楽しんでもらえると幸いです。
<SIDE:シノン>
勢いで宿から出た私たちだったが、キリヤの居場所が分かっているわけではない。
「さてと、どっから探すかネー?シーちゃん、心当たりハ?」
「…ない、わけじゃないです。四十九層とか怪しいと思います」
アルゴさんは少し考え、ポンッと手を叩いた。
「……アア!シーちゃんと初めて会った場所カ!
確かに、
…それもあるけれど、何故か
四十九層にやってきた私たちは、早速主街区内を探してみることにした。
そこそこの広さがあるため探すのは苦労しそうだが、先ずは行ってみたい場所がある。
…私は、空から落ちるという形でこの世界に迷い込み、キリヤに助けられた。
目が覚めた場所は、《赤羽亭》という宿の二階の三号室。…小さい数字になるほど豪華だが割高になるって言ってたっけ。
その部屋に泊まりたいと宿のNPCに話すと、既に埋まってますと言われるが、予想通りだ。宿泊者の名前を聞く。
…そこにいる人の名前はキリヤだった。アルゴさんは、笑顔で
「積もる話もあるんだロ?…オイラはここで待ってるヨ」
と言って、私を誘導する。
「はい、行ってきます!」
二階の三号室の前で深呼吸をする。…この世界ではあまり意味はなさそうだが、不思議と心は落ち着いた。
ノックをして、部屋主の反応を待つ。
「……いいよ、入ってきても。」
その声が聞こえた時には、私はドアを開けて、中にいる少年と目が合っていた。
「こんにちは、キリヤ」
「うん。…こんにちは、シノン。…色々話したいことがあるんだけど、いい?」
「……ええ、もちろん。私もね、言いたいことがあるから」
「……もう少し、時間が経ってから来るかなって思ってたけど。よくわかったな?」
「ほとんどカンだったけど。でも、待ってるんならここかなとは。」
私の言葉に、キリヤは目を丸くする。そしてちょっとだけ笑った。
「…んじゃ、今の僕はどう見える?シノンにはどんな風に見えてる?」
不思議な質問だ。なにか、変わっている?
「えっと。いつも通りのキリヤに見えるけど。…気配が少し薄い…かも?」
「あー、実はね。そのぉ、人格が増えました。」
…んんん?なんかすごいこと言われた気がする。
「ちょっと頑張って切り替えてみるけど、すぐもどすけど、いつでも逃げられるようにしといて」
「き、危険物かなにか?無理しないでいいから!」
「だって自分でもどういう状況かわかんねえもん!こんな状態で日常生活送ったらいつか暴発しそうだし…」
「そもそもの原因を聞いてないわ。…やっぱりあの時…?」
「シノン、ごめん。もっと速く助けてたら、怖い思いさせずに済んだのに…」
…それはきっと違う。あの時の私は、ラフコフとの戦いで記憶が戻りかけていた。
あそこで思い出したのは当然だと思う。…多分あの事件が一番自身に結びついてしまった記憶だからだ。
私は、彼に自身の記憶について話す。どんな反応をされてもいいように覚悟を決めて。
<SIDE:キリヤ>
「私ね、記憶が戻った。」
シノンは、悲しそうにそういった。つまり、思い出したくない記憶があったんだと悟る。
「…うん。聞いてもいいの?」
「いいわ。………人を、殺したことがあるの。もちろん、現実で。
子どもの頃、銀行強盗にあってね、強盗から奪った銃で強盗を射殺した。
周りの人間はみんな人殺しって私を見るたびに罵った。…PTSDになった
カウンセラーは的外れな事ばかり言うし、トラウマのせいでメディアで銃を見るたびに吐いた。
………去年の十二月、PTSDの改善のために《メディキュボイド》っていう医療用VRマシンの臨床試験に参加したの。
二週間のテスターのはずだったんだけれど、何故かSAOの中にダイブしてしまって…そこから記憶喪失になって、あなたに会った。」
…SAOに入る前に、その情報込みでいきなり会っていたら敬遠しかねないほどに、重い。
彼女に必要だったのは人殺しという色眼鏡で見ない誰かだったのだろう。…しかし、そんな人間はいなかった。
これ、僕じゃダメかもしれない。人を殺すのはよくない…と思っているが大切な人を守るためなら、
そんなろくでなしに説得できるとは思えなかった。
「シノンは、後悔してる?」
「…してない。強盗はお母さんを銃で撃とうとしてた。あの日に戻ったとしても、私はきっと銃で強盗を撃つわ。」
「……シノンは、優しいな。…『オレ』には、きっと無理だ」
「………キリヤ?」
…今一瞬出てきた?え、バーサーカー的存在かと思ってたらまさか非戦闘時はまともに話せるくらいの理性なのか『オレ』。
「…今出てたのもう一つの人格だった!!え、もっとやばいやつだと思ってたのに!?」
シノンは苦笑いしている。
「自分への評価低くないかしら…。あと、また優しいって言われた。
ちょっと前にアルゴさんにも言われたのよ。人殺しって言われるのも覚悟してたのに。」
「だってそりゃ、ねえ。
そもそもの動機が母親を守るためだぞ?非難してた連中で本当に全部状況分かって言ってるやついないんじゃないか?
