黒鉄のアーマメント   作:紅乃 晴@小説アカ

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第五話 ノックスの真実

 

 

クラナガンからしばらく離れた場所に、ノックスのラボはあった。敵地の偵察のために進んだ道を逆順に追ってゆくケイスは、スバルとティアナを連れてラボへと入ってゆく。

 

ラボとは言っても完全に廃墟となった資材倉庫だ。中は間抜けの殻で、セキュリティなんて上等なものは配置されていない。

 

ラボにはノックスが持ち込んだであろう資材もいくつかあったが目立った防護システムなどは用意されていない。

 

 

「……静かすぎる」

 

 

デバイスであるクロスミラージュを構えて、注意深くあたりを警戒するティアナがそう呟く。ラボの廃倉庫に入ってしばらく経つというのに何らアクションがないことが逆にティアナの警戒心を引き上げていた。

 

慎重に部屋を調べてゆく横を、スタスタとスバルが何食わぬ顔で進んでゆくのが印象的だった。怖いもの知らずとは、まさにこのことだろうなと思わされるほどスバルの行動は堂々としすぎていた。

 

 

「ちょっと!罠かもしれないじゃない!?」

 

 

どんどんとドアを開けてラボ内を調べるスバルの行動を見てついにティアナが声を上げる。だが、その声も途端に消えた。スバルが開けた扉がラボへと繋がっていたからだ。扉を開けてすぐの場所。ケイスはそれが視界に入った途端、二人を押し退けて床に力なく横たわるノックスへと駆け寄った。

 

 

「ノックス!!」

 

 

ぐったりとした様子で返事をしないノックスを、ケイスや起き上がらせようと肩を掴もうとしたが、その手は彼の肩をするりと通り抜けた。実態がないホログラムのような有様だった。ケイスが呆然とする中、横たわるノックスの顔を見てティアナが小さく声を上げた。

 

 

「そんな……嘘……」

 

「ノックス……。アンタ……体が……」

 

 

何度か手で触れようとしても、ノックスの体を手がすり抜けてしまう。実態を持たないその体を見て動揺するケイスに、ティアナは信じ難い真実を告げた。

 

 

「ケイス。信じられないけど……彼はノックス・ブレイザー。……40年前のアーマメント事件で死亡したと言われていた人物よ」

 

 

困惑していたケイスの思考が止まった。何を言っているんだ?目の前にいる人間が、40年前に死亡したとされる人物だと?言葉を失うケイスの前で、ザザっとノックスの体がノイズが走ったようにゆらめき、彼はおもむろに目を開いた。

 

 

「その通りだ。愚かにもアーマメントを目覚めさせてしまった……男の末路さ」

 

 

老いを感じさせるゆったりとした口調でノックスは話し始めた。アーマメント・エクステリアを纏っていた敵が言っていたことは真実であり、アーマメントを目覚めさせるためにノックスは一つの世界を荒れ果てさせてしまったのだ。

 

 

「私は道を誤った。あの頃の私は、本気でアーマメントを使えば持つ者と持たざる者の差別を無くせると信じていたのだ。だが……結果は違っていた」

 

 

ノックス・ブレイザーは魔力を生み出すリンカーコアを持たなかったが為に、差別的な環境で苦渋を味わうことになった。だが、それはどうでもよかった。彼は差別されていたが、それでも懸命に生きていた。魔力を持ちながらも対等に……自分を兄と慕ってくれる弟もいた。

 

だが、彼は大切なものを全て奪われた。魔力を持つものから奪われたのだ。そして彼は気づいた。持つ者が、持たざる者から奪うのは間違っている。

 

だからこそ、彼はアーマメントを目覚めさせた。多大なる犠牲と共に。

 

それもまた、間違っていたと気づいたときは全てが遅かったのだ。

 

 

『次元震を止めるにはこれしかない!!』

 

『やめてくれ、兄さん!!』

 

『……これが俺の咎だ』

 

 

それが、ノックスが〝生きていた〟ときに残った最後の記憶だった。彼は自らが生み出した次元震を止めるために膨大なエネルギーを有するアーマメントを臨界状態にし、自身の命と共に次元震を相殺し、自らもまた次元の狭間に幽閉される道を選んだのだった。

 

死を覚悟して挑んだ、決死の行いであったが……彼が望んだ死は訪れることはなかった。

 

 

「……アーマメント内で大量の魔力を受け、結果的に高次元的な魔力素へと肉体が変貌した。ある種の……人の進化とも、退化とも……文字通り蒸発とも言えるな。……もし魂というものが科学的に実在すると言うなら、ここにあるのはその残骸だ」

 

 

ノックスの物理的な肉体は永遠に失われたが、彼の肉体は魔力素へと変貌し、その精神も含めてアーマメントのコアユニットに融着したのだ。それから40年という歳月を次元の狭間で過ごしたが、アーマメント・エクステリアが発掘されたことで状況は一変した。

