黒鉄のアーマメント   作:紅乃 晴@小説アカ

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第四話 敗北と結託と

 

 

青い稲妻の様な光が走った。

 

咄嗟に体を捻ったケイスの脇を通り抜けた光は資材を置く鉄製の棚を真っ赤に溶断した上にビルの壁に軽々と穴を穿っていた。

 

 

【もう一つのアーマメントはここにあると知ってきたのだろう?目の前にあったじゃないか】

 

 

アーマメント・エクステリア。

 

ケイスが身につけるエッセンスとは異なり、攻撃性という側面を与えられたそれは、単なるアーマーのような外見ではない。腕にはより攻撃力が増す大口径の魔力砲口と、肘にかけて折りたたみ式のブレードが備わっている。

 

脚部も高機動性を確保するためのスラスターベーンが増設されており、腰部にも小型の射撃武器が備わっていた。

 

相手を殲滅し、制圧することに主観を置いた破壊をもたらすアーマメントであるが、その高性能さをかき消すほどのデメリットを抱えていたはずだ。

 

 

《エクステリアは起動するだけでも莫大なエネルギーを消費する!!どこからそのエネルギーを手に入れた!!》

 

 

アーマメントをよく知るノックスの怒号のような言葉に、エクステリアを身につける男はサイドアーマーに備わるバックルを開き、中身を取り出した。男が手にしたのは少し赤みかかった青色の宝石だ。

 

 

【管理局というのは管理が杜撰でね。とくに、こう言ったものも手に入る】

 

 

宝石の中央には英字のナンバーが記されている。その宝石の姿をケイスは見たことがあった。古いデータに載せられていた代物でいるが、外世界で発見されたのち、管理局が回収、封印したはずの〝危険遺失物〟のひとつ。

 

 

【こいつはジュエルシード。本来は21個で一つとなるロストロギアの一つだ】

 

 

かつて、外世界の一つである地球を舞台に繰り広げられた戦い。

 

その要因となったロストロギア、「ジュエルシード」。

 

21個いるうちの一つであっても、その宝石のような姿に内包された魔力は、一度暴走すれば次元世界を連鎖的に崩壊される次元震引き起こせるほどの危険な代物だった。

 

 

「ロストロギア!?封印指定の区画に保管されているものだぞ!!」

 

【その封印区画の一部が民間委託されたのさ。人員不足というのは困ったものだ。封印区画の代物なんて人が扱うには無理が大きすぎる。だが、こいつはちょうど良かった】

 

 

ジュエルシードは強大すぎる魔力を保有することから間違った扱いをすれば暴走しかねないエネルギーの塊だ。だが、それを動力源としてみるなら、これほどまでにエネルギー効率の優れた代物は存在しない。

 

膨大なエネルギーを必要とするアーマメント・エクステリアを稼働させるに最も適したエネルギー源とも言えた。

 

エクステリアが腕を構えた瞬間、大口径の魔力砲が放たれる。咄嗟にケイスは腕を構えてシールドを展開するが、その威力は桁外れだった。

 

 

《ケイス!!シールドじゃ防ぎきれない!!》

 

 

ノックスの声に、ケイスは返事をすることができなかった。後ろに吹き飛ばされそうなエネルギーの濁流を受け止めるのに精一杯だ。堪え続けている隙に、驚異的な速度でケイスの横へと回り込んだエクステリアは、再び砲口を向ける。

 

 

【遅い】

 

 

閃光と爆轟が唸る。真横から直撃を受けたケイスの体は砲撃と共にビルの外へと吹き飛ばされた。くるくると回る浮遊感の後、ビルから一気に周りの建物へと叩きつけられ、その衝撃がアーマー越しにケイスの体を駆け巡った。

 

 

「がはっ……!?」

 

 

昼間に偵察のために訪れていたカフェテリアの店内まで吹き飛ばされたケイス。横たわる彼の頭上、飛行フィンを広げたエクステリアがゆっくりと舞い降りてくる。

 

 

【この力は素晴らしい。ジュエルシードの無尽蔵な魔力を持ってしても、出力は50%。だが、お前を殺し、その体からアーマメントを引き剥がすには十分な力だ】

 

 

圧倒的な差がエッセンスとエクステリアにはあった。あくまでエネルギー源という機能しか持たないエッセンスでは、圧倒的な火力を持つエクステリアに太刀打ちする術がないのだ。

