エスカファルス【非在】   作:楠崎 龍照

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86話 独善

 

 

 

 

 

─アースガイド地下本部─

 

 

 

マザーの力を取り込んだアーデムは、アークスを説得する事に失敗し自身の拠点へと戻った。

彼の執務室に転移したアーデムとオフィエル。

先程の出来事を思い返し、彼は少し残念そうな表情を浮かべていた。

 

「うーん、残念だね。エンガや皆さんなら、きっと僕の言う事を理解してくれると思ったんだけど」

 

自分がおかしいであると1ミクロとも思っていない彼に、部下であるオフィエルはフォローを入れる。

 

「地球の先を見据えればこその、卿のご意見。俗物には些か難しい話でしょう」

 

エンガ、ヒツギ、コオリ、アークス、マザークラスタ幹部2人に対する嘲笑を含めた彼の言葉にアーデムは片目をガン開きにして穢れのない殺気を放つ。

 

「オフィエル。エンガやアークスの皆さんを侮辱する事は許さないよ」

 

先程とは違い虚無(こおり)のような眼と言葉でオフィエルを威圧する。

 

「あの人たちの協力が無ければ、ここまで来られなかったんだからね。感謝こそすれ、だよ」

 

アーデムのその態度の前にオフィエルはほんの少しだけたじろぎつつも「……言葉が過ぎました。どうかお許しを」と即座に謝罪の意を述べた。

その言葉を耳にしたアーデムは、オフィエルの方を向いて優しげな声で「わかってくれればいいよ」と返す。

その瞬間、誰かが来る音が聞こえ、オフィエルは即座に隔離術式を展開し、姿を消した。

扉が開き、アーデム直属の近衛兵が血相を変えた慌ただしい様子で現れた。

彼の前に立った近衛兵は、サッと姿勢を正して少し疑念と狼狽が混ざった様子で口を開く。

 

「アーデム様!! アークスより、アーデム様の動向について問い合わせが殺到をしております!! 返答拒絶は許さないと言わんばかりの強硬な問い合わせでした! アーデム様、一体何を……?」

 

その近衛兵の様子にも彼は毅然とした態度で「返事の必要はないよ」と言ってから「無言こそ、僕の意志を雄弁に語る」と続けた。

 

「それよりも君、アースガイドに入ってどのくらいになるのかな?」

 

と、アーデムは話を変えるように、近衛兵に問いかけた。

 

「はっ……! アーデム様に見初めて頂き既に10年。近衛に置かれてからは3年と4ヶ月が経ちました!」

 

彼は直ぐ様、自分がアースガイドに入ってからの年月を答えた。

 

「そう……10年。星の煌めきに比べればほんの一瞬。しかし人にとっては、長い時間だね。……よく仕えてくれて感謝する」

「も、もったいないお言葉……!! アーデム様の導きがあったからこそ、新たなる力、新たなる理を知ることが出来たのです!」

 

彼に感謝されて、少し驚きつつも近衛もアーデムに感謝の言葉を述べた。

 

「この身、この力、御身の為ならば……!」

「僕のため? それは違うよ。君の力も。僕の力も。全ては地球の為、地球の更なる進化の為にあるんだ」

 

覚悟ガンギマリの近衛の言葉に、アーデムはそれを否定し、彼なりの考えを語る。

 

「……進化の為……ですか?」

 

だが、彼にはあまり理解できずに少し眉を顰めてからそう訊ねる。

 

「そう。人は、地球は変わらねばならない。新たなる理を生み出し、創世の時を蘇らせ、楽園を再び、この場、この世界に……」

 

彼は続ける。

 

「そして、楽園(そこ)に相応しいかたちへと……人は進化しなければ、ならない……」

 

そして、彼は静かにこう言った。

 

「不完全な僕に、良く仕えてくれたね。共に、完全なモノに進化しよう」

 

アーデムのレイピア型の具現武装、アルケミックジーンが顕現。

レイピアを虚空に振るった時、魔法陣のような紋章が出現し、そこから黄緑色のエネルギー球のような物が放たれて近衛の中に入り込んだ。

その直後、彼が断末魔を上げて悶え苦しみ出した。

 

