<SIDE:キリト>
キリヤたちが宿泊している宿で、俺たちは今日起こったことを報告していた。
アスナはギルドの方が忙しいらしく来れなかったが、アルゴが後で伝えるだろうし問題はない。
「…二人ともごくろーサン。ニセモンとはいえラフィン・コフィンと戦うのは疲労がかなり溜まるハズダ。
ゆっくり休んで英気を養っておいてくれヨー。」
アルゴの労いの言葉に頷き、俺はモルテに思いを馳せる。
(…まさか、モルテと今頃になって決着をつけることになるなんて、な…。
やつと出くわしたのは三層、あの時はまだアスナと行動してたっけ。)
何度も殺し合った仲ではあるが、あのモルテに勝ってやっと心残りがなくなった気がする。
因縁に決着をつけることは悪いことではない。
「なーキリト、今日は大変だったな…。」
キリヤが話しかけてくる。…こいつはこいつでPOHを倒したんだよな。
「まったくだ。…POHと戦ってどうだった?」
「……………なんか、本物とはまた違うタイプの悪党だったよ。
某育成ゲームの自然保護団体のボスとカルト教団のクズオヤジくらい違う。」
「あー…。ようするに殺しが手段か目的か、ということか。」
「そうそう、毒使ってこなかったしホロウのPOHは再現度という意味じゃ低かったかも。」
「…ホロウ・エリアもあんないかれたヤツそのまま再現すんのは嫌だろ。
生き物がたくさんいる池の中にブラックバス放流するくらい危険だって!」
キリヤは同情と困惑が入り混じったかおをするが、ギリギリ納得したようだ。
ホロウはともかく本物に遠慮は要らないと判断したのかもしれない。
「……………なるほどなー。」
その後はしばらくバカな話を楽しみ、夕食をご馳走になってから自分の宿に戻った。
<SIDE:フィリア>
夜が、明けた。
ただそれだけのことが、今はとても嬉しい。
(昨日はあまりねむれなかったなぁ…。もうあいつが侵入してくることはないって、頭ではわかってるんだけど。
キリヤ、今日もくるかなー…。)
あの男が言うにはアップデートを阻止しなければアインクラッドが本当に牢獄になってしまうらしい。
つまり、今生存しているプレイヤー全員がわたしのような目に遭ってしまうということだ。
「ふあ…おはよう、フィリア!」
「ん、おはよっ!…昨日はたいへんだったね…。」
あくびをしながらあらわれた少年に、わたしはおもわず笑顔になった。
「…なーに、ともだちを助けるためだ、弱音なんか吐かないよ。」
「……ありがと。なんか、そういってもらえてうれしい……んだけど、キリヤってわりと無茶するんじゃない?」
すみっこで居心地悪そうにしているキリトに話を振ると、彼はこっちに話がとぶとは思ってなかったのかビクッとなった。
「おわっ!?……あ、俺に聞いてるのか…。…あのなフィリア、こいつはわりと自分勝手だぞ。
自分の身内は大切にするけど身内傷つけるヤツに容赦ないんだこいつ!!」
「ひ、酷い!」
「胸に手を当てて考えてみろ、シノンにちょっかい出してるやつを見たらおまえどうする?」
「…………どーゆうちょっかいなのかにもよるんだけど。」
「そりゃ、ナンパとか変質者とかそういうの」
キリヤはにっこりと笑った。
「……生 き て る こ と を 後 悔 さ せ て や る」
…その笑顔とは似ても似つかない物騒なことを言いながら。
具体的な内容こそ言わなかったけれど、聞かないほうがよさそうな雰囲気だった。
「……………そ、それはそれとして!遺跡のエリアボスに挑むんだよね?」
わたしは話題を切り替えた。今回まだボス部屋見つけてないんだよね…。
「なんも情報ないからな、今…。いや、前回はエリアボスを事前に知れたのはディアベルのおかげだけど…。」
ふと、わたしはあの殺人鬼が、『このダンジョンの中には罪人を狩る処刑人がいる』とか言っていたのを思い出した。
そのことを二人に伝えると、キリヤは下を見ながら、キリトは上を見上げながら悩み始めた。
「う~~む、処刑人ねー。ぱっと思いつくのは死神みたいなやつかな。」
「あー、大鎌振り回してくる敵か。あんまり戦う機会のないタイプだから面倒くさいよなー…。
俺は武器持って襲ってくるMOB嫌いなんだよ、数狩りたいから単純な攻撃しかしてこない獣系がいい。」
アインクラッドではレアな死神系の敵は、厄介なことにホロウ・エリアではそれなりにメジャーな相手だ。