 

ノックスはアーマメントの力が再び世界に悪影響を及ぼさせないために、次元の狭間から脱出し、このミッドチルダへと帰還したのだ。

 

新たなるアーマメントの装着者を探すために。

 

 

「……エクステリアを持つ彼らが奪ったのは私の精神を維持するための部品だ。だからアーマメントはまだこちら側にある」

 

 

ノックスの肉体に走るノイズが酷くなる。

 

彼の肉体を繋ぎ止めていたコアユニットは、敵の手に落ちた。ここにノックスが存在できるのはラボに残していた自身のデータがあるからだ。

 

魔力素の残骸で形成された彼の肉体は崩壊寸前。体の端々が飽和し、無機質な魔力素へと帰ってゆく。

 

しかしノックスは自らの肉体の崩壊を悟りながらケイスへ言葉を続けた。

 

 

「アーマメントは、常に君と共にある」

 

 

ノックスはケイスの胸の中央に指を刺した。触れた場所から彼の指先が崩れてゆく。ケイスが悲しげな目を向けたが、ノックスは心配ないと言って微笑んだ。

 

 

「君は選ばれた。他の誰でもない。私とアーマメントに」

 

 

魔力を持たずとも、強く、強靭な精神を持つケイスに、ノックスはアーマメントを託すことを決めた。それは運命だったと言わんばかりに、彼には確信めいた思いがあったのだ。

 

巻き込んでしまったことはすまないと思っている。

 

だが、このままいけば再び持つ者と持たざる者たちの戦いがはじまる。ベルカよりももっと酷い、暗黒時代が再び幕を上げる。それだけは防がなければならない。

 

 

「頼む、アーマメントを……君が封じてくれ」

 

 

手足がボロボロに崩れながらも、ノックスは真っ直ぐとした声でそう懇願する。ケイスはしばらく黙ったままノックスを見つめて、小さくつぶやいた。

 

 

「……勝手に巻き込んでおいて、そんなのは無しだぞ、ノックス」

 

「君なら出来るさ。君は……あの時の私であり、そして何より、私とは違う」

 

 

君が君であるなら、できるはずだ。

 

その言葉を最後に、ノックスの体は形を保てず、ボロボロと崩れ落ちて自然界の魔力素へと帰っていった。彼がいた場所には引き剥がされたパーツが残されている。

 

ケイスはそれを拾い上げて、瞑目するように頭を下げた。

 

 

「やはり、アーマメントはお前が待っていたか」

 

 

部屋の奥から、固いブーツの足音と共に人影が出てくる。そこにいたのはアーマメント・エクステリアを身につけていた男だった。

 

相手が胸の中心を2回叩くと即座にエクステリアが敵の身を包み込む。武装を展開して、敵は警告を言い放った。

 

 

「それをこちらに渡せ、ケイス・テレイン」

 

 

ケイスは黙ったまま、ノックスの残骸であるパーツを握りしめている。その様子を見て、エクステリアを見に纏う男はフン、と鼻を鳴らした。

 

 

「アーマメントに選ばれた?違うな。これは魔力を持たない者なら誰でも扱うことができる。資質が問われることのない強力な武器だ」

 

 

アーマメントは魔力を持たない者たちにこそ、扱える武器だ。そこに特別な資格や資質など存在しない。ケイスである必要などなかった。魔力を持たない者なら誰でも良かったのだ。

 

だが、それがどうした?

 

 

「ああ、かもしれないな。だが……僕は選ばれたんだ」

 

 

そう言い返すケイスに、男は呆れたように声を吐く。

 

 

「アーマメントは人を選ばない」

 

「いや、違う。ノックスが選んだんだ。この僕を」

 

 

途端、ジュエルシードからエネルギーを得ていたはずのアーマメント・エクステリアが機能を停止した。突然電池が切れたように動かなくなったエクステリアに困惑するが、原因はすぐにわかった。踏み込んだ領域が特殊な結界に覆われていたのだ。

 

それは、JS事件で多くの魔導士を苦しめてきた罠だ。

 

 

「AMF……!?ケイス、お前は……!!」

 

 

魔力を強制的に制限をかける、あるいは無力化するアンチ・マギリング・フィールド、通称AMF。ティアナとスバルに用意してもらったブービートラップであるが、充分に作用したようだった。一時的な機能不全に陥ったアーマメント・エクステリアは、ジュエルシードの出力を上げれば脱することも可能だろうが、ほんの僅かに機能停止するだけで時間は充分だった。

 

 

「魔力を持たない俺たちが、最後はそれで封じられるとは滑稽だな」

 

 

拘束具で男を取り押さえながら、ケイスは怒りに満ちた顔で男に詰め寄った。

 

 

「答えろ、お前たちを陰から操っている奴は誰だ……!!」

 

 

 

 

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