黒鉄のアーマメント   作:紅乃 晴@小説アカ

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第一話 アーマメントの目覚め

 

 

爆轟が響く。

 

押し入ってきた男たちが放った質量武器にケイスは吹き飛ばされた。

 

体はコンクリート製の壁を軽々と凹ませるほどの衝撃で叩きつけられたが、押し寄せるのは揺れと衝撃のみで痛みは感じられなかった。身に纏ったアーマーがこの体を守ってくれていたのだ。

 

 

「なんなんだ、この力は……!!説明してくれ!!」

 

【いいから今は目の前の敵に集中するんだ】

 

 

起き上がって前を向く。相手は二手に分かれて襲い掛かってきた。

 

身につけているアーマーが何なのかよくわからないが、自分の体を動かすことについては足枷になるようなことはなかった。

 

それにしても襲ってくる相手は相当な訓練を受けているようで、繰り出されるパンチやキック、その身のこなしはプロに近い動きをしている。

 

ちなみに頭部にはアーマーはない。敵もそれをわかっているように積極的に顔面めがけてパンチやキックを放ってくるが、理不尽に攻撃を受けるつもりはない。ただでさえアーマメントなどという意味がわからないものに体を包まれているのだから。

 

そんな考えで動きが鈍ったのか、相手の持つ電撃ステッキを腹部にモロに受けてしまい再び体は後ろへと吹っ飛んだ。

 

 

「なんて日だ!」

 

「アーマメントを奪え!あれは我々のものだ!!」

 

 

ケイスは足を上げて反動をつけるように起き上がると、左右からの挟撃がはじまる。今度は電撃ステッキで顔面を狙い始めてきた。冗談じゃない。人の意識を簡単に刈り取るような威力の電撃を顔に受ければ火傷程度では済まない。

 

いい加減、逃げるのは飽きた。

 

後ろに回り込んで襲い掛かろうとしてきた相手に回し蹴りを叩き込むと、男はかなりの力で吹き飛ばされて資材が乗った棚に激突。そのまま倒れ伏せた。

 

 

「引き剥がしてやる!!」

 

「あぁ、そうかい!!」

 

 

体は思うように動く。なら話は早い。電撃ステッキや質量武器を持つ男たちの攻撃を避けてはカウンターに脇腹や急所に拳を叩き込む。アーマーをつけてるせいか、普段の攻撃力とは威力が段違い。攻撃を受けた男たちはうずくまって動かなくなるか、意識を失って倒れていた。

 

 

【さすがは元チャンピオンだ。成人男性枠のストライクアーツトーナメント、三年連続という偉業を成し遂げた腕は衰えていないようだ】

 

 

耳元でアーマメントと共に現れた謎の声が響く。なぜ、ケイスが無魔力(徒手空手限定)のストライクアーツのチャンピオンだと知っているのか……もはや聞くまい。

 

 

「昔の話だ。というより、なんでアンタはそんなことを知っているんだ」

 

【答えを得たいのならこの場所から脱出してからだ】

 

 

アーマメントなどというよくわからないモノに導いた声は何とも味気のない返答をするものだ。胸の中心を2回叩いてもアーマーが解除される様子はないので、仕方なくケイスは男たちに気絶させられたハワードを担いだ。

 

 

「全く、なんでこんな事になったんだ。ハワード、ほら!しっかりしろ!とりあえずここから出て通報しないと」

 

 

とりあえず管理局の法人管理部と、危険遺失物の管轄を行う部署に連絡するのが妥当だろう。自分の体にまとわりついた不気味なアーマーも剥がしてくれるに違いない。

 

ハワードを担いだままアーマメントを保管していた部屋から出ると謎の声の主が「おっと」と声を上げた。

 

 

【こいつは問題だな】

 

「なにが問題だって?」

 

《マスクモードを起動します》

 

 

電子音声が流れたと同時、カシャンとスライドするような音と一緒にケイスの顔がアーマーで覆われた。さっきまでノーマスクだったというのにここにきてマスクは遅いんじゃないか、ってそんな話じゃない。

 

 

「おい!顔が覆われたぞ!!」

 

 

ケイスはそう声を上げて顔を覆うアーマーを剥がそうと手を出すがビクともしない。謎の声の返事もない。

 

ため息と共に視界のセンサーを隠していた手を離すと、目の前には管理局の魔道士を示す群青色の制服を着た女性が一人立っていた。

 

 

「管理局の制服?よかった、実は……」

 

 

安堵した瞬間に立っていた管理局の女性魔道士はその服をバリアジャケットに変え、一息で踏み込んできたと同時、武器となった拳で殴りつけてきた。ハワードを咄嗟に下ろしたのは賢明な判断だと声に慰められたのは、自分の体が通路の壁にめり込んだ辺りだった。

 

 

「ティアナ、さっそくだけど目標を見つけたかも」

 

 

スバル・ナカジマ。

 

かのJS事件の解決に大きく貢献した管理局のエース魔導士。名前くらい知ってるし、ストライクアーツの試合で女性部門でチャンピオンにもなってるので顔も知っていた。殴られるまでは気づかなかったけれど。

 

 

