ソードアート・オンライン 暗黒剣の使い手   作:シャザ

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第三十三話 襲撃の女王蟲

 先日死闘を演じたボス部屋から少し進み、封印を解除する。

 次のエリアまでは、多分そう遠くはないはずだ。

 

「つぎはなんだろーねキリヤ。…火山とかかな?」

 

 紫の装備に身を包んだ美人が次のエリアを予想し始める。本当に能天気だなこいつ…。

 今回の仲間はストレアだ。こいつ攻撃も守備も高水準にまとまってるからな。

 

 レイドだと中途半端で持て余すけどパーティ単位だといると便利なタイプ、状況に応じて攻撃役(アタッカー)壁役(タンク)を切り替えられるというわけだ。

 前回の《ホロウ・リーパー》みたいなのがまた出てこないとも限らないし…。

 

「雪山だろここはー。ビックフットって名前でエイプ系が出てくると見た!」

 

「いやいや、ここは禿山みたいな地形でかみなりがゴロゴロドッカンしてる危険地帯でしょー!

かみなりブレスを撃つデカい鳥とかいるの!」

 

 フィリアって危険な場所好きなの?かみなりブレスとか飛行する敵がしていい技じゃねーって。

 

「じゃあ折衷案でかみなりブレスを吐く鳥が住んでて火山と雪山がなんかごっちゃごちゃになってるとこでいいじゃん!」

 

「やだよそんなとこぉ!!?」

 

 

 せまっ苦しいダンジョンを抜けると、そこはサイケデリックな色の森だった。

 …………また森かぁ…。

 

「はあああ……。悪い意味で期待を裏切られたな…。

色はすごいけど最初の樹海とかぶってるんだよなぁ…。」

 

「ま、まあまあ!こんなへんなばしょなら、面白い敵が出るかもしれないよ!ねー?」

 

「そーそー!森って言ってもいろいろあるよ、おねーさんの前で好き嫌いはだめだぞー?」

 

 やる気がそがれてしまった僕に、仲間たちがなんとかやる気を取り戻させようとしている。

 …うん、やるよ?やるんだけどさあ…。

 

「もっとこう、なんかほし……。」

 

 ずっどーーーーん!!!

 

「「「…………ん???」」」

 

 大きな砂煙が上がり、視界が遮られてしまう。

 …わかることはただ一つ。落ちてきたそれはどう考えてもこちらの味方だとは思えない、ということだ。

 

「げぇっ…!?二人とも、武器をとれぇっ!!!」

 

「オッケー、まかせて!」

 

「…もちろん!」

 

 砂煙が収まったところに現れたそのモンスターの姿は、巨大な虫だった。

 異形と言うほかないその怪物の名は、《アメディスター・ザ・クイーン》!

 

「………………エリアボスじゃねえかっ!!なんでエリア入り口でいきなり襲ってくるんだ!!?」

 

『ギシャアアアアアアアア!!!』

 

 勘弁してくれよもう!フロアボスだって自分の持ち場は離れないのに!!

 

 

 ……さいわいなことに、この場所で全てのHPを削り切れという無茶を強要されているわけではなかった。

 三本あるHPのうち一本を削ると、エリアボスは逃げていったのだ。

 

「……に、逃げちゃった…。どうするの?」

 

 ストレアを含め僕たちは全員困ってしまった。

 あそこまでフットワークの軽いボスは誰も会ったことがないから。

 

「わけもわからないまま戦ってたからどうしようか悩むな。

とりあえずの方針にできそうな作戦は二つ、かな」

 

「あいつを追うか、無視して探索するか…だね!」

 

 フィリアの言葉にうんうんと頷く。どちらを選んでもメリットとデメリットが存在する。

 あのボスを追えばあいつのHPがある程度減った状況で戦えるかもしれないが、こちらもアイテムの補充無しで挑むことになるだろう。

 探索を優先するならばこのエリアに散らばっているはずのアイテムや経験値を稼ぐことができるが、エリアボスのHPは回復してしまう。

 

「よーし多数決とるか。追撃するなら左手を、探索なら右手を上げてくれ!

…せぇーの!!」

 

 僕とフィリアが追撃、ストレアが探索か。

 ならアイテム消費をできるだけ抑えるために雑魚との戦いは避けて、女王が逃げた方向へ直行するべきだ。

 

 途中で見かけた敵エリアボスの小型版だなぁ、あれの子供なのかなぁと思いながら《隠蔽(ハイディング)》で見つからないように進む。

 フィリアもソロ経験が長かったのかそれなりに《隠蔽(ハイディング)》の熟練度が高い。

 

「キリヤ。…あれ」

 

 フィリアが指さしたそれに視点を合わせる。…《インセクト・エッグ》?

