ソードアート・オンライン 暗黒剣の使い手   作:シャザ

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 多分一番長くなりました。楽しんでくれると幸いです。


第十一話 恋人ごっこ

 僕は泊まっていた宿屋で、四十七層に行く準備をしていた。

さすがにMOBには苦戦しないと思うけれど今回の敵は犯罪(オレンジ)ギルドだ。

 確かに慣れた相手だが油断した時に限ってヤバいことをしてくる連中だ。

隙をさらせば麻痺毒ではめ殺しもありえる。

 

 と、考えうる最悪を考慮しながらストレージとポーチを睨んでいる僕に、遊びに来ていたシノンは話しかけてきた。

「ねえ、仕事に行くの?」

「うん。四十七層に行くんだ」

「アルゴさんに聞いたわ、花が咲き乱れていてデートスポットなんですって」

「まあ、そうだな?…見に行きたいの?遊びに行きたいなら今度連れて行くよ」

「えっと…男一人で行くと怪しくないかしら。男女がいちゃついているのにキリヤが一人でいるのよ?

想像してみて、カップルだらけのところに男性が一人って、かなり浮いてる…」

 た、たしかに!?このままじゃ《タイタンズハンド》の連中に気づかれてしまうかもしれない…。

「だ、だから、恋人のフリをしましょう。なにをするかは知らないけれど、邪魔はしないから」

 シノンは顔を赤らめ、悪魔の提案をした。

 

 …ぶっちゃけ言おう、すごく悩む。シノンはかなりの美人だ。

僕だって男だし、偽装カップルだとしてもシノンとデートしてみたい…っ!

 でも僕は情報屋、浮いてるとしても観光ガイド作成のための旅行だと思えば、おもえ、ば…。

「………。やろう、シノン。でーとぷらんはまかせてほしい…デス…」

 わ ら い た き ゃ わ ら え。

 僕は情報屋のプライドと男の本能を天秤にかけた挙句、ギリギリで本能に傾けた馬鹿野郎だ。

将来はハニトラで破滅するかもしれない。

 そんな僕の葛藤を知ってか知らずか、シノンは微笑んだ。

「そう、よかった。…明日のデート、楽しみにしてるから。」

「……ハイ、頑張ります」

 そう答えると、彼女は自分の部屋に戻っていった。

水を少し飲む。少しだけ火照っていた体を冷ましてくれた。

 

 ……まあ、少し考えるべき時が来たのかもしれないな。

僕がシノンに、どんな感情を持っているのか。…友情か、庇護欲なのか、それとも…()()なのか。

 幸い、夜明けまでまだまだ時間がある。荷物をまとめたら考えてみるか…。

 

 その日は眠れなかった。

 

<SIDE:シノン>

 昨日の私はなに考えていたんだろう…?

いくら彼に恩があるとしても仕事プランにデートを組み込ませるのはいくらなんでも酷い。

 四十七層は通称《フラワーガーデン》と呼ばれ、花々が咲き誇る美しい階層だと、アルゴさんは言っていた。

 最近その話を聞いた私は、近いうちに行ってみようかなと思っていた。

でもキリヤが四十七層に行くと行った時、もやっとした。

 そのもやっとした正体がわからないままに、偽装カップルデートを提案してしまったのだ。

…いったいどうしてしまったんだろう。未だに記憶すら戻らないのにこれでいいかなとおもう自分がいる。

 確かに彼は優しいし、とても強い。

褒められると胸がドキドキしてうれしいし、たまに怒られる時もなんだかんだ優しさが垣間見えてかわいいと思ってしまう。

 情報屋の顔をしている時は相手を手玉にとってニヤリと笑う余裕があるのに、それ以外だとのほほんと緩く生きてるのだ。

 

 でも、たまに彼は私を置いて何処かに行ってしまう。その次の日には、いつも犯罪(オレンジ)ギルドが壊滅したというニュースが流れてくる。

 キリヤは間違いなく悪人たちを倒して疲労しているはずなのに、

「いやー、平和になってよかったー」

と、何処か他人事でそのニュースを聞いているんだ。

 本当につらいとき、それを隠してしまう彼を見ると、自分は無力なんだと気づかされてしまう。

…それは、たまらなく嫌だ。まだ私はお荷物だと容赦なく突きつけられている。

 彼の力になりたい。記憶喪失の私にとって、今はそれが唯一の芯なんだ。

 

