ソードアート・オンライン 暗黒剣の使い手   作:シャザ

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第二十二話 影ニ潜ムモノ

 影に纏わりつかれた所からしばらく進むと、地面に何かが刺さっているのを発見する。

…これは、矢じり?少し触ってみるが、アイテムとかではないらしい。

「……なるほド、こっから先に弓を持った敵が出てくるってヒントはあるのカ。

キリヤ、覚悟はできてるカ?」

「まあ、緊張しないで戦えば大丈夫だと思うけど、油断はしないようにしよう」

 

 大部屋の中を観察すると、弓を担いだゴブリンが部屋を巡回していた。

その中に一匹、悪賢そうなツラのゴブリンがゲッヒッヒと笑いながら何かを作っている。

 そいつに注目すると、《ジーニアス・ゴブリン》という固有名詞が表示される。

「…ネームドボスだね。ここ通りたいけど、絶対じゃましてくるよ。

あの酷い顔は性根腐ってないとできないって、多分」

 

 フィリアの言うことは確かに酷いが、僕も同意見だ。

…もし人語を解するとしても、それは知能が発達しているだけであって、仲良くなれる優しさや思いやりの心を持っているとは限らない。

 むしろ、『だまして悪いが死ねええ!!』される危険性もある。

フォールンエルフとかその典型的な例で、知能は高いが性格がクソだった。

 

 アルゴが石ころを拾うと適当な場所に放り投げる。…もちろん、小さな音を聞きつけたゴブリンは怪しんでその方向に進む。

視線を石ころに向けたゴブリンは、アルゴのクローを首にもろにくらって倒された。

『ぎぎィっ!?』

 いきなり爆散した味方に動揺したゴブリンに、鉄塊の如き愛剣を叩きつける!

不意打ちは成功した。《ジーニアス・ゴブリン》はいきなり部下が斬り捨てられ、動揺している。

 その時点で決着はついたも同然だった。

 

「…まあ。対策してたらこんなもんだよね。不意打ちってこんなキレイに決まるんだなぁ…。」

「オイラは正面戦闘は苦手だけど、こういうのは結構慣れてるんだヨ。

何でも使えば、生き残る確率は上がル。昔やったゲームで嫌というほど学んだゾ」

 …一体何のゲームを遊んだらそんな考え方を育めるんだろう。

知りたいような知りたくないような…。

 

 ダンジョンの最深部へ到達すると、フィリアがじっくりと部屋の中を調べ始めた。

…十分後、何かを発見したらしくこっちに近づくと、彼女は壁のへこみを指さす。

「アレ、ペンダントとおんなじ形じゃない?ちょっとキリヤ入れてみてくれない?」

「オッケー!」

 ペンダントを取り出してへこみにはめ込むと、ズズ…と鈍い音を立て通路が出現した。

先に進むと、先ほどのダンジョン内よりも周りが綺麗になっている。…《重く》なっているのだ。

 

 つまりこの先にはエリアボスがいる、間違いなく。

「サテ、い(・)る(・)ナ(・)。さっきの見かけ倒し(ボスゴブリン)とは比べ物にならない強敵ガ。

回復アイテムはちゃんと残ってるナ?」

「だ、大丈夫。弓ゴブたち用に準備してきたけど、消費は少なかったから。」

「……よし、行くぜ二人とも!」

 

 扉の先には、奇妙な祭壇が存在していた。その上にはな(・)に(・)か(・)壊(・)れ(・)た(・)岩(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)も(・)の(・)が(・)あ(・)る(・)。

「……猛烈に嫌ぁな予感がするんだけど。なんか封印されてたのが逃げてない…?」

 アルゴはにっこりと笑う。

「オイラたちがぶっ殺されたら間違いなくこの樹海の主として君臨するゼ。……いや、既にもう手遅れカモ。」

 

 後ろに、先ほどの影がうごめいている。……誘いこまれていたのか…!?

影から飛び出してきたのは、かなりのでかさの怪物だ。

 巨大な光の杭のようなもので拘束されているものの、その影の怪物を止めるにはどう見ても役に立ってない。

その名は《シャドウ・ファンタズム》。獣は哀れな旅人三人(つまり僕ら)を見て舌なめずりをしている。

 

「さすがにエリアボスはでかいな!この巨体なら攻撃力も高めのはずだ、

できるだけ避けてくれ、フィリア!」

「わかったー!それ、隙ありっ!」

 怪物の左前脚の振り下ろしを軽々とかわし、フィリアは《アーマーピアース》を繰り出す。

獣の皮膚を貫いてダメージを与えるが、まだまだ攻撃は終わらない。

「フィリア、スイッチダ!」

「おー、よろしくアルゴ、スイッチ!」

 フィリアがバックステップして、アルゴの連撃が硬直中のボスに叩き込まれる。

 

 ギロリと獣はアルゴを睨む。ヘイトを稼いでしまった軽装戦士を守るのは、壁役(タンク)の役目だ。

なーに、コイツの攻撃なんかクオーターのフロアボスに比べれば…!

「おら、こっちだ犬っころ!!『オレ』の方を向けえええ!!」

《咆哮(ハウル)》を使用し、両手剣用スキルでもかなり強力なものをぶち込む!

