ソードアート・オンライン 暗黒剣の使い手   作:シャザ

30 / 43
第三十話 VS笑う棺桶・中

<SIDE:キリト> 

「…ッ! はぁっ!!」

 

 キリヤが先に進むのを横目で見て、俺はモルテを吹き飛ばす。

 モルテがプレートアーマーでフル武装しているならともかく、相手は俺とそう変わらない軽装だ。

 筋力パラメータ任せに力いっぱい押しこめばそれなりにふっとばせる。

 

「―ちッ! あーあーあーあー! よくもやってくれましたねーキリトさァん!

このままじゃボスのお楽しみが邪魔されてこっちが殺されかねないじゃないですか!!」

 

 モルテがわめきたてているが、その言葉とは裏腹に、その目は刃物のように冷たくギラついている。

 油断も隙もない、殺人鬼の目。油断できる相手じゃないし、全力で潰すか。

 

 俺は、クイックチェンジで二本目の剣を呼び出した。…その白銀の剣は、まだ鞘の中に納まっている。

 おそらくモルテは、武器を落とした時の予備か何かだと思ったのだろう、ヘラヘラ笑っている。

 

「そーいう小技、自分は嫌いじゃないですねー!でーもー、そんなこけおどしがラフィン・コフィンに通用するって、マジに思ってます??

努力は認めますケド、攻略組が日和ってんのはどーなんですかァ?」

 

「そういう安い挑発には乗らないようにしてる。」

 

「ハッ…そうです、かッ!!」

 

 やつが投げたのは、なにかが塗られた投げ針だ。まず間違いなく麻痺毒なので剣で弾きながら切り込む。

 《ソニック・リープ》がモルテの突進系ソードスキルとかち合い、再び硬直状態に陥る。

 ……が、俺はすかさず次の手を打つ。体術系スキルの初歩、《閃打(センダ)》がヤツの腹に突き刺さったッ!

 

「が、ァ…ッ!?」

 

「隙あり!!!」

 

 相手の武器を払い、《シャープネイル》の三連撃がモルテを襲う。

 が、モルテはニヤリと笑う。その笑みに俺は気圧されてしまった。

 

(…ッ!!? なにかこの状況で逆転できる技があるのか? それともブラフか!?) 

 

 集中が乱れたせいで《シャープネイル》の最後の一撃が外れてしまい、俺は動揺する。

 …そして、それを見逃すほどモルテは甘い男ではない。

 

(!!! しまっ、た…!!)

 

「………キヒッ! 隙だらけですよォ、キィリトさああああん!!!」

 

 再び飛んできた投げ針をギリギリで弾くが、手斧の三連撃スキルが俺の体を抉り、吹き飛ばす。

 …HPが半分を切り、危険域のイエローに変わるのを見ながら後悔した。

 

(…ちくしょう。三層で同じ失敗をしただろう、何度も同じ失敗して学習能力がないのか。

ああ、油断していた。ダメだ、勝てる気がしない…。)

 

 マイナス思考で視界が黒く濁っていく。…もう、いいんじゃないか?

 そんなことを考えながら壁に寄りかかろうとして、自分の背中にあるソレを思い出した。

 

 ………なんで忘れてたんだろうか。…まだ俺には、できることがあるじゃないか…!

 まだ、立てる。まだ、剣を振れる。戦え、戦え、戦え!!!

 

「あーあ。なんであきらめないんですかねー。もう少しで楽に殺せたんですけど?」

 

 左手に持った《ダークリパルサー》をモルテに突きつける。右手には《エリュシデータ》を構え、ヤツを睨む。

 

「オマエなんかに殺されるかよ。かかってこい、そのにやけ顔すぐに消してやるよ!」

 

「そんなこと言って、剣二本持ちじゃソードスキルが使えませんよォ?

そのぐらいビーターのキリトさんなら知ってるはずですよねェ!?」

 

 そう、その通りだ。…だが、例外は存在する。

 ………チャンスは、一瞬。ヤツがソードスキルを使う瞬間のカウンターだ。

 

「―――シャァッ!!!」

 

(……ひきつけろ、ソードスキルを早く発動すれば気づかれる。

遅ければ今度こそ俺は殺されるだろう。だが、こういう部の悪い賭けは…嫌いじゃない!)

