ソードアート・オンライン 暗黒剣の使い手   作:シャザ

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第三十八話 《風林火山》

<SIDE:シノン>

 

 …キリヤに連れられてやってきたセルムブルグは、相変わらずきれいな観光都市という印象だ。

 プレイヤーもNPCも小綺麗な恰好をしていてどことなく場違いではないかと思ってしまう。

 

「ほらこっちこっち!」

 

 キリヤの案内についていってるものの、なんか裏路地みたいな場所を通り始めた彼に思わずツッコミを入れる。

 

「…ちょっと!?そんなところ本当に通る必要があるの!?」

 

 キリヤは物凄く困った顔で頷いた。

 

「まじでここしかルートがないんだよね…マップと一時間にらめっこして、気づいたとき笑えばいいのか泣けばいいのかわからなかった…」

 

「笑えばいいとおもうゼ。」

 

 アルゴとキリヤがどこかで聞いたようなやり取りをしている。

 その場所キリヤが自分で見つけたのかな…。アルゴも知らないみたいだし…。

 

「すっごい辺鄙(へんぴ)なところにあるんだねー。ね、楽しみだねシノン!」

 

「フィリア、へんてこ物件期待してない?」

 

「じつはキリヤのセンス気になってるんだよね、わたし。え、シノンは気にならない…?

キリヤがへんな感性してたらこれから困るよ?」

 

 ファッションセンスに問題はなさそうだけど…。もしへんでも押し付けるような人ではないと思う。

 そんな話をそれぞれしているうちに、裏路地を抜ける。

 

「ここって…海岸?」

 

「……ついた!ここだよここ!!」

 

 キリヤは海岸近くにある民家を指さす。セルムブルグ式、つまり花崗岩でできているけど、装飾は少なめに見えた。

 

「……ナンだ、コレ…?ただの家じゃぁないゾ…?」

 

「…しかも普通の家より一割くらいやすかったぞ?こんな良い立地条件ならもう少し高くてもおかしくなさそうなんだけどな…?

やっぱあれのせいかな、クジラ。」

 

「…………く、クジラ…?」

 

 それってたしか、最近きいた《殺人クジラ》のことだろうか。

 

「……………なんのはなし?」

 

 フィリアはポカーンとした顔で私に視線を向ける。

 最近キリヤから聞いた話をそのまま彼女に話す。

 

「ほえー、具体的にはどんなクエストなんだろ?」

 

「そりゃぁ、おまえ…()()だよ…!!」

 

 キリヤがニヤリと笑う。…あ、もしかして。

 

「…受けたの?」

 

「レイドパーティ組まなきゃいけないやつだったよ。…ま、立ち話もなんだ、入って入って!」

 

 

 …家の中には最低限の家具とかなり大きめの目立つ箱以外はない。

 引っ越したばかりの新居という印象だ。

 

「…ここ、二人暮らしのために買ったってことでいいの?」

 

「そのつもりで買ったけど。…追い出されると思った?」

 

「……………うん。」

 

 困った顔でキリヤが言う。

 

「そんなことしないよ。」

 

「…しってる。」

 

 ソファに座っているキリヤの肩に寄りかかる。…なんか眠いなぁ。

 

「すこし、このままでいいかしら。」

 

「いいよ。……不安にさせてゴメンね。」

 

 彼の優しい声で安心した私は、睡魔に夢の世界へ案内されてしまう。

 ちょっと恥ずかしいけど、まあいいか…。

 

<SIDE:フィリア>

 

 キリヤの肩に寄り掛かったまま寝息をたてているシノン。

 む、むぼうび…!!すごいむぼうび…!!

