楽しんでもらえると幸いです。
まず、最初にシノンを落ち着かせなければならない。
彼女を後回しにすればアルゴの怒りのボルテージはその分上がるからだ。
それに、シノンを心配させて泣かせたことで、浮かれていた自分の頭は冷えた。
《ホロウ・エリア》は確かに好奇心をくすぐるが、そのまま戻ってこないなんてなった場合、
必ず戻ってくるという約束を守れないことに気づいたのだ。
「シノン、僕がきみを連れて行かないときは前まで結構あったと思うんだけど、
今回はどうしたの?」
「…いきなり転移して目の前から消えたことはないでしょ…。
しかも転移結晶を使ったわけでもないのに。
それに、まったく連絡もつかないのに、安心なんてできない!」
…たしかにそんな非常識なことはしたことがないなあ…。
「連絡がつかないって、ダンジョンに飛んでたらメッセージって届かないはずだよね?
なんかダンジョンで使えるのあったかな?」
その疑問にシノンは予想していないアイテム名を口にする。
「……《
あれも効果がなかった。」
……あー、そういや彼女が来たばかりのころ、アレを取りに行ったな。
《
クソガキみたいな性格の女天使のワガママじみた依頼をクリアすることで手に入るが、
プレイヤー同士が協力するとわりとあっけなく攻略できるため、連携の練習には持って来いなのだ。
(ただし、足をわざと引っ張るやつがいたり、そもそもソロ攻略だとクリアができなくなる程度の難易度設定がされている)
そのクリア報酬である《
『交換し合った者同士に永遠の絆を与える』というなんか恥ずかしい説明文と、特殊効果でわりと人気の高いアイテムだ。
…その効果とは、『月に一度、声を送り合える』というもの。
その時の僕は、シノンが万が一の場合助けが必要な時に使うようにと、子供携帯代わりに取りに行ったのだ。
攻略組の僕は、ダンジョンや迷宮区にいてメッセージが届かない場合があるから。
シノンをぎゅっと抱きしめる。…抵抗はないようだ。
「……ごめんな。変なとこに迷い込んで、浮かれポンチになってたみたいだ。
きみを悲しませないようにって思ってたのに、おーばかやろうだなあ、僕は。」
彼女も、僕を抱きしめ返してちょっと涙声でつぶやく。
「……ばーか、キリヤのばーか。…もう、待っているだけは嫌、一緒にいたい。
…お願い、そばにいさせて。」
そんな風にいじける彼女が愛おしくて、キスをする。
「んっ、…。もう、二人っきりじゃないのに…。」
その言葉でゆだっていたのが少し落ち着き、思わずキリト達の方向を向く。
アルゴはさっきのいちゃつきで毒気が抜かれたのか怒りが少し収まったようで、ちょっと笑っていた。
一方のキリトは相手がいない寂しさからか死んだ目でこっちを見ていた。
こいつ、アスナさんとかに好意を持たれてるのにそんな反応するのかといいたいが、
どうせ気づいてないんだろうなぁ、鈍感だもんなぁ…。
「けっ…。幸せそうで何よりだなキリヤ…。万年ソロプレイヤーの俺に対するいやがらせか?」
うーん、わかりやすいくらいすねてる。
「アーちゃんに告るとかどうヨキー坊。ミラクルが起きるかもしれないゼ?」
「アスナ?……。ないね!あいつ俺のこと嫌いだろ、だってさぼり癖のあるビーターだぞ、俺は」
自信満々にそう抜かすキリトに、三人分の呆れた視線が刺さる。
このバカにアスナさんの恋心が届く日は来るんだろうか。
「……デ?いったいどこに迷い込んだんダオマエ。
ぶっちゃけあの指輪月一の制限付きだからこそダンジョンだろうが迷宮区だろうがつながるゾ。」
…よし、今なら《ホロウ・エリア》のことを言ってもキレられないな、ヨシ!
「実は…」
僕は皆に、ホロウ・エリアで体験したことを全て話す。
デッドニング・リーパーとの戦い、フィリアという少女のこと、そして見極めの試練。
話を聞いた三人の反応は様々だった。
「……女の子、ね…?ふーーーーん…」
ちょっと複雑な表情でこちらを見るシノン。
…うわきはしてないよ、と必死に首を振る。
「別に浮気を疑ってるんじゃなくて、どうしてそんな危険な場所に留まっているのか、気になっただけ。
あと、そのフィリアって子、
「うん、本人は人殺しだって言ってたけど、
ラフコフみたいな破滅主義者とかロザリアみたいな現実が見えてない連中とは違ってまともに見えた。
…もしあれが擬態ならガチでヤバいやつランキング一位に躍り出るぜ…」
「……暫定一位は?」
「ラフコフのリーダー《PoH》だな。」「「「…あー。」」」
「ま、
それよりも、《ホロウ・エリア》だよ!
いいなぁ、ワクワクするな、未踏破エリアだろ!?
レアアイテムとかだーれも手を付けてないダンジョンがいっぱいあるんだろうな!!」
…うん、予想通りのはしゃぎようだ。
キリトはデスゲーム初期はベータテストの情報でぶっちぎったが、実は手探りでトライ&エラーもかなり好きなのだ。
そうじゃなかったら必死こいてパソコンの自作とかしないと思う。
自作したやつよりも高性能なのは今の時代にありふれてるのに、デスゲームが始まるあの日まではアレをアップデートして使ってた。
「また行けるとは思うけど、パーティーメンバーはどうだろうな…。
…今度実験しようぜキリト。」
「おう、楽しみだ!もし俺が行けるんなら一緒に冒険しよう!」
「ヨシ、とりあえず《ホロウ・エリア》を調査するんだロ?