「ぐっ……おっ、あああああああああ!! おあああああ!! アアアデムサマアアアアア!!!??」

 

近衛の身体から、アーデムと同じ紋章が浮かび上がり、エーテル粒子を解き放って別の姿へと変貌を遂げた。

それは甲冑を身にまとい、背部には白い翼を備えた正しく天使と呼ぶに相応しい姿をした幻創種へと辿った。

白い翼を羽ばたかせてアーデムの前に顕現した近衛だったモノは、刹那の一瞬を以て肉体が崩壊。

人から進化を遂げた天使は地に堕ち霧散した。

その様子を見たアーデムは悲しむ素振りを見せず、寧ろ落胆したような口調で「器がもたなかった、か。進化とは難しいものだね」と吐き捨てた。

 

その様子を見ていたのだろう。

オフィエルは隔離術式を解いてから「何を……なさったのですか?」と先程とは違い、かなり狼狽した様子でアーデムに訊ねる。

 

「エーテルを送り込み、それに適合した進化のイメージを具現させてみたんだ。以前は、幻創種に送り込むしか方法は無かったけど……マザーの力、様々だね」

 

アーデムは床に堕ちている白い羽根を見つめながら続ける。

 

「マザークラスタ極東支部に送り込んだ時は問題なく機能してたようだし、進化の方向性としては間違っていないはずだから、試行数を増やして調整していくしかないか」

 

小野寺龍照が耳にすれば、アースガイド地下本部諸共劫火で焼き滅ぼす言葉を吐き綴るアーデム。

 

「肉体の強制進化……ですか……? アーデム卿、それを無理矢理行えば、歪みが生じ、器がもちませんよ」

 

と、アーデムに優しく物申すオフィエル。

しかし、彼は意に返さず「持つ器もたまにはあるんだよ。オフィエル。僕は今まで何度も見てきたから知ってる」と返答する。

 

「進化の為には、ときに犠牲も生まれる。それは何事においてもそうだ。さ、行こうかオフィエル。この星を……生まれ変わらせる為に」

 

アーデムはオフィエルの方を向いて優しく言った。

しかし、彼は気づいていなかった。

オフィエルの懐に、どこからか盗んだ"クリスタル"を隠し持っている事に。

 

 

 

 

─アークスシップ8番艦:ハガルの艦橋─

 

 

 

そんな中で艦橋に戻った一行は、現状における会議が行われていた。

 

「……アーデムさんの撤退後、程なくしてアースガイド本部との連絡が取れなくなりました。その他の支部からアークスに向けて、何があったのかと問い合わせが多数来てるほどです」

 

シエラは彼らにその事を伝える。

 

「……アースガイドもアーデムの真意を知らなかったってことか」

「そうみたいですね」

 

アッシュの言葉にシエラは頷いた。

 

「アーデムさんの真意……。弱ったマザーの力を奪い、そして……」

「あの人、進化を先導するって言ってたよね。……いったいどうやってそんな事を?」

 

ヒツギとコオリは首を傾げて彼の進化の先導方法について首を傾げ、怒りで興奮冷めやらぬエンガは「俺達もアークスも何もかも……この時の為に利用してたって事か……!!!」と憤怒の炎を燃やしていた。

それに対して静かにアーデムの心情を語る人がいた。

 

「本人には、利用したという意識すら皆無ですよ。彼はいつも"良い事をしている"としか思っていないのですからね」

 

マザークラスタ月本部所属の幹部

ファレグ=アイヴズだ。

 

「寧ろ彼からしてみれば、あなた方の論理が理解出来ないはずです。だからこそ、説得をしようとしていた」

 

彼女は冷静に彼らの前でアーデムの事を説明する。

 

「マザーは地球を利用しようとしていた悪しき存在。それを殺した事で、何故謗られるのだろうか? マザーの力を奪い、地球の為に有効活用する。それこそ、地球にとって最善最良の策であり、絶対的な正義の行いでないか? とね」

 

ファレグの話にコオリが彼女に質問を投げかける。

 

「地球の為に有効活用するって……。マザーの力で、進化とかなんとかするってこと?」

「ええ、アーデムの目的は、地球の進化。この世界を再び楽園のようにすること」

 

