<SIDE:フィリア>
《二人が邂逅した教会》での冒険から数日後、わたしは樹海を抜けて開けた場所にいた。
そこには飛行型エネミーが我が物顔で飛び回っていて鬱陶しかったけど、まあ苦戦はしなかった。
…問題は、次のエリアに続く橋を見つけたのに、なんか見たことある紋章に阻まれて通れないことだ。
少し調べてみると、この前手に入れたペンダントと同じ形の窪みを見つけた。
……。ちょっとキリヤに来てもらったほうがいいかな!
…別に、寂しくなったわけじゃない、…ないったらない!
「よし、ちょっとメッセージ飛ばそうか。『キリヤへ、ちょっとホロウ・エリアで気になるもの発見!
手伝ってくれると嬉しいな!』…っと、送信っ!…えへへ、楽しみだな」
彼との冒険は楽しい。できればずっと続けていたいと、思うくらいに。
(……でも、本当にこのままでいいのかな。わたしは
彼は、ホロウ・エリアでの冒険が楽しいからここにきているだけ。
……わたしには、彼と友達になる資格はない。)
……でも、今は見ないフリをしよう。心の赴くまま冒険しよう、いつか終わる夢だとしても後悔はしたくないから。
《管理区》に戻ってきて三十分経ったころ、キリヤがこちらにやってきた。
連れているのは、茶色のフードを被った女性。…知らない人だ。
「よ、フィリア。調子はどう?」
「うん、大丈夫!そっちも元気そうだね、キリヤ。…その人は?」
女性はフードを取るとニヤリと笑って自己紹介をする。
「初めましテ、フィリア。オイラはアルゴ、名前くらいは知ってるんじゃないカ?」
アルゴ?…まさか、《鼠のアルゴ》!?
なんと、彼女はこのアインクラッドの大手情報屋だったのだ!
最前線攻略の命綱そのものである《アルゴの攻略ガイド》や、
メディアに飢えたプレイヤーたちの需要を満たすための新聞《ウィークリー・アルゴ》の著者である。
たしかに彼女の頬にはネズミのヒゲみたいなペイントがされている、…ホントに本人?
「……マ、疑うのもわかるサ。でもお互いさまだと思うゼ、フィリア。
オイラはコイツの師匠で、友達ダ。アンタが信用できる人間なのかを知りたいんだヨ。」
「信用、ですか。…自分でもどうすればいいのかわかんないんだけど?」
「別に、オレっちも一緒にホロウ・エリアの探索に参加するだけだヨ。
パーティーを組んでもらいたいんダ。…信用勝ち取レってことだナ♪」
アルゴは笑った。…これ遠回しに怪しい動きしたらひどい目に合わせるってことじゃない…?
今のわたしは
圏外で五分も麻痺させたら間違いなく死ぬので、完全犯罪が成立する。
「こ、この人こっわ!?本物のアルゴかどうかはこの際置いといてすごいこわいよこの人!?
キリヤ、なんでこんな人と友達でいられてるの?」
「うーん?…ここまで警戒してるのは初めてだよ。
いったいどうしたんだアルゴ…。」
「だって、なんか嫌な予感がするんだよナ。コイツとつるんでるとろくな目に遭わなさそうというカ、
オイラだって、勘で相手を決めつけたくはないケド…。」
どうやら本人もよくわかっていないらしく、首をかしげている。
…しょうがないか。お互いに相手を知っていけば、この変な空気も和らぐ……といいなあ。
わたしたちは、件のエリアである《バステアゲートへ続く橋梁》へと行くと、
早速橋に続く道に案内する。
「……なるほど、たしかに僕の紋様と同じ形だ。でも触っても何の反応もないな。
ほかになんか怪しいのない?」
キリヤがこんこんと紋章を叩いているが、うんともすんともいわない。
「そこもそうなんだけど、ここの窪み、あのペンダントの形に似てない?」
指をさした方向を見たキリヤはストレージに入れていたペンダントをはめてみるが、何もおこらない。
「なーんも反応しないな。まだなにかフラグが足りないのか…?」
「ウーン、どこか探索し忘れたエリアでもあるんじゃないカ?