両手武器は範囲攻撃ソードスキルの射程が大きく、被弾しやすいのでキリトが嫌うには十分すぎる。
ふと、わたしはキリヤと初めて会ったときに倒した
あれも腕がカマキリの鎌みたいになっていた。あの怪物も、ある意味では死神みたいだ。
「…………《デッドニング・リーパー》の強化版とかいたらどうする…?」
わたしの疑問にキリヤは無表情になった。…たぶんわたしと同じことを考えている。
あのサイズならボス部屋に陣取っていても違和感がない。
「ありえ…なくないな。
もし、エリアボス補正で鎌の攻撃がもっと強力になったりしていたら、受けるのもまずいかもしれない。」
「だよね。《デッドニング・リーパー》は鎌をパリングで弾ければチャンスが生まれるけど…。」
わたしたちはその後も対策を話し合うものの、なんかグダってきたのでほどほどのところでやめてダンジョンへむかう。
探索はほどほどに、モンスターを蹴散らしながらボス部屋を発見し、疲労もほとんどなかったのですぐに突入する。
その中には、転移結晶と同じ色のクリスタルが光を放っていた。
クリスタルを睨みながらキリヤは呟く。
「……なるほど、どっかに飛ばされるのか。…このタイプは強いぞ。
…なんてったって専用のゾーンがあるボスはリソースが多く使われてるからな!!」
…多くのボス戦を潜り抜けたはずのキリヤでも警戒しなければいけないほどの相手がいるということか。
思わず手に力がこもる。仮想の心臓が早鐘を打っていることに気づき、少し困ってしまった。
(き、きんちょうしてる…! お、おちついて、深呼吸してっ……効果あるのかなぁこれ??)
よくよく考えたらこっちで深呼吸しても現実の肉体にフィードバックしないじゃん、わたしのアホ!!
あわわ…どうしよう!?こんな状態でボスに挑んだら間違いなくミスがおきちゃうよ…!
「……フィリア、手ぇ貸して」
「ふぇ…?」
右手がふと温かいものに包まれる。…キリヤの左手にギュッと掴まれているのだ。
…のだじゃないわ、のだじゃ、だいじけんじゃないかっ!!
「……………。ーーーー!!??~~~~~~!!」
どんな状況かわかってしまったのであたまがオーバーヒートしてしまい、まともなしこうができない。
「…なんか大変なことになったぞ、頭から湯気がでてる。」
「おまえいつか刺されるぞ(確信)。もう少し女心を勉強しような??」
「そっくりそのまま返すよ兄さん。もっと警戒心を持て、本人が大したことないと思ってても伝えた人次第じゃ大惨事がおきるんだぞ!!」
「き、りやぁ…。そ、そのぉ…」
小声でけんかを始めたキリヤに、こえをかける。このままじゃこっちの身がもたないよぉ…!
「あ、フィリアすまん!緊張してたっぽいからつい…!」
あわてて彼は手を離した。一方のわたしはぼーっと右手の感触を確かめる。
……まだ熱が残っているような気がした。
「…まったく、大丈夫かフィリア。このバカ、いきなり女の子の手をつかむんじゃねーよ!!」
「……………きにしなくていいよ?うまいぐらいに緊張もほぐれたしね。
ありがと、キリヤ。たすかったよ!」
「お、それならよかった。……じゃあ、ボスにいどもうぜ。」
ニヤリと笑う
からだのこわばりは、もう解けていた。
クリスタルで転移した部屋は巨大なホール状の空間になっていた。
「……ボスはどこだ?」
キリヤの声が響く。……おかしい、なにかがおかしい。
強い殺気を部屋全体から感じるのに、
ギャリン。
突然、奇妙な異音がひびいた。冷たい刃物同士が擦り合わさった時に鳴る、耳障りな音に似ている。
キリトはいきなり上を見上げると、声の限り叫んだ。
「!!!! 二人とも、上だああーーー!!!」
「 あ。 」
思わず上を向いてしまい、それを視認する。
ガイコツとムカデが組み合わさったグロテスクな怪物と目が合った。
『ギャぁ亜Aア阿あァーーーーー!!!!!!!』
凄まじい絶叫をあげながら、天井から落ちてきた怪物の名は、《ホロウ・リーパー》。
ガイコツのくせに笑ってるように見える顔からは、デザイナーの趣味の悪さがにじみ出ている。
「気持ち悪いモンスターだな…!これデザインしたやついかれてんのか!?」
キリトの暴言にうんうんとうなずく。出くわしたのは二回目だけど、多分慣れることはできないかな、コイツには!!
