次回はもう少し早く投稿したいと思います。
翌日、朝食を食べた僕はストレアと待ち合わせ場所で落ち合おうと宿を出ようとする。
すると、シノンに呼び止められた。
「………。ねえ、昨日うなされてたけど。」
「…マジ? 僕なんか言ってた?」
「ラフコフがどうしたの…? あいつらはもう、いないんじゃ…!?」
ラフィン・コフィンがホロウ・エリアにいたなんて……。
「い、いやー、ラフコフ殲滅の時の夢でも見てたんだよ、きっと。
シノンが気にする必要はないよ。」
シノンは無言でうつむいている。……表情が見えないのってこわいな。
「……………。」
「……なんか言ってよ。」
「…ばか!! こっちの気も知らないで!!
いつもいつも私を部外者にしようとして!!! 守られるだけなんていやだって、前に言ったわよね!?
あんたね、いつまでもこっちが大人しく聞いてると思ったら大間違いよ!
ホロウ・エリアでお金稼ぎしてるのも、自分のためなんでしょう!?」
「え、あの…」
「キリヤのばか! 今日はもう帰ってくるな!」
シノンは僕がフリーズしている間に部屋に戻って行ってしまった。
「………。どうすればよかったんだ…。」
考えても答えは出なかった。彼女のストレステストなんてしたくないが、最近は隠し事ばかりになってしまっていたのも事実だ。
「…キリヤ、だからってわたしに相談するのは駄目だよ…?
だってそれごまかしたキリヤが悪いんじゃないかな」
「追いかけてシノンとじっくり話すべきだったと思う。ぶっちゃけ今シノンをほったらかしてホロウ・エリアにいる時点で…ねー?」
フィリアとストレアに話した結果、火の玉ストレートの正論が飛んできた。
「…グハッッ!! …わ、わかってはいるんだよ、自分が悪いのは…。
でもPKとニアミスしたとかお金が欲しい理由とか言いたくないんだって!」
「…もうその段階になったらごまかすのは無理だよ。とりあえず待っとくから、シノンと話してきなよ。」
「………。そうだな、フィリア。ちょっと戻って話してくるけど、もしかしたらボスは明日になるかも。」
「いいよー。じゃ、またね」
《赤羽亭》に戻った僕は、宿屋のドアの前に陣取る少女に驚いた。
…なぜなら、僕は彼女がここに来る理由なんてないし、そもそも僕らがここに宿泊していることも知らないと思っていたから。
「久しぶりね、キリヤ君。最近最前線で見なくなったから死んだんじゃないかって噂が流れてるくらいよ?」
血盟騎士団の副団長にしてこのアインクラッドで一番有名な女剣士、《閃光》のアスナは微笑んだ。
「………。誰から買ったんです?ここに宿泊してるのを知ってるのはアルゴとキリトくらいだと思ってたんだけど」
「前にシノのんに普通に呼び出されたから知ってるだけよ。 …秘密主義もいいけれどほどほどにしておかないとね?
…さっきまで泣いてたのよ、シノのん。今日は帰ってこないからって…!」
明らかに怒りをこらえた表情でこちらを見るアスナ。この口ぶりからするとさっきまで慰めていたのかもしれない。
「………。そこ、通ってもいいですか?」
僕は、ちゃんと話し合うべきだったんだ。ラフコフがホロウ・エリアにいたとして、いずれ対策は打たなければいけなかった。
その時は自分だけでなんとかしようと思ってたけど、傲慢だよなぁ。
「…私も同伴なら。」
部屋に入ると、ベッドでシノンが寝ていた。どう見てもふて寝だが、とにかく起こさないと。
「……シノン、おはよー。」
「………。…夢ね。だって今日は帰ってこないはずだし。」
シノンはふて寝を続行する。…なんかふきげんな子猫みたいだな。
その姿にちょっといたずらごころがわいてしまった僕は、シノンの頬をむにっとつまんだ。
「むに、なにすんのよぉ…。 フィリアと遊ぶの楽しいんでしょ、私のことなんかほっといてよ。
………はぁ、嫉妬する自分が嫌になるわ…。」
「…。まあ、フィリアと冒険するのは楽しいよ、うん。否定はしないさ。
でも、言いたいことがあるんだろ? …僕もだよ。」
「……。先に言っていいわよ。」
「じゃあ、遠慮なく。 ………ラフコフにでくわしちゃった、どうしよっか?
しかもヒラ団員ならともかくPoHだったぜ、相変わらずのクソ
わっはっはとやけくそ気味に笑う。ええい、良縁はまだいいが悪縁を引き寄せるのはなんとかならんのか!
