

用事ってなんだろうか……。

残された私達は互いに顔を見合って顔を傾げた。

 

 

 

 

 

「さて……恐らく、今日が撮影日だな」

 

TR阪和海洋線快速急行の新宮行きに乗り込んだ龍照は、眼前に広がる大海原を眺めながら呟く。

大体はエスカファルスが持つワープ能力で東京まで瞬間移動しているが、今回は電車で東京まで向かわなければならない。

それは万一に、とある人物に察知されないためだ。

 

 

 

昼時

 

 

「あれ、ホントに龍照どこに言ったんだろう……?」

 

私は支部内を探し回るが、龍照の行方が分からなくなった。

暇だからアイツと一緒に昼飯食べようと思ったのに……。

おかげで私はひとりで寂しく飯を食べることになった。

 

「はぁぁ……」

 

私は本城の下に建てられある居酒屋【深遠なる飯】で昼食をとっていた。

ダークファルス海鮮寿司という、通常の5倍の大きさの寿司が次々と出てくる料理を注文した。

少食には絶対にオススメできない。

因みに残したら1万円が罰金として吹っ飛ぶ。

私は大食いだから大丈夫。

なんの躊躇もなくそれをカウンター席で注文する。

 

「あら、ペルちゃんどうしたの? そんなに落ち込んだ顔して」

 

この居酒屋で働いている店主の紫色の長髪に、エルダークラスのガチムチ長身のオネエ。

鯉流 蛇雄(こいる へびお)さんが話しかけてきた。

 

「もしかして、萩斗支部長の事かしら? 怖いわよねぇ……。最近じゃあ連続無差別爆破事件も起きてるし、物騒な世の中になったものだわぁ」

 

そう言いながら、寿司のシャリを握りしめている。

 

「うーん。それもあるけど、龍照がどっか行っちゃって、1人寂しく昼飯をたべることになったから……はぁぁって」

「なるほどねぇ。ハリちゃん(ハリエット)やアプちゃん(アプレンティス)は?」

 

「誘おうとしたけど、もうご飯済ませたってさ。もー、私を誘ってくれてもいいじゃん!」

「それは残念だったわね」

「1人で食べる飯ほど寂しいものはないよ!!」

「分かるわぁ。……はい。ダークファルス海鮮寿司よ」

「ありがと。にしても龍照はどこに行ったんだろう」

 

私は鯉流さんにお礼を言ってから、巨大寿司を食べながら彼のことを話す。

 

「んー、何か隠し事がある事は間違いないわねぇ」

「隠し事?」

「朝にメアちゃん(小野寺龍照=エスカファルス・メアリースー)の説明があったでしょ? あの時の顔がちょっとね。仲間を失った時の表情じゃないように感じたのよ」

「どういうこと?」

 

鯉流さんの言葉に私は口に含んだ巨大マグロ寿司をゴクリと飲み込んで訊ねる。

鯉流さんは視線だけで居酒屋の店内を見て、人がいないことを確認すると少し小声で言う。

 

「まず前置きとして、これは私の推察だから本気にしないこと。いいわね」

 

と言った。

私は興味津々の表情でうんうんと頷く。

 

「数年前に、1人の幹部が殉職した事……覚えてる?」

「……山原玲奈さん」

「そう。……ヴァーディアス・ヴェラと呼ばれたドールズの襲撃で殉職したあの子。あれから意識が戻った彼が初めて当時の私が働いてた店にきた時、彼の表情がね。もう心配になるぐらい死にかけの表情だったのよ」

「……確かに……見てられなかった」

 

当時の龍照は自分が強い力を持っていたにも関わらず、好意を寄せていた女の子を死なせてしまい、酷く後悔に苛まれていた。

あれから他の人々を守る事に固執するようになった。

実際、彼が深遠なる闇に覚醒した時に得た能力がいい例だろう。

 

「あれだけ他人を守ろうと躍起になっている彼なのに、今回の任務ではそれがなかった。私たち職員の前だったから、真面目な表情を必死に保ってたってことかも知れないけど……少しだけ違和感を感じてね」

「……なるほど……」

 

鯉流さんは私の耳元であることを囁いた。

 