「叩き潰せェーーー!!」
キリヤの咆哮が、ホール内に響き渡った。
戦闘開始からおよそ一時間、ホロウ・リーパーの猛攻は激しさを増していた。
間違いなくデッドニング・リーパーよりも強化された鎌の一撃は、まともに受ければHPをがりっと削ってくる。
軽装のわたしとキリトは何度もHPバーが黄色になったし、集中を切らせば多分、死ぬ。
「ガァッッ!!……いってぇな、この野郎!」
「き、キリト!? ひ、左腕が…ッ!」
キリトの左腕が、なくなっていた。…部位欠損だ。
あの状態は斬撃属性の攻撃でたまに発生するデバフで、見た目の痛々しさもさることながら、バランス感覚が狂ったり武器を落とす可能性がある危険な状態だ。
さらに継続ダメージも入ってしまうためこの状況じゃかなりまずい…!
わたしはポーチから回復結晶を取り出し、叫んだ。
「《
バキンという音をたてながら結晶が砕け、キリトの腕を再生しながらその傷を癒す。
「おおっ!?ありがとうフィリア!この礼は…いつか必ず!!」
キリトはそう言いながらソードスキルで反撃を始めた。
死神の攻撃を弾き、躱し、隙をさらした敵の隙間を縫うようにソードスキルを撃ちこむ。
攻略組ってすごいなー…。
「そういえばキリヤは……?」
わたしはここで、まったく彼の声が聞こえてこないことに気づいた。
キリヤは、耐えるように歯を食いしばり、鬼のような形相で《ホロウ・リーパー》の攻撃をしのいでいたのだ。
「……………っ!!!」
鎧を装着している分ダメージを軽減こそできているものの、明らかに疲労が大きい。
だけど、
そう考えていた最中、キリヤの反撃が《ホロウ・リーパー》のHPを削りイエローゾーンに突入する。
「ちぃっ!!ここまで削ってやっと半分切ったのか…。硬い速い強いなんてさいてぇのボスだぜ…。」
「キリヤ、だいじょうぶ……?」
「おわったらシノンといっしょにおふろはいる…。」
あ、だめだこれ。
濁った瞳で欲望マシマシなことを口走る彼にぺしっとチョップをくらわせる。
「あたっ!…………なんかすげーこと口走った気がする。」
「きのせいじゃない?ほら、もうひと踏ん張りしよ、ね?」
とりあえずごまかして再び《ホロウ・リーパー》に向き合う。
死ぬほどきつい状況だけど、こっちには勝たなきゃいけない理由がある。
「負けて、たまるか!!」
キリヤとキリトの剣が、《ホロウ・リーパー》の鎌を吹きとばす。
キリヤはわたしのほうを見るとニヤリと笑った。
……さっきまで疲労でフラフラだったのに、その目は闘志に満ちていて。
「いくぞ、フィリア!! あ わ せ ろ!!!」
…………気づいたときには走り出していた。
ああ、そんな顔されたら期待に応えなきゃウソだよ、もー…!!
