とある『個性』研究員の日記 作:小腸菌
⚪月aa日
6個性を飛ばして7個性導入の飛行タイプ多頭サメ型大腸菌をこっそり作ろうとしたが、当然の如く失敗した。
それがばれたせいで上からはそんな馬鹿なことしてる余裕があるなら早く実戦投入できるようにしろと催促されてしまった。例のドクターの3個性導入ヒト細胞はもう実戦投入されているらしいからこっちも出来るようにしろとうるさい。いやいや、あれはまだ試験運用しているだけだろうと反論したのに聞く耳を持たない。なんか萎えたので近々休暇を取ろうと思う。
⚪月ab日
腹案を実行に移そうとしたが、なぜか明日は研究所が休みらしい。半強制的に休暇を取らされた。ついに労基に屈したかと思ったが、口には出さない。代わりに、かーっ、つれぇわぁ、明日なら大発見があっただろうに休まないといけないとかつれぇわぁ、と言って勤労精神をアピールしておく。
ちらっちらっと同僚を見ると知らない人だった。前のやつは異動したのか転職したのか。つれぇわぁ。
明日は雄英学園でイベントがあるらしい。上から持ち出し禁止のパンフレットをもらった。へぇ、この発目って子は、私と似た系統の個性なのか。双眼鏡要らずだなあ。
⚪月ac日
調べたら天下の雄英学園で体育祭があるらしいのでテレビで見た。上が良いテレビを用意してくれたおかげでしっかり見れた。色々視点を切り替えれるなんて最近のテレビは進んでるなあ。雄英学園校長の後ろ姿とか映されてもどこに需要があるんだろう。
氷すごい。爆破もすごいけどあれ大腸菌でやったら細胞壁壊れそう。壊れないくらい強度を上げるか、壊れる度に再生か、壊れないように……。おっと、緑髪の子は無個性なのに奮闘しているな。
面白そうな『個性』は、『溶接』かな。サメ型ムカデ大腸菌。ネタに走って良いなら『複製腕』。群体サメ型大腸菌という新しいジャンルに挑戦できそう。
という感じで楽しめた。やっぱり人生楽しまないとだめ。そういえば発目って子もすごかった。私は大腸菌をベイベーなんて言って可愛がれない。
⚪月ad日
今日から腹案である個性導入半自動化に取り掛かろうと思う。これが上手くいけば研究が一気に加速する。
『溶接』が手に入ったのでいつもの3セット+『ハイスペック』+『トカゲのしっぽ切り』と合わせて6個性導入したけど、失敗した。
理論上は、ハイスペックが治癒とトカゲのしっぽ切りと溶接を制御してエラー部位の修復と不要部位の切り離し、切断部位の結合が出来ると思ったのだけど、そう上手くはいかなかった。
⚪月ae日
先日の6個性導入株を試しているけど、いまだに成功していない。アプローチが間違っているのか。
上がうるさく言ってくる実戦用大腸菌も平行してやってるけど、まったくやる気がでない。まず第一に、大腸菌なんてばらまくより炭疽菌でもばらまいた方がよっぽど早いし効果的だとは思わないのか。どういう思考回路をしているのか不思議でならない。
あと、こっそり飛行型大腸菌に着手し始めた。とりあえず、おなじみの『筋肉強化』『超再生』『治癒』に試料がある『爆破』と『ショック吸収』で試している。上手くいってはない。
⚪月af日
そろそろ『筋肉強化』『超再生』『治癒』以外のパターンが欲しい。導入時生存率を考えるとこれが一番高いのは確かだけど何かないかな。
⚪月ag日
進展が無さすぎて上からの圧力が強い。迷走しているのは確かだから実戦投入用の大腸菌1号のコンセプトを決めた。
まずは、偵察出来る大腸菌の完成を目指す。
最低限必要な機能は、
・光または音を観測する
・観測した光または音を人間に伝達する手段を持つ
ほかにも色々と必要だし、ざっくりしすぎているけど後々詰めていく感じで。
×月ah日
まったく実戦で使えるレベルに達してはいないし、再現も出来ないけど大腸菌の可能性は見えた。
・音を観測し、電気信号に変換
・変換時に自壊
・何もしなくても5秒で自壊
・自力移動不能
ほかにも色々問題あるけどこんな感じ。
