楽しんでもらえると幸いです。
「………。あーもう、どうなってんだこれ!!よくわからんデータが多すぎて調べるのも一苦労だ!」
管理区のコンソールをいじって早二時間、調べものは難航していた。
おそらくSAO開始時点から収集されていたであろうデータでコンソール内は埋め尽くされていたからだ。
「…一旦休憩しようぜ。これ一日中やっても何日かかるか怪しいぞ!二人じゃ無理だって!!」
キリトが座り込む。たしかに時間が貴重な時にこれにかかりきりはアカン。たたでさえ後手に回ってるのに!
「だからといって人数を増やせないのがなー。…一回飯休憩しよう。」
アインクラッドに戻った僕たちは待機していたみんなと軽食をとる。
もきゅもきゅと食事中のストレアを横目で見て、思いついた。なにも全部僕がやらなくてもキリト以外の誰かと一緒に調べればいいじゃない。
…手の空いてそうなのから試した方がいいかな。
「ストレア、コンソールの方やってみる?」
「やるー!なんかたのしそーだし!」
にぱーとおさなげな笑みは、相変わらず彼女の魅力を引き立てている。
ぽやっとした言動も相まって幼い子供を相手にしているみたいだ。
管理区にストレアを連れてコンソールの前に立つと、彼女はキーボードとスクリーンを交互に見てからニコッと笑うと。
カタカタカタカタカタカタッ!!
「……………え??」
僕とキリトが作業していたスピードをはるかに上回るそれに呆然とする。
その光景にフリーズした僕をよそに、彼女は鼻歌を口ずさみながらデータを整理していった。
…カタカタカタカタ、タンッ!
「よし!調べ終わったよ、キリヤー。ほめてほめてー?」
三十分もたたないうちにコンソールを調べ終わったストレアは、こちらを抱きしめてきた。
大型犬がじゃれついてると思えばかわいいものだ。頭をなでるとえへへと嬉しそうに笑う彼女にこちらも笑みが浮かぶ。
「……それで、ホロウ・エリアのことだけど。」
「あ、うん!それなんだけど、これ見て。多分アイテムのデータだと思うんだけど」
彼女が見せてきたのは片手剣のプロパティ。…んん?
「装備要求値から察するに三十層くらいの武器だよね。でも連続攻撃数で攻撃力倍化はまずいだろ!」
「…バランス崩壊もいいところだよねー。ホロウ・エリアでテストされてたみたいだけど、すぐ消去されちゃったみたい。」
「…テストプレイか。ホロウ・エリアはゲストが入れないバックヤードみたいな感じかな。
…。ならどうして僕は入れるんだ?」
素朴な疑問にストレアは悲しそうな顔をした。
「…ここにいるプレイヤーたちはホロウ・エリアが再現したAIなんだけど、プレイヤーの深層心理を探って効率よくテストするためで…。
要するに替えの効くモルモットみたいなものなんだけど、キリヤは高位のテストプレイヤーとして招かれたみたい。」
「よくわかんないことをするからってか?…AIじゃ思い付きの行動はできそうにないし。それに…」
《暗黒剣》も使える。…言ったことはないけど、たぶんこいつ知ってるんだろうなぁ…。前に尾行に気づけなくてふと後ろを向いたら見つけたこともあったし…。
でも本人が言うまでは聞かないでいいか。知ってたとしてもばらすようなやつじゃない。
「で、フィリアはキリヤと違ってテストプレイヤーじゃないみたい。…でも、
自意識が強く芽生えた
「おつかれ、ストレア。…じゃあ、フィリアを探しに行ってくるよ。」
ストレアは疲れてるみたいだし、時間があるうちに行かないと。…その前にアインクラッドに送り届けたほうがいいか。
「ん、わかった。つーかーれーたー、キリヤせおって―?」
「ダメに決まってるだろ!…もう、帰ったら激辛でもなんでもおごるから、自分で歩けって!」
にっこりと笑うストレアにしてやられたことに薄々気づくが、もはや後の祭りだ。
吐いた唾は吞めないということを知って、僕は少しだけ大人になった。
「はーい、約束ね約束!」
ストレアを送り届けた後、大空洞エリアに向かった僕はキリトとともに先に進む。
…たどり着いたのは、どこか近未来的な雰囲気の漂う遺跡だった。
出てくる敵も非生物型のゴーレムやスライムで、こいつらがかつてここで造られていたことは明らかだろう。
「SAOのゴーレムってだいたい《大地切断》以前の遺物って設定だよな。
ならこいつらも大昔の人間が造って、そのまま放置されたのかもな…。」
ゴーレムを倒したキリトの独り言に足を止める。キリトがそういう設定のことを気にするのは珍しい。
「ここってそういう設定守ってんのかなぁ?