「うわ、なんかヤバいことおきそう…というかもう何かに巻き込まれてない?」
「そうだね、あいつら放置すんのはアカン。…というわけで、アスナさんにも協力してほしいんですが。」
急に話を振られたアスナは困った顔をする。
「…え、えー? …ホロウ・エリアだっけ? シノのんからちょっと聞いたけど、そこってキリヤ君とあと一人しか入れないんだよね。
協力っていっても、ギルドを動かすのはムリだよ?」
「
「あ、たしかにラフコフなら
少し時間はかかるけど、鍵を持ってる団長とかリンドさんを説得してみる。」
「あ、よろしくお願いしまーす。」
「…またね、アスナ。 また一緒に料理しましょう?」
アスナはその美貌に柔らかな笑みを浮かべる。
「うん、またねシノのん、キリヤ君。 …私個人の力なら、できる限り貸すからね!」
そう言い残して彼女は部屋を後にした。
「…人たらしの才能あるよな、あの人。 …今日はゆっくりできるけど、どうする?
フィリアには明日まで待ってていいよとは言われたけど。」
「ん、行こうよホロウ・エリア。 ちょっと体動かしたいし。 …仮想世界だから少しおかしいかな?」
「…べつにいいんじゃない? 今はここが現実だし。」
午後三時を過ぎたころ、僕らはフィリアと合流してボス部屋前にやってきた。
シノンたちは先頭の僕を横目になにやら後ろで話している。
「…一応聞くけど、ちゃんと話せたんだよね?」
フィリアは心配そうにシノンに聞いているが、
「大丈夫、とりあえずヤバそうなのがいるのは聞いた。 …すねてる暇はなさそうだしね。 今日のボス戦、がんばりましょう!」
…仲良いなぁ。 これなら連携もうまくいきそうだと判断して、ボス部屋の扉を開ける。
「…いこう! あのクソドラゴンの翼を穴だらけにしてやろうぜ!」
「おー!」
「じゃあ、私は翼を狙ってみるわね。空を飛ぶ相手なら、
階段をのぼり、塔の頂点に巣くうドラゴンと対峙する。
空から降りてきた《刃竜ゾ―ディアス》は、こちらを見て……、いや違う!
こいつは、
『…良キ剣ダ。 我ガ
人間ニ価値ハナイ。 我以外ノ竜モマタ、無価値ダ。 …ダガ、貴様ラ人間ノ剣ハイイ。
剣コソガ究極ノ機能美デアリ芸術、故ニ我ハ募集スルノダ!!』
…なるほど。つまりこいつは黄金の塊や美姫よりも、聖剣や魔剣に魅せられたのだ。
ある意味ではゲーマーの欲望とそう変わらないだろう。だが…。
「…悪いが、《
逆にてめーの尻尾の剣を切り取って売り払ってやる!!!」
ゾ―ディアスは自身の尻尾を数秒間見つめた後、怒りの咆哮を挙げながらこちらに向かって突っ込んできた!!
『………。ヤッテミロ下等生物ガアアアアアアア!!!』
ゾ―ディアスの尻尾の先に付いた宝剣が、青色に輝いた。
その光が何か、わからないわけがない。
「ド、ドラゴンがソードスキルだと!? ふざけんな、それ許したら何でもありじゃん!!」
ゾ―ディアスのスキルは突進系だったらしく、全員横に回避する。
………。 まともに当たったら塔の外に叩き出されて落下死だなこれ!
「さて、まずは行動パターンを把握しなきゃ。 二人とも、ソードスキルの範囲と威力が未知数な相手に無理は禁物だぞ!」
まずはボスの観察からだ。 …前提としてこいつはドラゴンのくせにソードスキルが使える。
突然変異なのかこいつ自身がそういう種類かはちょっとわからないが、ほかの竜に対し手札の数で有利なのは明らかだ。
しかし、それ以外はドラゴン系のモーションを流用しているようだ。
七分を回避にあてた僕たちは、ゾ―ディアスに反撃を始めた。
「じゃあ、狙ってみましょうか! …そこっ!」
シノンは狙いを定めると、ゾ―ディアスの翼に三本の矢を撃ちこむ。
…思ったよりも減らなかった。
空を飛ぶ相手は翼を攻撃しまくると地上に落ちて隙だらけになる…が、ゾ―ディアスの肉体は硬い。
シノンが撃った矢が致命傷にならないと判断したゾ―ディアスはシノンを無視し僕に執拗な攻撃を仕掛けてくる。
「あ、コラ! こっち向きなさいよ!!」
シノンは怒っているが、当の相手は彼女のことをまったく気にしない。
僕は『オレ』に切り替え、《ファイトブレイド》でボスの足を攻撃する。
『オレ』の放ったソードスキルは相手のHPバーをほんの少し削るが、どうもハズレの部位だったようで鱗を数枚斬れたものの弾かれた。
『グハハ!!我ノ鱗ヲ砕クカ、良イ剣ダ!!!』
ゾ―ディアスは嬉しそうに大笑いしてやがる。
………。 なんかだんだん腹立ってきたな。
