黒鉄のアーマメント   作:紅乃 晴@小説アカ

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第三話 探索と遭遇

 

 

 

「デカデカとモニターに指名手配犯の写真が写ってるけど、巻き込んだ側としてはどう思ってる?」

 

《正直、すまなかったとは思っているよ》

 

 

つい数日前までは何食わぬ顔で歩き回っていた街が、今じゃ針のむしろに座る居心地だった。

 

ビルの壁面に備え付けられた大型の光学モニターには、ニュースの映像と共に指名手配されている犯人の顔写真が映されている。

 

目立たない色のトレーナーと、ありきたりなジーンズ。そして深く帽子を被っている渦中の人物であるケイスは、ゆっくりとした足取りでクラナガン首都から少し離れた地区を歩いていた。

 

この地区には高層の建物がいくつも建っているが、そのほとんどが貨物を格納する倉庫、あるいは物流の発送施設だ。驚くことにミッドチルダの首都、クラナガンの郊外にある多くの企業からデバイスなど魔法技術関連のものを除いて次に多いのは物流を担う企業が占めている。

 

ミッドチルダという世界を取り巻く環境というものは時空管理局がまず頭をよぎるだろうが、実際はもっと複雑で異なる。

 

次元航行船舶を運用、製造する企業や、魔法技術関係の企業もあるが、その大部分は物流企業が占めていた。

 

次元航行船舶の事業は、企業の力は強くとも工場などをいくつも建てるほどの生産量は必要とされていないし、メンテナンス用の工場などは基本的に船が停泊する次元本部内に併設されている。

 

魔法技術関連企業もデバイスの普及が増えたことで拡大を進める企業もあるが、魔法資質や特性に左右されるワンオフ(カスタム)仕様が多いため、量産などには向かない。

 

多くの次元世界との交流、そして管理を担う中心部であるミッドチルダ。

 

世界の中心的へと輸入される外世界の品物の数は膨大だ。それを保管する場所や物流企業も手が大きくなる。したがって、ミッドチルダでの企業のパワーバランスを握っているのは物流企業ということがままある。

 

故に、管理局地上本部がある華やかな中心部から離れると、倉庫と化した無駄に大きな建物が乱立している地区がちらほらとある。物流企業のお膝元なのだから人の出入りは激しい。

 

ケイスは手頃なカフェの野外席に腰を下ろして目的の建物を見つめた。

 

 

「冗談だろ?本当にこんな市街地のど真ん中にロストロギア級の危険物を隠しておくか?」

 

《木を隠すなら森の中という諺があるのさ、ケイス》

 

 

胸についたアーマメント・エッセンスから直通で聞こえるノックスの声をケイスは無人自販機で買ったコーヒーを口にしながら聞き流す。

 

外世界である地球のことわざ、なんてものもが流行り出したのも最近の出来事だ。

 

それほどまでにミッドチルダという世界はさまざまな文化や世界に触れることができる世界とも言える。だが、その結果、さまざまな世界の厄介ごとも招き入れられるという危険も伴う。管理局も捜査官やら警備隊を増員、増設しているとは聞くが、働き手や魔導士不足で万年人材不足なのだ。

 

 

《今のミッドチルダ……特にクラナガンは魔法器具の物流が最も多い場所となっている。デバイスにオプション器具、訓練用のものから違法流出品……なんでもござれだ》

 

「僕の勤めてた場所からすれば悩みの種だったけど」

 

《おかげで随分と手間が省ける。次元空間の旅行は何かと金もかかることくらいわかるだろう?》

 

 

ノックスの言葉にケイスは思わず顔をしかめる。自分の目と鼻の先に超危険物が置かれているのに手間が省けると思えるのは正気じゃない。

 

ただ、たしかに次元世界を渡ってアーマメント・エクステリアを探しに行くとしたら、仕事で貯めたケイスの貯金はすぐに底を尽きるし、なにより指名手配中のケイスが船に乗ろうとしたならすぐに身元がバレて逮捕待った無しだろう。

 

 

「経費削減になって嬉しい限りだな。……で、この場所の情報は?」

 

 

ケイスが目を向けるのはミッドチルダに本社がある物流輸送企業が持つ倉庫だ。

 

その企業はかなり大手で管理局とも提携を結んでいるし、独自の次元航行ルートも持っている巨大企業。そんな会社が持つ幾千の倉庫の中の一つにアーマメントがあるとノックスは睨んでいたのだ。

 

 

《表向きは遺失物や不法持ち込み品の保管センターのひとつだ。管理会社は管理局が委託している民間企業。もちろん黒だ。外部の犯罪シンジケートと結託し、保管品の一部を売買している》

 

 

少し調べれば分かることだなともノックスは付け加えるが、事実その通りであり管理局、とくに次元航行の管理関係の仕事に従事しているスタッフならすぐにわかることだ。傘増しされた重量に明らかに不明瞭な物品の数々。だが、それを全て指摘していたらただでさえ人員不足な管理業務が機能不全に陥ってしまう。