間違えて廃棄予定の株に複数の廃棄予定の株から切り離した遺伝子を導入した時に出来たから何がどうして機能したのかも分かってない。
そもそもこんな機能ならボイスレコーダー使えばいいと思うよ。
×月ai日
やはり筋肉だ。筋肉はすべてを解決する。
『筋肉強化』『帯電』と『筋肉強化』『ビースト』と『筋肉強化』『ハイスペック』の2個性導入株3種を切り貼りすると何らかの外的変化に反応して電気信号を流すようになった。
『筋肉強化』でほかの『個性』を挟む筋肉サンドイッチモデル!メカニズムは不明!気合いでしょ、多分。
欠点は、超再生も治癒もないから、導入直後に崩壊すること。それと外的変化すべてに反応する上に、流れる電流電圧はいつも同じだから、何に反応して電気信号を流したのか区別できないこと。使えない。
×月aj日
ヌメヌメ大腸菌作って遊んでたらばれた。明日から真面目に本気出す……多分。
×月ak日
試しにヒト細胞に2個性導入しようとしたけど、どこに挿入すればいいか分からなくてまったく上手くいかない。大腸菌のシンプルなDNAを人間も見習って欲しい。
偵察型大腸菌については、『複製腕』が入手できたおかげで少しだけ進展した。
『帯電』『ビースト』『ハイスペック』『超再生』『筋肉強化』を『複製腕』でサンドイッチする6個性導入株がなんと3秒も耐えた。耐えたというか崩壊しながら増え続けたというか。ほぼ0から3はすごい。でも3秒では使えない。
×月al日
今日はなんと『サメ』と『シャチ』の2個性導入株の培養に成功した。異形型2個性は初めて。なおドクターはすでにヒト細胞を宿主として成功しているらしい。とはいえ、あっちは体の一部が変わるもの2種に対してこっちは体全体が変化するもの2種。
両方発現しているのかどうかは不明。
こんな余計なことしてるから上に文句言われるんだって?まあ、そういう見方もできなくはないかもしれない。私はこれを余計なこととは認めないけど。
×月am日
サンドイッチモデルの限界を感じている。崩壊まで3秒以上持たない。『個性』導入時の遺伝子サイズの肥大化による崩壊に対して超再生、治癒、ハイスペックで修復しきれない。
×月an日
『溶接』と『トカゲのしっぽ切り』による流動モデルを試した。もう少し詳しく説明すれば、『筋肉強化』をリン脂質に相当する役目にしたから、筋肉流動モザイクモデルとでも名付けよう。略して筋モザ。
切断から再結合のわずかな時間で切り離した部分が大きく損傷するので失敗だった。
×月ao日
困難は分割せよ。
全部の機能を単一の個体に詰め込もうとするから無理ということに気づいた。
『筋肉強化』『超再生』『治癒』『ハイスペック』+αの5個性導入株は安定して作れるようになっている。
だから、各機能を1つずつ満たす大腸菌をセット運用すれば良いという発想から、ワークシェアリングモデルを試している。ドクターのハイエンドだったかマスターピースだったかと真逆の発想だ。私はドクター嫌いだからあんなやつと同じ発想とか嫌です。
職人が一から全部作るよりライン工の方が効率良いってことに気付かないなんて哀れですねえ、と今度会うことがあったら煽ってやろう。
×月ap日
上がうるさい。どうやってセットとして運用するか詰めているところだから急かされてもできない。6個性導入株作れとか言われても困る。進展しないからワークシェアリングモデルで試しているというのに。
×月aq日
『もぎもぎ』のおかげで大腸菌どうしを物理的に結合するのが容易になった。
各機能を持った5個性導入株を直列に繋げただけでは各株どうしの情報伝達手段が無くて、受光・受音株から電気信号送信株までの伝言ゲームが機能しないことが分かった。
予想通りなのでほかの手段を試そうと思う。
×月ar日
並列化が上手くいかない。上がうるさい。
サメ成分が足りない。
×月as日
アセチルコリンでもぶちこんでやる!
情報伝達がぜんぜん上手くいかない。
私と上司の関係みたい。笑える。やっぱり笑えない。
×月at日
論理回路最高!