コオリの質問に、ファレグは頷いてからアーデムの目的を答える。

 

「それはつまり、エーテルの力を用いて、世界を作り替えるということ」

 

そうファレグは答えてから「……そうですね」と一言置いてから口を開く。

 

「ここからは……こちらにいる彼に聞いた方が、より詳しい話を聞けるかと」

 

と言って、艦橋の柵に腰掛けて南海海洋線やマザークラスタ極東支部の方々、エスカファルスや大原や藤野に連絡を取っていた私に話を投げた。

とりあえず、都道府県に顕現した幻創種を倒したエスカファルスや大原達がエルミル達に合流し、融合体を倒している状況のようだ。

お前は、安藤と話をしてこい、とのメッセージを受けた。

 

「え? ……あぁ、そう……やな」

 

話を振られた私は連絡を一時中断し、階段を上がってファレグの横に立った。

 

「と、言っても、前にラスベガスでアッシュさんに話をした通りやで」

 

チラッと安藤(アッシュ)の方に視線を向けつつ、これから起こるアーデムの行う事を話した。

 

「あの金策髪は、ある程度の準備をしてから、アースガイドの地下本部よりも更に最下層にある場所に向かい、そこで神降ろしを行うつもりや」

「アースガイド本部より最下層が存在するのか!?」

 

私のその発言に、アースガイド所属で、よくアーデムとあっていたエンガは酷く驚愕していた。

実際にアースガイドのあの場所に行っていたヒツギ達も目を大きくして驚いている。

 

「ああ。その場所で自身の身体に、この世界を創造した、深遠なる闇級幻創種 幻創造神(デウス・エスカ)を顕現させるつもりだと考える」

「し、深遠なる闇級幻創種……!?」

 

シエラは深遠なる闇の名に反応する。

私はコクリと頷き「おん。少なくとも、アークスが戦闘を行ったダークファルス【仮面(ペルソナ)】が依代となった深遠なる闇よりも強い事は確かや(うんまぁ、ゲーム内では……)」と頷きつつ話をする。

ちょっと大袈裟に言って深刻さを伝えたが、深遠なる闇よりも強い存在が、もうすぐ地球に顕現する事を知ったシエラやアッシュは総じて冷や汗を流して真剣な表情になった。

 

「本当なのか?」

 

クソ深刻そうな口調で聞くアッシュ。

心の中で言いすぎたけどまぁええかとクソ無責任な事を思う私。

 

「……少なくとも、私が辿ったストーリーでは、この後そのクエストが出るよ」

 

と言った。

そして、私はファレグさんの方に視線を向けてから、

 

「何故、彼がそんな神を降ろすのかについてはファレグさんに聞いてくれ。アーデムと長い時を過ごしてるのは、この世界では恐らく貴女が一番やと思うから」

 

とファレグさんに話を振る。

突然に話を振られても、彼女は特に動じることは無く淡々と話を始める。

 

「……現代における神の不在も楽園の喪失もあの男には許し難いことなのでしょうね。無いのなら自分で創ればよいと、そういう事なのでしょう。……追放されて尚、未練がましいことです」

 

それでも若干、呆れが入った口調ではあるが、ファレグはそう答える。

私とファレグの話を聞いたエンガは訝しむ表情のまま、率直な疑問を投げかけた。

 

「魔人ファレグ、小野寺……。どうしてアンタ達はそこまで知っている。アンタ達とアーデムはどういう関係なんだ?」

 

デウス・エスカのこと、アースガイドの最下層のこと、神を降ろす理由。

コイツらは何故そこまで知っているのか?