不特定多数のプレイヤー…つまり
入れたんならKOBと聖竜連合の小競り合いが起きそうだシ、入れんなら争奪戦が起きるゾ、キリヤノ。」
うわ…、ヒースクリフとリンドに睨まれてるのが容易に想像できるじゃんか、嫌だなー。
「い、嫌なモテ期だ…。……制限があるんなら、そもそも隠しとく方がよくない?
レアアイテムをゲットしたとして、要らないならエギルさんとこに横流しすればいい感じにしてくれると思う。」
「エギルの店をリサイクルショップみたいに言うなよ…。
…まあ、それが一番無難かもな。まわりまわって攻略組に強力な装備が回ってくるのは歓迎すべきだと思う。」
キリトの意見に、アルゴは頷く。
「とりあえずは、明日の実験結果次第ってことダ。ヨシ解散!
明日に備えて寝よウ!」
キリトとアルゴが帰った後、ベッドで足をブラブラさせていたシノンが
「ねえ、聞いてもいい?」
と言ってきた。
「どうしたの?もう十二時過ぎたから寝よう、明日は早めに起きなきゃいけないし。」
「…お金がいるの?攻略組に《ホロウ・エリア》に来てほしくなさそうだったから。
武器とか防具とか更新するのは当分はいいかなって言ってたじゃない。
レベリングもそれなりにしてるし、なにか欲しいものでもあるの?」
げ、バレた。シノンにはできるだけ内緒にしといて驚かせる予定だったのに。
「………。むっちゃ高い買い物なんだ。あとちょっとで届きそうだから、
《ホロウ・エリア》で頑張れば目標額いけそうなんだよね。」
「……。わかった、これ以上は追及しない。さびしいけど、いつかちゃんと話してくれるんなら、いい。」
なんか心が痛い。隠し事をしてるのはバレてんのに追及されないのって申し訳ない気分になる…。
僕は、シノンと過ごすためのマイホームが欲しいのだ。
《
あと借家じゃなくて家があった方がもっとイチャイチャできるようになるし。
…。たしかにそれもまた本音だ。でも、『オレ』と話す夢を見たことも原因だろう。
あの夢を見て思い知った、
…怖かった。僕はもしかしたら、現実にもはや未練がないかもしれないと思ってしまった。
帰る場所があれば、この恐怖も消えてくれるかもという何とも情けない理由があるのだ。
そんな馬鹿なことを考えながらベッドに横になっていると、シノンの寝顔が見える。
彼女の寝顔を見ていると、ネガティブな思考が収まっていく。…僕って単純なやつだなあ…。
でも、僕に帰る気があろうがなかろうが、彼女を現実に帰さなくちゃ。
この世界でシノンに会えたのは、運命か偶然かはわからないけれど…僕は会えてよかったと思っている。
ずっと一緒にいたいなら、この世界から出なくちゃ。
<SIDE:アルゴ>
あの会議の翌日、朝早くから転移門に集まったオイラたちは、早速実験を開始しタ。
結果、普通のプレイヤーは《ホロウ・エリア 管理区》に飛べず、転移できるのはキリヤのミ。
しかし、一人だけキリヤとパーティーを組むことで《管理区》に行くことができタ。
…おそらくキリヤのみが行ける原因は手のひらの紋様のようダ。
多分これがないと《ホロウ・エリア》に侵入することは不可能。
「とりあえずなんも知らんのがあそこに迷い込んでくたばることはなくなったかな…。
でも《ホロウ・エリア》のリソース独占できちゃうよねー…。隠すしかなくなったじゃん。」
キリヤはそう言いながらも少し嬉しそうダ。
「ネー、シーちゃん。キリヤのヤツなんか顔ニッコリしてネ?なんか知ってル?」
「ええ、なにか欲しいものがあるみたいだけど、聞くのは辞めました。
どうせ買った後報告しに来ると思うし、その時まで待ちます」
ウーン、ちょっとキリヤ脅して聞き出すカ?いやでもナー…。
「よし、今回はフィリアと一緒に冒険しようと思うけど、ついていきたい人いる?」
キリヤの誘いに乗ったのは、シーちゃんだっタ。
「………行きたい。ちょっとフィリアさんと話がしたいし。」
キリヤは
「きっと仲良くなれるんじゃないかな。…勘だけど!」
と言いながらシーちゃんの手を取ると手早くパーティーに誘い、《ホロウ・エリア》へ転移しタ。
…シーちゃんの顔が赤く見えたのは、きっと見間違いではないだろウ。
嗚呼、青春してるネー…。
《天使の指輪》
《ガールズ・オプス》にてシリカ、リズベット、リーファとあと一人が挑戦した天使の試練の報酬。
本編で説明した通り、二人でこの指輪を交換すると一ヶ月に一度声を送り合える。
《オプス》ではシリカとキリトが交換して使っていたが、キリトはケータイ代わりに使用していたらしい。コイツ…!
…《ガールズ・オプス》には原作小説と矛盾したところがある?
………これ以上この話は辞めよう。