 

管理する側もギリギリ、そして横行する違法な物品の搬入出。

 

すぐ目の前で違法なやり取りが行われているというのに、それに手が出せなかったのが今までの現状で、ケイスも管理部にいた頃には何度か目撃していた。上司に報告していたのだが、その全てが上に行く前にもみ消されたのだ。

 

すべては、管理局という組織に根深く共依存関係にある物流企業との関係があるからだろう。

 

 

「……わかってはいたけど、大きい組織はこういうことあるから嫌になるな」

 

《だが、世界のバランサーとしては必要なもの。皮肉だな?》

 

「話が脱線する。戻してくれないか?」

 

 

言うまでもなくわかっていることだ、とケイスはため息を吐きながらノックスに言葉を返した。大きすぎる組織ゆえに、というありきたりな言い訳も聞き飽きるほど言い続けて、杜撰な管理体制を座視してきたツケだとも思う。

 

コーヒーを飲みながら施設を伺うケイスの網膜にはアーマメントを通じて施設の情報が投影されていた。

 

 

《入口は専用のカードキーもしくは管理局用のスキャニング機器が必要になる。または協力会社としてのアポイントか》

 

「バカが飛んで火に入るカモネギってやつ?」

 

《あーいろいろと混ざってるぞ》

 

 

知ったかぶりをするんじゃなかった、とケイスは少し頭を抱えたくなったが、咳払いをして恥ずかしさを紛らわした。

 

 

「悪いな、地球文化に疎くて。で?どうやって中に入る?一応スキャニング機器は持ってるぞ?……指名手配犯の物でよければ」

 

 

今度はノックスが気まずそうに声を漏らした。

 

 

《……正面から行くのは無理だ。だが、別の入口なら話は変わってくる》

 

 

とりあえず今は待つことだな、とノックスが言ったところでケイスは缶コーヒーをゴミ箱に捨ててカフェを後にする。その後ろ姿を同じカフェにいた男がじっと見ていることに気づかないままで。

 

 

 

 

 

 

同日、午後0時。

 

昼間は見上げていた施設の壁に張り付きながら、ケイスはガラス窓に映っているはずの自分の姿を見つめながら小さくつぶやいた。

 

 

「まるで透明人間だ」

 

 

ケイスの身を包むアーマメントの図型はまるで光学迷彩のような姿をしていた。

 

辺りの光を反射するように投影し、夜の暗闇と僅かに灯る人工的な灯りの中間のような色味をしており、ガラス越しに見ても自分の姿形の場所だけが歪に歪んでいる程度にしか見えなかった。

 

 

《アーマメントは魔力素を取り込んで起動するからな。なら自然体な魔力素をアーマーに纏ってしまえば魔力痕跡は残らない。加えて装甲自体がカモフラージュをしている。遠目からではまず発見はできないだろうな》

 

「こんなものが出回ればただでさえ悪いミッドの治安がさらに悪化するぞ」

 

《それを防ぐために我々は行動をしている。もう少し上だな》

 

 

この隠密モードの際は取り込んだ魔力素を変換せず身に纏っているために魔力を使った攻撃的な手段が限られ、移動に特化したモードとなる。アーマメントによって補助された身体機能はビルの壁を蹴ってどんどんケイスの体を上へと押し上げていった。

 

トン、と音もなく建物の屋上に到着したケイスはノックスの補助に従って広い敷地の一角へと足を向ける。

 

 

《2メートル先に排気口がある。そこが裏口だ。……どうかしたか?》

 

 

指示を聞いたケイスが突然呆れたような顔をすることにノックスは怪訝な声で問いかけた。ケイスが難色を示したのは単純な理由だった。

 

 

「いや、科学が魔法だって言われている時代の潜入方法にしては古典的だなと思って」

 

《古典的だが、案外と効くものだ》

 

 

隠密モードを解除し、腕を構える。すると人工的な魔力が練り上げられ低出力の魔力砲は軽々と排気口の蓋に風穴を開けた。

 

 

「侵入したぞ」

 

 

するりと通気口から施設内へと潜入したケイス。明かりはなく、真っ暗な施設内であるが、アーマメントのマスクがすぐに暗視モードへと切り替えてくれた。暗くとも視界が確保できるとは便利なものだ。

 

 

《さて、中に入ったはいいがアーマメントがどこにあるか》

 

「探さなくても構わない。目的のものは目の前にやってきた」

 

 

誰だ、とケイスが声を上げるよりも早く施設内に明かりが灯った。暗視モードの視覚センサーが光を拾い、一瞬だけ目が眩む。すぐに通常モードに移行され、霞んでいた目をあけるとケイスの周辺には彼を取り囲むようにスポットライトがずらりと並んでいた。

 

目の前には不気味な笑みを浮かべる男が立っており、周りにも取り囲むように人が立っているのが見えた。

 

 

「古典的だが……罠としては有効だったな?エッセンスのアーマメント君」

 

 

目の前に立っている男をケイスは知っていた。

 