 

 

《ケイス!逃げろ!!》

 

 

ノックスの言葉を聞きながら、ケイスは体にのしかかる瓦礫を払い除けて立ち上がった。

 

アーマー越しにとはいえ、見上げるほど高いビルの屋上近くから投げ出されて地上一階にある建物に叩きつけられたダメージは想像を絶した。おそらく何箇所か骨にヒビが入っているだらう。だが、幸いにも感覚が途切れているところはない。足と手はまだ動く。

 

 

「……市街地に出た。ここで押し止めなければ被害が増える……!!」

 

《そんなことを言っている場合か!!今のエクステリアは危険すぎる!!》

 

「野放しにしていたのは俺たち管理局の人間だ。これ以上、被害を出すわけにはいかない……!!」

 

 

辺りにはまだ民間人が大勢いる。悲鳴をあげて逃げ惑う人々を前にして、ケイスは柄にもなく使命感を覚えていた。

 

元を辿れば、魔法技術を違法に横流ししていた者たちの罪と向き合わなかったことが原因だった。人員不足だからと自分達に言い訳をして、違法な魔法技術によって暴力にさらされる誰かを軽んじたのだ。

 

エクステリアを身につける男がジュエルシードを手にしたのが何よりの証拠と言えよう。ならば、ここで相手を止めなければ自分達が……管理局という組織が存在する意味がないのだ。

 

ケイスは体を焼くような痛みを歯を食いしばって噛み殺しながら、降りてきたエクステリアの元へと歩き始めた。

 

 

【向かってくるか。それを勇敢と呼ぶか、無謀と呼ぶか、私は過去に学んだぞ?ケイス・テレイン】

 

歩いていた足を蹴り出し、一気に距離を詰めたケイスはそのまま拳をエクステリアに向けて叩きつける。だが、その一撃を相手は軽々と躱して逆にケイスの腕を掴み上げた。

 

 

【40年前、アーマメントの管理者だと嘯くノックスに故郷を破壊された日からな!!】

 

 

片腕が捕まったケイスの脇下へ砲口を突き付け、魔力砲を放つ。エクステリアからほぼ接射で放たれた一撃を受けて吹き飛んだケイスは、瓦礫を吹き飛ばして地面に倒れた。

 

 

【お前たちは世界の秩序のためと言いながら、弱者を踏みにじる。そんな者たちが次元世界を管理するだと?笑わせるな】

 

 

管理局など、結局は持つ者たちでパワーバランスを持って征服しようとする者たちの集まりだ。

 

デバイスと魔法という武器を手にして、何もできない弱者を虐げ、声高らかに次元世界を統括している。

 

力を持たぬ者たちからすれば、独裁者となんら変わりはない。

 

そんな抑圧された仮初の平和の中で、彼らはアーマメント・エクステリアを目覚めさせた。持つ者からの管理を跳ね除け、力を持たぬ者たちで新たな秩序を作り上げるために。

 

 

【ケイス・テレイン、お前はアーマメントに相応しくない。だから、我々が管理してやろう。……お前はゆっくりと眠るがいい】

 

 

意識が朦朧としつつも、瓦礫にもたれかかるように倒れるケイスの前でそう言った男は、エクステリアに覆われた拳をケイスの顔面へと振り下ろす。鈍い音が辺りに響き渡った。

 

殴りつけられた衝撃と痛み。混濁する意識の中、ケイスの胸からアーマメントが引き剥がされる。

 

男は意識を失っているケイスの脚を掴んで引きずり、生活用水が流れる水路へそのまま投げ捨てた。

 

 

《ケイスーーッ!!》

 

 

水の流れに運ばれたまま沈んでいく体。冷たくなっていく感覚の中で、遠くからノックスの声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ時空管理局。

クラナガン首都、地上本部。

 

ロストロギア、アーマメントに関する重要参考人として捕らえられたケイスは、取調室の中にいた。

 

生活水路へと投げ捨てられたケイスは、現場に到着した管理局の隊員に救助され、意識を失ったまま本部へと連行されていた。目が覚めた時から取り調べを受けることになった訳だが、何度同じ話をしても担当管理局員は取り合おうとしなかった。

 