さっきストレアが言ってたけど、ホロウ・エリアってテストプレイ用のエリアらしいぞ?」
「へー。じゃあここのエリアのボスってどんなんだと思う?俺はでっけー多腕のゴーレムだと思うぜ!
阿修羅みたいな感じでロマンがあるやつ!」
それむっちゃ強いやつじゃん。やだよそんな隙がなさそうなやつ!
「僕としてはスライム系とか、研究者の成れの果てのゾンビとかじゃないかなと思うんだ。
それも複数人が混ざり合ったキモイの。腐りはてたせいで境界がなくなってるやつ」
たわいもない話をしながら遺跡の仕掛けを作動させていく。
この大空洞は三つのエリアに分かれていて、僕たちが今いる上層でロックを解除していかなければいかないらしい。
…わかりにくい場所にあるわけではないのが救いではあるか。
三つのスイッチを押すと、なにかしらが起動したようなSEが鳴る。
「…さて、一旦戻ってみよう。今ので多分中層が解放されたんだ、ここに長居することはない」
僕は上層に行ったときに使用したワープ結晶の方角へ歩き始める。その後ろをキリトが続いた。
「そうだな。POHたちは上層にいなかったし、いるとしたら奥深くだろ」
ワープ結晶のところに戻った僕は中層にワープをしようとして、手が止まった。
なぜならば。
「…中層どころか下層まで一直線に行けるようになったんだけど。ガバくない?」
てっきり連中が最下層に陣取っていることも視野に入れていたが、これじゃ逆にどこにいてもおかしくないぞ。
「…どうするキリト、どっちから行く…?」
キリトはうーん、と悩みながら、ホログラムの下の方を指さした。…つまり、下層だ。
「どっちにしろ行くんだったらまずは遠いとこに行ってみようぜ、キリヤ。
中層と同時に解放されたっていっても、何かアイテムが必要になるかもしれないけど、それがわかるだけでも十分だ。」
「おー…ちゃんと考えてるんだな。まあ行くだけならタダだし、善は急げだ。」
そこで僕たちを待っていたのは、POHやフィリアたちではなかった。
…まさか、こんな場所で
運が良いのか悪いのか微妙なラインだぞ!?正直言って今見つけたくはなかったわ!!
「………。ストレアつれてこよう。」
「俺たちじゃ時間がかかるしな…。負担をかけるのは申し訳ないとは思うが、適材適所ってことでもうひと頑張りしてもらわなきゃ。」
キリトとストレアを入れ替え、彼女がコンソールを調べ終わるのを待つ。
「…!キリヤ、このログ…!」
彼女が見せたのは、とあるエラーの記録だった。
それは僕の知りたかったことで、その答えはフィリアを絶望の中から引っ張り出せる希望だ。
「!! よくやったストレアァ!!」
「エッヘン、どんなもんよキリヤ! これであれこれ悩む必要はなくなったよね。…さあ、フィリアを助けにいこうよ!!」
拳を突き上げたストレアは、少しだけふらついた。
コンソールの高速操作はさすがに疲労が溜まるらしい。あんなスピードを出すなら集中力はかなり必要だろう。
「…っとと、これ以上はちょっとムリかな…?…フィリアのこと、まかせていーい?」
「任せろ! ちゃんと帰ってくるし、助けるよ!」
笑顔でそう返すと、ストレアは安心したのかほとんど気絶したように眠ってしまった。
…あれ、これ僕が運ばないといけないやつだな…? …戻ったらアスナさんにまかせた方がいいか。
女の子をおんぶで運び続けるのは勘弁してほしい。
アスナさんにストレアを預け(なお、彼女は熟睡中のストレアに呆れた顔をしていた)、キリトとともに中層の探索を始めると粘つくような殺気を感じた。
ため息をつきながら殺気の方向を指さし叫んだ。
「出てこいよ、モルテ。そこにいるのはわかってるんだ!!」
…目の前に片手斧を持った男が立ちはだかる。
「アハァ…。やっぱり《
ボスの
キリトが剣を抜く。
「…キリヤ、先に行け!! …こいつは、俺が倒す!!」
「………すまん、任せた!」
僕はダッシュでモルテの横を通り抜けようとするが、ヤツの斧が僕に襲い掛かる。
「通すと、思ってないですよねェ!!!」
キンッ!!
キリトの剣が斧を受け止めると、無理矢理鍔迫り合いに持ち込んだ!
「…早くいけ!! こいつを片付けたら、すぐ助けに行く!!」
「おう、死ぬなよ!!」
キリトとモルテが戦っているうちに、POHを見つけて倒さなければきっとフィリアは殺されてしまう。
もう遠慮はしない、今の僕と『オレ』の全力でラフコフと決着をつけてやる!!