楽しんでもらえると幸いです。
九月の初め、僕はシノンと一緒に最前線を攻略していた。
ストレアの記憶探しも大事だけど、攻略もしとかないとな。
シノンの投げナイフが敵の弱点に刺さり、混乱している所を『オレ』がソードスキルで追撃して息の根を止めた。
シノンとは何ヶ月も一緒にいたからか、かなりコンビネーションも洗練されている。
…もしかしたら、今のアインクラッドで五本の指に入る程度には名コンビかもしれないな!
「それじゃ、そろそろ帰ろうぜシノン。『オレ』腹減ったー」
「ハイハイ、わかったわよ。今日のご飯、楽しみにしてね?」
最初は『オレ』におっかなびっくり接していたシノンだったけど、今では普通に接してくれている。
彼女に怖くないのかと聞いてみたら、
「…前は少し怖かったけど、今はそうでもない。
だってあれもキリヤだってわかったし。というかワンちゃんみたいに甘えてくるからあれも有り…かも」
とのこと。…うん、なんとなくわかってたけどさ、『オレ』甘えん坊扱いかあ…。
迷宮区を歩いていると、何か違和感があった。…なんとなくだが、こういう勘をないがしろにすると大体ひどい目に遭う。
「…シノン。なにか変じゃないか…?嫌な予感がするんだ、早く出よう…!」
「え…何も感じないけど。でも、なにか起きそうなら準備しといたほうがいいと思う。
ポーチに回復結晶入れておいたら?…最悪分断されることも考えなくちゃ」
<SIDE:???> ~ホロウエリア・セルベンディスの樹海にて~
走る、走る、走る。なんでわたしがこんな目に遭わなくちゃいけないの。
安全圏なんて存在しない、高レベルMOBの巣くう地獄、モンスターにばかり関心を向けてこちらを助けもしない奇妙なプレイヤーたち。
ここは全部、
嗚呼、でも。もしかしたら、わたしも狂っているのかもしれない。
なにせこの世界に来て初めにやったことが
目の前に、リポップした敵らしき影が見える。わたしは自身の得物である短剣《ソード・ブレイカー》を構えた。
「っ!!どけえええ!!!」
それは人間と同じ姿をしていたが、それでもなお躊躇しない。
どちらにせよ排除して最短距離を突っ切らなければ
相手の両手剣とわたしの《ソード・ブレイカー》が火花をおこす。
三度ほどの剣戟を交わし、鍔迫り合いになると、そいつは困惑した顔でこちらを見ている。
今までの連中とは違い、その目には生きようと足掻く、強い意志を感じた。
「…あんた、だれ?」
「…『オレ』なんかした!!?いきなり斬りかかってきやがって!!」
その質問に対して答えようとするが、恐ろしい唸り声と、振り下ろされた大鎌に遮られる。
ああ、追いつかれちゃった…!
そいつは、言語化するなら骨でできたムカデの怪物だ。
名前は《ホロウ・デッドニング・リーパー》というそれは、先ほどからわたしを追って来ている。
「うっわ、きもちわるぅ!!なんじゃありゃ、ムカデか!?」
「…なんとか撒いたのに…!戦うしかないか…」
「おい、きみはなんでこんなキモイのに追われてるんだ!!」
「……あんたたたちみたいなならず者に話すことなんてない」
「んん?いや『オレ』はならず者じゃ…! バックしろ!」
そう言うと彼は大鎌を両手剣ではじき返す。…助けて、くれた?
呆然とするわたしに向かって彼は叫ぶ。
「きみ、それなりに戦えるな!?ちょっとこいつ片付けるぞ、死にたくないなら『オレ』と協力してほしい!!」
『GYAAAAAAA!!!』
デッドニング・リーパーは怒りの咆哮を上げるが、彼は気にしてない。
「…どうして、わたしをかばったの?後ろから斬りかかるかもよ。」
「今やったらたぶんこいつにやられるだけだぞ!それに、そういうこと言うやつが有言実行したとこなんか見たことないしな!!」
…変なやつだ。…けれど、悪い奴でもなさそうだ。
「……分かった。今は、こいつを止めるのに協力してあげる」
デッドニング・リーパーは、二人がかりでギリギリ戦いに持っていけるほどの強敵だった。
彼の剣が大鎌の振り下ろしをガッチリガードし、ヘイトから外れたわたしがサイドから攻撃する。
突進系ソードスキルの《ラピッド・バイト》が敵に命中し、HPバーを少量削る。
…どうやら、あまり硬い敵ではないようだ。
だけど、彼が
デッドニング・リーパーが爆散したのは、戦闘開始から三十分後、とどめは彼が放った《アバランシュ》だった。
静かになった森の中で、彼は質問する。
「………。で、だ。戦うのか?『オレ』としては共闘した人と戦うのは嫌だ。」
「あんた、あいつらの仲間じゃないの?」
「心当たりはないな。ここどこなんだ?今までいたところのちかくじゃないだろ」
「……わたしのカーソルの色、わかってるよね?」
「…
…一応、彼は命の恩人ではあるので忠告する。
「いいわ、教えてあげる。…
それじゃあ、さようなら。」
逃げるように去ろうとすると、彼はわたしを引き留める。
「待て待て待て!質問に答えろ、ここどこぉ!?」
「…わたしも、よくは知らない。ちょっと前に迷い込んでから、ずっとこの森の中をさまよってたから。
圏内は、探したけどわたしには見つけられなかった」
『ホロウ・エリアアクセス制限が解除されました。これより、テストプレイヤーは適性テストの準備を行ってください。』
「「……ん?」」
これまで聞いたことがない音声が聞こえた。…適性テスト?
