とある『個性』研究員の日記 作:小腸菌
◽月ba日
上が最近おかしい。今までに比べ、やけに好戦的というか成果を欲しがりすぎているというか、焦っているようにも見える。そのせいで『個性』導入半自動化大腸菌の改良が遅れそうだ。
◽月bb日
上が成果を求めていた理由が判明した。ヒーロー殺しとヴィラン連合が保須市という場所で合同作戦をするから、その戦力を偵察したかったらしい。で、誰?どこの勢力?
流石にモールス信号は古すぎる上に、今回は研究所からの距離が遠い。さらに、『ワープゲート』の提供も無かったため、大腸菌は保須市まで人力輸送し、『テレパス』を情報伝達手段として用いた。
『テレパス』に指向性を持たせることに成功していなかったら、上の要求に応えられないところだった。さすがに保須市から研究所までのルートで気絶者が続出するという目立つ行為はしたくない。
『テレパス』で伝えられた情報を解析中のため、偵察業務が成功したかどうかは不明。
◽月bc日
ようやく解析が完了し、昨日の事件を記載した新聞と情報を照らし合わせた結果、偵察業務の成功を確認できた。
新聞見た方が早くね?
無個性の子供が個性無しでは説明できない威力の攻撃を出したという、新聞に記載されていない奇妙な情報もあったので一応調査中である。眉唾物だと思うが。
◽月bd日
このままでは偵察用途として使えないため、大腸菌の『テレパス』の伝達情報を処理する方法について考案している。
どうやら、日本語で受信した情報を一度大腸菌語と言うべき情報に変換して『テレパス』で伝達、大腸菌語のまま電気信号にするので、コンピュータがそれを解読して日本語に変換するのに時間がかかっている……かもしれない。
大腸菌語という謎の言語が存在するのかは不明だが、あると考えた方が筋が通るからそれに相当する何かがあるのだろう……自信はない。
少なくとも、私は他人が大腸菌語とか言い出したらこいつ頭おかしいと思う。
それとおかしいと言えば、見返り無しに無償で働けという英雄回帰の思想に上が影響されている可能性があることだ。「君たち研究員一人一人が研究所にとってのヒーローです」じゃねえよ。WATAMIより酷い。
◽月be日
私は言語学者ではありません。
だから、大腸菌語はさっぱりです。
私は感受性が高くありません。。
だから、大腸菌の気持ちなんてさっぱりです。
◽月bf日
いつの間にか納豆菌がコンタミしていたようだ。
予定外の大掃除のせいで、最近朝食の時間すら惜しくてバナナで済ましている。誰だよバイオテロ起こしたやつ。
それにしても良い情報処理方法を思い浮かばない。
時間と予算と人手とスパコンが欲しい。
そうしたらごり押し出来るのに。
ヒト細胞を宿主にしているとこういう問題は起きないらしい。羨ましいかぎりである。
◽月bg日
発想を変えようと思う。
我々が大腸菌語を解読するのではない。
大腸菌に日本語を教え込んでみよう。
しかし、大腸菌に毎日ありがとうとか言っていると昔あったきれいな氷の結晶の似非科学を思い浮かべてしまう。
◽月bh日
『個性』導入半自動化大腸菌の培養には成功したものの制御出来ておらず、技術を確立したとは言い難い。教育には時間がかかるものなので、余った時間に『個性』導入半自動化大腸菌の問題点を整理していた。
技術を確立出来ていない理由は切断、結合箇所がランダムなことである。
それによって引き起こされる問題があまりにも多すぎるので一部しかこの日記に書く気力はない。
・大腸菌の死滅
・『個性』の発現抑制
・導入個性の選択が不可能
・『個性』導入終了時期の制御不能
・切断遺伝子の急速な劣化
特に導入終了の制御が出来ないせいで、導入遺伝子の肥大化による自壊とその反対に『トカゲのしっぽ切り』の自切による不十分な段階での遺伝子導入の停止が問題である。