わたしとキリヤは同時にソードスキルを発動すると、《ホロウ・リーパー》を切り刻む。
短剣系奥義、《エターナル・サイクロン》。奥義というだけあって連撃数と威力が高めないいソードスキルだ。
「「おおおおおおお!!!」」
漆黒のオーラを纏ったキリヤの大剣が、ヒビの入っていた《ホロウ・リーパー》の鎌の一つを粉砕する。
多分奥義クラスの大技だと思うけど、《エターナル・サイクロン》の比じゃない破壊力だ。
重量の違いもあると思うけど、ここまでパワフルだとほれぼれしちゃうよね…。
「これでぇ、終わりだァァァァァァ!!!」
キリヤのラストアタックが、死神を斬り裂いた。
『ァ亜、 吾……………』
《ホロウ・リーパー》が崩れ落ち、崩壊するまで右手の武器を握りしめていたわたしは、ふうっと息を吐く。
倒れそうになるからだをもうちょっとだけ気合で立て直して、キリヤのほうに歩いた。
「キリヤ、おつかれ!…うわ、HP真っ赤だよ!?」
小ダメージでも死にかねないギリギリで止まっているのでびっくりした。
「……………ポーション残ってる?」
「一応あるけど。しょーがないなーもう、ありがとうキリヤ。」
ハイポーションをキリヤの方に放り投げる。彼はえがおでそれを受け取るとすぐに中身を飲み干した。
「……いやあ、強かったなアレ。もう二度と出くわしたくないなぁ…。
でもなんかまた会いそうで嫌だなァ!!」
「いやなこと言うなよ!あんなグロいバケモンがアインクラッドに何匹もいてたまるか!!」
キリトはこっちにやってくるとキリヤの嫌な予感をバッサリ切った。
「いや、うん……わかるよ。あれがまた目の前に現れるのはきついよね。
ホラーゲームにいても違和感ない悪趣味なデザインしてるしやけにつよいし…。」
なんだか雰囲気が沈んできた。これ以上この話題で話すのはよした方がいいかもしれない…。
「……かえろーぜ。」
キリトの言葉にわたしたちは無言でうなずいた。
「そうね。これ以上進むのはむずかしいかも。
……あんな強力なボスがまだ一体のこってるのかぁ…。」
管理区で二人と別れると、ぼーっときょうの事を思い出す。
(キリヤ、てを握ってくれるんだ。……ちょーし狂うなぁ、もう。)
きっといまのわたしは顔がりんごみたいになっているだろう。
こんな気分は生まれてはじめてで、どうすればいいのかわからない。
だってキリヤには
「ど、どうしよう…。はじめて好きになったひとに恋人がいるのってまずいよね…。」
…ひとりで悩む夜は、それでもいいものだ。少なくとも罪悪感で死にたくなるよりはずっといい。
<SIDE:キリヤ>
《赤羽亭》にもどった僕は、自分の部屋に入る。
すると腹ペコの僕の鼻が、いいにおいを察知した。
「おかえりなさい。…ごはん、できてるわよ。」
シノンがエプロンをつけて出迎えてくれた。
笑顔で帰りをまってくれる人がいる、ということはそれだけでうれしいんだよな。
「ただいま~。それじゃ、いっしょに食べようか。
…ボス、すごく強かったよ。ご飯食べながら話そうか。」
「うん、今日のメニューはシチューでしょ、プレイヤーメイドのパンでしょ、あと白身魚のフライ!
パン以外は私が作ってみたんだけど…どうかしら?」
テーブルの上にならぶ料理に思わずよだれが出そうになるが、がっつくのはよくない。
とにかく椅子にすわり手を合わせる。
「い、いただきます!」
とりあえずスプーンで白いシチューをすくい、口に運ぶ。
ジャガイモやニンジン、ベーコンのコンボが味に深みを与えていて…ようするに。
「うまーい!!ちょ、これ本当にうまい!!」
「ふふん、自信作よ。あと、パンに付けるのもおいしいと思うわ。
………でぇ、今日はどうだったの?」
シノンは楽しそうに笑いながら、今日のボス戦の話をせがむ。
「…ボス部屋の中に突入したんだけど、そこにボスが見当たらなくってさ…………」
今日の戦いを見たまま伝えるが、あれのおぞましさは直接見ないとわからないだろう。
「……骨のムカデねー。特徴を聞いた限りそれどっちかというとサソリじゃないかしら。」
「足うじゃうじゃあるからムカデだとおもうんだけどなー。…肉付きだったらもっとキモそうだな。」
「食事中に想像することじゃないわね。それにしても…」
「ん?」
「一撃が強力なボスって怖いわね。
まともに一撃を食らってHPがすごい勢いで減るの、ぞわってするもの。」
「…………わかるよ。僕も昔は軽い装備で戦ってたし」
シノンは意外そうに首をかしげる。