「げっほ……あー……ったく……出会い頭に殴られたのは初めてだ……」

 

【管理局の魔導士、スバル・ナカジマ。エース級だ。危険遺失物の回収部隊の所属経歴もあるぞ】

 

「……ハワードってば、大袈裟に呼びすぎだって」

 

 

ボコリ、とめり込んだ腕と足を引っ張り出して脱出するが、目の前には仁王立ちのスバル・ナカジマが立ち塞がっていた。鋼鉄の拳をもう片方の掌にパシンと打ち付けて全身アーマーに覆われたこちらを睨みつけている。

 

 

「アーマーを身につけている者に告げます。今すぐ、武装を解除しこちらに投降しなさい。時空管理局の規定に則った対応を約束します」

 

「って言ってるけど?」

 

【無論、従うつもりはない】

 

「あっそう。だが俺は違う。管理局の魔導士に喧嘩を売るほどの馬鹿じゃないからな」

 

 

向こうはやる気満々って感じだが、こっちとしては戦う理由なんてない。

 

早々に降参して、アーマーを剥がしてもらって、事情を説明してアーマーを彼女に預けるのが得策だろう。そう思ってケイスが降参の意思表示をしようとしたが、そうは上手く事は進まなかった。

 

 

【だろうな。だが、君の意見は聞いていない】

 

 

上げようとした腕から突如として光が走った。長細い光が腕から放たれた閃光は仁王出していたスバルの体ど真ん中に命中。アーマーの容姿から見て、完全に肉弾戦を想定していたであろうスバルの体は通路の奥側まで軽々と吹き飛ばされていった。

 

 

「……おい!?腕からビームが出たぞ!」

 

【ビームではない。魔力砲だ。出力は落としているが君ならよく見かけているだろう?】

 

「あぁ、職場の魔道士がデバイス使って撃ってるのは見たことあるけど、僕は使ったことはない!!」

 

 

軽々しく言うがとんでもない事だ。本来、魔力法というのはリンガーコアを持つ魔導士がデバイスを介して撃てる……しかも、砲撃系の素質がないと撃てない代物だ。この体に外界の魔力素を吸収して魔力に変換するリンカーコアなる器官などない。

 

 

【だからこそ、このアーマメントを身につけられたのさ】

 

「全然嬉しくない!!」

 

 

というより、人工的に魔力素を魔力に変換できる機器など前代未聞だ。自分が身につけた代物はひょっとすれば想像以上に厄介な代物かもしれない。現に、危険遺失物の保護などを目的とした、あの機動六課にいたエースがありきたりな管理部の保管庫まで来ているという時点でどれだけ危険性が高いのかは簡単に想像がつく。

 

 

「抵抗するなら!!」

 

 

スバルは素早く体を起き上がらせて、足のローラーから火花が散らせる。魔力砲を撃たせる前に距離を積める作戦。いい判断力だと声は分析しながら指示を出してきた。

 

 

【腕を構えて前へ突き出せ!】

 

 

補助もあるのか、自然と腕を前に構えると半透明の魔法陣が展開される。と同時に突き出されたスバルの拳と激突するが、彼女は塞がれた反動で弾かれてしまった。

 

 

「シールド!?」

 

【攻撃もできれば防御もできる。当然だろう?】

 

 

見たこともない魔法陣で形作られた防御壁に驚愕するスバル。そして自分自身でも驚く。まるっきりこれでは、魔法を使役できる人間と大差のない能力じゃないか。

 

 

「ティアナ、結構手強いかも。マッハキャリバー!!」

 

 

弾き飛ばされたことで警戒心が更に上がったのか、デバイスの名を叫んで拳を構えると、噴き上がるように魔力を放出するスバル。緑眼が嫌に冴えて見えた。

 

そして直感が囁く。

 

これはかなりまずい。

 

 

「おいおいおい、相手も本気になったぞ!?」

 

【とにかく脱出することを考えろ、ケイス。右だ】

 

 

もはや説得も交渉もしている場合じゃない。誘導される声と補助に従うまま右へ腕を構えるとオレンジ色の魔力光弾がシールドに阻まれた。通路の奥には二丁の銃型デバイスを構える女性のシルエットが見えた。

 

 

「嘘、防がれた!?」

 

 

えーっと、あれは誰だっけ!?記憶を辿るよりも早く足は走り出していた。

 

このアーマーには完全に思考や意志とは別の何かが介在している。抵抗しようにも全身が拘束されているのだ。反論も許さないまま通路の筋を無理やり曲がる。反動がついて壁に体が当たって大きく凹ませてしまったことに謝りながら保管庫の通路を疾走する。

 

 

「二人も相手してられないぞ!」

 

【その通りだ。ケイス、そのまま前に進め】

 

 

思わず顔を顰めた。真っ直ぐすすめだって?目の前はもう行き止まりだ。ドスドスと通路を走る足は緩まる事がない。

 

 

「前に進めったってもう行き止まりだぞ!」

 

【構わない、前だ】

 

 

横には会議室などの扉が見えるが、そんなところに入ってしまえば袋のネズミ……どちらかというと、そうなれは事情を説明しアーマーから解放されるのでは?浮かび上がった淡い希望を響いてくる声が遮った。