聞くだけ無駄だよそれ。間違った情報ばら撒くとかないね!」
「怒るとこそこなんだ…?」
「一応情報屋やぞ。誤情報なんて撒いたらアルゴに〆られるから!
…それにさ、殺した本人にしかわからないよ。
殺しを仕事にしてるやつにとってそれは日常だし、銃社会じゃない日本で育った一般人にとっては非日常だ。
同じ動機でも、内心が違うなんてザラだと思う。」
「…共感は、できない…?」
それはきっと本当に重要なことではないと、僕は思う。…まあできた方が理解はしやすいが。
「………寄り添うことはできるよ。本当に孤独な人はいない…まあ繋がりを自分で絶つのもたまにいるけど。
…子どもがずぶ濡れで雨に打たれているとき、その子に傘をさしてあげる物好きだっているさ。
僕は、そんな物好きになりたい。…へん、かな…?」
シノンが少しだけ笑った。
「…変わり者ではあるかな。初めて会った時助けてくれたのは、そのせい?」
「いや?君と会ってからだ。骨子はあったはずだけど、それが形になったのは、最近だよ」
「どうして助けてくれたの?」
「初めて会った時は興味と責任感、だったよ。記憶喪失の人間見捨てるほど合理的だったら今頃僕は死んでるね!
…ラフコフの時は、君が大切な人だったから。…君が僕の心の中で大きな存在になったから」
「そ、それって…」
シノンは、顔を赤くする。それがたまらなく可愛くて。
「僕は、シノンが好き。シノン、迷惑だったら…」
シノンが遮るようにぎゅっと抱き着いてきた。彼女の熱が伝わってくる。
「好き。…私も大好き。…私、キリヤと一緒に生きたい。
普通の女の子じゃないけど、あなたと幸せになりたい…!」
その願いは誰もが持つ、当たり前の夢だ。起きたことは覆ることはないが、未来なら良くすることはできると、僕は信じたい。
「もう、怖い思いはさせない。どんなことをしても、シノンを現実世界に帰してみせる。
あと、これあげる。」
リズベット作の指輪をシノンに渡すと、彼女はわたわたする。
「え、ええ!?これ、って…!」
「………結婚しよう、シノン。」
「…うん!」
僕らの影が重なり、長い時間を過ごした。
八月二十三日の夜…僕とシノンは、夫婦になった。
深夜、疲れて寝た僕は、変な夢を見ることになった。
気がつくと、僕はなんか細部がぼやけている実家のリビングで、椅子に座ってゆっくりしていた。
「…って、実家の夢…?ぼやけてるのは…しょうがないか」
なんせもう一年以上帰っていない。郷愁を感じていると、二階から物音がした。
…誰かいる。普通の夢なら兄や妹が出てくるだろうが、悪夢だったら二階で一層のコボルド王がディアベル辺りを食ってるんじゃなかろうかと不安になった。
昔は突拍子もない変な夢をよく見たが、最近見てないな。
一番怖かったのはじじいが死んだ夜に見た、刀持った鬼との鬼ごっこだ。あれ絶対じじいの怨霊だって!