「え、てことはビルドを変えたってことよね?…大変じゃなかった…?」
一度決めた目標から別の方向に軌道修正するのは、遅ければ遅いほど難しくなる。
某シュミレーションRPGで使える武器が増えてもしばらく青銅武器を振り回さなければいけない感覚に近い。
つまり、めんどくせぇのだ。少なくとも攻略組が暇つぶしにやることじゃない。
「まあ、ね…。気が向いたらはなすよ。『オレ』が、
魚のフライをつつこうとして、もうカラになっていたことに気付いた。
…話に夢中になりすぎたか。
「っと…。ごちそうさまでした。…さて、ご飯も食べたことだしおふろにはいろーかな。」
「…………キリヤ?なんで私の手をつかんでるの?…ちょっと??」
困惑する少女に間髪入れずに追撃する。
「いっしょに入ろうぜ。」
シノンは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。
「~~~~っ!! ………水着を着るんなら…。」
………アレ、断られるかと思ったのにけっこう好感触だな。
なら遠慮しないで甘えちゃおっかな。
《赤羽亭》には個室ごとに割とでかい風呂が存在する、二人入ろうが余裕のヤツが。
お風呂好きのアスナさんがニコニコしているイメージが沸くが、別に(どうでも)いいかとそのイメージを消す。
それよりもシノンの水着だ。
(いつも装備しているグリーンの装備もかわいいけど、スカイブルーのリボンビキニも似合ってるなぁ…。)
湯船の中で僕はシノンを後ろから抱きしめ、ぼーっとその熱を感じていた。
ここ数日は精神を昂らせすぎてしんどかったし、自分に正直になれば落ち着けるんじゃないかと思ったからだ。
「キリヤ、その…。今日はずいぶん甘えん坊ね?」
「ん~。なんかさ、今日は疲れたな。キリトの腕が空中に吹っ飛んでいったりフィリアの足が斬り落とされたり…。
誰が死んでもおかしくなかったんだ。…生きた心地がしなかったよ……。」
「…………そっか。ならもう辞めちゃう?」
首を振ってその提案を拒否する。
「今やめたらアップデートでプレイヤーがアインクラッドをクリアできなくなって詰みだ。
そんな結末はゴメンだね。モンスターに殺されるなら…まあまだ運がなかったり、実力不足だったって思うんだ。
……
許すもんか、絶対に阻止してやる!!」
『オレ』は拳を握りしめた。…怒りで頭がおかしくなりそうになるその時、ポチャッと水が跳ねた。
体勢を変えたシノンと目が合い、彼女のブラウンの瞳にドギマギする。
「キリヤ、おちついて。あなたが怒るのはわかるわ。…でも、一人で全部はムリよ。
あっちにはフィリアもいるんだし、私たちも一緒に戦うわ。だから…」
「もちろん、頼りにしてるよ。多分、僕は一人だとダメだ。
…アルゴと出会ってなかったら早死にしてたよ。情報なんて初めは重要視してなかったし、知らずに危険地帯に突っ込みかけたこともあったし。」
「………ふふっ、なんだか今日は昔のことをよく話してくれるのね。」
シノンの笑顔に目が点になる。たしかにシノンに昔の話なんてしたことがないからだ。
「そういえばルーキー時代の話はあまりしたことがなかったなぁ。
別に隠してたわけじゃないけど、言いふらすのも恥ずかしいし?」
彼女は僕のことをじぃっと見つめながら、腕でこちらの首を固定する。
顔が近くてドキドキするなぁ!
「いいじゃない、新鮮で。……あした、また話してくれると嬉しいな」
「あ、うん…もちろんいいよ!…………。」
シノンのかおが赤い。至近距離で目を合わせ続けていると、なんだか変な気分になってくる。
こう、少女のすべてを味わい尽くしたいというか、ちょっと人前じゃ言えない感じのやつ。
「き、キリヤ……?? 顔がゆでだこみたいになってるんだけど!!?
もうあがるわよ、ほら立って!」
あわててシノンの言うとおりに立とうとするとバランス感覚がうまくいかずフラフラだ。
壁に取り付けられた鏡に写っているのはよく茹でられた食べごろのタコみたいな顔の自分だった。
いつぶっ倒れてもおかしくないぞこれぇ…!?
「あ~、これは駄目なヤツ~~。」
「もぉ、しょうがないわねー。先に着替えていいから、水分とってゆっくりすること、わかった?」
「はーーい。」
その後は特にイベントもなく、二人ともすぐに寝入ってしまった。
夢すら見ないのはひさしぶりだ。
まだ戦いは続くけれど、仲間と、愛する人と一緒なら…きっと僕は、『オレ』は人間でいられる。