ソードアート・オンライン 暗黒剣の使い手   作:シャザ

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 シノンとキリヤが再び前に進むために準備する回です。


第十五話 再起のために

<SIDE:シノン>

 ()()()()()()

そこでの私は普通の女の子で、キリヤとデートをして、結婚して、子どもができて、幸せそうだった。

 …()()()()()()()()()()()()()()

 あの惨劇から生き残ってしまった後に見る夢がちょっと意外だったので、困惑している。

こんな日こそ、あの日の夢を見るだろうと思っていたから。

 

 私は、人を殺したことがある。このゲームの中…ではなく、現実で。

 …四年前、まだ小学五年生だった私は、基本的にインドア派で母親との平穏を望む子供だった。

祖父母宅に身をよせ、父の死で心が壊れた母を外の世界から守りたかっただけの、普通の子供。

 九月になってすぐの土曜日、母と私は郵便局に出かけた。

母が窓口で話している間本を読んで時間をつぶしていた私は、新しく入った客の男と目が合った。

 その男の目が酷く虚ろだったのを覚えている。

 

 …男は強盗だった。あいつは男性局員をハンドガンで射殺し、金を出せとがなり立てた。

 女性局員たちは急いで金を出そうとするが、もたついてしまい強盗をイラつかせる。

 強盗は、母を狙った。私は、ただ、母を守らなくちゃと思って、男の手首を噛み銃を奪った。

その銃は男の汗でじっとり湿り、体温のせいで生き物のようだったのを覚えている。

 銃を奪い返そうとした強盗を撃つ。

腹に喰らってよろめきながらこちらに向かってくる男をもう一度撃った。

 それでもなお向かってくる男を《壊す》ために弾丸を放つ。頭をぶち抜かれた男はそのまま倒れた。

 …()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

呆然とした私は、目をそらそうとして手元を見てしまう。

 …男のどす黒い血で、私の手はひどく、()()()()()

「あ、ああああ、ああああああ!!!」

 

 それからというもの、私は銃を見るたびにあの事件を思い出してひどいショック症状に襲われた。

周りの人間は人殺しと私を見るたびに罵り、ドラマや映画は銃への恐怖で見れなくなった。

 PTSDと診断された私は反吐が出るほどにカウンセリングを受けたものの、効果はなく。

 

 匙を投げたカウンセラーの一人が、ある日こういったのだ。

「《メディキュボイド》というVRマシンを知っているか」…と。

 …なんでも、あのSAO(デスゲーム)のせいで販売中止となった《ナーヴギア》の、医療目的に造られたものらしい。

最近《アミュスフィア》なる家庭用かつ安全重視の新型が発売され、《メディキュボイド》はそのVR世界にアクセス可能とかなんとか。

 どうしてそんな話をするのかとカウンセラー失格の彼に聞くと、

「今現在仮想現実はSAOのせいで避けられ、臨床試験をやろうとしても参加したい患者(モルモット)がいない。

試験の期間は二週間、数倍の電子パルスが人間にどんな影響を与えるかわからないからだ。

…もしかしたら君のPTSDを軽減できる…かもしれないじゃないか」

と、妄言なのか心からの提案なのかわからないことをぬかす。

…しかし、私は藁にも縋る気持ちだった。

 

 たった二週間ならと、私はその臨床試験に参加した。…()()()()()()()()

 書類を色々書かされた私は、《メディキュボイド》を使い医療用のVRワールドにログイン…したはず。

 …なぜ、SAOなんかに来てしまったのかは、全くわからなかった。

 

 記憶が戻った原因は、まず間違いなくラフコフ殲滅戦だ。

あそこにいた殺人鬼たちの目は強盗の男と全く同じで、血と暴力に酔っていた。

 萎縮しうまく戦えない私を見た殺人鬼の一人に殺されかけた時、獣のような存在が殺人鬼の首をかみ砕く。

…キリヤ、だった。その目は、強盗のそれがかわいく見えるほどの殺気と狂気に満ちていて、恐怖以外の感情が沸くことはなかった。

 

 私は防衛本能に従い彼を拒絶してしまった。

…が、同時に気づいてしまったのだ、その目にはまだ理性の光が残っていたことに。

 キリヤは獣のような声を上げ、アジトの外へ逃走した。

 彼は未だに行方不明だとアルゴさんは言っていた。

 

 こんなことなら思い出さない方がマシだったという気持ちと、ここに来たのは必然だったという諦めの気持ちが混在している。

 …私はラフコフのアジトで死ぬべきだったのだ。人殺しの手なんて、誰も取りたくないだろう。

 