 

 両手剣のソードスキルは一撃必殺の傾向がある。

片手剣や細剣のように連撃数でダメージを稼ぐのは重さの関係で難しい。

 上位ソードスキルでも六連撃程度だが、一発の威力は片手剣のソードスキルを超える。

 今回使用したのは、《アストラル・ヘル》。

奥義技を除けば両手剣用ソードスキルの中で最も威力の高い技だ。

 

 ダメージのでかいソードスキルとヘイトを稼ぐことができる《咆哮(ハウル)》を組み合わせることで、

無理矢理こちらに注目させる。

 ボスがこちらを殴っているうちにフィリアたちが攻撃範囲の外から攻撃し、HPが減ったらポーションで回復。

途中でバーサク状態になったものの、追加された特殊攻撃は充分対処できた。

 

 戦闘開始から四十五分後、《シャドウ・ファンタズム》は討伐された。

…でかいだけの犬だったのでは?と思わなくもないが、かなりいいものをドロップしたのでどっちにしろぶっ飛ばして正解だと思う。

「おつかれー、キリヤ!なんかいいものでた?」

「おー、むっちゃレアそうな槍がドロップしたぜ。早速出してみよう」

 ストレージから槍を取り出すと、槍の穂先が暗めのボス部屋を明るく照らす。

 …フィリアは困った顔をしながら考え込む。コメントに困っているな、やっぱり…。

「…べ、便利!立てかけておけば光源になるね。」

「…槍スキルは上げてないから誰かに売りつけるか。ランタンでいいじゃん、ランタンで」

「……。うん、なんかレアなのはわかるけど、効果が微妙…。」

 

 わちゃわちゃフィリアと騒いでいるとアルゴに

「ナアキリヤ、エリアボスを倒したんだかラ、次のエリアへの道が開くんじゃないカ?

そんな使い道に困るモンで遊ぶ前にダンジョンから出るゾ!」

と怒られた。

「……ハーイ、わかりましたー!」

 

 ダンジョンの外に出ると、フィリアが笑いだした。

「ふふっ、キリヤとのコンビネーションも慣れてきたよ。わりと相性が良いのかもね、わたしたち」

「そうだな、それじゃ一旦管理区に戻ろう、新エリアはまた明日な」

 

 アルゴは眠そうにあくびをする。…無理もないか、ボス戦なんて久しぶりだろうし。

「ン、オイラ結構疲れたから宿屋でゆっくり…。……?」

 突然アルゴの口が止まる。キョロキョロと何かを探しているようだ。

「……どうした、アルゴ。」

「今、なんか悲鳴が聞こえた気がすル。気のせいならいいガ、ちょっとこのあたりを見てみようゼ」

 

 耳を澄まして、異音がないか確認する。……ズ(・)ブ(・)リ(・)と(・)何(・)か(・)を(・)貫(・)く(・)音(・)が(・)し(・)た(・)。

それと「あああ…」という潰れたカエルのような声もセットで。

「…き、聞こえた!!すぐに声の方向に向かおう!」

 全力で悲鳴の方向へ走る。…さすがに離れていないはずだが…!

「…ま、待ってよ二人とも!」

 フィリアも一瞬遅れて僕らについてくる。

 

 僕とアルゴが遭遇したのは、複数のプレイヤーだった。

数人のフードを被った連中が一人を滅多打ちにしている。

「てめえら、なにしてやがる!!?」

「…ン?…おや、スピード上げた方がいいかんじですかァ?」

 

 片手斧を持った男が哀れな被害者の頭に武器をぶち込んだ。

ガラスのような結晶になり飛散するそれを忌々しく見つめる。…助けられなかったか…!

「ハーイみなさん撤収しましょ、ここにいたらこわーい鬼に喰われるかもしれませんしィ?

うちに帰るまでがPKですからー。」

 連中の一人がけむり玉を投げ、こちらの視界が遮られているうちに逃げられてしまった。

 

「くそ、逃げられたか!」

「まさか、こんなとこでPKに出くわすとハ…。」

 ぜーはー息をしながら合流したフィリアと情報を共有すると、彼女は僕を慰めてきた。

「…キリヤたちのせいじゃないよ。悪いのはPKなんだから。」

 

「まったく、なんなんだアイツラ。こんなとこにどうやって来たんダ?」

「…。さあ、わかんないや。」

「…あの被害者のHPバー見たか…?麻痺で動きを止めて出血ダメージで恐怖を煽って。

複数人で一人を痛めつけていた。…見覚えがあるなぁ、こういうことする連中を、

先月ぶちのめした覚えがある。」

 

 アルゴは目を見開いた。

「…《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》…!?いや、でもアイツらハ…」

 …そう、ボスのPoHを除き捕縛されたか死んだはずなのだ。

しかし、今は情報が少なすぎて予想の域を超えない。

「…今考えても埒が明かないな。一度管理区へ戻って、今日は解散しよう」

「わかった。じゃ、戻ろう。」

 

 

 このとき、フィリアが怯えた顔をしていたことをずっと後に本人から聞いた。

しかし、僕は気づけなかったのだ。

 ボスを倒したはずなのに、未だ闇の中に何かがうごめいていたことに気を取られてしまったから。

 




 
 …いまだ、闇は晴れず。
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