二階のドアをガチャガチャするが、鍵がかかっているような感覚がする。
「和人の部屋、違う。…直葉の部屋、ここも違うか…。…。僕の部屋、か?」
…自分の部屋から気配がする。鍵はかかっていない、入っても大丈夫か…?
【――入ってこいよ】
ドアをあけ、そいつと対峙する。僕と同じ顔の人間だが、こいつは双子の兄ではない。
【よう、『僕』。ちょっと話をしようぜ】
そう言って、『オレ』は笑った。
「あのさあ、なに話せばいいんだよ!お前マジで何なんだ!?」
【お前なんだよ『僕』。お前は心が壊れた、ここまではわかる?】
「ラフコフ殲滅の時だろ?」
【違うぞ、新年から
あれ結構心にダメージきてたぞ!『僕』がにぶちんなだけで、決壊すんのが遅いくらいだ!!】
… ま じ ? え、わりと追い詰められてんじゃん。
【…続けるぞ。殺されかけていたシノンを助けた時点で、心はいつ崩壊してもおかしくなかった。
……追い打ちの拒絶がトドメだったんだ。壊れた心をなんとか取り繕ってたのが、あれでおかしくなった。
まー、あっちもあっちで大変なことになってたらしいが。一日、記憶がないだろ?】
僕は頷く。こいつには、多分その記憶がある。
【とりあえず、攻略組に見つかりたくないから《アルゲード》に転移した。
んで、すぐに下への迷宮区に潜ったんだ。自分の心を修復しながらだ。
一番安定したのが心を二つに分けてしまうことだった。それ以外?…察してくれ。
『僕』の方は休眠状態だったから代わりにオレが動いてた。…問題は起きなかった。】
…無茶苦茶疲れた顔してる。
「うーん、とりあえず苦労したのはわかった。で、望みはなんだ。」
【オレは、誰かと一緒に生きたい。自分だけの世界は寂しい。ここは、だーれも来ないからな!たまにでいいから切り替えてくれ】
「あー、うん、まあー、考えとく。」
部屋のぼやけが強くなった。夜明けが近いんだろう。
【じゃ、またな。】
「またな、『オレ』。」
目が覚めると、僕はシノンと目が合った。…どうやら寝顔を観察していたらしい彼女は笑顔であいさつした。
「おはよ、キリヤ。いい寝顔だったわ。さーて、今日はどうしようかしら。」
「とりあえずKOBの本部で捜索届取り消して、キリトたちに結婚報告でもしよう。…その後はゆっくりしようよ」
「そうね、いいんじゃない?…アスナとかビックリするよね。」
朝食を食べてから、KOB本部で捜索届を取り消してもらって、キリトたちに結婚したことを告げると、こんな反応が帰ってきた。
「え、結婚ってあれだろ?ストレージ共有するアレ。…ストレージといえば、キリヤ。両手剣アジトに忘れてたから回収しといたぜ。ほら、返すよ。」
「シノのん結婚おめでとー!お祝いに今度ご飯ご馳走するよ!………。私も頑張ろう…!!」
「え、えええ!?キリヤ、結婚したの!?…な、なんか納得しづらい…。…けどおめでとう、二人とも。」
上からキリト、アスナ、ミトである。…あと武器を回収しといてくれてありがとうキリト。
「…あれ、三人がつるんでるとこなんて初めて見たぞ。どういう集まり?」
「俺は荷物持ち。どっちかというとオマケだ。」
「え、なんとなーく一緒に町をぶらついてるんだと思ってた。だいたい、買い物した荷物ってストレージに入れとくものじゃない?」
「確かに二人とも私の知り合いで、接点ないもんね。」
こうして友達や大切な人と一緒にいるということが、僕にとってどれほどの救いだったんだろう。
この日々を守るためならば、僕も、『オレ』も命をかけて戦える。…一緒に、現実世界に帰るんだ。
『オレ』
主人公のもう一つの人格。今回は比較的まともな状態だったが、戦いになると今までキリヤが理性で押さえつけていたリミッターを外して大暴れする。
こっちもシノンのことが大好きなので彼女のことを第一に考えて行動する。