「シーちゃん、いるかイ?…オイラだヨ、アルゴダ。中、入ってモいいかイ?」

「あ、アルゴさん!?…ど、どうぞ。」

 私の部屋に入ってきたアルゴさんは、私の顔を見て心配そうな声を掛ける。

「…涙でびしょ濡れじゃないカ。…あのバカ一回マジでぶっ飛ばさなきゃダメだナ…」

「…いえ、違う、違うんです。私、記憶が、戻って…」

「……その顔からするト、あまりいい記憶じゃなさそうだナ…聞かない方がいいかイ?」

 

 …私は、少しだけ悩み、彼女に全て説明した。

昔、人を銃で撃ち殺したこと、そのせいで人殺しと罵られたこと、そして…。

「《メディキュボイド》、ネ。…SAO(デスゲーム)でそっち方面は下火だと思ってたガ、普通に生き残ってんのカ…」

「…ええ、二週間のテスターとしてログインするつもりだったのに。まさか、八ヶ月だなんて、ね…」

 

 おそらくこんな事故が起こってしまった時点で、《メディキュボイド》は開発中止になってしまっただろう。

…それで救えたであろう命も、私は間接的に奪ってしまった。

 

「…今までお世話になりました。二度と会うこともないと思いますが…」

「……死ぬ気カ、シーちゃん。」

「はい。…記憶が戻った時点で、近いうちに死のうと考えていたんです。

全部話して、心残りはなくなりました。」

「……噓ダ。」

 アルゴさんは怒った顔でそういったのだ。

「…う、ウソなんて…!」

「なあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()!!記憶が戻ったのハ、この際隅に置いといテあいつと何があっタ!?

あの戦いで何を見タ、答えてくレ!!」

 

 言葉にできなかった。…今でも、あれは何かの間違いなんじゃないかと思っている自分がいる。

私の知っているキリヤと、あの獣に似た存在がだぶらない。もしかしたら、あんなところに行かなければああはならなかったのかもしれない…。

 …彼を追い込んだのは、私だ。

「私が、キリヤをあんなことに…?」

「……あのサ。なんとなく察しタ。…そんな顔スンナ、あいつは後悔なんかしてないヨ。

…シーちゃん、助けられたんだロ?」

「ひどいことを言いました。…恨んでると思います。」

「………。キリヤのこと、好きカ?」

 

 …もちろん、好き。でも、私は。

「…好きになる、資格なんてないから。」

「ほぼ答えじゃないカ。いいんだヨ、幸せになってモ。

たしかに、人の命を奪う感覚なんてオイラは知らんシ、憶測で語るのは情報屋として失格ダ。

 でも、知ってることはあるヨ。シーちゃんは真面目で優しい女の子ダ。…デ、キリヤが好キ。」

「…やさ、しい…?え、ホントに言ってるの?」

 アルゴさんはにゃっはっはと笑った。

「真面目に言っとるワイ!心残り、ちゃんとあるじゃないカ!

サー、キリヤに会いに行こウ。後悔も恋心も全部ブッパダ!

 なーに、あのバカにはちょうどいいって!」

 そう言うとアルゴさんは私の手を引く。

「え、ちょ、まって!?」 

 ああ、もう!分かった、私だってキリヤに伝えたい!

その後何が起きたとしても、()()()()()()()()()()()

 

 

<SIDE:キリヤ>

 あの戦いから、一週間が過ぎた。…意識が戻ったのが六日前、狂っていた僕が一日なにをしていたのかは、正直言って知りたくない。

気が付いた時には森の中にいた。愛用していた両手剣はないし、今の『オレ』がまともな保証はどこにもない。

 これで何もなく戻ることはできない。

 

 …どうやら、今の自分の心は、二つある。…というか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、というのが多分正しい。

 本能に忠実で暴力的な『オレ』と、今までとほぼ同じ性格の僕だ。…まあ、今は僕の方が表に出ているため分析出来ている。

ただ、『オレ』が出てきたらどうなるのかちょっとわかんない。発狂して動くもの全て殲滅しかねないのが恐い。

 しかも、数日前から、誰かに尾行されている気がする。

…話しかけずついてきてるから、おそらくは犯罪(オレンジ)プレイヤーか?

 

 …手加減できる自信がない。暗黒剣のバフ付きなら素手でも殺害できることを知ってしまったからだ。

…強化倍率がやばいとは思っていたが、数分ならフロアボスと真っ向勝負できてしまいかねない。

 

 ……いや。もうめんどくせえ、声をかけてみよう。指をさして警告を放つ。

「…おい。そこに隠れてるやつ、出てこい!