昨日、このアーマメントが収められていた箱を開けた時に、ハワードや自分を襲ってきた襲撃者のメンバーであり、リーダー的な立ち位置で指示を出していた男だ。

 

アーマメントで殴られたせいか、頬に治療用のシートが貼られていて、男はそれを静かに撫でてから語り始めた。

 

 

「さて、無駄な問答はなしだ。私の目的は君が身につけているアーマメント・エッセンスただ一つだ、ケイス・テレイン。おっとなんで名前をなんて馬鹿馬鹿しい質問はよしてくれ。ニュースで流れていたから君の名前は知っている。君がどんな人間なのかもね。だからあえて言おう、君は騙されている。そのノックスというイカれた犯罪者にな」

 

「……どういうことだ?」

 

《話を聞くな、ケイス。これは罠だ》

 

 

通信越しにノックスの声が聞こえたが、それよりも目の前にいる男の声の方が、ケイスにははっきりと聞こえていた。

 

 

「どういうことも何もない。君の身につけているアーマメントが全ての答えだ。君は本当にノックスがアーマメントを埋葬すると信じているのか?奴がアーマメントを呼び起こした。我々の故郷を滅ぼしてな!そうだろう?ノックス」

 

 

アーマメントの管理者と自称するノックスの名前まで知っている男は聞こえるように大声で叫んだが、ノックスからの返事は聞こえなかった。男は返事がないことに鼻を鳴らし、更に語気を強めた。

 

 

「アーマメントが目覚めた?いいや、違う。お前が目覚めさせたんだよ、ノックス。間違ってるなんて言わせない」

 

「本当のことなのか……ノックス。聞こえているだろ」

 

 

今度はケイスも問いかけるが、ノックスは答えようとしなかった。沈黙を続けるノックスにケイスも疑心感が大きくなり、信頼関係が揺さぶられていた。

 

 

「否定はできないだろう?その出来事を知る人間は僅かしかいないということをわかっているからだ。その沈黙が何よりの答えだ」

 

 

さて、そう区切った男はゆっくりとした足取りでアーマメントを身につけるケイスの元へと歩み寄った。

 

 

「哀れなケイス・テレイン。君がアーマメントを身につける理由も、ノックスの言葉に従う理由もない。ならば……私にそのアーマメントを渡すことにも、断る理由などあるまい?」

 

 

アーマメントを盗んだ男が、アーマメントを管理しているのだと嘯いているのだ。そんな信用できない男に振り回されて悪事を働いていいと思っているのか?そう言葉を続ける男に、ケイスは返事のないノックスの様子を見て小さく息を吐いた。

 

 

「……どちらも胡散臭いとは思ってはいるが……アンタにアーマメントを渡さない理由はある。不法保管品を他所へ売り払っているお前たちには渡すわけにはいかない」

 

「おいおいおいおいおい。まだノックスの戯言を信じているのか?根も葉もない噂を間に受けてどうする」

 

「根ま葉もない、か。アンタは俺をよく知っていると言っていた。だが知らなかったようだな」

 

 

ガシャリ、とアーマメントの腕部に備わる魔力砲のユニットが唸る。戦闘準備など、とうの昔に済ませていた。

 

 

「僕の仕事は、そう言った輩を調べることなのさ」

 

「ハァ、まったく。……処分しろ」

 

 

うんざりしたように、呆れたようにそう言った男の指示のもと、初めて襲撃された時と同じような電撃ステッキを構えた男たちが襲いかかってきた。飛び上がると同時に放つ魔力砲を食らった相手は倉庫の棚を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいく。脚部から魔力フィンも展開し、狭い空間の中で飛び回りながら遅いくる男たちをケイスは魔力砲で薙ぎ払った。

 

 

《ケイス!!》

 

「アンタの言葉は信用できない。だが、アーマメントを奪われるわけにはいかない!協力しろ!話はそれからだ!」

 

《……これが終われば全てを話そう》

 

「アーマメントを奪え!」

 

 

怒声の中からそんな言葉が聞こえた。掴みかかろうとしてくる相手に回し蹴りを叩き込み、ステッキを受け流す。ストライクアーツで鍛えられた攻守一体の動きに連動して、魔力砲も放つケイスの動きは、電撃ステッキを持った程度の相手ではどうしようもなかった。

 

 

《とにかくここから脱出するんだ!》

 

 

ノックスの言葉通り、最後の一人を吹き飛ばして脱出しようとするケイス。だが、その前に一人の影が立ち塞がった。さっきまで話していたリーダー格の男だ。

 

 

「いや、その必要はない」

 

 

男はそう言うと2回胸の中心を叩く。すると彼の体を複雑な模様をしたアーマーが包み込んでいった。

 

 

《ば、バカな……》

 

『二つ揃ったアーマメントを逃すわけがないだろう?』

 

 

ニヤリと笑った男の顔がケイスが身につけるものと同じ造形をしたマスクが覆い隠した。

 

 

《アーマメント・エクステリア……!!》

 

 

 

 

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