「ひょっとすると……萩斗支部長と何かのやり取りがあったんじゃないかしら……?」

「……え? それって……」

「萩斗支部長は実は生きていて、あの死亡ニュースはフェイクだったとか……」

「……うそ?」

「あくまで私の推察に過ぎないから本気にしない方がいいわ……」

「……」

「ただ、この事は誰にも言わない方がいいわ。もし本当にそのやり取りがあったとしたら、萩斗支部長の身に何かしらの事が起きたことは間違いない。だから、今は誰にも言わずに胸の中に留めて置く事ね」

「……だね」

「じゃあ、早く食べちゃいなさい。まだまだダークファルス海鮮寿司はあるんだから! 早く食べないと満腹中枢が刺激されて最後まで食べれなくなるわよ!」

「はーい」

 

鯉流さんにそう言われ、私は大量の巨大寿司を腹の中に詰め込んだ。

 

 

 

 

 

 

午後7時の東京。

 

 

2つの高層ビルの最上階付近で爆発が発生した。

それの様子を少し離れた雑居ビル屋上で、ディレクターズチェアに座って見物をしている男性がいた。

アフロヘアでサングラスをした男、べトール・ゼラズニイだ。

 

「フンフンフフーーン! さぁ、種は蒔き終えた。最高のステージがステンバァーイ!! あとはメインアクターの入待ちだぜ? ヒツギガール! プルェイヤァーチャン(アッシュ)!」

 

すると、携帯端末のバイブが鳴る。

ベトールは少し驚きつつも、相手の名前を見て悪態をつく。

 

「オーウ、シット! 無粋なホットラインはカットしておくべきだったZE!!」

 

そういいながら彼はかかってきた電話にでる。

 

「イエス? 用件は手短に頼むぜ? ユーシー?」

 

電話からは男の声が聴こえてくる。

力強い男の声だ。

ラスボスの風格すらも感じられる。

いや、べトールもどっかの宇宙の帝王そっくりの声をしてるから、こいつも大概ラスボス感のある声だが……。

 

「……ベトール、いい加減にしてもらおう。こちらで揉み消すにも限度がある。同じ場で繰り返せば、なおさらだ」

 

電話から聴こえてくる男の声からは苛立ちの表情が読み取れるぐらい、静かな怒りを表していた。

 

「マザーはこの地を愛している。無闇に傷つけるのは許されん。無意味な破壊行為をいつまでも続けるつもりだ?」

 

「ハッハッハッハ!! それはヒツギガールたちに確認してもらいたいところだNE。こちらから手の届かないところに逃げているんだから、手の届くところに出てきてもらうしかないだろ? それにこれは、マザーからのお願いでもあるんだZE? 止めるリーズンがナッシング!」

 

男の注意に、ベトールは悪びれる様子もなく笑って返答をする。

その反省の色が見えない言葉に電話相手の男はさらに声を大きくして言う。

 

「度がすぎると言っているのだ。我々の目的は、地球の破壊ではない」

 

電話で説教を垂れる男の話に聞き飽きたベトールは「アイシーアイシー、アンダースタン。聞き飽きたからもういいだろう? ポチっとなーっと!」そういって、ほぼ一方的に通話をきった。

 

「全く何にもわかっちゃいないな。こんなスペクタクルな映像を生で撮れるなんて今ぐらいしかないんだZE?」

 

呆れたようにベトールは口を開く。

 

「そこには最高のエキサイティングがある。全世界が求める映像がそこにある!!」

 

そう言い終えると、ベトールは暗い夜の空を見上げて、「なぁ、そうだろマザー? だからオレはユーの誘いに乗ったんだぜ?」と呟いた。

 

呟いたあと、ベトールは遠くにアッシュとヒツギが転送されるのを確認してニヤリと微笑み、その場から立ち上がる。

 

「オッケエエイ!! アクターも揃った!! クラッパーボードを鳴らそうじゃないか!! 最高のフィルムのために!!」

 

高らかに宣言したべトールは、東京都内にクラッパーボードの音を轟かせた。

さぁ最高の映画撮影の始まりだ。

 

 

 

「一旦、カットして貰ってよろしいか? ベトールさん」

 

後ろから声聴こえる。

ベトールは後ろを振り返り、眉をひそめて少し不機嫌な表情になった。

 

