ソードアート・オンライン 暗黒剣の使い手   作:シャザ

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 難産でした。その分文字数も増えたけど、楽しんでくれると幸いです。


第3話 戦いの始まり

 …あのチュートリアルから一ヶ月が経過した。未だに全てのプレイヤーははじめの階層から進むことができていない。それどころか既に、一万人近くいたはずのプレイヤーは八千人まで減った。

 既に二千人もの人間が死亡したという事実は、プレイヤーたちの心に深く影を落としている。

 

 キリトの誘いは、結局断ってしまった。もし誘いに乗ったとしても、お荷物になるかもしれないと一瞬でも思ってしまったからだ。

 キリトには申し訳ないと感じたが、もし組むならば経験値ではなく僕自身がキリトとの二か月分の差を埋める何かが必要だと思った。ならば今は何をしているかというと、あるプレイヤーの下で手伝いをしている。

 

 一か月前、僕は宿屋で偶然あったその人の仕事に感銘を受け、弟子にしてくれと頼み込んだ。その仕事とは、情報屋。SAOにおいて情報は生存率に直結する。なにも知らない状態のビギナーとベータテスト経験者ではその差が命を落とす原因になりかねない。しかし、()()は違った。彼女は玉石混交であろう情報を集め、検証し、正しい情報にして攻略ガイドにしていたのだ。

 しかも、そのガイドも初版以外無料配布するというサービスぶり。ただ一つの情報以外ならば、彼女本人に依頼すれば(多少ぼったくられる可能性もあるが)手に入る。僕はそんな彼女、鼠のアルゴに情報屋の基礎やルール、あるいは犯してはならないタブーを彼女の時間が許すときに学び、彼女の仕事にもついていった。

 手伝いというのは、彼女が発見した何度も受注可能なクエストを宿題のようにした配布前のガイドを手に、それをクリアすることだ。これをビギナーの自分がクリアすることで、ある種の保証が付く。ビギナーでもこの情報があれば安全に攻略できるという保証。ビギナーの不信感を少しでも減らすためである。

 

 現在彼女は、ベータテスト時のデータを基に、フロアボスの攻略本を執筆している。どこからそんな情報を手に入れたのかはなんとなく察するが、まあそうだろうなとは思うも詮索するのはダメだ。言いたくないことなんて誰にでもある。

 彼女が住み着いている宿屋へ行くと、ロビーに見たことのない男がいた。なんかトゲトゲしたあたまのそいつは、頭を見ていたこちらに気付くと、

「なんや、みせもんちゃうぞ!」

とキレて来た。…とりあえずこっちが悪いなと思い、謝罪する。

「すんませんでした。」

「ふん、わかればええわ」

 トゲ頭はふんっと鼻をならして宿から去っていった。…とりあえずアルゴの部屋に行こう。

 

 彼女が借りた部屋に行くとちょうど外へ行く準備中だったようだ。地味なレザー装備ではあるが、頬についた三本ヒゲのようなペイントと金褐色の髪はなかなかかわいいと思う。

「キリヤ、今から出かけるゾ。ついて来るカ?」

「今さっきサボテンの擬人化みたいなやつとすれ違ったんですけど、あいつ関連ですか?」

「……そうだヨ。これから仕事なんだが…メッセンジャーダ。あんまりためになるとは言えないシ、ついてくるならそいつのことは黙っておいてくレ」

 …無茶苦茶嫌そうな顔をするアルゴだが、危険なことをするわけではなさそうだ。

「僕もついていきます。自分が知ってる人ですか?」

「うん、キー坊」

「…キリトか。なんか面倒ごとに巻き込まれたのかな」

「ここトールバーナで初のフロアボス攻略会議が開かれル、多分キー坊は参加するはずダ。会議が始まる前に話しとくカ」

 

 トールバーナの北門へ行くと、キリトとフードを被った人物(線の細さから女性だろうか)が町に入るのがみえた。彼らは一言二言会話をすると、フードの人はキリトとは別の方向に歩いて行った。

 キリトはフードの人を見ながらなにか考えていたようだが、いつの間にかアルゴはキリトの後ろに周りこみ話しかけていた。

「…不思議な女だヨ。あんな無茶してるのに死ななイ。技のキレは一流のそれだガMMOに慣れているわけでもなイ。キー坊は()()()()()()()()()()()やろうとは思わないだろウ?」

「しないよそんなこと。あの細剣使い(フェンサー)のことしってるのか?」

 キリトの質問にアルゴはニヤリと笑うと五本の指を立て一言。

「五百コル」

キリトは前に罰ゲームで青汁を飲んだ時と同じくらいの渋面をすると、話の内容をそらすように変えた。

「そんなことより、今日もいつもの代理交渉だろ?」

アルゴも渋面になり、キリトを路地へ移動させる。

「…二万九千八百コルまで引き上げるってサ」

「何度言われてもNOとしか言えないよ」

「……だよナァ。ちゃんとオレっちもそう言ったのにナー。もうめんどくさくなったから諦めてくれないかナ」

 

 どうやら、なにかを買い取ろうとしているらしいが、余りキリトは乗り気ではないらしい。三万コルはかなりの大金だが、そこまで渡したくないんだろうか?