 四十七層の主街区フローリアは、話に聞いた通り一面に花が咲き誇っていた。

イチャイチャしているカップルが多い、流石デートスポット…。

 …しかし、キリヤは私ではなく街をきょろきょろ見ている。

 なんか無視されるのは面白くないので、

「えいっ!」

腕を絡めてからかってみる。

「うわっ!?どどど、どうしたの!?」

 百点満点のリアクション、すっごくかわいい。

「……()()、でしょ?それを無視して街を見るのは違うと思うわ」

 指摘すると、彼はばつが悪そうに笑う。

「そっか。…たしかに失礼だ。こんな可愛い彼女がいるのによそ見はいけないなー」

 彼はぎゅっと手を握ってくれた。なんだかあったかい。

 

「よろしい。さ、お仕事しましょうか。なにを探せばいいの?」

「僕と同じ顔の黒ずくめの奴。もしくは…赤毛の槍使いの女」

 …赤毛の槍使いはまあ、いいとして。

「……ここってドッペルゲンガーでもいるの?」

 苦笑した彼はそれを否定した。

「…双子の兄なんだ。名前はキリト、僕より強いし、優しいやつだ。」

 誇らしげに兄弟を自慢する彼は、本当にうれしそうだ。

「そこまで言うんなら会ってみたいわね。で、槍使いのほうは…?」

「見つけても絶対に接触はしないで。犯罪(オレンジ)だけど一般(グリーン)に偽装している悪党だ」

 …なるほど、分かってきた。つまり正義の味方としてしょっ引くために四十七層にやってきたんだ。

「キリトを見つけたらこっそりとついていくんだ。…女の子を連れているけど、その子には気づかれないようにする。

何もなく帰ってこれたらそれでいいけど、何かあった時は…荒事かな。」

「…あ、いた!おんなじ顔の男、行きましょう!」

「おう、そうだな!」

 

<SIDE:キリト>

 俺はシリカと一緒に四十七層のダンジョン《思い出の丘》を攻略していた。

 何度かグロい植物型のMOBを相手取り、シリカに経験値を積ませていると、

「あの、妹さんってどんな子なんですか?」

と聞かれた。

「俺、三人きょうだいの一番上で、弟と妹がいるんだ。…でも、妹や両親とは血が繋がってない。

ホントはいとこなんだけれど、妹は知らないはずだ。事情があって一緒に育ったけど、弟にまかせっきりだった。

あいつら、本当に仲が良くって。それをいいことにアウトドア派の妹とインドア派の俺で距離を取ってた。

それで、まだ小学生の頃祖父に無理矢理剣道させられて、俺はいつも竹刀で叩かれてた。

それを見てた弟がキレてじいさんに楽しくないから二人とも剣道辞めてやるって言ってな。

怒ったじいさんと二対一の変則的な試合をすることになって…」

「ど、どうなったんですか!?」

 シリカは話に引き込まれている。

「…普通にボコられたんだけど、弟が竹刀をじいさんにぶん投げてさ、じいさんは当然防いだ。

で、弟はその隙をついてじいさんに右ストレートを叩き込んだ。…普通に耐えられたし、じいさんはマジギレだよ。

この畜生が!…とか言ってたんだぜ仮にも孫に。後にも先にも現実で死ぬかと思ったのはこの時だけだなぁ…。

で、妹が必死になって、わたしがお兄ちゃんたちの分まで頑張るから止めてって説得してくれたんだ。

…あいつはすごく頑張って全国までいった。…俺は、言い方が悪いけど遊び惚けていたのに。

…すごく、恨んでるんだろうな。弟は構ってたけど、自分はシカトしてたし。」

 シリカは少し考え込んで、俺に反対した。

「…妹さん、きっと剣道がすごく好きだと思うんです。じゃなかったら全国になんかいけません。

恨んでないと思います!もしゲームから出れたら、しっかり話し合ってみましょうよ。」

「…ああ、ありがとうシリカ。…普通のきょうだいに、なれるかな…?」

「きっと!やってみなくちゃ始まりませんから!」

 …彼女の明るさには、助けられてばかりだな。

 

 幸い、丘の頂上には苦労せずついて蘇生アイテム《プネウマの花》は手に入った。

帰り道はモンスターに出くわさなかったが、これで終わるはずもなく。

「…そこに隠れてるやつ、ばれてんだよででこい!!」

 現れたのはやはりロザリア。()()()()()()っ!

