エスカファルス【非在】   作:楠崎 龍照

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83話 追放された哀れな男の悪意(げんそう)

 

 

 

 

あれから数日経過した。

私は急ピッチで春都満之妖海少女駅と海入り駅の中間地点に巨大な待避線を作成した。

南海総合幻創鉄道の方々は色々と訝しむ表情をしていたが、私の真っ直ぐな瞳に何かを察したのかそれを承諾してくれた。

光月からもマザークラスタ極東支部にある全データを紙媒体にも変換し終えたとの返事を得た。

着々と万が一の対策は出来ている。

 

そして、マザークラスタ月本部に所属していたマザーの側近である鷲宮コオリがアークス側についたと連絡が入った。

他のマザークラスタ支部や本部の下っ端共は裏切り者だのギャオギャオ吠えていたが、極東支部の連中はそんな事よりもBETA型とアラガミ型の融合体幻創種の対処をどうするかの議論で持ちきりとなっていた。

オラクル細胞まで再現されたらまずい事態になるとね。

まぁ私も、コオリさんの動きに関してグチグチと言うつもりはない。

マザークラスタよりもアークスこそが彼女のいるべき場所だっただけのことだ。

 

「ふぅー……もう時期、エスカファルス・マザー辺りだな」

 

鷲宮コオリが正気に戻り、マザークラスタを離れたとの連絡をアラトロンさんからの報告を受けた私。

支部長室から空を見上げて呟いた。

アーデムの動きが読めん状況、こちらの準備はこれくらいしか出来ないし、ここでアーデムに何かしよう物なら100悪いのこちらになる。

世界的にも心象は悪くなるだろう。

はぁ、全く厄介なものだ。

 

「さてと、後は月がマザー産のエスカダーカーの集合体で青くなってるらしいし、月本部にまで向かってマザー生存ルートの為に待機するか……」

 

私はオラクル細胞の資料をテーブルに置いてから月本部へとワープした。

エスカファルス・マザー云々のエピソード辺りまで来ていることは確実だが、実際にどこまで進んでいるのかは分からない。

ただ、月がエスカダーカーで青く輝き、それが地球へと伸び始めているので、そろそろだとは考えられる。

アッシュ達が月の中枢に行く通路には必ず来るので、それまで本部で彼らがやってくるまで待つことにした。

マザーシップを彷彿とさせる場所の端で寝転びながら気配を消してスマホを弄る。

その時だ。

 

「っ! 来たか?」

 

私はアッシュ達の気配がする方へと顔を向ける。

 

 

「こりゃまたすげぇところだな……。月の表面じゃなく地面の中に向けてこんな建物作ってるなんてよ」

 

エンガは現代技術ではありえない建築を前に周囲をキョロキョロと見渡しながら感嘆の声を上げていた。

彼らはいま、マザーの具現化能力によって生み出されたマザーシップを模倣した場所にいる。

 

「それに重力や空気も問題なし。私、6分の1重力、少し楽しみにしてたんだけどなぁ……」

 

ヒツギは少し残念そうな様子をしていた。

 

「(ここら辺は私の正史とあまり変わりは無いな。このまま問題なく進んでくれることを祈る)」

 

アッシュ一同の姿を見つつ、マザー生存ルートにいける事を心から神に祈りを捧げた。

 

 

「ああ、この場所……旧マザーシップと酷似している……」

 

アッシュが何か言っている。

確か、シエラさんが通信で、この場所が何かに似ていないか?的な事言ってたんだったかな?

 

「マザーはシオンの模倣体だから、月にマザーシップを作ろうとしてる? でも、技術的にそれが不可能だから、具現しようとしてる、そっくりに?」

 

ヒツギはアッシュとシエラの話から自分なりに考えて、答える。

 

「つまりこの場所は……月は、マザーシップになろうとしているの?」

「ほっほっ、マザーシップの具現か。それは正鵠を射ているかもしれんぞ、娘っ子」

 

ヒツギの考えに、アラトロン・トルストイが賛美の言葉を送る。

彼の姿を見たコオリは申し訳ないような表情をして彼の名を呼んだ。

アラトロンは怒ることも蔑むこともせず、ただ少し優しげな口調で「そちらについたか、鷲宮氷莉よ」と言った。

 

「ごめんなさい……わたしは、もう……マザーとは、歩めません……」

 

彼に謝罪を述べ、彼女も覚悟を決めたのか、エーテルを解放させて新たなる戦闘衣、氷を召す理装を身に纏った。

禍々しいオーラを放っていた堕剣グラムも、青と黒の色合いとなり、彼女の一途な思いを模しているようだ。

それを見たアラトロンは満足気な笑みを浮かべて「ほほっ、良い良い。ぬし、ここに来た時より良い眼をしているではないか。そちらこそがヌシにとって居るべき場所だった。それだけの事よ」と子の成長を喜ぶおじいちゃんのような口調で喜んでいた。

 

「……退く気は?」

 

ヒツギも戦闘衣を身に纏い、アラトロンに問う。

だが、アラトロンは即決で返事をする。

 

「毛頭ないのう」

 

と。

そして「もっとも、毛など頭にはないがな、ほっほっ!」とお茶目なボケを付け加えた。

それに対して、ヒツギも少しニヤケ顔になりながら「どうあっても?」と刀を突きつけて言う。

 

「……くどいぞ娘っ子。ワシは既にマザーと共に歩むと決めておる」

 

一瞬だが、空気が歪むほどの気を放ちながら言った。

 

「この老骨は頑固での。既に矯正も効かぬ。今更何を言われようとも曲がらぬよ。…………故に!!!」

 

アラトロンの眉が上がり、青々とした瞳が現れる。

彼は天高く手を掲げて具現武装を顕現させた。

 

 

遠からん者には音に聞け!!!