心当たりはないのカ二人とモ。おねーさんここに初めて来たからわからんゾ」
…
この世界に迷い込んで、
あの樹海には存在する。
あの時はモンスターに囲まれかけてしまい、命からがら逃げ出した。
だけど、今は三人でパーティーを組んでいる、対抗はできるはずだ。
「ダンジョン、あるよ。固有名もったのとか弓もったゴブリンがうじゃうじゃいる、
地獄みたいなダンジョン。」
「……弓ィ?マジかヨ、ホロウ・エリアにそんなヤベーもんがあるのカ!?
遠距離攻撃でハチの巣なんてごめんだゾ!?」
「大丈夫、あいつら狙いはかなり雑だったし、近づいたらオロオロしだして隙だらけになるから。
前衛もいなかった。
前に行ったときは一人だったから逃げるしかなかったけれど、今なら攻略できるかも」
「雑に狙ってきて前衛いない弓兵とか何の価値があるんだ??
たしかに初めて見たら思考停止してやられるかもしれないけど…。」
そりゃそうだ、ネズミも出れないくらい囲まれたならともかく、
使い手が未熟なゴブリンなので冷静になれば普通に倒せるだろう。
それを彼らに伝えると、アルゴも納得したようだ。
「……ジャ、行ってみよーゼ二人とモ。ほら、パーティー申請したゾ。」
パーティーにキリヤとアルゴの名前が追加される。
…うん、本物のアルゴだこの人!
<SIDE:キリヤ>
フィリアの案内でやってきたダンジョンは、
樹海の広場(といってもかなり茂ってはいる)の近くに存在していた。
というか、ここたしか《デッドニング・リーパー》に襲われた近くじゃ…?
「ここだよ。エリア名は《供物の神殿》…探索してない場所はもうここだけのはず。
…。キリヤはまあいいけど、アルゴってボス戦の経験は?」
アルゴはちっちっちと指を振り、
「マ、経験はあるゼ。こう見えて攻略組と大差なく戦えるくらいには、ナ?
スピード重視だガ、そこはまあ逃げ足のためダカラ…。」
と笑う。…いったいいつレベリングしてるんだろうか、
弟子としてついていった時期にも彼女がレベリング中の場面に出くわした記憶がない。
「なら大丈夫かなぁ。ゴブリンたちが出てくるのはだいたい半分いったところ辺りかな?
じゃ、フォワードよろしくねーキリヤ。」
「任せろ!流石にゴーレムとかじゃなければ二人ともダメージを出せると思うし、
頼りにしてるよ!…行こう!」
ダンジョン内は、この前攻略したダンジョンにいたものとさほど変わらないMOBがたむろしていた。スケルトンはもちろん、
《二人が邂逅した教会》はどっちかというとスケルトンが多かったが、ここは
このがらんどうの金属塊たちは以前の所有者が納めていたであろう剣技を巧みに操る強敵だ。
上級ソードスキルを使ってくるのもいる。弱点は搦め手にめっぽう弱いくらいか。
「マ、このくらいならカモだナ?さて、先に進もうゼ」
アルゴは鎧を鉄くずに変えると、前へ進み始める。
「ああ、そう…っ!?」
足元を確認しても、僕の周りには躓くようなものは存在しない。…
…僕の影に、妙な影がまとわりついていたのだ。
「な、なんだこれーーーー!!くそ、離れろっ!」
剣を突き立てると、それは逃げるように離れていった。
フィリアは呆然と逃げて行ったそれの方向を見てつぶやく。
「……何、あれ。」
「フィリアも知らないのか?…いつ来てもパニックにならないようにしないといけないか?」
「嫌なデバフだナ、全ク。戦闘中に来たら厄介極まりないゾ。」
…まったくだ、こんなのがいきなりまとわりついたら邪魔すぎる…。
《供物の神殿》は、先ほどより暗くなった気がする。
なにか恐ろしいものが、この先にいるのかもしれない。
けれど、逃げるのは性に合わないと、僕たちはダンジョンの奥へ足を踏み入れた。