「…って、なんかあんた手が光ってるわよ!?なにそれ!!」
彼の手に奇妙な紋章のようなものが輝いている。
「…なんだこれ。いつの間に…?」
どうやら本人すら知らなかったらしい。しかし、この模様に見覚えがある。
「…わたし、この辺りでその紋章がきざまれた場所を見た。」
「きみ、良かったら『オレ』をそこに連れて行ってくれないか。」
「…べつにいいけど、
彼はニヤリと笑う。
「だってきみ、《
…一緒に死闘を潜り抜けたんだ、僕は信用するよ。…キリヤだ。」
「…フィリア。…あんたってすごいお人好しか、馬鹿ね。…ついてきて。」
しばらく進むと、キリヤが質問してきた。
「フィリア、ここは一体なんなんだ?」
「ここは、《ホロウ・エリア》と呼ばれているらしいわ。…あんた、ここに来た時のことは?」
「…迷宮区を探索中に、回廊結晶のコリドーに似た光に包まれてここに飛ばされてきたかんじ」
「わたしとほとんど同じだけど、その手に浮かんでるやつは、こっちにはない。
ここでそんな模様があるプレイヤーは見てないわ。」
「…フィリア以外にも迷子になったやつがいるのか?」
「…何度か出くわしたけれど、こっちに全く反応しないか、生返事しかしない。
モンスターと遭遇したら活発になるけれど、戦闘が終了したらボケッと突っ立ってるだけ。
…
キリヤは頭を抱える。
「…NPCと大して変わらないじゃないか、助けは期待しない方がいいな。
…さっきシステムアナウンスが言ってた、適性テストとやら。何が来ると思う?」
「…わからない。もしかしたら、あんたの紋章が関係してるのかも。
…あんた、ここに来る前になんか変なことしたんじゃない…?」
『規定の時間に達しました。これより、適性テストを開始します』
システムアナウンスが終了すると、森がざわつき始めた。
「…来たな。……《見極めの試練》、南西の出口を目指して進み、
行く手を遮る《マッスルブルホーン》を倒して出口に向かえってさ。…いこう、フィリア!」
「そうね、どっちみちここを抜けないと目的地にはたどり着けないわ。」
殺気立つ森の中にはオーク系のモンスターが多かったが、キリヤは一撃で粉砕していった。
途中で待ち構えていた《マッスルブルホーン》はトーラス系特有のスキル《ナビング》も使ってきたが、
デッドニング・リーパーに比べ貧弱だったため、ほぼ被害なしで倒された。
『クリアを確認しました。承認フェイズを終了します』
「………。ん?これで終わり??あっけなくクリアできたけど、なんかクリア報酬とかないのか…?」
「たぶんね。……結局何のテストをやらされてたのかしら…?」
彼は少し考えると、幾つかの仮説を立てる。
一つは、アインクラッドの没アイテムや没敵が配置されたバックヤード的なエリアではないかという説。
もう一つは、アナウンスが言うように実験を行うために造られたエリアだという説だ。
「なんか、くやしいわね。来て数時間のあんたがホイホイ謎を解くなんて…。
これじゃトレジャーハンターの名がすたるわ…。」
「トレジャーハンター?あー、昔ナイトを自称してたやつがいたっけなー」
自称ナイトはともかく、わたしも確かに自称ではある。
「まあ、そんな感じ。モンスターと戦ったりクエストクリアするより、ダンジョンでお宝を探すのが好きなんだ。
だいたいは役に立つものが見つかるし、趣味と実益が一致してるから。」
「基本的にはソロなんだろう?ちゃんと探索スキルとか伸ばしてるよな?」
「自分の命を守れる程度には。…そろそろつくわ、たしかあのあたりで見た」
指をさした方向には、彼の手に着いたそれと同じ紋様のオブジェクトが存在している。
「…本当に同じだ。なんとなく転移門に似てる気がするな。」
「触ったら何処かにワープするんじゃないかな。……たぶん、あそこに。」
上空に浮かぶ球体を見る。なんとなくだが、この転移門のようなものは、
空に浮かぶそれへアクセスできるんじゃないかと思っている。
「よし、行こうフィリア」「…わかった」
オブジェクトに触った瞬間、わたしたちは青い空間に転移していた。
周りにはよくわからないウィンドウが無数に浮いている。
「ビンゴ!わたしの予想大当たり!」
