POHは右手を見せびらかしながら、自身の計画をしゃべりだした。
「テメーも持ってるんだろう、こいつをな。」
『オレ』の手に現れた紋様と同じ形が現れる。
「高位テストプレイヤーに与えられるアクセス権限、だろう?
どうせろくでもない理由でもらったんだろうが。」
「ああ、ホロウどもを殺しまくってたらなんか貰ってなア。
まあ、そこはどうでもいいんだ………楽しいのはここからさァ!!
オレはこいつを使って管理区に潜り込んで…この世界が何なのかを知っちまったんだよ!!!」
…こいつ管理区に侵入してたの? こっっっわ!!
ここ最近で一番恐怖を感じたんだけど!!?
ぽ、ポーカーフェイスだ、動揺を隠せ…っ!
「そ、そうかよ。それがどうしてホロウ・エリアとアインクラッドの入れ替えなんて話になるんだ。」
「オレはずっと殺しがしてェだけなんだよ。クリアなんかされてみろ、消されちまうじゃねーか。
そこで考えてみたんだよ、
プレイヤーを進行不可能にしてしまえばいい」
「………は?」
…バグらせるってこと、か?………いや、入れ替え…。
「………まさか、そんなことできるわけ………!」
「できちまうのさァ、これが。
この世界はあくまでアインクラッドのために存在しているわけだが、ここで問題ないと判断された新しいシステムやアイテムはあちらにも実装される。
オレは見つけたのさ…管理区の奥深くに、ホロウ・エリアのシステムに干渉できるコンソールをなァ!!」
最悪だ…!つまり、こいつがやろうとしているのは!
「ゲームのアップデートか!プレイヤーとホロウの入れ替えはあくまでもアップデートのオマケなんだな!?」
「正ェ解だぜ!よくわかったな、報酬は《
ふざけたことを叫びながら、POHの《
…互いの武器がかち合い、鍔迫り合いが起きた。
(クソッ!! ヤツの武器は短剣カテゴリだ、両手剣と鍔迫り合いできるなんてふざけてんのか!!)
ヤツの武器《
プレイヤーを殺せば殺すほどにその切れ味を増す、『オレ』の知る限り最悪の魔剣。
POHにとっては最高の得物だ。ヤツの武器は、やろうと思えばプレートアーマーごとこっちを断ち切れる…かもしれない。
「ハッハアアアッッ!!!どうした、反撃しねェのか!?」
POHとの戦いは、あちらの有利に進んでいた。
理由は単純に、ヤツに攻撃が当たらない…。
(『オレ』の攻撃はパワー重視だ。《暗黒剣》のバフ込みでも攻撃の軌道が読まれてたら意味がない)
ぞわり。
「っぶね!!」
いきなりおぞけが走り、本能のままにヤツの攻撃を回避する。
(………
ここまで直感が鋭くなったのは『オレ』の理性よりも本能のほうが強いからだ。ただ、狙いがガバってるせいで軽装のPOHに攻撃が当たらない…。
……『僕』ならヤツに当てられるか…?いや、正直あの攻撃を避けられる自信はないぞ…)
「おいおいおい、さっきから見てねーで避けるんじゃねェよ、暗黒騎士。」
「お互いさまだろうが、殺人鬼」
……ちょっと試してみるか。思い付き、付け焼き刃だがやらないよりマシだ。
ヤツの攻撃を『オレ』が避け、『僕』がPOHに攻撃を当てる。
人格の《スイッチ》とでも言うべきか。
「………来いよクソ野郎!その首落としてやる!!」
やけくそ気味に挑発し、ヤツの攻撃を誘う。
…本物のPOHならまず間違いなく無視するし…そもそもこんな正面からの殺し合いは絶対しない。
だがこいつは、ホロウ・POHからは、悪のカリスマを感じた。なめられたらぶっ殺すだけのプライドを感じた。
―きっと乗ってくる。似たような熱は、
「は、ハハハハハッ!!!イイねェ、サイコーだぜ!!イッツショウタァーーイム!!!」
さあ、やろうぜ。
「おおおお、らァーーーー!!!」
ヤツの攻撃を躱し、『オレ』は僕に切り替わる。
(頭部、警戒されてるな…!ここは、足を止める!!)
後ろに跳躍しようとするPOHの足を踏みつけ文字通り足止めする。
…
「て、めェ…ッ!!」
POHの鬼のような形相に、思わずニヤリと笑う。
「その顔が見たかったぜ。これでぇ、終わりだあぁーーー!!!」
剣が漆黒のオーラを放ちながら、POHの身体に五つの致命傷を与える。
《暗黒剣》専用スキル、《ドレッド・ブレーズ》がPOHを打ち砕いた!!