 

「おおおおお!!!」

 

 両手に持った双剣が眩い光を放つ。

ユニークスキル《二刀流》突進系ソードスキル、《デュアル・サーキュラー》がヤツの斧とぶつかり合った。

 一瞬の膠着の後、粉砕されたのは斧だった。白と黒の双剣は斧を破壊したその勢いのままモルテの身体を切り裂いた。

 

「ガアアアアアアアアッッ!!!??」

 

 モルテのHPがすごいスピードで減少していく。

 

「まだ、だぁーーーー!!!」

 

 ヤツが投げ針を掴もうとするのを、回転斬りで両腕を斬り落とすことで阻止する。

 

「…俺の、勝ちだ。」

 

 モルテのHPは赤ゲージになるギリギリだが、放っておけば欠損ダメージで死ぬだろう。

 だが、俺は…この男と話がしたかった。たとえコピーだとしても、この男が俺がかつて戦った相手ではなくてもなぜPKになってしまったのかを知りたかった。

 

「…なあ。なんでPKなんかやってるんだ。」

 

 モルテは目を丸くする。…その様子は、どこにでもいる普通の若者だった。

 

「………あー、こっちの質問に答えてくれるんならいいですヨ。」

 

「なんでもはムリだけど、答えられる範囲なら。」

 

「………そっちの自分ってどんな死に方したんです?」

 

「…落下死したよ。」

 

 正直に言うと、モルテは満足そうに笑った。

 

「プッ、アハハ!…なら、自分は本物よりいい死に方ですねえ。

そんなマヌケなくたばりかたごめんですもん。」

 

「…俺は答えたぞ。今度はそっちだ」

 

「………そりゃあ……、まあ本物のコピー(ホロウ)だからっていうのもあるんですが。 

 こっちの世界のボスが、人を殺すのを見たとき…こう、ビビッときたんですよ。

 『ああ、自分が求めていたのはこれだ!』って。あんなカッコイイPKを見ちまったら、土下座で教えてもらうしかないじゃないですか!」

 

 …POHの殺しの業の完成度は異常だ。

 SAO正式サービス以前から人を殺していたんじゃないか、という有り得ない想像をしたこともあるほどに。

 

「…同情の余地はないな。…俺は、好きで人を殺したことはない。

おまえがどんなヤツでも、POHに憧れて殺戮したことはとてもじゃないが…許されることじゃない。」

 

「……キヒッ。理解はしなくていいですよォ…。自分は好きに生きただけですから…ねェ!!!」

 

 モルテが両腕を失った状態でこちらに飛び掛かってきた!!ヤツの狙いは…首筋だ。

 プレイヤーの嚙みつきがダメージ判定を出すのかなんて知らないが…その執念だけは認めなければいけないだろう。

 

「おおおお!!」

 

 右手に握った剣が、モルテの心臓を貫く。その瞬間、モルテのHPはゼロになった。

 モルテが砕け散る瞬間、ヤツは耳元で囁いた。かなり小さい声量だったが、間違いなくこう言った。

 

「……いい決闘(デュエル)でした、ありがとう。」

 

「!!?」

 

 モルテが消滅した後も、俺は呆然と立ち尽くしていた。

 …たとえコピーだとしても俺はモルテを殺したのだ。恨み節や呪詛を言われることはあっても礼を言われる筋合いはない。

 ………首を振って思考を中止してから、ダンジョンの奥へ歩き出す。

 

「……先に進もう。キリヤが心配だ。」

 

 だが、足取りは遅い。………大丈夫だ、まだキリヤは生きてるはずだ。

 二人がかりでならPOHだって倒す…ことはできなくても全員生き残ることはできるはずだ。

 だが、キリヤとPOHは相性が最悪だ、早く合流しないと殺されてしまう…!!

