黒鉄のアーマメント   作:紅乃 晴@小説アカ

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第二話 アーマメント・トリロジー

 

 

「アーマメントとは単なるアーマー、と誰もが勘違いするだろう。事実、私もそう思っていた時期はあった。だが……アーマメントは魔力がない人間でも魔力を扱えるといった簡単な代物ではない」

 

 

ラボ内の光学キーボードを操作しながらノックスはそんな話からアーマメントという存在について話を切り出した。

 

 

「その原点は強大なエネルギー発生装置だ。これは二分された世界を平等にするために開発されたものであり、アーマーや武器といった側面は後から追加された側面でしかない」

 

 

そして、そのアーマメントはリンカーコアを持たない人間のみが装着できる。リンカーコアを持つ者が装着すると魔力素の影響により拒絶反応が出現し、自身のリンカーコアが著しく損耗され、長時間身につけているとリンカーコアが消失してしまうのだ。

 

燃料は空気中の魔力素を取り込むリンカーコアと同じ機能を有しており、機械的に魔力素を変換し、魔力を行使することができる。

 

それを聞いてケイスは思わず顔を顰めた。

 

 

「二分されたものを平等にするエネルギーの発生装置なんだろう?なら、なぜ魔力を持たないものしか扱えないようにした」

 

「あぁ、本来ならば、アーマメントは〝持つ者と持たざる者〟によって二分された世界をより良き世界にするために作られたが、長年の軋轢や憎しみによってそのエネルギー体は戦いに用いられるようになった」

 

「戦いの道具になったのか?」

 

「正確には強者の剣と弱者の盾だ。もっとも、魔力が使えない弱者が手にした盾は滅びを呼び込む矛でもあったのだが……矛盾だな」

 

 

ノックスが2回光学キーボードを叩くと部屋に備わっていた立体データの投射装置が起動し、部屋にノックスがアップロードした映像を映し出し始めた。

 

それは遠い世界のことだ。

 

暗黒時代。ミッドチルダや、古代ベルカよりも前の歴史。ロスラングと呼ばれる失われた古代文明。

 

ダーク文字が頻繁に使用されていたその文明で、アーマメントは産声を上げた。

 

本当に最初は単なるエネルギー発生装置だった。リンカーコアを持つ者と、持たざる者。力を持つ者、持たない者で明暗化された世界に平等という秩序と平和をもたらすと信じて作られたアーマメントは始めは人々に受け入れられた。

 

新たなる希望だと信じられた。

 

だが、その希望では長年積み上げられた差別というシステムを壊すことなどできなかった。いつしか、エネルギー発生装置であったはずのアーマメントはリンカーコアを持たない弱者の篝火として祭り上げられ、アーマーという兵器に形を変え、長きにわたる魔力持ちと魔力無しの人間の戦いの要因ともなっていた。

 

「長きにわたる戦いの中でいくつもの文明が滅び、人の存続まで脅かされた頃になって人々はアーマメントという力を恐れた。いや、それ以前に正しい使い方をわかっていながら出来なかった自分達の残虐さと暴力性に恐怖したのさ。そしてアーマメントは二つに分かれて封印された。エッセンスと、エクステリアとしてね」

 

 

これはエッセンス〝本質〟だともノックスは言う。本来の目的であった無限のエネルギー発生装置として、そしてエクステリアは人が争いのために作り上げた兵器として。

 

そして誰にも知られないためにアーマメントは古代文明の世界で地中深く埋葬されたはずだった。

 

 

 

「だが、時が経った。暗黒時代が終わりを告げ、古代ベルカを経て、このミッドチルダで新たなる新暦という時代が始まったとき、アーマメントは地中深くから発掘された。このエッセンスがね」

 

 

ノックスが視線を向ける先には、あの端末がある。それがアーマメント・エッセンスだ。

 

世紀の発見がされたものの、膨大なエネルギーを有するアーマメントの悪用を防ぐために高エネルギー体となって次元の狭間の中に自らを幽閉したのだが、それを終える理由ができたのだ。

 

 

「アーマメントが君を選んだのは他でもない。エクステリアと呼ばれるもう一つのアーマメントを封印するためだ」

 

 

最初に発掘されたのはアーマメント・エッセンスだけだったはずだが、近年になってもう一つのアーマメント・エクステリアが発掘されたのだ。

 

エクステリアは古代文明の兵器技術が集約された存在であり、純粋な兵器だ。だが欠点もある。エクステリアはエネルギー源がなければ起動しない。

 

そしてその稼働には膨大なエネルギーを消費するのだ。まともに動かそうにもすぐに燃料切れとなって機能を停止する。

 

故に、アーマメントは二つで一つ。

 

エネルギーを司るエッセンス。

 

パワーを司るエクステリア。

 

それらが一つになる事で、アーマメントは過去の力を取り戻し、完全なる復活を果たすのだ。

 

もし、二つに分かれたアーマメントを一つにすることで完璧な存在として蘇ったなら、その強大すぎる力は再び人類を破滅へと導くことになる。

 

 

「で?アーマメント・エッセンスに選ばれた僕に何をしろというんだ?」

 

 

おおよそのアーマメントの説明を聞き終えたケイスは、懐疑的な目をしたまま語り終えたノックスへそんな質問を投げかけた。もちろん、アーマメントに選ばれたなんて信じていないが、それでもノックスという男が何故魔力を持たない自分に目をつけたのか、理由を知りたかったからだ。