「あのさ、興味本位で聞くけど、なにを買い取りたいんだその人」

キリトはあっさり答える。

「俺の《アニールブレード+6》」

「……なんで?たしかにレア武器ではあるけどそれクエストの報酬(リワード)だから頑張れば誰でも手に入るのに…」

「そうなんだよ。そんな大金があるなら、貯金して三層四層あたりで武器更新するほうが早いと思うんだが…」

 明らかに怪しいので、相手も無理を承知で交渉している。

「口止め料千コルか…。…千コルかぁ!こんなバカの名前を知るために千コルも払うのはなぁ」

「相手側が上乗せしたらさらにドンッ!だゾキー坊」

「やめとく。これ以上は不毛だって相手に伝えといてくれ、アルゴ」

「んじゃまたナ、キー坊。次の仕事が本業ならいいんだガ。キリヤ、行くゾ」

「はーい。んじゃ今度は会議で会おうなーキリト」

 

 午後四時、トールバーナにある噴水広場には、僕を含めて四十五人のプレイヤーがいた。急にハイレベルプレイヤーを集めた割にそれなりに来たと言っていいのではないかと思う。

 この四十五人がどうなるかによって、今後の攻略がどうなるかが決まるだろう。

そこに現れたのは、騎士のような格好の青年だ。かなりのイケメンである。

「よっと、それじゃそろそろ始めようか!今日はオレの呼びかけに応じてくれてありがとう!オレはディアベル!職業は、気持ち的に騎士(ナイト)やってまーす!」

 …なかなか愉かi、じゃなかったユーモアのある男らしい。他の参加者も好印象を抱いたようだ。ちなみにSAOに職業システムはない。

 

「前置きはこのくらいにしといて、今日みんなに集まってもらった理由は一つ、今日オレたちのパーティーが、()()()()()()()()()

…ここまで一か月もかかってしまったけれど。オレたちはボスを倒して証明しなくちゃいけない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って!そうだろ、みんな!」

 喝采が巻き起こる。我の強そうな連中をここまで団結させられるあたり、リーダーの素質が彼にはあるようだ。が、その雰囲気をぶち壊したのは、なんか聞いたことある関西弁だった。

 

「ちょお待ってんか!」

そう、サボテン頭である。自分の視点から見ると大金を無駄遣いしようとしている残念な男だ。ディアベルは無視せず、普通に対応した。

「はい、どうしたんだい?…えーっと……?すまないが名前は?」

「わいはキバオウってもんや。ちょっと言わなあかんことがあってな、詫びいれんとあかん連中がおるんや!」

「詫びかい?()()()()()()()?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 それまで乱入者にざわついていた四十人弱は全員黙り込んでしまった。キバオウの主張は続く。

「こん中にもおるはずや!こんクソゲーが始まった日、ビギナー見捨ててウマい狩場やらボロいクエストに直行したクズが!貯め込んだ金とアイテムだして土下座せえ!それが誠意ってもんや」

 

 ……出てくるわけねえだろそんなこといっても!しかも、その言及には、()()()()()()()()()()。指摘しなければ気が済まない!

 怒った僕が立とうとした時、端っこに座っていた巨漢が

「発言、いいか?」

と言葉を発した。濃い肌色と堀の深い顔の彼は、日本人離れしている。

「オレの名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことは、ベータテスターが見捨てたからビギナーが多く死んだ、だから責任をとって謝罪しろ…ということだよな」

「そうや、合っとるで」

「もしあんたがその、自己中心的なベータテスターだったとして、だ。何か一つ独占できるとして、なににする?…オレなら()()()()()()を独占する」

「は?なにを…」

「あんた、こいつは持ってるよな?《アルゴの攻略本》。無料配布していたはずだ」

 あ、この人()()()()()。なら自分の出る幕はないな、座っとこ。

「もろたで。それがどうしたんや」

「新しい町に来た時道具屋に置いてあったよな?情報が早すぎると思わなかったのか。

…オレは、これに載っている情報を提供したのは、常に先を行っていたベータテスター以外ありえないと思う。…情報はあったんだ。二千人が命を落としたのは、このSAOをほかのMMOと同じ様に計って、引き際を間違えたんだ」

 ああ、完璧に論破した。割り切れるものではないけれど、これで一応理解してくれたかな。

「キバオウさん、君の言いたいことはわかったよ。でも今は前を見るべきだ。ボス攻略に元ベータテスターの人たちg「ディ、ディアベルさん!」…どうしたんだい?」

話を切った男はディアベルに冊子を渡す。

「こ、これは…ボス編の攻略本!?君、これをどこで?」

「広場のNPC露店にいつの間にか入荷してました!」

「……。ボスの名前、使用ソードスキル、推定HP、被ダメージ、取り巻きの情報まである…。けど、数値的にヤバい感じはない、か?」

「…ん?ちょお待てや!これ、データがベータテストん時のとか書いてるで!?あの情報屋誰がベータテスターか知っとる、いやあの女がベータ上がりや!話を聞かんとなあ!」

 

 !!? 会議の前、僕が貰った方の攻略本にはそんなの載っていない。アルゴの方を向くとどっかに隠れたようで姿がない。火種を撒くだけ撒いてトンズラはひでーぞあの女!

