とある『個性』研究員の日記 作:小腸菌
⚪月da日
私は少年時代に戻ったかのような興奮を覚えている。ペットを飼った経験のある者なら誰しも考えたことはないだろうか。ペットは今何を思っているのかと。この技術を発展させれば、異種族とのコミュニケーションが実現できるわけだ。
⚪月db日
人である以上、社会のしがらみから逃れられない。残念ながら異種族コミュニケーションばかり研究することはで許されない。戦闘用大腸菌の開発を進めなければ。
⚪月dc日
『個性』破壊弾の中身の量産技術を確立した。確立といっても新技術というわけではなく、既存の技術の流用に過ぎない。
⚪月de日
極めて深刻で如何ともしがたい問題が顕在化した。資金が足りない。そのせいで『個性』導入半自動化システムの改良が完全に停止した。
⚪月df日
上層部が新潟あたりに出張したので自由を満喫している。私はあんな巨人相手に役に立たないから逃げ帰ってきた。改造なしで複数の『個性』を受け入れられる人間とドクターは言っていたが、どうやって『個性』を与えたのだろう。受精卵の状態でもないと遺伝子導入なんてできないだろうからそういう『個性』があるのか。
心当たりはある。オールフォーワンの人間とは思えないほど『個性』を詰め込んだあの遺伝子だ。封印していたが、上層部やドクターからの注意が逸れている今こそ研究を再開する好機である。
⚪月dg日
上層部が労基も真っ青になるブラックな長時間労働をしている。そのおかげでかなり好き勝手やれるので、新たな計画を立て、それに着手している。計画名は、オールフォーワン遺伝子導入大腸菌量産化計画。資金が不足しているので、1個体を構成する大腸菌の数は数億個とかなり小さい。資金が入ればマトリョーシカモデルにするつもりだ。
洗脳されるかもしれない問題は解決していないが、科学の発展に犠牲は付き物である。私は人類発展の礎になる覚悟を決めた。
⚪月dh日
資金は相変わらず不足しているので、自腹を切って『個性』破壊対策にも着手した。オールフォーワンのマトリョーシカモデルは、まだ形にもなっていない。しかし、上層部がいないので好き勝手できる好機を逃してはならない。それに上層部が出張から帰還した時、私が何の成果も得られていなければ私の立場が危うい。
『個性』破壊は極めて深刻な問題と成りうる。何しろ『個性』が破壊されれば、私の作品はただの大腸菌の塊になってしまう。マトリョーシカモデルの間に金属の板や鎖を入れることで一撃では倒されないように対処する予定だったが、少しずつ削られていくのにかわりはない。ワクチンのようなものを打って耐性を付けさせるとか、『個性』破壊の効かない『個性破壊無効』の『個性』を開発するなどして、そもそも個性破壊が効かないようにするのが望ましい。
私が期待しているのは個性破壊弾の中身である。『個性』を破壊できるなら『個性破壊』効果すら破壊できてもおかしくない。
対巨人戦で何もしてないと言われても嫌なので、個性一時停止弾を届けた。これは『個性』が数時間使えなくなる弾で、要するに個性破壊弾の劣化版である。仲間になるかもしれない巨人を弱体化させるわけにはいけないから調整が面倒だった。
⚪月di日
敵連合が異能解放軍を吸収して超常解放戦線になった。人数的に言えば百倍くらい敵連合より大きい勢力らしい。部隊の再編が行われたが、私は名ばかりとはいえ隊長のままである。資金問題が解決しそうでなにより。演説も素晴らしかった。超常解放戦線最高指導者死柄木様万歳!