「え、どうしてここにロザリアさんが??」

「ふふ、こんにちはシリカちゃん♪《プネウマの花》無事にゲットできてよかったわねエ~。

…じゃ、()()()()()()?」

「…え?な、なんで…!?」

 シリカは困惑するが俺はやつの正体をばらす。

「させるかよ。犯罪(オレンジ)ギルド《タイタンズハンド》のリーダーロザリア!」

 シリカは驚いた眼でこちらを見る。彼女のカーソルが犯罪(オレンジ)で無いからだ。

「やつのグリーンは偽装だ。大方盗み聞きしてたのも偽装していたオレンジだ」

「きゃはははっ!そこまでわかってんなら話は早いわねエ!

肥えさせて狩るのがアタシら《タイタンズハンド》!まさか《プネウマの花》のゲットチャンスが来るなんて、ツイてるわっ!!」

「いや、弟が言うにはクソ運だぜ」

「…ハア?」

「《シルバーフラグズ》。あんた等が襲って誇りも生も奪い取った連中だ。覚えてるか」

「…ああ、あの貧乏人ども?大して儲からなかったから忘れてたわ」

 …クズめ。死人すら冒涜するのか…!

「…生き残ったリーダーは最前線で仇を討ってくれるやつを探してた。

なんて言ったと思う?…『回廊結晶で黒鉄宮に送ってくれ』だぞ!?殺してくれなんて一言も言わなかった!!

あんた、そいつの気持ちが欠片でもわかるか、ええ!?」

 ロザリアは鼻でわらった。

「わかるわけねえじゃん。ここで人殺してもガチで死んだかなんてわかんないし?

あっちで罪になるわけでもない。この世界から出られるとかぁ、夢みてんのアンタ?だったら好きに生きるわよォ」

 …チュートリアルちゃんと受けてこれなら逆に感心するよ。

「で、死にぞこないの言うこと真に受けるバカでしょ?たしかに誘いには乗ったけどさァ、マジで二人でどうにかできると思ってんのォ?」

 そう言うとロザリアの後ろからガラの悪い連中が湧いてきた。その数、十。犯罪(オレンジ)だ。

「き、キリトさん…」

 シリカは怯えている。ニコッと笑って元気づけた。

「…大丈夫だシリカ。兄ちゃんたちに任せろっ!」

 

 笑ったまま犯罪(オレンジ)たちに近づく。

「さあ、これから五分、()()()()()()()()()()()!好きなだけ殴っていいぜ!

俺を殺せる自信があるなら、その後無茶苦茶恐ろしい目にあう覚悟があるなら斬りかかってこい!」

「「「…は?」」」

 犯罪(オレンジ)たちは困惑している。

「ぶ、ブラフだ!やっちまえあんたたち!!」

 ロザリアが命令すると、ごろつきたちはカウントダウン中の俺に攻撃し始めた。

 カウントダウンをしながらHPをみると、バトルヒーリングが発動し、減った分を全回復している。

「い、いやあああ!!!止めて、その人を殺さないで!!」

 シリカの悲鳴が聞こえるが、無視して続ける。

「六十。一分経過したぞー?もっと腰入れてこいよ!」

 いたぶっていた連中の攻撃が早くなるが、結果は同じ。

「百二十。二分経ったぞ?なんだその程度か!」

三分も殴っていた彼らは、ようやく異常に気付く。

「百八十!なんだ。もう終わりでいいのか??」

 犯罪(オレンジ)の一人が叫ぶ。

「なんだこいつ!?全然しなねえ!!?」

「ち、チートでも使ってんのかいあんた!?」

「残念ながら仕掛けはあるんだよなぁ。…二百四十!お前らのダメージは四〇〇ってところだ。

俺のレベルは七十八、HPは一万を超えてるし、バトルヒーリングは八〇〇。あんた等じゃ倍いても殺せない。

…三百!!ボーナスタイム終わり!さて、()()()()()()?」

 

 どこからか飛んできたナイフが、呆然としていたオレンジ五人に突き刺さる!

「がっ!?」「アギ!?」「って!」「びゃ!!?」「なんじゃ!ナイフが飛んで…グワーッ!?」

 飛んできた方向を見ると、不意打ちで武器を落とした犯罪(オレンジ)たちを黒髪の女の子が睨んでいた。

 …あれ、てっきり投げたのはキリヤかと思ったが、あの()誰だ?