レアアイテムドロップする奴がプレイヤーに延々と追いかけまわされる時ってこんな気分なのかもしれない。
「………。こいつ全身硬くない? わたしの武器全然刺さんないんだけどー!?」
フィリアが悲鳴をあげているが、『オレ』もめんどくさくなってきたな…。
…無言で弓を撃ち続けていたシノンがイラッとした顔でこっちに近づくと
「………この前リズベットに作ってもらったやつ試してもいいかしら。」
と手に持ったそれを見せてくる。
それは、一本の矢だ。その矢じりはかなり高ランクの金属でできているらしく、ドリル状に加工された先端が妖しく輝いている。
リズベットはどういう気持ちでこのゲテモノ作ったんだろうか…。
「………それで翼を撃ったらどうなる?」
「単発系で一番威力があるソードスキルなら、多分撃ち抜けると思うわ。
キリヤ、思いっきり目立って私に意識を向けさせないで。」
その言葉に頷いて、剣を握りなおす。ゾ―ディアスの翼を破壊すれば戦況は一気に傾くはずだ。
この状況でダメージとヘイトを稼ぐなら奥義しかない。
「く、らえええええ!!」
『オレ』はゾ―ディアスのソードスキルを一撃目で相殺すると、そこから勢いよく五連撃を叩き込んだ。
武器スキルマスターで使用可能になる最上位ソードスキルの一つ、
両手剣六連撃技《カラミティ・ディザスター》だ。
スキル硬直したゾ―ディアスの肉体を抉り取り、女子たちの事を一瞬忘却したゾ―ディアスの死角に移動したシノンが切り札を構える。
…その日、僕は何年ぶりかの流星を見た。
竜の左翼を撃ち抜き破壊しても、なお空へ飛翔する矢に思わず目をそちらに向けてしまった。
それほどまで速く、見惚れるほどに美しい。
ある意味、シノンを弟子にしたあの日から、夢見ていた光景に、思わず涙腺が緩む。
『グオオオオオオオオ!!!???』
ボスの絶叫で現実に引き戻された僕は、ゾ―ディアスに向き直る。
ゾ―ディアスは欠損した左翼で飛べるはずもなく、地に叩きつけられた。
「さて。…やるか。」
『バ、馬鹿ナアアアアアアア!! ワ、我ガ敗北スルトハアアアアアア!!!!』
ゾ―ディアスがそう叫んだすぐ後に爆散し、世界は静かになった。
「………今回はあんまり活躍できなかったなぁ…。」
フィリアの悲しそうな声に僕はフォローを入れる。
「しょうがないさ、そういう日もあるよ。シノンのアレがなかったら一回退くことも考えたし」
「…ありがと。 ところで、ペンダントは?」
ストレージからペンダントを取り出してみると、再び光が灯っている。
「よし、これで次のエリアに行けるな!」
「…ねえ、もしかしてこのまま新しいエリアに行くの?」
シノンの質問に肩をすくめながら答える。
「さすがに無理かな、あいつに体力奪われすぎた。疲れたから一回帰ろうぜー。」
<SIDE:フィリア>
「じゃ、またね。」
キリヤの言葉にうなずく。
「うん、また冒険しようね。」
キリヤ達はアインクラッドへ戻っていった。…今のわたしは、ホロウ・エリアに囚われた囚人なのだということを実感してしまう。
「…やっぱり…。わたしとキリヤたちは違う世界で生きてるんだ。」
わたしの独り言に、誰かが答えた。
「へえ、わかってるじゃねえか。」
「…っ!? だ、誰!?」
現れたのは、フードを深く被った男。いや、そこはたいして重要なことじゃない。
…その男は
しかも、この前PKをしていたやつらの仲間だ。
「なに気にすることはないぜ。 あいつとオレたちは違う、だろ?《
その奇妙な造語に、なぜか背がぞわっとする。
「…《
あの転移石が動くのは、キリヤの持っている紋様のおかげだとばかり思っていた。
もしこいつがここを自由に出入りできるんなら大問題だ。
「別にいいじゃねえか、どうでもいいことだぜそれは。」
「殺されてやるつもりはない、失せろ殺人鬼!」
「……おう、今日はあいさつに来ただけだからな。帰るぜ」
わたしの言葉にやつは、こちらを笑いながらもここを去ろうとする。
…なんだこいつ、気味が悪い…。
「ああ、最後にこれは言っとこうじゃねえか。 …
「………え…?」
「また来るぜ、フィリアちゃんよォ。」
あの男が管理区から消えた後も、わたしは動くことができなかった。そんなことよりも、ヤツの言葉がグルグルと頭の中で回り続けている。
「キリヤといると、しぬ…? …そんな、わ…け…。」
…蜘蛛の巣に絡めとられたような気分だ。ここまで酷い気分は久しぶりだった。
きっと…今日は悪夢を見るに違いない。
「…………だれか、たすけて」