みんなアルゴを吊し上げる気満々になっている。これはまずいと思い声を上げようとして、

「…今は、感謝以外に何をするというの?」

フードを付けた少女の、鈴のような声で熱狂が霧散した。キリトと一緒に行動していた人だ。

「……その子の言う通りだ!オレたちの敵はフロアボスだ、今はこの情報に感謝しなくちゃ。

このデータがあれば危険度が高い偵察戦を省ける。死人はゼロにするさ!もし情報に漏れがあったとしても…オレはみんなを護りきってみせる!騎士の誇りに懸けてだ!」

 こいつすごい。物語のヒーローか何かかよ。

 

 そしてディアベルはレイドの構成をするためにパーティーを自由に組めと指示した。ただ、こんなとこに来るのはだいたいパーティー単位でつるんでいる連中が多い。

あぶれるやつはどこにでもいて、SAOは六人でパーティーが組めるので、四十五をこれで割ると七組出来て三人余るのだ。……つまりどーいうことかといえば。

「…あぶれたね」

「……俺、ソロだし。だから悲しくねーし…」

「………」

 こ う な る 。

上から順に、僕、キリト、名前を知らない女の子である。気まずいよこの空気…。

「……とりあえず組まないか二人とも」

「…あなたが申請するなら」

「もちろんいいよ。ちょっとの間よろしく」

 こうして僕らはパーティーになった。僕とキリト、アスナ(ボス戦後に教えてくれた)は、ちょっとどころかそれなりに長くパーティーを組むが、それは別の機会にするとして。

 

 ディアベルはこのパーティーが三人しかいないことに気づき、

「申し訳ないけど、取り巻き専門のサポートをしてくれないか」

と僕らに提案してきた。…まあしょうがないと僕とキリトは納得したがフェンサーの少女は納得できないようだった。 

 ボス戦は明後日の午後から。つまり明日は調整や休息に当てるべきだ。

 少し彼女と話してみるとパーティー戦闘に関しては素人(つまり今までMMOすらやっていないかもしれない)だったので明日はパーティー戦闘のイロハをレクチャーすることになった。

 

 次の日、なんかついてきたアルゴと一緒にキリト達と合流し、パーティー戦の胆である《スイッチ》や《ポットローテーション》の練習をした。

明らかに少女の様子がなんか変なのでアルゴに聞いた(千コル取られた)ら、キリトがアーちゃんにラッキースケベをやらかしたらしい。…すごくそのドタバタ見たかったなあ!

「ところでアーちゃんとは誰のこと?…なんとなくわかったけど」

「あのフェンサーのことサ。オ、今アーちゃんが持ってる剣、あれ《ウインドフルーレ》ダ、いい武器だヨ」

「そっかー。アーちゃんさんか、僕もそう呼ぼうかな」

 

 そしてボス戦当日。迷宮区ボス部屋前に僕らはいた。ディアベルが演説した直後にキリトが質問する。

「…もし、ベータテストからボスの仕様変更があったら、アンタはちゃんと撤退の指示をすると、思っていいんだな?」

「もちろんだ。でもシミュレーションは何度もやった、()()()()()()()()()誰も死なせない!」

 キバオウはキリトに嫌味を言う。

「ふん、こんなやつ相手にせんでええわディアベルはん。あんさんの指揮を知らんからそんなこと言えるんや。

女と遊んでたやつらが偉そうに口出すんやないで!」

「大丈夫だ!望みうる最高のレイドが組めたんだ。もうこれくらいしか言うことがないな… 勝とうぜ、みんな!」

 

 ボス部屋内部に突入した僕らを待ち構えていたのは、三体の護衛コボルドとその主君、

《イルファング・ザ・コボルドロード》だ。

…なんてプレッシャーだ!殺意にびびったレイド部隊にディアベルは叫ぶ。

「メインウェポンは骨斧、サブウェポンは湾刀(タルワール)!《番兵(センチネル)》が三体だ!

…全て情報通り、いけるぞ!オレに、続けええええ!!」

その声を聴いたプレイヤーは萎縮から解き放たれ、ボス戦が始まった。

 

 

  後に、僕は悟る。この戦いがターニングポイントだったということに。全ての因縁の火種がここにあったと気づいたのは、SAOが終わってしばらくたってからのことだった。

 

 

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