不法に魔法技術を外世界へと流す犯罪者がロストロギアを……それも二つ揃うと危険となるアーマメントを手にしたのだ。すぐにでも動かなければ間に合わなくなる。

 

いくら説明しても、彼らは動こうとしない。アーマメントはどこにあるか聞くばかりだ。

幾人もの担当官が来ては事情聴取が行われ、今もこうやって部屋で待たされている。

 

目が覚めてから随分と時間が経ったような気がする。外が見えない部屋で時間感覚も曖昧になり始めた時。しばらく動かなかった部屋の扉が開いた。

 

 

「……何度も同じことを話しただろう」

 

「けど、今回は違うかもしれないよ?」

 

 

また同じことを言わなきゃならないのか、とうんざりしながら呟いたケイスの言葉に、部屋に入ってきた二人の女性魔導士のうちの一人がそう言葉を返した。

 

肉体的な疲労と、精神的な疲労が合わさって掠れていた視線が相手を捉える。

 

 

「スバル・ナカジマと……ティアナ・ランスター?」

 

 

部屋に入ってきたのは、面識があった二人だった。とはいえ、アーマメントで顔を隠していたので面識があるのはケイスの視点ではある。聴取側の席に腰を下ろしたティアナは光学式の書類ファイルを開きながらケイスを一瞥する。

 

 

「名前を知っていてもらえて嬉しいわ」

 

「私たちもすっかり有名人になったねぇ」

 

 

どこか嬉しそうなスバルはニコニコとした顔でそう言った。アーマメントを身につけて始めてあった時の鬼気迫る雰囲気とは一変して、年相応の少女らしい表情をしているように思えた。

 

 

「……アーマメントは?」

 

「現在捜査中よ。重要参考人である貴方のね」

 

「二人は知っているのか……アーマメントの危険性を」

 

「それを知ってるから、あの日は私たちが出向いたのよ」

 

 

ティアナの目を見てケイスは表情を変えた。彼女の目は、ほかの担当官とは異なっているように見えたからだ。ケイスの言葉を受け流す、最初から取り合おうとしなかった彼らとは違う。

 

すると、ティアナの横で端末を操作していたスバルが何かを終えたのか、親指を立てて合図した。光学モニターのキーボードを押した途端、部屋を監視していたセンサーやカメラ、録音機が全て停止したのだ。

 

 

「ごめんなさい。こっちも訳ありなのよ。色々とね」

 

 

監視システムを一時的にシャットアウトした理由は、ケイスが……というよりも、管理局とアーマメントが密接に関係していることにある。二人の話によると、アーマメントがミッドチルダに持ち込まれたのはこれが初めてではないのだ。

 

おおよそ40年前。二人や、ケイス自身が生まれるよりも前にアーマメントはミッドチルダに持ち込まれたのだ。それも、大きな事件を引き起こして。

 

二人が動いているのは管理局の遺失物調査を専門に行う部署が指示を出しており、それはケイスを聴取していた局員たちとは別の指示系統で行われていたのだ。

 

 

「アーマメントはここにはない。だが、手がかりがある場所ならわかる」

 

 

ケイスの言葉を聞いたティアナは少し考えをまとめるような仕草をしてからすぐに行動を起こす。机の突起に繋がれていたケイスの手錠を躊躇いなく外したのだ。

 

 

「……時間はないわね。急ぎましょう」

 

「行くって……いいのか?」

 

 

いきなり手錠を外された上に外に連れ出されるとは予想してなかったケイスの戸惑った言葉に、ティアナは少し声色を固くして答えた。

 

 

「……この件、貴方を犯人に仕立て上げて早々に切り上げたい動きをしてる人物がいる。私たちの目的はソイツの悪事を暴くことよ」

 

「ついでにアーマメントの封印もね」

 

アーマメントの回収……というよりは、その利権関係とズブズブの繋がりがある〝誰か〟を捉えることが二人の目的だ。ケイスは呆れたように顔を顰めながら、どこか納得したように呟く。

 

 

「やっぱり関わってたか……怪しいとは思っていたけどな」

 

 

ティアナとスバルに連行される形で管理局の施設を後にするケイス。誤送する体で車に乗り込んだところで、運転席からスバルが問いかけてきた。

 

 

「で?その心当たりって?」

 

 

すぐにケイスも目的地をマップに入力する。

 

 

「アーマメントの管理者のラボだ」

 

 

 

 

 

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