 

同時に速度がどんどん上がってゆく。もはや自力で止められる範囲を超えていた。

 

 

「前っていうが、ここは……」

 

【輸出管理保管区の45階ビルのフロアだ】

 

「どうなっても知らないからなぁあぁあぁああああああーーー!?」

 

 

高層ビル用の厚さ数十センチのガラスを物ともせずに打ち破った体は放射線を描いで重力に引かれるまま落下を始める。放り出されたのは地面からおおよそ135メートルほどの高さだ。いくらアーマーを身につけていようがこの高さから落ちてしまえば体がどうなるかなど容易に想像できる。

 

 

《トラックフィン、起動》

 

 

そんな電子音声が聞こえた途端、自由落下をしていた体はぐんと持ち上がる。脚部から魔力で構成された浮遊ウイングが出現し、アーマーを身につけた体は空を飛んでいたのだ。

 

 

【すまないな、そのアーマメントは空を飛べるんだ】

 

「そう言うのは先に言ってくれ……」

 

 

とりあえずミッドチルダの地面に埋まることがなくなったので、ひとまず息をつく。高層ビルの摩天楼を縫うように飛ぶ自分の意志に全く従わない。体を動かそうにもアーマーが完全に固定されていることに気がついた。

 

 

【後はこちらが誘導する。君は休んでいたまえ】

 

「おい、僕の質問にアンタは何も……」

 

 

状況が何一つわからないまま、腕に鋭い痛みが走ったと同時に保っていた意識は一気に途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目が覚めたかね?」

 

 

やけに頭が痛む。うっすらと光を感じ、ケイスが目を開けるとそこは薄暗い部屋だった。硬いマットレスに横たわっていた体を起こして頭をさする。このまま二つに避けて中身が飛び出そうになるんじゃないかと思えるくらいに頭が痛む。

 

手をさまよわせると、目の前にいた男が水が入ったボトルを渡してきた。促されるまま一息に水で喉を潤わせると酷かった頭痛が少しだけ和らいだ。

 

 

「ここは……なんだ……」

 

「私のラボだ。君のアーマメントもここで調整している」

 

「頭が割れるほど痛い」

 

「まぁ強めの薬を使ったからな。許してくれ」

 

 

男はゆったりとした声色でそう言いながら部屋の奥へと歩いていく。ふらつきながら立ち上がって後を追いながら部屋を見渡した。ラボ……というより、まるで倉庫だ。しかもかなり使われていない古びた倉庫。床も棚も埃まみれで、目に入るとは男がたどり着いたテーブルと、その上に置かれた端末だけ。

 

 

「会ったら一発ぶん殴ってやろうと思っていたのに」

 

「あぁ、だがそうならなくて良かった」

 

 

立っている男の前にあるテーブル。そこには棺桶のような箱の中に入っていたはずの端末があった。長いひし形。反るような曲線的なデザインのそれには中央に黄色の宝石が埋め込まれたそれを睨みつけながら、改めて問いかける。

 

 

「……アンタは何者だ」

 

「私はノックス。君をアーマメントに導いた者であり、アーマメントの管理者でもある」

 

「そうか、じゃあ管理者がそれを取り返したなら僕は用済みのはずだな?家に返してくれ」

 

「それは無理だ。君がアーマメントに選ばれた存在なのだから」

 

 

淡々と答える「ノックス」という男の返事を聞いてついに我慢の限界を超えた。ケイスがテーブルに拳を叩きつけて声を荒げる。

 

 

「アーマメント、アーマメントってうるさい!!いい加減、これがなんなのか教えてくれ!!選ばれた!?なぜなんだ!!」

 

「君が誠実だからだ。ケイス・テレイン」

 

 

その言葉にノックスは真っ直ぐとした声と視線のまま答える。息を荒げて睨みつけるケイスを見て小さく笑った彼は、今の君には理解できないだろうがと前置きをするように言って、更に言葉を続けた。

 

 

「君はリンカーコアを持たないただの人間だ。だが、その内にある精神は持つ者たちをも凌駕する誠実さを備えている」

 

 

持つ者と持たざる者という垣根を前に卑屈にならず、真っ直ぐと真実と向き合って歩み続けてきたケイスを、アーマメントは見つけて選んだ。それが全てだとノックスは言った。

 

 

「君は過去に人を救った。違法な売人に、違法デバイスを持つ荒くれ者。それと戦うためにストライクアーツを身につけたのかな?」

 

「違う、そんなことじゃない」

 

「じゃあ何が真実だ?魔法を使えないのに何故君は立ち向かった。多くの脅威に」

 

 

ノックスの壮大な物言いにケイスは少し言葉を詰まらせたがすぐに視線を逸らした。

 

 

「……そんなこと、アンタには関係ない。僕が知りたいことは一つだ。その機械は一体なんだって言うことだ」

 

 

指を指した先にあるソレを目にしてノックスは小さくを息を吐いてから、いいだろうと静かに言った。

 

 

「アーマメントについて教えてやろう。同時に君の運命についても」

 

 

 

 

 

 

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