ウマ娘に恋してしまったトレーナーの話   作:かぃ

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妄想がウマくいかず、裏でゲロ吐く思いして書き上げました!……冗談です。


先日ここすき機能というものを発見して、この拙作にもついてるじゃない!とかなり楽しませていただきました。もっとここすきしてくれるとうれしいです。


お気に入り登録70件、高評価、本当にありがとうございます!


キングヘイロー③

 いつ彼女が帰ったのかさえ曖昧で、暫く座ったまま惚けていた。

 

 時計を見やれば、もうトレーナー室が閉まってしまう時間が迫ってきている。

 未だ心は浮かれたまま全く落ち着いていないが、さすがに帰らなければ。

 

 というか、どれだけ余韻に浸っていたんだ、俺は。

 いくら相手が好きな人とはいえ、やったことと言えば手を繋いだことくらい。

 こんなの大人としても、トレーナーとしても、あまりに頼りげがなさすぎる。

 

 戸締りをして外へ出ると、夜の肌寒い空気が火照った頬を冷ましていく。

 もっと一流として、余裕を持たないとな。

 

 日はすっかり落ちてしまっていて、その覚悟をお天道様に誓おうにもその太陽さまがもういない。

 

 その代わりに今宵の空は満月を浮かべていて、帰り着くまで眺めたままゆっくりと歩いた。

 ホラー映画なんて見たけど、この月明かりの綺麗な夜に幽霊なんて出そうには思えなかった。

 

 鍵を開けて中に入り、一つため息をつく。

 最近は何かとキングと触れ合う機会が増えていて、情緒がずうっと忙しない。

 

 あまり寝付ける気もしないが何をやっても手に付きそうもないし、と早々と寝支度を済ませて床に就く。

 冴えたままの目を無理やり瞑ると、一本の通話がかかってきた。

 メリーさんじゃあるまいし、こんな時間に誰だろう?

 

 画面を見てみればそこには、思いも寄らないキングヘイローの文字。

 ある意味、メリーさんよりも怖い……!

 見間違いじゃないかと目を擦ってみても、目の前の文字が変わることはなかった。

 

「もしもし……?」

 

 再び荒ぶりだした心の準備の間が欲しかったが待たせてもいけない、と深呼吸ののち通話に出る。

 何の用事だろう、確かもうすぐあっちの寮は消灯時間のはずだ。

 

「今日、ウララさん……いないのよ」

 

「え?」

 

 あまり聞いた覚えのない震えてくぐもった彼女の声が耳元で鳴って、冷静な判断ができないのかキングが何を伝えたいのやら全然わからなかった。

 

「もう、察しなさいよ……。いいから私が眠れるまで話し相手になりなさいって言ってるのっ」

 

 そこまで言われてやっと察する。

 おそらく、キングは今日観たホラー映画の影響で睡眠が脅かされているのだ。

 同室らしいハルウララがいれば話は違ったかもしれないが、今日はレースでもあるのか留守らしく、それで俺を頼ってくれたらしい。

 

「えっと、もちろんそれはいいけど……。何を話せばいいかな」

 

 キングの頼みでもあるし、トレーナーとしても彼女の健康のためだ、眠るまで通話だなんて少し恥ずかしいが背に腹は代えられない。

 とは言っても会話下手が祟って、ハナから話題が尽きていた。

 

「別に他愛のない話で良いわ、どうせなら却ってつまらない話の方が眠りやすくていいかもしれないわね」

 

 実質どんな話でもいいってことか。

 それなら、頭に浮かんできた話をポンポン放っていくことにしよう。

 

「そういえば噂話で聞いたんだけど、この前三女神像の前でトウカイテイオーのドッペルゲンガーが出たらし、ってあ……!」

 

 何も考えずに口を開いたら、幽霊におびえる子に怪談で追い討ちをかける最低なやつになってしまった。

 せっかくのキングの頼みだというのに、俺はなんて過ちを……!

