彼女がそう言い放った瞬間、地面を砕いて姿を消した。
姿を消す時、ファレグの周辺に鎌鼬が発生して街灯が細かく切断され、フェンスをズタズタに引き裂いた。
「死なないで下さいね」
そう言ってファレグは超高速の蹴りを行い、それによって前方に衝撃波を飛ばした。
その衝撃波という名の鋭利な斬撃が3人の近くの地面を抉り切った。
「は!?」
「はいぃっ!?」
初っ端から人間らしからぬ芸当を見せられたアッシュとヒツギは唖然とする。
だが、アッシュは瞬時にコートエッジを取り出して攻撃モードに切り替え、脅威の跳躍力でファレグに斬りかかった。
「っ!!」
「……ふふっ」
アッシュの渾身の一撃をファレグは片腕で防ぎ、それを押し返した。
「嘘だろ……!?」
想像を絶する力を感じたアッシュは、ダークファルス・エルダーでも見るかのような焦りの表情をする。
「コイツ……なんて……!!」
"なんて強さだ"
全く予想していない事態を前に、アッシュは言葉を詰まらせた。
「まだまだ行きますよ」
ファレグの猛攻は止まらない。
キュインッ!と姿を消したと認識した時には彼女は目の前にいた。
そして、貫手のような動作をした後、指を立ててアッシュの胸元に突き刺そうとする。
「くぅっ!!」
アッシュは身体を捻って間一髪のところでそれを回避し、そのまコートエッジを勢いよく振り回してファレグを吹き飛ばしにかかる。
「とてもいいですね!」
その攻撃をファレグは右腕で受けきり、弾き飛ばした。
だが、アッシュは負けじと猛ダッシュで一気に距離を詰めてファレグに体当たりをかましてから薙ぎの一閃を加える。
アッシュの渾身の一撃は、見事にファレグの脇腹に直撃。
しかし、ファレグの黒いドレスに傷をつけただけで終わり、本体にダメージを与えている感じがしなかった。
「デタラメすぎるだろコイツ……!!」
想像を絶する強さを前にアッシュはダークファルスや深遠なる闇と対峙している時のような緊張感を抱かずにはいられなかった。
ヒツギやエンガもアッシュの援護に向かう。
しかし、エンガの銃弾もヒツギの斬撃も彼女の前では無力に等しい。
「おらぁああ!!!」
アッシュは弓をひくように身体を振り絞り、ファレグへ向けて円盤状の斬撃を飛ばす。
「ヨイショっと!」
飛んでくる斬撃をファレグは回避することなくそれを素手で掴んだ。
「行きますよ!」
そうしてフリスビーみたいにアッシュが放った斬撃を彼らに目掛けてぶん投げる。
「ぐぅ……!!!」
迫り来る斬撃を、フォトンによって具現化させた極大の刃を使って真っ二つに切断する。
その巨大な刃はそれだけでは留まらずにファレグにも届く勢いで振り下ろされた。
「いいですね。とても素晴らしい攻撃ですよ」
ニコリと微笑みながらアッシュの巨大な刃を賞賛しつつ、人差し指と中指を使って片手でその刃を受け止めた。
「「「ッッ!!?」」」
「これ程までに戦いが続いたのは久しぶりですね」
ファレグはそのまま二指を挟んでフォトンの刃を砕いた。
─ちょっ、ちょっと待ってください! アッシュさんを追い詰めるってどうなってるんですか!? あの人!!─
これをモニターで見ていたシエラは狼狽している。
─しかもしかも、反応を見るにエーテルすら使ってませんよ!生身ですよ、アレ!!! 本当に地球人ですか!?─
「嘘だろ……あれ全て生身でやってるのか!?」
「みてぇだな。だけど少なくともオレはあんなバケモノを同じ地球人と認めたくねぇな……」
シエラの通信を聴いたアッシュは目に見えて顔が青ざめて、エンガは目の前にいる"人"が自分達と同じ"人"である事を否定する。
無論、それにはヒツギも同意の意見だ。
そんな事を聞いてもファレグは何処吹く風。
「あらあら酷い言われよう。私は普通の人間ですよ?」
と一蹴する。
「皆さん勘違いしていますが、人間だってこのくらいは出来ちゃうんです」
その発言にここにいる3人が「そんな訳あるか」と思っただろう。
ファレグは続ける。
「一番恐ろしいのは、理解できないもの臭いものに問答無用で蓋をする人々だと思いますけどね」
耳の痛い言葉である。
「アースガイドもマザークラスタも、皆さん一般の方々に見られないよう結界を張って裏でコソコソ根回しと小競り合い。とっても、くだらない」
冷たく言い放つファレグは話を続ける。