◽月bi日
敵連合という勢力が注目を浴びているらしい。そのせいで、悪人たちが活発化しているとのことである。
その影響でまだ調整中の偵察用大腸菌の出撃が増えた上に、戦闘用大腸菌の製作まで要求された。相手に被害与えたいなら炭疽菌の方が良いし、恐怖を与えたいなら天然痘の方が良いと言っているのに聞きやしない。
◽月bj日
英雄回帰に上が影響されそうになる度に『ヴォイス』を含む5個性導入大腸菌を作製してきたが、それによっていくつかの言葉を大腸菌が理解したことが判明した。覚えた言葉は、「ヒトゴロシ」「ヴィラン」「カジダ」、個体によっては「アリガトウ」「オイシイ」「ウホッ」とも叫ぶ。完成度は低いが、言葉のチョイスが良いので陽動用大腸菌として利用しようと思う。
◽月bk日
戦闘用ではないが、毒素を生産する大腸菌を用意しておいた。自然界に普通に存在する種なので毒性は強くない。上の求めているような戦闘用大腸菌なんて用意するのが困難で面倒だから、これで騙されてくれないかなあ。
◽月bl日
騙されてくれなかった。上は何か言っていたが、耳栓を付けたまま、『放射線』みたいな『個性』を要求したら、『酸』を渡してきた。良い『個性』を持っているなら早く渡せばいいのに。
戦闘用細菌として、生ガキを用意したけど使わなかったのでその日のうちに食べた。
◽月bm日
『酸』はすごい。寒天培地やシャーレどころかヒュームチャンバーまで溶かしやがった。上が渡すのを渋ったのも納得できる。
◽月bn日
『酸』が制御できない。流体を操るような個性があれば良いのだが。間に合わせとして崩壊するまでの時間稼ぎに定評のある『複製腕』を使う。
◽月bo日
偵察用大腸菌に割ける時間が無いので、自力移動機能は付けないことにした。
その代わり、偵察用大腸菌を無人ヘリから空中散布した。あらかじめ広範囲にばらまいて各地に待機させておき、『テレパス』で情報を集める作戦である。試験的要素も強いが、実戦投入であり、分かりやすい名称が欲しいと上が言ってきたので、偵察の頭文字をとってT-細菌と名付けた。
なぜかヘリは墜落した。
◽月bp日
最近、商品開発やクレーム対応ばかりで基礎研究が疎かになっている気がする。
◽月bq日
今日は1日中『サメ』と戯れました。楽しかったです。
◽月br日
『サメ』『シャチ』『黒影』の異形型3個性導入大腸菌の培養に成功したが、『サメ』しか『個性』が発現していない。理由は不明だが、まあ『サメ』だしそういうものだろう。
◽月bs日
明日どこかの森でパーティーがあり、そこに実戦投入するらしく上が慌ただしい。私に戦闘用大腸菌は出すなという珍しい指示をしてきた。どうやら、パーティーの主催者である敵連合に戦闘力があると思われたくないようだ。異形型3個性導入大腸菌に着手していたので戦闘用大腸菌なんて影も形も無いから心配ご無用と言っておいた。
◽月bt日
敵連合の戦力にも、ヒーローの底力にも驚かされた。そして情報的にも試料的にも実り多い日だった。多すぎて把握しきれていない。
・緑髪の少年が無個性で無いことが確実視
・『生き物ボイス』の危険性
・『個性』を奪う何かの存在
・偵察用大腸菌の高度な隠伏能力
・『ワープゲート』『サーチ』の入手(ただし前者は制御不能なため未発現で保管、後者は大腸菌語が分からないため無意味)
・オールフォーワン、オールマイト、緑髪の少年の遺伝子の入手
最大の収穫は間違いなく『ワープゲート』である。勝手に『酸』を含めた5個性導入大腸菌や、いまだに制御不能な『個性』導入半自動化大腸菌を投入していたことを叱責されたが、どう考えても功績の方が上だ。これで、亜空間から唐突に現れるサメ型大腸菌の完成に大きく近付いた。