出てこないんならこっちは敵だと思って対処させてもらう!!」

 《隠蔽(ハイディング)》が解除され、現れたカーソルは…一般(グリーン)だった。

「はーい!こんにちは、四日も尾けてたけどまったく反応してくれないから、気付いてないと思ってたよ~」

 現れたのは、紫色の装いをした女性プレイヤーだ。セクシーな服装とスタイルのいい肉体だが、子どものように純粋無垢な笑顔で可愛らしいという印象が強い。

高レベルの《隠蔽(ハイディング)》を使用していることから僕とそうレベルも違わないはずだ。

 …しかし、僕は()()()()()()()()()()()()()。訝しげに名前を聞く。

「…誰だ、きみは?」

「…アタシ?アタシは、《ストレア》!よろしくね、キリヤ!」

 

「…おい!なんで僕の名前を知ってるんだ!?名乗ってないぞこっちは!」

 ストレアはキョトンとこっちの目を見て、ストレージから一枚の紙を取り出した。

「なんか町で捜索願い出されてるよ?えっとねー、長めの黒髪で、額に傷があって、女の子みたいなカワイイ顔の男の子!」

 紙をひったくり中身を確認する。KOBの名義で出されたそれの名前は、たしかに僕だった。

「…確かに、僕だな。でもかわいい顔は男にとって褒め言葉にならないぞ!中性的とは書いてたけど、かわいいはストレアさんの感想だろ!!」

「え~?ぎゅってしたいくらいカワイイのに。」

 そういいながら彼女は僕を抱きしめてきた。…僕の顔が彼女の胸に当たるように。

ストレアの体は、あったかくていいにおいがした。たまらず彼女を引き剝がす。

「って、なにすんだ!ビックリした…。」

 

 ストレアはニコッと笑うと僕に

「えへへ、元気出た?」

と質問する。…たしかに、少しだけ元気づけられた…気もする。…我ながら単純なやつだ。

「………の、ノーコメント」

「うん、ちょっとでも元気になってよかった!とってもつらそうな顔してた時より、そっちのほうがアタシは好き!」

「ああ、そういえば尾行されてたんだったか。情報提供しにKOBの本部へいくんだろ?」

 そう言うと、彼女は不思議そうな顔をする。

「え??いかないよ?アタシ、キリヤと話してみたかったんだ。…悲しそう、だったから。」

「はあ!?…あはは。へ、変なやつだな、ストレアさんって!」

「えー!?ひっどーい!」

 

 ストレアとひとしきり笑いあうと、彼女は優しい笑みを浮かべる。

「ねえ、キリヤの話を聞かせてよ。どんな人と会って、どんな場所に行って、どんな敵と戦ったのか」

 …断る理由はなかった。《暗黒剣》やシノンの《射撃》は隠して、今までの戦いの日々を語る。

フロアボスとの戦い、アルゴに教えてもらったこと…そして、シノンとの出会いを話そうとして、息が詰まった。

「ど、どうしたの?」

「い、いや。大丈夫、続けるよ」

 

 ストレアにシノンの話をする。…胸がズキズキ痛むような感じは、きっと心の傷がうずいているんだと思った。

寂しくて、辛くて、悲しくて。…()()()()()()()()()()()

 シノンとデートをして、一緒にご飯を食べて、他愛ない話をすること、なんでもないそれが一番尊いものだと僕は思い知った。

気づけば、僕は泣きながら笑っていた。情緒がぐちゃぐちゃである。

「…シノンさんのこと、大好きなんだね。」

「…ああ。でも、この気持ちは、しまっとく。拒絶されたし、な…」

「ダメだよ、キリヤ。ちゃんと伝えなくちゃ、ダメ。

その拒絶した時って、極限状態だったんじゃない?そんなの誰だって恐いよ。

今まで触れ合ったシノンさんのこと、信じてほしいな」

 今の僕は『オレ』という爆弾を抱えた状態だ。いつ着火するかわからないそれを無視できない。

 でも。それでも、誰かを好きになっていいんだ。

「シノンに、会いたい。…好きだって伝えたい。」

「よしきた!おねーさんに任せて!人探し得意だよアタシ!!」

 

 

 張り切る彼女に救われるような気持ちだった。いじいじするのも疲れた、ちょっとシノンに会いに行こう!




《ストレア》
初登場作品:インフィニティ・モーメント
WEPON:両手剣

 天真爛漫、裏表のない自由人な女性剣士。
攻略組に匹敵する実力者だが、以前の経歴を知る者は誰もおらず、謎に包まれている。
 大人っぽい見た目で子どものように明るく振る舞うムードメーカー。
 そんな彼女の秘密は…もう少し後のお話で。

 この小説ではゲーム版より前倒しで登場、キリヤの前に姿を現す。
 うじうじしていたキリヤを立ち直らせた。


 コソコソばなし
 シノンの《メディキュボイド》の話は、彼女の主観なので真実と異なる部分がある。

 アルゴの、キリヤとシノンへの好感度はわりと高め。
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