 

「ニャッハッハ!ィヨッ、色男!」

 

「おーまーえーなー…」

 

 アルゴは楽しそうにキリヤをからかっていた。

 シノンを起こさないように声のボリュームを控えめにしているが、声の調子は二人とも明るい。

 

「…………いいなぁ。」

 

「え、アルゴのダルがらみが??」

 

 ぽつりとこぼれた一言は、キリヤの耳に聞こえてしまったらしい。ちがうそっちじゃない。

 

「イヤそうじゃなくて…シノンのことだよ。安心してるのかぐっすり寝てる。

キリヤがいるからかなぁ。」

 

「…こころの支えになってるならまだいいんだけど…」

 

 …キリヤにはなにか悩みがあるみたい。

 

「…………アー。シーちゃん依存ぎみだもんナー…。

キリヤがいなくなった後に精神状態が安定するとは思えナイ。…まず間違いなく悪化するゾ。」

 

「んーー……ねぇキリヤ、アルゴ。そーいうのって今考えても仕方ないよ。

わたしたちだって精神的に余裕があるわけでもないし…」

 

「難しいなぁ……。あーあー!カウンセリングできるやつなんかSAOにいるわけねぇよなぁ…」

 

 キリヤがため息をつく。そんなピンポイントな人材いたら間違いなく酷い目に遭うよね…。

 

「ところではなしは変わるけど、捕鯨の詳しい話きかせてー」

 

「オー、いいゼ。」

 

 アルゴが言うには、異変が起き始めたのは一週間も前のことらしい。

 漁に出ていた漁船が行方不明になったのだ。…まあ、それだけならよくあることだけども。現実世界だと時化(シケ)とかあるし…。

 …けど、それだけでは終わらなかった。

 

 六日前、漁船を探しにいった船がズタボロになって戻ってきた。

 中にいた人たちは重傷の一人を残して全滅していて、その一人も船を破壊した犯人を伝えこと切れた。

 …白銀の巨大なクジラ、三十メートル以上あったらしい。

 

「んで、何十年も前に似たようなことがあったらしくてな。デカいクジラがセルムブルグを破壊しようと襲撃したらしい。

死人けが人出しまくってなんとか退けたって町の老人…クエストNPCが言ってた。」

 

「倒した…じゃなくて退けたってことは、もしかして同じやつが襲ってきてるの?」

 

 キリヤは頷く。…なんだか狩りっていうより戦争みたい。

 

「なんでも二本のでかい角がメイン武器らしくてな。ほれ、町の本についてた挿絵。」

 

 キリヤがストレージから一枚の絵を取り出した。

 ゾウのように緩くカーブした角が全長の三分の一を占めている。

 

「これ角入れて三十メートルだよね!?」

 

「そうだといいナ。」

 

 アルゴは死んだ目で笑っている。

 これが船に突っ込んできたら船底は酷いことになるよね?

 

「とりあえず、まずは人を集めようぜ。攻略組をそのまま引っ張り出せば確実…なんだけどなぁ……。」

 

「…無理、だナ。トップギルドの連中がクエストに現を抜かして最前線をおろそかにするとは思えなイ。

アーちゃんならホームを守るためにクエストに協力してくれるだろうケド」

 

「クエストの報酬は?NPCからなにかきいてない?」

 

 わたしの質問にキリヤ達は頭を抱えた。

 

「クエスト内容とクジラへの恨み以外なんも言ってないんだよね…。ボケてるのかそれ以外がこころに残ってないのかはわからないけど。」

 

「…じゃあ、報酬で人を集めるのはむりがあるよね…。キリヤ、だれか心当たりないの…??」

 

「……………中小ギルド、だな。」

 

 キリヤはポツリとつぶやく。

 

「中小ギルド。」

 

 オウム返ししたわたしに彼が説明する。

 

「…お人好しで実力もあって、チームワーク抜群なのにバカな連中に心当たりがあるな。

《風林火山》っていうんだけど」

 

「オー、……あいつらカー。大手ギルドとどうしても比べちまうからか、まあまあ頑張ってるって印象だナ。

…イヤ、よくやってる方カ。死の危険性が高い最前線で、欠員を一人も出してないのはスゲー。」

 

「いやすごくない!?最前線で犠牲無しって、そうそうできないよ?」

 

「男所帯だから女子への耐性低いけどそれ以外は頼りになるよ。リーダーのクラインは普通に強いし。

………ほら、おきてシノン。出かけるよ」

 

 キリヤは寝ているシノンの肩を優しく揺すり、彼女を起こそうとしている。

 

「……ん、ぅ…。…おはよう、みんな。…でかけるって、何処に?」

 

「捕鯨クエストの下準備、かな」

 

 

 