「皆さん、もっともっと、ご自分の力を誇るべきなんですよ。人間にはこのくらいの事はできますって。私達が示さずに誰が示すというのです? その点、マザークラスタ極東支部は素晴らしい支部だと思いますよ」
「(マザークラスタ極東支部?)」とアッシュが心の中で思った瞬間にファレグの姿が一瞬にしてヒツギの元へ瞬間移動し炎を纏った手刀で攻撃するが、間一髪のところでそれを回避する。
「ふふ、良い反応ですよ」
「くっ、やぁあああ!!!」
絶賛するファレグを無視してヒツギは彼女に斬りかかる。
しかし、ファレグは彼女の持つ刀を素手で掴んだ。
「なっ!? 素手で……!?」
驚くのもつかの間、ファレグは「せーのっ、それっ!!」と言いながらヒツギを逸脱した力でぶん投げた。
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ぶん投げられたヒツギは綺麗な弧を描いて宙を飛び、そして地面に叩きつけられる。
脳震盪や骨折になりそうなものだが、ヒツギは呻き声を上げるだけで特にこれといった怪我はしていないようだ。
「あっ……グゥ……」
そんな中、ファレグは瞬間移動で彼女の元までやってくる。
「反応は良し、センスがありそうですね。しかし、意志が足りませんよ。その刃、私を殺そうとしていない」
ファレグはヒツギのセンスを褒めつつ、彼女の持っている刀の方を見ながら話す。
ヒツギもファレグに指摘されて目線だけを一瞬、刀に向けて、直ぐにファレグの方を睨むように見る。
「では、こうしましょう。私を1度、好きに斬らせてさしあげます。それで覚悟も決まるでしょう?」
そう言いながら1歩、歩み寄って腕を大きく広げる。
それを聞いたヒツギは「は……?」と呆気に取られつつも立ち上がって刀をファレグに向けた。
「な、舐めないで……!!」
強がる彼女だが、その刀は震えていた。
一瞬だけ静寂に包まれるが、ヒツギは「ほ、本当に、斬るわよ!!」と威嚇をする。
「はいどうぞ。遠慮する必要はありませんよ」
それにファレグは何事もなく返答をする。
ただ普通に、誰かから物を取ってきてと頼まれて「あいよ」と答えるように。
そしてファレグは話を続ける。
「当たり所が悪ければ、そのまま私を殺せるかも知れませんし」
その発言がヒツギの心を取り乱す。
ぶっちゃけ、刀で心臓を貫いたぐらいでファレグさんが死ぬことはありえないし、刀程度でファレグさんの心臓を貫く事なんて不可能だ。
だが、人を殺したことの無いヒツギにとって、その言葉は爆弾級の威力である。
「殺す……? 私が……人を殺す……?」
彼女から冷や汗を流し、過呼吸になる。
刀だけでなく足や手がブルブルと震え始めた。
そんな中、走ってきたエンガが大声を上げながら銃口をファレグの頭に狙いを定める。
「下がれヒツギ!!!」
発砲するが、ファレグはそれを裏拳で破壊する。
だが、その隙にアッシュがコート・ダブリスを持ってヒツギの前に立つ。
それをチラッと見てからエンガの方を向く。
「あらあら過保護な事ですね。せっかく、そちらの戦力を増強してさしあげようと思いましたのに……」
一切、声のトーンが変わらないファレグ。
残念がっているような感じは伝わるが、心の底からそう思っているのか分からない。
「ふむ。少し興が冷めてしまいました」
アッシュの方を振り返る。
それにアッシュは冷や汗を流して1歩、後ずさる。
「マザーに頼まれた訳でもありませんし、今回はこれでお開き、ということで」
「……」
アッシュはコート・ダブリスを構えたまま何も言わずにファレグをジッと見つめる。
ちょっとでも目を離そうものならどうなってしまうか分からないからだ。
そんな事はお構い無しにファレグは話を続ける。
「ですが、今回の戦いは非常に興味深かったです。特にアッシュさん? 貴方は本当に素晴らしい相手でした」
「……ッ!!」
自身を指摘された彼は一瞬だが戸惑う仕草を見せる。
「貴方となら楽しく戦えそうです。近いうちに、
そう言うファレグの眼が一瞬だけ開き、その穢れのない黄金の瞳が顕になる。
「それでは皆さん。またお会いしましょう。私に殺されるまで死なないで下さいね」
言い終わるや否や、彼女は脅威の跳躍力で宙を飛び、展開されていた結界を打ち砕いて何処かへと飛んで行った。
「逃げた……? ううん。退いてくれたの?」
「そうみたいだな……」