近くば寄って目にも見よ!!!

マザークラスタ 土の使徒!!!

アラトロン・トルストイ!!!

いざ、お相手仕る!!!!!

 

 

光り輝く雷が彼へと集約し、そしてアラトロンは金色の鎧を纏った巨人に変貌。

マザーに尽すアラトロンの心意気とマザーを止めようとする彼らの心意気の衝突がこの場にて始まりを迎えた。

 

 

 

 

 

一方……。

 

 

─アースガイド・ラスベガス地下本部─

 

 

「事態は最終局面、ここからは一手も間違えられない」

 

いつになく真面目な表情でアーデムは独りごちる。

その様子はアークスとの話し合いの時とは違い、禍々しい白い気が感じられる。

 

「人類の進化と発展。そして新たなる創造の為に、僕も動かなければいらないね」

 

覚悟の表情を浮かべるアーデム。

そんな時、1人の白衣を着た男性が現れた。

その男性の白衣には少量ではあるが青い液体が付着していた。

 

「準備は出来ております。アーデム卿……」

「じゃあ、始めようか」

 

アーデムは少し不敵な笑みを浮かべ、自身の持つエーテルを解放した。

 

 

楽園を追放された哀れな男の悪意の幻創の幕開けである。

 

 

 

 

─月本部の地下・マザーシップ─

 

 

 

2つの心意気が激しくぶつかり合い、周囲の空間を歪ませる中、その光景を遠いところで私は見物していた。

 

「(……もう少し続きそうやな。今のうちに中枢近くまで行くか)」

 

そう心の中で思い、私は立ち上がろうとした時だ。

 

「(……? 電話?)」

 

私のポケットからスマホが鳴ったので、直ぐにそれを取り出すとマザークラスタ極東支部管制室からの緊急電話だった。

何かあったのかと私は直ぐに電話に出た。

 

「小野寺や。何があっ……えっ……!?」

 

マザークラスタ極東支部の管制室からの狼狽しながらも出てきた言葉に私は驚愕する。

 

 

 

 

─マザークラスタ極東支部─

 

マザークラスタ極東支部に突如として幻創種具現化の警報がそこかしこで鳴り響く。

職員達はその具現化場所を見て呆気に取られた。

47都道府県全ての場所に幻創種出現の印が表示されている。

 

「……何事!?」

「待って、これホントに合ってる!? 観測所からの誤報じゃないの!?」

 

管制室にいた職員全員が青ざめて脂汗を流す。

司令長の光月光太郎は一瞬だけ険しい表情になるも直ぐに冷静さを取り戻して「A班とB班は観測所に連絡を!! C班、D班、E班はダークファルス・エイジスをリーダーとしたマザー・ドールズ47個大隊の緊急出現の指示を!!!」と的確に指示を仰ぐ。

更に光月は、演習中の幻創戦術機とエスカ・モビルスーツ大隊にも連絡をして和歌山県の高野山近辺に具現化した幻創種の討伐に向かわせた。

 

「……何が起きている? 一度にこれほどの幻創種が顕れるのか……?」

 

光月司令はモニターに表示された内容を見て、必死に頭をフル回転させる。

だが、更なる地獄の報告があがってきた。

 

「か、格納庫からの連絡!! マザードールズの大半が何者かによって、エーテルゾルを抜かれていて全ての機能が停止しているとのこと!!」

「……はぁっ!? エーテルゾルを抜かれてる!?」

 

オペレーターの発狂に近い声での言葉に光月も驚愕して座席から飛び出した。

 

「は、はい! ただいまメイシアスさんが急ピッチでエーテルゾルを注入してます、ですが、県域統制型マザードールズならともかくダークファルス・エイジスのエーテルゾルを完全に注入するには……!」

「出せるマザードールズは!?」

 

そう言われたオペレーターはすぐさまモニターで出撃可能なマザードールズを調べて報告。

 

「無人機のダークファルス・エイジス、県域統制型マザードールズ4種類が一機ずつ。他は全て出撃不能です」

 

青ざめた顔で報告するオペレーター。

それを聞いた光月司令は歯を食い縛り、拳を握り潰す。

 

「……幹部のエスカファルスと小野寺支部長代理には連絡は!?」

「先程入れました!! 全員で都道府県全域の幻創種討伐に当たるそうです!!!」

 

安心したのもつかの間、更なる警報が鳴り響く。

その警報は、マザークラスタ極東支部近辺に幻創種が具現化した時にのみ鳴動する警報だ。

観測隊からの報告が管制室はおろか、マザークラスタ極東支部全域に流れる。

 

「観測隊より緊急の報告!! マザークラスタ極東支部の近辺に……BETA型とアラガミ型幻創種に更に"天使のような外観の姿"をした未確認の幻創種を確認!!! その数……目視だけでも数兆!! こ、こっちに接近しています!!!」

 

平静を失い錯乱に近い観測隊の報告を前に職員達は一斉に橋や窓から海の向こう側を見た。

彼らの目に映るのは、BETA型幻創種とアラガミ型幻創種、更には天使のような羽や輪っかを付けている完全なキメラ型の得体の知れない幻創種の群れが空を飛んでこちらに接近する光景だった。

 

「え、エーテル構成確認……アラガミの特有の……お、オラクル細胞まで再現されています!!」

 

 

 

 

 

 

続く。

ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?

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