…身体を文字通り粉砕されたPOHの顔は、先ほどキレていたとは思えないほどに晴れやかだった。
「……あ~~~~あ……まあ、いいか…。」
POHが爆散するのを見届けてから、僕は座り込んだ。
「つ、つかれた…。」
疲れて倒れそうな僕を、フィリアが心配そうに見つめている。
「………キリヤ。」
「…………ケガはないか?」
「………だいじょうぶ。…キリヤ、なんで助けにきたの?わたし、ホロウなんだよ…?」
「―フィリア。それは、違うよ。きみはホロウじゃない、僕と同じプレイヤーだ。」
「………。」
困ったような顔でフィリアはこちらを見つめている。
信じたいが話を聞くまで信じられないほど、彼女の心は弱っているのだろう。
「そこ座んなよ。説明するからさ」
暗い顔の少女に、先ほど知った事実を伝える。
「このダンジョンの地下に、コンソールがあった。
エリアごとのログでいっぱいだった。………八月の樹海のデータも残っていたよ。」
「八月の、樹海…。わたしを殺した時のこと?」
「…前提として、ホロウと本物のプレイヤーは出会うことがないらしい。
僕がホロウ・エリアの管理区に入った瞬間、どこかにいる僕のホロウは万が一遭遇してイレギュラーが起きないように一旦消されているらしい」
「なら、どうしてあんなことが起きたの?ホロウのわたしが本物を殺しちゃったからバグったってこと?」
「いや、そもそも殺してすらいないんだ。フィリアは自分のホロウを攻撃して
ホロウ・エリアはそれをみてホロウを急いで削除したけれど、本来起きるはずのない出来事が重なって、フィリアのデータがエラーを吐いていると判断した。
フィリアとホロウが出くわしてしまった原因は重要じゃない。問題なのは、ホロウ・エリアがどちらをオリジナルと判断したかだ。」
「………それ、って…。」
「ああ。だから、フィリアは人殺しじゃないし、そもそも
フィリアの目に涙が浮かんだ。
「わたし…この世界に来てから、自分が何者なのかわからなかった。
アインクラッドから放り出されて、自分と同じ姿に出くわして、わけもわからないままさまよって。
…そんな時に、キリヤに会ったの。…あのときはごめんね?」
「………いやー、いま思い出しても酷い出会い方だったよな…。
デッドニング・リーパーが来なかったらたぶんあのまま戦ってたよ。」
「そうだね。…キリヤとの冒険は、すっごく楽しかった。
居心地がよくって、でも…いつか別れが来るんだって思ったら、こわかったの。」
「…………『オレ』も楽しかった。
あんなに心置きなく冒険したのは久しぶりだったし、ホロウ・エリアを冒険し終えた後フィリアをどうにか攻略組に引き込めないかと思ってたぐらいにはさ。」
フィリアはにへっと笑顔になった。
「そっか、そっかー…、えへへ、なんだかうれしいな。…で、これからどうするの?」
「……とりあえず、もう一度コンソールを調べてヤツがいじったアップデートを阻止する!!」
部屋の外で待っていたキリトと手分けして二つのコンソールを調べる。
……僕はダンジョン内部のコンソールを、キリトには管理区のコンソールを調べてもらったのだが…。
「キリト、そっちはどうだ?……エリアシステムコンソールの方は駄目だった。」
キリトのがっかりした顔で察したものの、とりあえず聞いてみる。
「こっちもダメだな…。POHのヤツはコンソールを使ってアップデートをいじったはずだ。
あの遺跡以外の場所にあるのか…?」
三人で頭を悩ませながら、僕はPOHとの会話を脳内で再生する。
(…管理区でコンソールを調べたから、POHはホロウ・エリアの存在理由を知ることができた。
…………あれ、なんか引っかかるな。んー?)
思考がまとまりそうになるその寸前、フィリアが「あーッ!!?」と大きな声をあげた。
「うおっ!? ……ど、どうしたフィリア!なんか思い出したのか!?」
「…あいつ、
「「……………あーーーーーー!!!!???」」
僕とキリトの叫びが管理区内で響いた。たしかにそんなこと言ってたぞあいつ!!
「待て待て待て!!それならコンソールになんかあるはず……!!」
管理区そのもののメニュー内を調べ、それを発見した。
「み、見つけた……。《管理区秘匿領域》!!」
「早速突入するぞ!!」
「……ダメだ、ロックが掛かってやがる!!
…五つのうち三つが既に解除されてるってことは解除条件はエリアボスか。」
…つまりPOHはエリアボスを全て殺した後管理区の奥深くへ乗り込み、アップデートに手を加えた後再びロックを掛けた…ということだ。
あいつ生きてようが死んでようが迷惑をかけるな、愉快犯め!!
「よし、明日はエリアボス攻略に行こうぜ。今日はいったんあっちの仲間と情報共有しなきゃ。
じゃ、また明日、フィリア!」
「うん、待ってるねキリヤ」
「あー、つかれた。…なんかソロが恋しいなぁ、ボス倒したらしばらくあっちのダンジョンにこもるか。」
キリトの独り言に苦笑いしながら、僕たちはアインクラッドに戻っていった。
ラフィン・コフィンは壊滅し、その影も払った。次は奴らがやらかした跡の後始末だ。
SAOを永遠の牢獄になんかさせない!!
<ホロウ・POH>
ホロウでありながら高位テストプレイヤーに選ばれたイレギュラー。
本物のPOHとは異なり自分の手で殺すことが生きがいであり、そのカリスマはオレンジホロウたちの動きを活性化させていた。
彼にとってキリヤとの殺し合いは満足がいくものだったらしい。