「おう、ひさしぶりだなキリヤ!ラフコフ討伐以来か!?」

 

「「「おーっす!」」」

 

 キリヤたちと向かった場所で待っていた集団は、一見山賊みたいなかっこうをしていた。

 …《KOB》とか《軍》のように統一された装備ではなく、各々好きな装備でいるからだろうか。……いや、リーダーの顔がワイルドなのが原因かな、コレ。

 どう言いつくろっても野武士顔、もしくは山賊顔だもの…。

 

「その節はどうも!ここに来てくれたってことは、メッセージちゃんと読んだみたいだな!」

 

「ま、オレたちもオマエら情報屋には世話になってるからな!!…ところで、だ。」

 

 野武士面の男は笑顔を真顔にして、わたしを指さした。

 

「…この()、どちらさん?今まで見たこともねぇんだが、どこで会ったんだ?」

 

「…ともだちだけど。」

 

「……………ち、」

 

「…???」

 

「チクショオオオオオオオオ!!!」

 

 野武士はとんでもない大声でシャウトする。む、むっちゃくちゃ悔しがってる…。

 

「ただでさえ女性プレイヤーがすくねぇから出会いがねぇってのによォ!!オマエってやつはー!!」

 

 男はキリヤの頭をガシガシと乱暴になでている。キリヤはちょっと楽しいのかされるがままだ。

 

「わははは、だいじょーぶだよクライン!きっといつかいい人に会えるさ!

…でもがっつきすぎるとドン引かれるかも?」

 

「………………。そっかー。がっつきすぎかぁ…。」

 

 野武士の男改めクラインはがっくりと肩をおとす。

 

「あっちで合コンやったときオレ以外イイ感じだったの、けっこうきついもんがあったなぁ…。

もう少し前に知りたかったぜ。」

 

「リーダー、今度こっちでセットしましょう、合コン。」

 

 たそがれてるクラインに彼の仲間は慰め始めた。

 

「おーい戻ってこいクライン。詳しい話しよう。」

 

「あ、おう。す、すまんなキリヤ。」

 

「それじゃ、場が和んだところで今回のクエストについて説明するゾ。」

 

 

 アルゴの説明を聞きながら、クラインの目に決意の光が灯るのを感じる。

 

「…………気になったことがあるんだがよぉ。……その捕鯨クエスト、()()()()()()()()()()()?」

 

「……………。」

 

 アルゴは、黙り込んだ。代わりにキリヤが怖い顔で最悪の結末を語る。

 

「…あくまで、あくまで予想の域を出ないが……セルムブルグが崩壊するかもしれない…。」

 

「…ありえるのか、そんなことが……だって、たかがクエストだぞ…?」

 

「最近のクエストは妙なのが増えてる、そんななか失敗したらクジラがセルムブルグを襲撃して破壊するって明言されたんだ…。

安全圏の主街区破壊とかシャレにならない大事件だぞ」

 

「…圏内がクエストの結果次第で崩壊する…。」

 

 …口の中がカラカラだ。そんなの、そんなの認めるわけにはいかない。

 納得はしたけど、その結果だけは受け入れたくない!!

 

「…そんなこと、させない…。ぜったいやっつけようね、みんな!!」

 

「おー!気合入ってんなあ!!…えー、と…そういや自己紹介がまだだったな。

オレはクライン、ギルド《風林火山》のギルマスだ。そっちは?」

 

「わたしはフィリア、トレジャーハンターで、キリヤの仲間!」

 

 クライン達の仲間も自己紹介して、わたしたちはこれからの目標をいくつか決めることにした。

 キリヤがまず話を切り出す。

 

「…まずは仲間がもっとほしいな。激戦が予想されるから、三十人程度はいると思う。

クライン、心当たりがあるなら誘ってもらえるか?」

 

「おう、任せろ!!セルムブルグに思い入れはねぇが…。頼まれたとあっちゃ、断ったら男が廃るぜ!」

 

 

 《風林火山》とのファーストコンタクトは和やかなムードで終わった。

 ……まー、わたしは仲間にこころあたりないし消費アイテムでも買い込んでおこうかな!

 キリヤ達がいつクエストに行ってもいいように準備をしておかなくちゃ!

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