エンガだけじゃない。

私とファレグさん以外の、その場にいた人物全てが疑問に思っていることだろう。

 

「私は、金策髪(アーデム)とはなんら関係ないよ。どちらかと言えばアーデムと密接な関係があるのはファレグさんの方やな。私の事は後で話そう」

「……私と彼は喧嘩相手ですよ。人類で、1番長く喧嘩を続けている相手。こうなる前に彼を殺して起きたかったのですが、中々どうして、不測の事態が多くて……」

 

ファレグは自身が原初の存在であることを伏せつつも、長い年月を掛けて歪んだ男を殺そうとしていた事を明かした。

 

「殺すって、アンタはアーデムさんを殺す気なの?」

 

ヒツギの問いに対してファレグは何の迷いもなく即答する。

 

「ええ、そうですよお嬢さん。それしか術がありません」

 

と。

更に畳み掛ける。

 

「マザーとは違い、彼は自分の行いを間違っていると思っていない。決して止まらない」

 

そう言った後、彼女は眼を少し開き、覇王色の覇気をほんの少しだけ放出する。

彼女の全身がバチバチと赤黒いイナズマが走り出す。

一般人ならば、この程度でも口から泡を拭いて卒倒するレベルだが、この場にいる全員は臆することなく彼女の話を聞いていた。

 

「分かりますか、お嬢さん。"あれ"はね、もう殺すしかないんですよ。……敵である私相手ですら躊躇った貴女に、元々は味方であった彼を殺せますか?」

「……私は他人の生き死にを決められるほど、偉くもないし凄くも無い。今私に出来るのは、ただ1つ。自分の心に従って動くことだけ」

 

冷たく静かに、それでこそ力強いファレグの問い掛けに、ヒツギはこの動乱で経験した事を語る。

 

「自分のやりたいことに嘘をつかない。あの時、そう決めたから。誰が相手でも変える気は無い」

「あれは、マザーを殺した相手ですよ? 和解目前であったマザーを容易く屠った相手です。憎くはないんですか?」

「私、そこまで人間できないわよ。滅茶苦茶怒ってるし、恨んでもいる。……それでも考えは同じ」

 

ヒツギは真っ直ぐな瞳で、覇気を放つファレグをグッと見つめて話す。

 

「アーデムさんを止める。深遠なる闇を超えた神様になったとしても、止めてみせる……!!」

 

彼女の強い意志を見たファレグさんは覇気を止めて一言。

 

「お嬢さん。貴女のお名前、教えていただけますか?」

「……ヒツギ。八坂ヒツギ」

 

ヒツギは少し笑顔でそう答えた。

 

「では、ヒツギさん。今日の私との交流はここまでと致しましょう。元より、私とあなた方は仲間では無い。……これより先は競争です」

 

ファレグは先程の静かな声とは違い、笑顔が隠しきれない少しテンションが高めな声で言い放った。

 

「私は、アーデムを殺すため。あなた方は止めるため、ただ互いの力を尽くすのみ……!!!」

 

その言葉に、ヒツギは何も言わずにただ、コクリと頷いた。

 

「ですが、願わくば共に生き残り、いずれ全力で相見えてみたいものですね」

 

そう自身の願いを打ち明けた後、私の方を振り向いてから「お待たせしました。次は貴方の番ですよ」と言うや否や、彼女はフッと消えていつの間にか艦橋の外にいて、そこから目にも止まらぬ速度で地球まで帰還した。

 

「あれを……人間と言い張る勇気よ……」

 

その人間離れした行いに、人間を止めた人間(わたし)は呆れながら笑った。

 

「なぁ、小野寺 龍照。お前はいったい何者なんだ? 何故、ダーカーを操れる?」

 

今度は安藤さんが言った。

それに対して私は隠すことなく説明をする。

自分は、あの地球で生まれた人間ではなく、更なる別の世界の人間であり、そこにはファンタシースターオンライン2がゲームとして存在していること。

そのゲームを私は安藤を主人公として操作、これまでのエピソードを経験したこと。

更にはこれから起こる出来事も知っていること。

だから、アーデムがどうなるのかも知っていた。

ある意味、アカシックレコードと言っても良いと。

その全てを説明した。

 

「以上。これが私の説明や。何か気になる事もあると思うが、先に皆に伝えたいことがある」

 

私の話に驚きすぎて完全に口が開かない皆に私はある事を口にした。

 

幻創造神(デウス・エスカ)の前に、月にマザーを模した幻創種、エスカファルス・マザーが顕現するはずだから、少しばかり手を貸してほしい」

 

 

 

 

 

 

続く

ふと思った事がある。実行するとも限らない。ルーサーかアプレンティスを、シャドーコリドーか、ととモノの世界に一時的に転移させてもいい?

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