 

「あのエリアボスが産み落とした卵か?生まれる前に駆除しちゃおうぜ」

 

 サクッと卵を破壊した僕たちは明らかに警戒している虫を不意打ちで駆除し、ヤツを見つけた。

 …エイのようなモンスターを食っている。うえぇ、描写がえぐいなぁ。

 

「じゃくにくきょーしょくだぁー…。ほっといたらまずいやつだよアレ。」

 

「今のうちにカチコミだー。」

 

 フィリアはドン引きしているしストレアはなんか血に飢えた発言してる。

 探索を提案してたけどあんまり引きずるタイプじゃなくてよかった。

 あきらめが悪いというのは長所にも短所にもなりうるから…。

 

 周りにいる取り巻きをボスに気づかれないように投石でおびき寄せ、確実に仕留める。

 こういうのは取り巻きが全滅すると警戒状態になって奇襲しにくくなるから、あえて一匹残して…死角からぶん殴るのがいい。

 

「くたばれ虫野郎!!」

 

 《アバランシュ》で《アメディスター・ザ・クイーン》の腹部を斬りつける。

 虫の腹部というのは基本的に柔らかい。甲虫は翅を硬化することでその弱点を守ったが、この女王は蜂とかカマキリに近い姿をしている。

 馬鹿正直に正面から行くよりもダメージが大きくなるというわけだ!!

 

『ギギィッ!!?』

 

「わー、ひどいやつだねキリヤってー。プレイヤーにやっちゃダメだよ?

アタシだったらご飯の邪魔するやつはボコって圏外に放置するからー!」

 

「あはは…、わかったおぼえとくよ!」

 

 ストレアの冗談(?)に笑いながら追撃のソードスキルを撃つ。

 最後の一撃は跳躍で回避されるが、先制攻撃としては上々だ。

 

「よし、最後の取り巻きやっつけたよ!ふたりとも大丈夫?」

 

「フィリア、こいつ…《ホロウ・リーパー》よりかは弱いっぽいぞ。」

 

 フィリアはあの規格外のボスを思い出したのか少しだけビクッとするが、すぐににっこりと笑った。

 

「…むしろあれがおかしいんだって。さ、パパッとやっつけちゃおっか!」

 

 

 …ストレアと一緒に放った《両手剣の奥義(アストラル・ヘル)》が女王を容赦なく切り刻む!

 よしよし順調順調、この分ならさほど苦労せず倒せるな…!……()()()()()()()()()()()()()()()、の話だが…。

 

『ギギギギギィィィ………!!』

 

 ぎちぎち不協和音を奏でながら、《アメディスター・ザ・クイーン》は忌々しそうに(あぎと)を鳴らす。

 いやぁ、楽しいな!ここまでうまくいくなんて思ってなかったし。

 

「はっはっは!!え、どんな気分だエリアボス!?自分の仔より小さい生物にいいようにどつきまわされるのはさあ!!」

 

「ちょ、ちょっとおちつきなよキリヤ!?二本目のHP削り切ったよ!?」

 

 特殊行動を起こすならこのタイミングだろうけど…なんか逃げ腰な雰囲気を感じるぞ。

 さいごのHPバーを残しボロボロのエリアボスは、びょーんと跳躍しながら逃げていった。

 …全力で逃げていくボスにもはや笑いが止まらない。……いややっぱ笑えねぇわ。

 

「……………。こ、このやろう…。プライドないのかよあの虫…。」

 

 呆れて頭を掻きながら二人の方を見るが、どちらも脱力した顔でボスの逃走方向に視線を向けていた。

 なんか一周回って冷静になってきたな。油断はしてなかったはずだけどちょっと調子に乗ってた。

 

「―――ヨシ!!もっかい攻め込もうか!!ゴーゴーゴー!」

 

「す、ストレアさーーーん!!?のーきんですか!?ごり押しで全部かいけつしようとしてない!!?」

 

 わちゃわちゃ楽しそうにしている女子二人にほっこりする。あの二人のやりとり小さい子供みたいな部分あるよね。

 二人が落ち着くのを待ってからこれからどうするか話し合おう。

 

「だいぶ奥まで逃げられたな。途中で転移石は見つけたけど、もうここまで来たら決着つけよう。」

 

「いえーい!害虫駆除だよ害虫駆除!叩き潰しちゃお、キリヤ!」

 

「あと一本だもんね、一日ほっといたら全回復してまたエリアの巡回しそうだし…出直さなくてよかったね…。」

 

「…そうだね。」

 

 

 森の奥にたくさんの卵と生まれたての虫たちがうろつくエリア…、その奥で女王が怒りに震えながら傷を癒していた。

 僕たちは真正面から《アメディスター・ザ・クイーン》に向き合うと、武器を構えた。

 ……さあ、ファイナルラウンドだ!




《アメディスター・ザ・クイーン》
 ホロウ・エリア異界エリアのボスモンスター。
 特徴は、エリアを探索しているプレイヤーにいきなり襲い掛かってくること。
 ホロウ・フラグメントでは異界エリアに入ってすぐのところで襲われるものの、ある程度削ると逃げていく。
 卵や幼虫と名の付くモンスターがあちこちにいるので、栄養補給のために襲撃しているらしい。
 
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