まあ、面白いと思ってくれたらそれが最高です……。
お気に入り登録50件、評価も赤くしてくださって誠にありがとうございます!
これからも精進してまいります!
超えてはならない一線。
それはタブーであり一種の不文律。
トレーナー。
彼らだけは担当ウマ娘に対して恋をしてはならない。
鋼の意志で一定の距離を保ち続けなければならない。
彼女らウマ娘という最高速を相手にして。
そして皮肉にもその理由を本当の意味で理解できるのは、恋に落ちてしまった彼本人だけだ。
× × ×
恋は呪いでもあるとは、誰が言ったか。
俺は一度たりとも、恋をしたいなんて思ったことはなかったのに。
キングヘイロー。
彼女を一流たらしめる不屈の闘志。
その決して諦めることのない強い意志に魅せられて、俺は今、トレーナーとしての人生を諦めようとしていた。
今、彼女の頭が俺の肩に乗せられている……!
レースもライブも万事無事に終わって、俺たちは新幹線でトレセンへの帰路へついていた。
最初の方こそ、レースにライブにと尽きぬ話題を心行くまで話し合っていたが、それは今日ついさっきの出来事。
さすがに疲れから、彼女はやがてゆっくりと船を漕ぎ始めた。
そう言えば、前もこうして居眠りをしていて机に頭突きしてたよな……。
微笑ましい思い出だが気持ちよさそうに眠っているし、今日は頭を打たないように見ていよう、と申し訳ないが寝顔を眺めさせてもらう。
美しくもまだ幼さの残る顔立ちを夕暮れの赤が色を付けて、なんだか気持ちが段々と感傷的になってしまう。
思い出すのは、彼女のトレーナーになった日のこと。
「そして俺こそが、一流トレーナーだ!」
俺はあの日、絶対に彼女の一流を証明してみせると、覚悟を以てああ宣言した。
そうして彼女は今、誰もが認めるであろう一流、キングと相成ってウマ娘界に君臨している。
だが、俺の方はどうだろう。
思えば、俺はずっと迷ってきた。
母の影を追う彼女に、掛けるべき言葉は何だろうか。
君を一流だと認めてもらうために、トレーナーとしてやるべきことは何なのか。
一流トレーナーとして、君を好きでいていいのか。
答えの出ないままガムシャラに進んできて、今まではそれでうまく行っていた。
だが、この好きという感情に歩みは止まった。
あの日誓った決意も自信も覚悟さえも、全ては彼女にもらったものだったから。
彼女はどう思うのだろう、こんな俺を。
俺にはもう堂々と一流トレーナーを名乗る資格もないのかもしれない。
彼女に、見損なったと嫌われたくない。
失望されてしまうのなら、君をもう、輝かせられないのなら、先に辞めてしまえば……。
ポスッと、いつの間にか顔を下ろしてしまっていた俺の肩に、彼女の頭の重みを感じる。
「トレーナー……」
滲んでいる瞼を擦ってから彼女の顔を見ると、どうやら寝言だったようで。
あまりのタイミングに、引き留められたのかと錯覚してしまった。
俺も君のように、揺ぎ無い心でいられたら。
一週間。それまでに彼女のものじゃない、自分だけの覚悟を手に入れて見せよう。
俺が、俺こそが彼女の一流のトレーナーだと証明するのだ……。
そうと決まれば、まずはこの俺の肩でくぅくぅ眠る可愛らしい彼女をどうしてくれようか。
時たま、彼女が耳につけているメンコが首筋にあたってきてはくすぐったい。
いや、動じるな。
冷静に、なんでもないと澄んだ顔をしていればいい。
起こすなんてとんでもない。
一流のトレーナーは余裕を持っているものだ、多分。
目を覚ましてしまわないように徐々に背筋を立てて、一流トレーナーになりきる。
心を無心にして、表情も完璧だ。
とその時、ジャーキングで彼女の身体が跳ねた。
あ……起きちゃうかな、と思えども俺ができることもない。
「ん、んぅ……あれ、私……」
寝ぼけまなこを擦って、彼女が覚醒する。
「よく眠れた?」
暗に俺の肩は寝苦しくありませんでしたか、という意味を込めてそう尋ねる。
肩を見つめて、どうやら自分が寄っかかって眠っていたことに気付いたみたいだ。
「あ……いやこれは、そう! た、狸寝入りよ! 最近はあまりあなたの労をねぎらっていなかったからこれはその一環!私がこのくらいで疲れて、あまつさえと、トレーナーの肩で眠るなんてある訳ないでしょっ」
赤い陽に照らされてわからないが恐らく顔を赤くしてさすがに無理のある言い訳?をするキングヘイロー。
別に疲れて眠ってしまうくらい、恥ずかしいことでもないのに。
「狸寝入りしてた人は、狸寝入りしてたって言わないんじゃ……」
「あえてよ、あえてっ。それにトレーナーもキングの寝顔なんてレアな姿を見られて、トレーナー冥利に尽きるんじゃないかしら!」
彼女は恥ずかしさを振り切って、一流然とした振る舞いに戻ってそう応える。
確かに寝顔なんていうのはプライベート以外で見せたりしないものだから、見るのは身内だけだけど……。
「うーん。そう、かも?」
「もっと喜びなさいよ! トレーナーはもっと一流たる私のトレーナーでいられることをありがたく思うべきだわ!」
彼女の予想していたリアクションとは違ったようで、座席の肘掛けを両手で掴んでこちらに憤慨してくる。
でも、今の俺は一流トレーナー。
比類なき感謝こそすれ、それを顔に出したりしないのだ……。
「それになんで顔を赤くしているのにキリッとした表情をしてるのよ、気味が悪いわ!」
……どうやら普通に動じてしまっていたらしい。
一流トレーナーへの道はまだまだ遠そうだった。