それと、結局個性一時停止弾は使っていないらしい。調整頑張ったのに。
⚪月dj日
ドクター謹製のニアハイエンドだったかハイエンドだったかを調べると『電波』のような個性で誘導電流を発生させていることがわかった。自我はないように見えるが、隠しているのかもしれない。藪蛇になりかねないので口にするつもりはない。
⚪月dk日
『格納』が手に入ったので個性破壊弾を収納できるか試し、可能であると分かった。『酸』と個性一時停止弾でシュレディンガーの猫のような実験をしてみた限りでは、格納されていても中で時間は流れているようだ。
容器が溶けてどろどろになった個性一時停止弾を見ていると、弾である必要はあるのかと思ってしまう。
⚪月dl日
技術の進歩と十分な資金が手に入ったため、以前ばらまいた偵察用大腸菌であるT-細菌の改良をおこなった。虫に寄生させることで移動能力を得たのが大きく変わった点だ。小型脳無でも似たことはできるが、サイズとコスト、そして隠伏能力についてT-細菌の方が優れている。
⚪月dm日
色々とプロジェクトを平行しておこなっているため忙しい。顔無に放射線を照射し、その崩れ方を観察するのが最近の息抜きである。
⚪月dn日
マトリョーシカモデルは作れたので動かし方と制御方法について考案している。『電波』で操れないものかな。
⚪月do日
ちらっと『ゴリラ』型大腸菌の様子を見たら、『ゴリラサメ』型大腸菌になっていた。個性一時停止弾の中身をばらまくと『個性』が無効化されて、普通の大腸菌の形状に戻ったので、また放置しておいた。
⚪月dp日
大腸菌との対話を継続しているが、『ハイスペック』だけでは知能に限界があるようだ。電子回路モデルに変更を加え大きく拡大し、フラクタルモデルを製作する。
⚪月dq日
メカニズムがまったくわからないが、非接触での『個性』無効化に成功したので、手のひらサイズの『個性』無効化空間を作った。更なる改良をおこない、世界すべてを覆えるようになれば、現在の『個性』ありきのヒーロー社会は崩壊するだろう。最高指導者の思い描いている既存社会の破壊を実現できる。
⚪月dr日
フラクタルモデルの効果を確認できた。頑張って人類の発展と平和の実現をすりこんだのが良かったのだろうか。大腸菌が私の指示に少しだけしたがってくれるようになったおかげで『サーチ』が利用できるようになった。次は、『ワープゲート』の制御を目指す。
⚪月ds日
資金があれば大抵のことは実現できる。培養設備と監視設備の大幅な増強により突然変異による大腸菌の個性獲得を確認できた。
それと、フラクタルモデルの規模拡大をおこなっている。まだ、設置に時間がかかる上にリンゴくらいのサイズのものしか通せないが、『ワープゲート』もある程度制御できるようになった。
⚪月dt日
個性一時停止弾の中身をばらまいた『ゴリラ』型大腸菌の様子を見てみると効果が切れたのか、またゴリラサメの姿で元気にドラミングしていた。もう一度、個性一時停止弾の中身をばらまいたが、形状はほとんど崩れなかった。素晴らしい。これから少しずつ個性一時停止弾の強度を高めながら打ち込んでいこうと思う。
⚪月du日
最近は3つのテーマに注力している。
・非接触での『個性』無効化空間が周囲2メートルほどにまで拡大した。
・『ゴリラサメ』型大腸菌は、純正品の個性破壊弾こそ防げないが、耐性はついたらしく、細胞が崩壊するまで時間がかかるようになった。そのため、ある程度のサイズがあれば、被弾箇所を切り離すことで全滅を防げるようになった。
・フラクタルモデルの大きさは拳大になった。現時点でもかなり複雑な概念の理解を行えるようになっている。
それと、近々大規模な作戦がおこなわれるらしい。
⚪月dv日
耐久と拘束に特化したシリーズである顔無の標準仕様としてマトリョーシカ構造と個性破壊耐性大腸菌を採用した。既存の顔無は順次更新していく。さらに、フラクタルモデルを採用した超巨大顔無の製作に着手した。建設予定地は地下である。
⚪月dw日
大規模作戦が実行された。私の役目は爆撃である。火や風の『個性』による上昇気流の発生により超常解放戦線にも被害が出たのが反省点であるが、結果的に心臓が止まっていた最高指導者に衝撃を与えて起こすことができたのでセーフ。『ブラックホール』でちょっと胸抉れていたけど。
非接触での『個性』無効化空間拡大の伸びが鈍化しているので何かしらのモデルを構築する必要がありそうだ。
⚪月dx日
戦後処理と研究で忙しい。なぜか一部の隊長格に監視されている気がする。
フラクタルモデルのサイズは直径2メートルを越え、計算能力はスパコンに迫りつつある。
⚪月dy日
ついに、この日がやって来た。もしも地上にあったのなら、小さい山と見間違うだろうサイズの超巨大顔無と直径3メートルほどのフラクタルモデルを接続した。これによりスペックとしては、既存のスパコンとは比べ物にならない計算能力を持った生体コンピュータになったはずだ。この超巨大顔無によって人類は新たな秩序を得て、その発展はさらに加速することになるだろう。
それにしても最近寝不足なせいか幻聴がきこえる。医者に見てもらうべきか。
⚪月dz日
はい、大腸菌様、幸福は義務です!