 

 様子を気遣おうにも、通話故にわかるのは彼女がずっと黙り込んでいることだけだった。

 

「ご、ごめんキング!悪気はなかったんだけど……」

 

 もはや悪気どうこう以前の所業だが、キングに嫌われたくない俺の脳が勝手に言い訳の言葉を紡いでいた。

 

「もう……くちきいてあげない……」

 

 あ……。

 対するキングのお言葉は死刑宣告。

 まるで落雷に打たれたみたいに俺の思考はプスプスと稼働停止してしまった。

 

 ぜ、絶縁されてしまった……。事前に忠告だってしてくれていたというのに……。

 だがまだ諦められない、キングからの電話はまだ切れていない。

 

「キング、もう一度だけチャンスをくれないか。君と、最後の時まで一緒にいたいんだ……!」

 

 思いの丈が伝わってくれるように、必死になって言葉を投げかける。

 この時ばかりは、自分が一流に相応しいのかどうかとか、そんなこと考えていられなかった。

 

「さ、最期の時までって……!?それってつまり……あっ!それであの時料理がどうのって……」

 

「料理?あ、そういえば明日カフェテリア臨時休業だったな!よかったらお昼、作らせてくれないか!」

 

 どうにも会話が嚙み合っていない気がしたが、キングが話してくれた喜びで勢いそのまま喋りきってしまう。

 

「あれ、明日カフェテリア休み……?ってそれはどうでもよくて!あなた何言い逃げしようとしてるのよこのへっぽこ!」

 

 言い逃げ?

 さっきまでの発言を振り返ってみても思い当たる節がなくて、何が何やら困惑のまま訊き返す。

 

「な、なんの話?」

 

「皆まで言うまで白ばくれようって魂胆かしら……?今あなたが言ったことでしょっ。私と、その、一生一緒にいたいって……」

 

 衝撃の発言に、思わず目を白黒させてしまう。

 そ、そんなことを言った覚えはない……と引っ掛かったのは「最後」という言葉。

 

 もしかして「最期」まで一緒にって……。

 ということは今俺、キングにプロポーズしてるみたいになってるってこと!?

 

「いや違……!俺が言った最後って言うのはキングが引退するまでっていう話で、とにかく今のはプロポーズじゃない……!」

 

 懇切丁寧に誤解を解こうと説明を試みる。

 トレーナーとしての立場でさえ迷っているというのに、プロポーズなんて考えるだけでもできっこない。

 

「っ……」

 

 説明を聴いたキングは勘違いをしてしまったことにか、俺の紛らわしい発言にか腹を立てているようで、画面の向こうで唸っているのが聞こえる。

 

 ここで謝りを入れても傷口に塩を塗るようだし、なんだか自己満足にしかならない気がして少し無理にでも話題を変えることにした。

 

「えっと。明日のお弁当の卵焼き、甘いのとしょっぱいのどっちがいい?」

 

 すれ違っていた話の中でだったが約束は約束だし、と要望をきいてみる。

 でもその実、ただキングに自分の手料理をふるまいたいだけだったりする、かもしれない。

 

「っどちらも!甘いのもしょっぱいのもあらん限りをキングに寄越しなさい!」

 

 唸りから戻ってきたキングが、なんとも彼女らしい答えで択を決める。

 実際、ウマ娘が満足できる量を作るのなら冷蔵庫の中の卵をあらん限り使うことになるだろう。

 

「うん、腕によりをかけて作るよ」

 

 とこれで怪談話の償いは済んだかもしれないが、結局今のところ俺はキングの安眠に何も貢献できていないことに気付く。

 

 俺の話を待っているのかまたもキングは静かになってしまったし、早く彼女が安心できる何かを探さねば……。

 そう思って周りを見回すと、閉まりきっていないカーテンから月明かりが淡く差し込んでいた。

 

「キング、今日は月が綺麗だよ」

 

 カーテンを開けながら言う。

 この満月に彼女の怖さが少しでも癒されてくれないだろうか。

 

「月……?あ、満月っ。綺麗……!」

 

 向こうでもカーテンの開く音がして、二人で月を共有しあう。

 

 俺は寝転がって通話をスピーカーに切り替える。

 大きい満月が、更に大きく見えている気がした。

 

 それから月にまつわる雑学とか、はたまた最近読んだ小説の話など、月を眺めながらゆるり話していると、隣から寝息が聞こえ始めた。

 

 これでお役御免ではあるが、起こしてはまずいので通話は切らない。

 すぅすぅとまるで横で寝ている気がして、恥ずかしさに眠れやしないのに通話はスピーカーのまま。

 

 眠れない、眠らない夜はまだ始まったばかり。

 

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