電流電圧の微細な変化測る必要なんて無くて、流れたか流れてないかの01で良いんだよ!時間無駄にした。
この世界には二進法を理解できる人と理解できない人という10種類の人がいるけど私は後者でした。
まだ調整は必要だけど手応えは感じている。
×月au日
ブラックボックスを作ってやったぜ。
この私の『視覚強化』を持ってしても、複雑化しすぎてなんで動いているのか分からない。
けど動いているから、ヨシ。
あとは大腸菌に導線をくっつけているというとてもシュールな状況を改善する必要がある。
えっ、私がこのブラックボックス弄るの?
×月av日
(いまあなたのあたまのなかにはなしかけています)
あやうく死ぬとこだったかもしれない。
ブラックボックスに無線機能付けたくて研究所内にいつの間にか増設されていた『個性』サンプル保管庫で良い感じの『個性』を探していたら『テレパス』を見つけた。
それをいつもの4個性導入株に加えてみたら……気絶していた。白目剥いて倒れててたまたま近くを通りかかった同僚が連絡してくれたらしい。サンキュー同僚。見たことない同僚だったけど。
倒れた拍子に温度調整のスイッチをOFFにしていたらしくて『テレパス』を含む5個性導入株は死滅していた。
×月aw日
ブラックボックスに『ヴォイス』を含めた5個性導入株を加えたら、予想通り騒音がすごかった。上司が耳から血流しながら駆け寄ってなんか叫んでいたけど私は耳栓付けていたので何も聴いていません。
ヒーロー御用達の企業や同業の個性研究所、変わったところだと雄英学園のサポート科なんかに小型の発信器開発を依頼するように上に掛け合ってはいるけど、色好い返事が来ない。もしくは上で止められて握り潰されているか。
そういえば、上司が来る前にどこか行ったけど、以前助けてくれた同僚とペアルックの女の子も耳から血を流してたな。かなりの童顔みたいで、女子高生くらいの顔してたから、今度あの同僚に会ったらロリコンって言ってやろうかな。
×月ax日
明日実戦投入するぞって言われても困る。無線機能を付ける方法がまだ見つかってない。
仕方ないから、音声の収集に機能を絞り、情報伝達手段は『発光』を利用する。古き良きモールス信号だ。
簡単に説明すると、
1.音を拾う
2.音を対応する電気信号に変換
3.変換された電気信号を元に発光(モールス信号)
4.少し離れた場所で光(モールス信号)を拾う
5.対応する電気信号に変換
6.発光(モールス信号)
7.4~6をループ
少し離れたというのは、大腸菌視点での少しだから、もし大腸菌を目視できる人がいたとしたら、大腸菌をたどっていくことで盗聴者の元までたどり着けてしまう。
それと、あのロリコン同僚に会っていない。話題を忘れてしまうからさっさと弄っておきたいのに。
×月ay日
実戦投入というか試験運用してみたけどノイズが酷い。大腸菌がドクター製作の人形が出した『ワープゲート』を越えたせいなのか完成度が低いせいなのか。まあ後者なんだけど、前者の影響もあることにしておこう。私以外分からないから問題ない。
『電波』みたいな『個性』を調達出来なかった上が悪い。
実はサメ成分が足りなかったから、こっそり『筋肉強化』『超再生』『治癒』『爆破』『ショック吸収』で空を跳ぶ大腸菌の培養に成功した。
まだどこに跳ぶのかを制御出来ないのと、少しずつ崩壊していくから時間制限付きだけど、これに『ハイスペック』と『サメ』を加えることが出来れば飛行タイプのサメ型大腸菌が作れる。ただ、これまでの経験上、1匹の大腸菌に導入できる個性は5つが限界なのかもしれない。仮にそうだとすると、『飛行手段』『ハイスペック』『サメ』をワークシェアリングモデルでくっつけることも視野に入れる必要がある。
空を跳ぶのも良いけど、いきなり現れるのもありだな。
ドクターに『ワープゲート』提供を依頼しよう。
×月az日
私は『個性』導入型大腸菌について真に驚くべき現象を発見したが、ここに記すには余白が狭すぎる。
というのは冗談だが、本当に驚くべき大腸菌を培養できた。
現代社会に多大な影響を与えている『個性』を解明する上で、とてつもなく大きな進歩だ。世界中のありとあらゆる賞を貰っても足りないくらいの大発見だ。あ、ダーウィン賞はお帰りください。
やはり、私の『溶接』『トカゲのしっぽ切り』による流動モデルは正しかった。
『個性』導入半自動化大腸菌の培養に成功した。