学術的には、『個性』を奪うという情報が興味深い。『個性』は遺伝子に発現するのではないのか、あるいは、37兆個を越える人間の細胞すべての遺伝情報を書き換えているのか。
世間はボロボロになりながらも勝利したオールマイトのことで騒がしいが、研究所はそれを気にする余裕がないほど忙しい。
◽月bu日
オールマイトと緑髪の少年の遺伝子を導入した大腸菌から何の『個性』も発現しなかった。反対に、オールフォーワンの方は多数の『個性』の発現が確認されている。どちらも興味深い結果であるが、特にオールフォーワンは少なくとも十数種類以上の『個性』を自身の細胞に導入し、かつ同時に十種類程度の選択的発現が出来ているらしい。
しかし、ここまで『個性』導入遺伝子を肥大化させると遺伝子自体が崩壊するはずである。崩壊しない理由は、ヒト細胞と大腸菌のサイズ差によるものなのか、原核生物と真核生物の違いなのか、遺伝子以外にも『個性』を発現する方法があるのか興味が尽きない。
◽月bv日
オールフォーワンの見せた選択的な『個性』発現のメカニズムが一部判明した。リボソームのようなモノによって、その時発現したい『個性』の情報をもっている遺伝子の場所を翻訳しているようだ。
『個性』の重ね掛けにかんしても、筋肉サンドイッチモデルのように、同種の『個性』をあらかじめ遺伝子に導入しておけば、あとは複数のリボソームで複数箇所にある同種の『個性』を同時に翻訳すれば可能と考えられる。
逆に考えれば、リボソーム阻害物質のようなものがあれば、『個性』発現を阻害できる可能性がある。
◽月bw日
リボソーム相当物質による選択的な『個性』発現を可能とするため、ワークシェアリングモデルの冗長性を減らすべきか考える必要がありそうだ。
元々、ドクターに対抗するためにライン工モデルを最初に考案していたが、『個性』導入遺伝子のどこかにエラーが発生しただけで機能が停止するにもかかわらず、エラー率が高かった。そのせいで、冗長化をしないとまず機能しないという問題があり、それを解決するためにワークシェアリングモデルを考案したという背景がある。しかし、ここにきて別の問題が生じている。
というのも、ワークシェアリングモデルは同等の機能を有するライン工モデルの5~10倍もの大腸菌で構成されている。巨大であるということは、『個性』発現のレスポンスが遅くなるということでもある。一本道であるライン工モデルに比べ、寄り道ばかりになるワークシェアリングモデルは応答が遅い。そして戦闘用大腸菌の応答が遅くては戦闘にならない。改善か新モデルの考案がいずれ必要になってくるだろう。
◽月bx日
リボソーム阻害物質について考えていたところ、思い出したことがある。都市伝説としか思っていなかったが、『個性』を破壊する弾だったかについて上司が話していた。その時は、頭がおかしくなったかと思ったが、もしかしたら実在するのかもしれない。
『個性』が破壊されるということは、『抹消』で消せない異形型もその形状を維持できなくなるだろう。
たかが、弾一発当たっただけで、『サメ』が倒されるとは、興醒めも良いところだ。
リボソーム阻害物質では分かりにくいから『個性』ジャマーとでも名付けるなら、それに対抗する『個性』ジャマーキャンセラーの開発が急がれる。
◽月by日
オールフォーワンの全遺伝子の配列が明らかになった。一般的なヒトゲノムと比較すると誤差とは言えないレベルで違いが見られた。また、遺伝子のエラーが異常に多く、なぜ死んでいないか不思議なレベルどころか、もはやヒトか疑わしいとすら言える。オールフォーワンがヒトでは無いとしたら一体その正体は何者なのだろう。
◽月bz日
【ろウホホ】ウホホウホウホホッホウホ【ウホホッホウホ】