武器を落としたやつらを《体術》スキルでぶん殴る。面白いように吹っ飛んだ連中に、ロザリアが発狂した。

「き、キィーーーっ!!情けないクズどもめ!」

 そして後ろからキリヤの声。

「オッスキリト、順調そうだね。…僕の分残ってる?」

「……もう全員折れた気がするけど…」

 俺の名前に、一人の犯罪(オレンジ)が反応した。

「……キリト、黒づくめの盾なし片手剣…? !!?や、やばいよロザリアさん!こいつ、攻略組の《黒の剣士》だぁーー!?」

 ロザリアは金切り声を上げる。

「そ、そんな馬鹿な!なんでそんなのがこんなとこに湧いてくるんだい!?」

 その疑問に答えたのは、キリヤ。

「《シルバーフラグス》の仇を討つ。ただ、それだけだ。今日、《タイタンズハンド(てめえら)》はここで終わるんだよ。」

平坦な声だが、怒りが奥底でくすぶっているのは、だれの目から見ても明らかだった。

「ち、チクショー!て、てん…」

 女の子が《シングルシュート》でロザリアの転移結晶を叩き落とす。

俺は、一瞬のスキを突きやつを犯罪(オレンジ)のいる方へ投げ飛ばした。

「勝負有り、だ。全員回廊結晶(こいつ)で牢獄送りにしてやる。抵抗するんなら…」

「僕の麻痺毒ナイフがあんた等を貫くぞ。ちなみにレベル5の猛毒だから十分はかたいぜ!」

 

 回廊結晶を起動して中に誘導すると、ロザリア以外は諦めたのか素直に黒鉄宮に飛んで行った。

「…おい、あんたが最後だ。」

「ああ、わかってるよ。……とでもいうと思ったかァ!」

 ロザリアは懐に隠した短剣でシリカを貫き、人質に取った。…こいつ!

シリカのHPバーに麻痺毒のアイコンが付与されている。

やつの見せかけの一般(グリーン)は、化けの皮が剝がれるように犯罪(オレンジ)へ変わった。

「くそ、シリカ!!…卑怯者め、まだあがくのか!?」

「きゃはははっ!甘ちゃんどもめ、大人をなめんじゃないよ!さあ、こいつを殺させたくないなら大人しく…ブベラッ!!?」

 キリヤの右手がシリカを奪い、そのまま左のストレートパンチがロザリアの顔を変形させながらコリドー内に吹っ飛ばした。

回廊結晶の効果時間が終了し、静寂が戻る。…なんとかなったようだ、良かった…。

 

「…立てるか、シリカ?」

「ちょっと、腰が抜けて。少しだけ待ってください…。」

 キリヤはすっきりした表情で左手をぐっぱーしている。たしかに最後のあれは上手く食い込んだよな…。

「そういえばキリトさん。あの人たちって、もしかして弟さんと妹さんですか?」

 シリカの質問に頭をひねりながら答える。

「んーと、弟だけど、妹じゃないよ。妹はもっと素朴な顔してるし。…おいキリヤ、誰だよその子。」

「僕がクリスマスの時に保護した()。とりあえず自己紹介しようか。」

「えっと、シノンです。話はキリヤから少しだけ聞いてるわ。すごく、強いんだって」

 買い被りだ。キリヤめ俺をだいぶ盛って話したな?次会った時覚えてろこいつ…!

「…そりゃどうも。この子はシリカ。ビーストテイマーなんだ、な?」

「あ、ハイ。シリカです。えーっと、シノンさんって投剣スキルが高いんですね!

あんなに武器を正確に落とさせるってすごいですっ!」

「ありがとう。良かったらコツを教えるわよ?」

 女子同士なんか仲良くなってる。シリカってすごいなぁ、俺なんかよりよっぽどコミュ力ある。

「それじゃ、街に戻って蘇生アイテムを使おう。その後は…」

「…お別れ、ですね。キリトさんたちは攻略組だから、最前線に戻っちゃうんだ…。寂しいな。」

「また会いに行くよ。友達、だからな。困った時はメッセージを飛ばしてくれ。」

「…はいっ!」

 

 こうして、《タイタンズハンド》討伐は終了した。

ピナの蘇生を見届けて、最前線で依頼者にやつらが壊滅したことを伝えると、彼は号泣しながら感謝してくれた。

 …できれば、彼の心が癒されることを願うしかない。

 

 

 あれ、そういえばシノンってキリヤの何なんだろう。…まあ、今度聞けばいいか。

俺たちはいつでも会えるんだから。

 

 

 




 五分耐えはキリヤの案です。
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