「撮影中に邪魔をするのは、マナーがなってないZE?」

「すまん。だが、ちょっとだけでいい。ベトールさんに言いたいことがあるんやが……」

 

トレンチコート風のマザークラスタ装束に身を包んだ男が辺りを見渡して、ベトールに話しかける。

その話の内容を聞いた彼は先程の不機嫌な表情とは打って変わって嬉しそうな表情になった。

 

「オーマイガー! それは本当なのかい!?」

「私の識る歴史ではそうなってる」

 

男は頷く。

ベトールの表情は興奮冷めやらぬ表情だった。

男もちょっとだけ微笑み、ベトールにこう言った。

 

「ベトールさん。映画監督の見せ所や。貴方も、この映画のアクターとして出演するで……!」

 

と。

その言葉を聞いたベトールは不敵な笑みを浮かべた。

 

「いいねぇ。最っ高だZE!!!」

 

 

 

 

今までに無いほどのテンションを上げたべトールがその場を去り、男一人になる。

 

「……正直、安藤さんのお手並みを拝見したいところやが……アイツに見つかって面倒事になるのは避けたいし、やらないといけないこともある。後で直に会いに行けばええか」

 

そういった彼は、雑居ビルの階段から降りてどこかへと消えていった。

アイツの策を潰すために。

 

 

 

 

 

 

 

べトールVSアッシュ、ヒツギ、そして友軍として現れたヒツギの兄である八坂エンガの戦いはアッシュ達の勝利となった。

 

「オゥマィ……ガッ……! 俺の……ステージが……崩れる……!!」

 

具現武装であるクラッパーボードを地面に落とし、自分のステージの崩壊に絶望の表情を浮かべた。

しかし、ベトールはアッシュ達の方を見て少しだけ笑みを零した。

 

「だが、グッド……グッドだ。ヒツギガール、エンガボーイ……そしてアッシュボーイ!!! アクターは……監督の予想を上回ってこそ、その時にこそ最高のフィルムが生まれる……!!!」

 

三人に称賛の声を送るベトールにエンガは呆れながら「ったく……この状況でも映画の心配か、大した根性だよ全く……」も呟いた。

その時だ。

 

「ッ!?」

 

アッシュは後ろからなにやら強大な気配を感じ取り、咄嗟に振り返った。

それに気づいたヒツギも「どうしたの?」とアッシュに言いながら振り返る。

それを見たヒツギは「兄さん、あれ!!!」と後ろの上空を指差す。

 

そこには萩斗やベトールと類似したマザークラスタの白い戦闘衣を身に纏った5人の人物がいた。

 

「全員でって言うから、どんなやつがいるのか50%期待したのに、どいつもこいつも70%ぐらい弱そう」

 

桃色のロングヘアーをした胸の無い女の子が心底落胆したような口調で話す。

 

「で、チンチクリンってのがヒツギってやつ? 100%弱そうだし、今ここでやっちゃおうよフルー」

 

そう言って、隣にいた胸の大きい薄紫色のショートヘアーでマザークラスタの紋章の形をしたモノクルをかけた女の子に話しかける。

 

「だ、ダメだよ。オークゥ、確かに弱そうだけど、私たちは挨拶しにきただけなんだから」

 

と返答した。

すると、フルと呼ばれた女の子は何やらハッとしたのか、突然メモを取り出した。

 

「あ! 挨拶に来ただけ、ってセリフ。何だか無駄に強そう。使えるかも。メモメモ……」

 

フルは取り出したメモに先ほどの言葉を書き始めた。

どうやら、胸の無い桃色のロングヘアーをした女の子がオークゥ。

胸の大きい薄紫色のショートヘアーをした女の子がフルという名前のようだ。

 

すると、そのフルの隣にいたスキンヘッドのガタイの良い年配のお爺ちゃんはホッホッと笑い「フルの言う通りじゃよオークゥ。此度のワシらの目的はきゃつらではない」とオークゥに注意をする。

 

それらを見たエンガは目を細めて険しい表情を浮かべた。

 

「おいおい……まさか、マザークラスタ・オリンピアが勢揃いかよ……これはちょっと不味いかもな……」

 

と口を溢す。

そして、一番中央にいた聴診器を首にかけた壮年の男性は満身創痍のベトールに向けて声をかける。

 