ヒツギの言葉にアッシュもグッタリした様子で答える。
ダークファルスや深遠なる闇と戦った時より緊張感があったと思う。
─反応、一瞬で索敵範囲外に消失しました。どういう跳躍力してるんですか、あれ……─
モニターで見ていたシエラは地球人とは思えぬスペックにただただ困惑するばかりだ。
「戦ったこっちが聞きてえよ。なぁ?」
「あぁ……ホントにな。どうなってんだ」
エンガは呆れたような、疲れたような口調でアッシュに話を振る。
彼も同じ意見のようで、コート・ダブリスをしまいながら困惑しつつも頷いた。
─しかし、待ち伏せされていたということは、この会談がバレているということでしょうか?─
シエラさんの懸念にエンガが否定する。
「いや、それは無いだろう。マザークラスタでも、あの魔人は制御しきれてないようだし、もしこの会談を邪魔するつもりなら、もっと扱い易いマザークラスタ極東支部の幹部共を向かわせるだろうしな」
「……エンガ。ファレグも言っていたがマザークラスタ極東支部っていうのは?」
「あぁ、それについてもアースガイド本部で話をするよ。まぁ簡潔に言うなら、バケモノ支部って呼ばれている」
「バケモノ支部……?」
「ああ。とりあえず、今はアースガイド本部まで向かおう。倒れてる2人の救護も必要だ」
「そうだな」
アッシュとエンガは倒れている2人を担いでアースガイド本部へと向かう。
そんな中でヒツギは先程の事が頭の中でフライパンに付いている焦げのようにこびり付いていた。
─意志が足りませんよ。その刃、私を殺そうとしていない─
「……ッ」
ファレグに言われたその一言、その行動が後に凄惨な悲劇に繋がる事を……ヒツギはまだ知らない。
そんな事が起きていることを露とも知らない私は、極楽橋駅を出て次なる駅、五光駅まで向かっていた。
ここからが私の世界では見れない極楽橋からの先にある路線だ。
66.7パーミルの急勾配を幻創特急列車こうやがゆっくりと登っていく。
あの碓氷峠と同じパーミルだ。
……まぁ同じにしたと言われたら……うん。
なんでと言われたら、特急こうやとかズームカーが碓氷峠クラスの急勾配を登ったらロマンあるやろ?という理由で作った。
ここから高野街道駅、山中坂駅、幻創坂駅、大黒岩駅、北又駅の5駅を通過して五光駅に停車する。
─次は五光です。五光の次は
こうやはゆっくりと線路を走っている。
ぶっちゃけた話、この幻創列車はいかなる事があっても脱線しない為に普通に100キロ以上出しても問題ないのだが、私の意向でゆっくりと走るようにしている。
なんでかって?
……山を登る南海列車ってゆっくりと走るイメージがあるから、それを壊したくないからだ。
「……ん?」
そんな中、突如マザーから電話がかかってきた。
なんだ?
何かあったのか?
私は不思議に思いつつ、電話に出た。
「もしもし、マザークラスタ極東支部所属、小野寺です」
『もしもし、突然申し訳ない。私だ。』
「マザーですか? どうしました?」
『君に伝える事がある』
「はい。なんですか?」
『今、オラクルの最高戦力、アッシュがラスベガスの地下。アースガイド本部にいる。』
「ほう」
『それだけを伝えようと思って連絡を入れた。』
「それはどうも、誠にありがとうございます!」
私はマザーに感謝をして電話を切った。
「……どうしよ」
このままゆったりとこうやに乗ったままマザークラスタ極東支部まで帰りたいが……。
一度安藤に会ってみたいという欲もある……。
「……待って、確かここから五光まで20分ぐらいかかるよな? そして、五光で特急列車の行き違いラッシュで20分ほど待機するよな?」
ちょっとぐらいならいけるか!!
私はメモに「ちょっと安藤に挨拶しに行ってくる!」と書いて、それを座席に残してからワープしてラスベガスまで向かった。
悪役ムーブして、シエラさん達をビビらせよ♪
続く
次回、マザークラスタ極東支部最高戦力VSオラクル船団最高戦力
ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?
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いいよ。
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ダメ。