 

話を聞く限り、ロストロギア級の危険性を持つアーマメントに勝手に導いては装着させられたのだ。それくらい聞く権利はあるだろう。ケイスからそう問いかけられ、ノックスは展開していた映像をオフにして背筋を伸ばした。

 

 

「簡単な話だ。とある施設からアーマメント・エクステリアを盗んできてほしい。そこにあるエッセンスを使ってな」

 

「あー……二つのアーマメントが融合すれば世界が滅ぶんだろう?」

 

「悪意ある者が使えばな?だが、君は選ばれた。君ならば強大なアーマメントの力に飲まれる事なく、エクステリアを奪還することができるだろう?」

 

 

随分と楽観的な物言いをするんだな、とケイスは内心でそう思った。アーマメントたるものが何なのか、ケイスはまだアーマーや武器としての側面しか知らない。

 

それどころか、自分が身につけたものが単なるエネルギー発生装置だということにすら疑念を抱く。たしかにアーマーは魔力を生み出して、リンカーコアを持たないケイスが空を飛んだり、魔力砲を撃ったりはしたが、どうにもアーマメントの本質的な部分に納得ができなかった。

 

 

「仮に盗むことができたとして、どうする?管理局に封印処置でもしてもらうのか?」

 

 

ノックスは管理局の名を聞いてうんざりしたように肩をすくめる。保管庫であったエース級のスバル・ナカジマを見た時も同じような反応をしていた。

 

 

「管理局の封印など信用できない。単に一つの文明の組織だ。その存在は有限。だからこそ、アーマメントをそれぞれ次元の狭間に再度封印する」

 

 

次元の狭間。さっきもアーマメントの話で出てきた場所であるが、それは一般的にミッドチルダでは虚数空間など呼ばれる危険な領域だ。次元と次元の間に存在するどの世界でもない境界。次元の隙間とも呼ばれるそこに至る技術など今の世界には存在しない。

 

安定した次元空間を航行する術はあるだろうが、その空間を無理に不安定化させようものなら最悪の場合、次元震が発生して次元世界が滅ぶ危険もあるのだ。

 

 

「……そんなことが可能なのか?」

 

「言っただろう?アーマメントのエネルギーを使えば高次元的な存在になれる、と。そのエネルギーで次元の壁に穴を開け、君たちが呼ぶ虚数空間という場所にアーマメントを埋葬する。二度と誰の手にも渡らないようにするためにな」

 

「壮大な計画だな」

 

「ああそうだ。だから君にやってもらうのはエクステリアを盗んでくることだけでいい。そこから先は私がやろう」

 

「お気遣いどうも。だけど、盗みなんてしないし、アーマメントなんてものに関わるつもりはない」

 

 

ロストロギア級の遺失物だとか、世界の崩壊だとか、滅びなんてそもそもの話をケイスには関係のない話だと突っぱねる。第一、ここに連れてこられたのも半ば拉致のようなものだ。ノックスの話を手伝う義理もないのだ。

 

 

「僕には明日も明後日も仕事があるんだ。そんなことに付き合ってる暇なんてない」

 

 

そう言い切るとノックスは、それもそうかと肩をすくめてから再び光学キーボードを叩き始めた。

 

 

「だろうな?だが、そんなことを言ってる場合でもなさそうだ」

 

 

その言葉と共にノックスが投影したのは、今現在放送されているニュース番組だった。そこにはロストロギア級の遺失物を盗んだ犯人として指名手配される……ケイスの顔写真がデカデカと表示されていた。

 

 

「冗談だろ?」

 

 

食い入るようにノックスが投影するニュースを眺める。どうやらノックスとケイスは共犯者であり、アーマメントなる危険物をミッドチルダに持ち込んだ容疑などもケイスには掛けられていたのだ。

 

 

「君がいう明日と明後日の予定は消えたな?」

 

 

ノックスのトドメの言葉にケイスは言葉を失った。ニュースには自分の職場も映っていて、自分の同僚たちがカメラから顔を隠すように急かしく職場へと入っていくのが見えた。すると、画面が暗転してこう文字が浮かび上がった。

 

〝犯人はアーマーを持って自首しろ〟と。

 

 

「身の潔白を証明したいなら、エクステリアを盗むことだけだ。ロストロギア級の遺失物に関わっていたなら管理局も便宜は図ってくれるだろう」

 

 

ノックスの優しい言葉に苛立ったケイスは隣にあった机に拳を叩き落とした。合成鉄の机の天板は拳大の凹みが生まれていた。

 

 

「そんなわけあるか!ノコノコ出て行ったら捕まって終わりだ!!クソ!!アーマメントなんて……俺が何をしたって言うんだ……!!」

 

 

ひとしきり声を荒げてからケイスは机の足に寄りかかって座り込んで、うなだれて、楽しかったような記憶を思い返している。だが、隣に座った名君はそんな思いを見透かしたように言葉を返した。

 

 

「気を落とさないほうがいい、ケイス。些細なことだ。君は選ばれたのだ」

 

「アーマメントにって?」

 

「わかってきたじゃないか」

 

 

にこりと微笑むノックスを見て、ケイスも笑ってから息を呑むように小さくつぶやく。

 

 

「帰っても捕まるだけ、か。なら……付き合ってやるよ。教えろ、エクステリアの場所を」

 

 

いいだろう、そう言ってノックスは投影モニターを出す。そこにはアーマメント・エクステリアが隠された場所を知らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

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