「ベトール。直に会うのはしばらく振りだな」

 

と。

それにベトールは「ハッ、そんなことを言いに来たんじゃないだろ? オフィエル?」と笑いながら言った。

それに対してオフィエルと名を呼ばれた壮年の男性は「あぁ」と頷き、こう答えた。

 

「マザーが粛清を命じられた。著しいまでの独断専行。到底、感化できるものではない」

 

と。

さらにオフィエルは続ける。

 

「だが、ベトール。お前という男を侮って近づくのは、賢い者のすることではない。そこでお前が何秒動けようと関係の無い処刑方を実行する!!」

 

オフィエルは手をベトールのほうに向ける。

 

「隔離術式!! 空間制御!!!」

 

その瞬間、ベトールを中心に長方形の幾何学模様のようなデザインが描かれた結界が展開、その中にいるベトールの動きが完全に停止する。

時間が止まったかのように動かなくなったべトールを見たオフィエルは青い結界のような物を自分に張ると、その場から姿を消してベトールの直ぐ後ろに瞬間移動した。

 

「これが空間制御だ。最もその空間のなかにいるべトールには見えることも、感じることもできないだろう」

 

そう言い終えるとオフィエルは手をかざし、人差し指を光らせる。

すると、ベトールの周辺から手術に使用するようなメスが50本以上が具現化され、上空に勢いよく飛び上がる。

そして、そのスピードの勢いが増したメスはベトールに向けて降下する。

 

「これで処刑は完了する。三秒前、二秒前、一秒前……」

 

処刑のカウントダウンが始まり、オフィエルの「ゼロ……」という心の無い言葉と共に、ベトールを囲った空間は消えた。

消えたと同時に肉の切れるような鈍くも不気味な音が鳴り響き、交差点は赤い鮮血に染め上げられた。

 

「がぁ……あ……!!!!」

 

ベトールは大量の血を流しながら膝をつき、地面に倒れた。

白いマザークラスタの服が真っ赤に染まっていく。

あまりの惨劇にアッシュとヒツギは目を背けた。

 

「私はその決定に従ったまでだ、ベトールよ」

 

血を流して倒れたベトールを見下しながらオフィエルは冷たく吐き捨てる。

そんな中、ベトールは苦痛に歪みながらもニヤリと笑みを浮かべた。

 

「へ、はは……がぁ……ごはぁ……!!! オーケィ……オーケェィ……。それがマザーの決定ならいいだろう……!!!」

 

と口から血を吐きながら必死にオフィエルに話しかける。

 

「だが、オフィエルよ……ちゃんと今もフィルムは回ってる……だろうな……?」

 

目や鼻、口から血を流しながらもベトールは周囲に浮遊するカメラを確認して呟く。

 

「人の死ぬシーンなんて……生涯に一度しか撮れない者だ……。逃さず……撮っておけ……よ……!!」

 

そう口にするとベトールはパタリと倒れた。

そして、ベトールの亡骸は青い結界に囲まれて転送される。

それを見たオフィエルは再び幹部たちのいる場所へと、瞬間移動する。

 

「目的は達成された」

 

オフィエルはそう言い終わると、先ほどよりも大きな声で喋る。

 

「世界の病巣よ!!! 今一度宣告しよう!!! 我々マザークラスタの目的は、そちらにいるアルという少年の身柄のみ。引き渡せば、地球人の身は保証する!!!」

「地球人って、私達だけ!? オラクルの達はどうなるのよ!!?」

 

オフィエルの言葉にヒツギが鬼気迫る表情で質問する。

しかし、オフィエルはそれに対して「私はマザーの言葉を伝えるのみ。引き渡さなければ、全ての病巣を取り除く。……それだけだ」と冷徹な口調で言った。

 

そう言い終えると、5人のマザークラスタは青い結界に囲まれて何処かへ消えていった。

 

 

「アルを引き渡せって……あいつらの……マザーの目的はなんなの?」

 

静寂に包まれるなか、ヒツギはポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

エスカタワーの頂上、マザーはボソリと呟いた。

それはヒツギの言葉に対する解答だ。

 

「……復讐に決まっているだろう。復讐以外の目的が、あろうはずもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




「こちらも目的は達成できた。……にしても手酷くやられましたね……」

ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?

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