 

「間に合ってくれよ……!!」

 

 

<SIDE:フィリア> 

―モルテとの決闘(デュエル)から少し時間を遡る。

 

「…さあ、今すぐキリヤのところに行かせて!あ、アンタなんかこわく、ない・・!」

 

 …わたしは今、殺人鬼と向かい合っている。

 あの時、こいつがあの二人を地下に叩き落としたのを見て、わたしは後悔した。

 こいつの口車に乗ったのは間違いだったと気づけたのは、幸運だったかもしれない。

 このままこいつを手伝っていたらきっと取り返しのつかない罪を犯していた。

 

「あ?あー………死んだよ。」

 

 殺人鬼は、希望を嘲笑った。

 

「え…? は、話が違う!!死ぬわけじゃないって…このうそつき!!」

 

「あそこには何人か落としてみたんだがなァ、誰も戻ってこなかったのを忘れてたぜェ!!

そういや言ってなかったか、ククク…ヒャーハハハハハッ!!!」

 

 キリヤの顔を思い出す。記憶の中で楽しげに笑う彼に、もうあえない…?

 ………いやだよ、そんなの。

 

「なァ、そんなショックか?アイツらを殺したのはおまえだぜェ!!」

 

「やめ、て…おねがい………」

 

 ガスッ!

 

 腹を強く蹴られ、わたしはせき込んだ。

 

「よくねェなァ!そういうのはよくねェヨ…!

お ま え が 殺 し た ん だ ぜ ? 責任を取らずに逃げんのはよくねーよなああああ!!!」

 

 そのまま何度も踏みつけられる。………抵抗する気がおきない。

 ごめんね、キリヤ。わたし、もう…無理かも…。

 

「はあああ………もういいや。抵抗しないどころか声もあげないカスを痛めつけても楽しくネー。

(バラ)すか。もう必要ないし、なァ。」

 

 胸倉を掴まれ、殺人鬼が私の首に包丁を突き付ける。

 

(…ころされる。いやちがう、データが消されるだけだ。このホロウ・エリアでは日常的におきていることだ。

ここでホロウが惨たらしく殺されても誰も気に留めない。)

 

 ………いや、キリヤは多分、ホロウが殺されかけてるのを見たら助けに行くに違いない。

 偽者だとわかっているのにディアベルを助けようとした彼なら。

 

「……………け、て」

 

「ア…?なんか言ったか?」

 

「たすけて、キリヤ。」

 

「……………。来るわけねェだろバアアアアアアアアカ!!!!」

 

 斬り落とされた。

 

「………ア?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………よお、クソ野郎。随分楽しんでたみたいだなぁ、え?

『オレ』の仲間に手ェ出したんだ…ぶっ飛ばされる覚悟はしてるよなァーーー!!!」

 

 

 絶望的状況を覆すために英雄(ヒーロー)がきてくれた…最期に見る夢にしてはいいものだなぁとぼんやりしていると、倒れていたわたしは持ち上げられた。

 

「………フィリア、遅れてごめん。ちょっとあのカス斬ってくるから少し休んで。」

 

「え、コレゆめじゃないの??」

 

 お姫様抱っことか現実で起きるわけないじゃんと思ってたけど、それはまちがってたみたい…。

 彼のかおをじっと見てるとなんだか恥ずかしくなったので殺人鬼の方を見ると、『なんで生きてんだこいつ』とでも言いたげな顔をしている。

 

「おいおいおい、どうやってあの場所から生き残った!?最悪でサイコーだぜ暗黒騎士サマよォ!」

 

「おまえ、本物より悪だくみが杜撰だよ。なに考えてんだ」

 

「ククク…PARTY(パーティ)だよ!!文字通り、ホロウとプレイヤーの全てを入れ替えるのサァ!!」

 

 …え?? 何言ってんのこいつ。

 

「―なにを見つけたんだテメーッ! ぶっちゃけ嫌な予感しかしないんだが!?」

 

 

 …SAOがクリアされてからも、あの時の恐怖が薄れるのは時間がかかった。

 まさか、S()A()O()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、あの時のわたしは想像もしていなかったからだ。

 




<ホロウ・モルテ>
 キリトとの戦いで死亡する。
 ちなみにキリトが二刀流を使ったとき大興奮していたようだ。

 ホロウ・モルテにとって殺人は手段の一つであって目的ではない。
 彼の目的は自身の剣技を極めることであり、POHを少しでも理解するためにほかのホロウを狩っていた。

 SAOが普通のゲームで、PVPできる闘技場があったら入り浸ってたかもしれない。


 はい、キリトVSモルテ、決着です。
 POHとの決着は次回。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。