「…ここが球体の中?敵はいなさそうだけど…まさか、圏内か!?」
「ええ!?じゃ、じゃあ
ふうっと息を吐く。どうやら普通の圏内とはルールが違うみたいだ。
「じゃあ、襲撃のことは二重の意味で考えなくても良さそうだ。とりあえず調べてみようぜ。」
わたしたちが調べた結果、ここは《管理区》と呼ばれていること、
各地にあのオブジェクト、《転移石》が存在しキリヤが触れることで
そして、こことアインクラッドは自由に行き来できることがわかった。
「それじゃ、ここでお別れだね。…結構楽しかったよ」
「おう、またなーフィリア!次も一緒に冒険しようぜ!」
「………。え、また来るの…?」
「とーぜん!《
迷宮区塔らしきものが見当たらないのも興味があるな!それに、ワクワクする!!」
彼の目は新しい玩具を見つけた子どものようにキラキラしていた。
「ふふっ…わかるよ、その気持ち。もしここに来るんだったらメッセージを飛ばして。
ここを集合場所にしようよ。一度開通したら通るのは誰でもできるみたいだから。」
「おー、便利。じゃあ、行くときは連絡するよ、またね!」
そういうと、キリヤはアインクラッドへ戻っていった。
「……またね、か。」
わたしは転移結晶をポーチから取り出し、かつてのホームがあった階層へ転移しようとするが、相変わらずうんともすんともいわなかった。
「………。わたしは、なんなんだろう…?」
…その問いに答えてくれる人は、誰もいなかった。
<SIDE:キリヤ> ~四十九層・赤羽亭三号室~
宿屋に帰ってきた僕は、思いっきり泣いているシノンと、笑みを浮かべているがキレそうな顔のアルゴと、かわいそうなものを見る目を向けるキリトに迎えられた。
……し、しまった!!連絡を取るのをすっかり忘れてたぁ!!!
このままではアルゴに僕の情報がすべて抜かれるどころか《赤羽亭》から追い出されて野宿もあり得る…。
これはまずい、今僕がすべきことは三つ。
一つ目はシノンをどうにかして泣き止ませ、あわよくば笑顔にすることだ。
これが達成されれば二つ目の難易度は下がるはず…だといいなぁ…。
二つ目はアルゴの怒りを収めることだ。
これが一番難易度が高い。彼女は僕の師だ、口論になれば間違いなく敗北する。死ぬ気で説得をしなければならない。
三つめはキリトを味方につけることだ。
《ホロウ・エリア》の話をすれば間違いなく成功するので、多分一番簡単だ。
「ひぐっ…きりや、生きててよかった…。」
ぽろぽろと子どものように泣くシノン。
「………。さあ、言ってみろヨ、キリヤ。言い訳しだいじゃ、生き残れるかもだゼ?」
ボス戦とほぼ同じくらいのプレッシャーを放つアルゴ。
「いやー、大変だなキリヤ。俺だったらまず土下座するよ、本気で。アルゴがここまでキレたの初めて見たぜ」
クッソのんきな事をぬかすキリト。…対岸の火事だと思って油断してるな?すぐ引きずり込んでやるから覚悟しろ。
…さあ、腕の見せ所だ。
惚れた女の子を笑わせて、格上の師に勝ち、
僕は、孤独な戦いを始めたのだ。…絶対に勝つ!!
《フィリア》
初登場作品:ホロウフラグメント
WEPON:短剣
《ホロウ・エリア》を彷徨うトレジャーハンターの少女。
初めの方はツンツンしていたが、物語が進むにつれてデレデレになっていくツンデレさん。
オレンジプレイヤーだが悪人というわけではない。
この物語ではキリヤと出会い、運命が変わっていく。
ちなみに迷い込んだのは八月の下旬くらいのこと。
《ホロウ・デッドニング・リーパー》
ホロウ・エリアで初めに戦うことになるボスモンスター。
ゲーム版でキリトが言うように、その姿は《スカル・リーパー》と瓜二つ。
…しかし、キリヤはまだ七十五層でやつと遭遇していないので、感想はただただ酷い。
…これからキリトがこいつとおんなじ姿のボスと出くわしても、デッドニング・リーパー呼ばわりするだろう。
そういう意味じゃ不憫だなコイツ…。
ホロウフラグメントのヒロイン、フィリアの登場です。
そして、ホロウ・エリア編開始のお知らせです。
ストレアの時とは違い登場させるか少し悩んだのですが、登場させることにしました。
次回もお楽しみに。