ソードアート・オンライン 暗黒剣の使い手   作:シャザ

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第三十九話 絶望への航海

 《風林火山》と合流して三日。

 この三日間、僕は捕鯨クエストのためにアインクラッドを駆け回っていた。

 実力者をできる限り勧誘するが、成果は振るわない。…結局誘えたのは三人だけだった。

 しかもそのうちの一人は《セルムブルグ》在住のため、僕が誘わずとも参加した可能性は十分ある。

 

 ここは、セルムブルグの港。捕鯨クエストに誘ったみんなが集まってくるのを、僕は早朝から見守っていた。

 

「(…人が来ると信じて待つのは、つらいな。できる限りのことはした、後は…)

うん…クライン達がなんとかしてくれることを祈るしかないか」

 

「ほら、元気出してキリヤくん。わたしたちもギルドの予備戦力数人連れてきたし、人数としてはそこそこでしょう?」

 

 アスナさんはそういってピクニックバスケットの中からバケットサンドを取り出し僕に手渡す。

 

「あ、ありがとうございます!食べてもいいです?」

 

「ええ、どうぞ。結構作ったからほかの人にも食べてもらおうかしら」

 

「そうしてください!みんなの士気も上がりそうだ。」

 

 アスナさんが軽食を他の人たちに配りに行ったのを見届けた後、僕はバゲットサンドにかぶりついた。

 

 う ま い 。

 チーズとハムの塩っ気やトマトとレタスのシャキシャキ感、それに…。

 

「…………マヨネーズ…??」

 

 正確にはそれと似た味を感じた僕は首をかしげる。…いったいどんな理屈なんだろうか。

 うむむとバゲットサンドとにらめっこしていると、誘ったうちの一人であるストレアが声をかけてきた。

 

「やっほーキリヤ、元気ー?」

 

「ストレアか、アスナさんにこれもらった?」

 

「え、まだー。おいしそうだねソレ、貰ってこよーっと!」

 

 タタタッと軽やかに走り去るストレアに癒されながら、僕はバゲットサンドを食べ終える。

 

「ごちそうさま。さて、どのくらい集まったかな…?」

 

 ひーふーみーよーと数を数えてみると、ざっと三十人弱といったところか。

 《KOB》の団員が集まりなにか話していたり、《風林火山》メンバーが串焼きをほおばってたり、思い思いに過ごしている。

 …人間観察をしていたのは、僕だけではなかった。

 

「……あれ?ミト、どうしたんだろう?…怖い顔してるな」

 

 …見ているのは…味方の《KOB》?…なんで親の仇見つけたような顔してんだよあいつ。

 その理由が気になった僕はミトに近づいてみる。

 

「よっ!何見てんの?」

 

「…キリヤ、あの三白眼の、細いガイコツみたいなヤツ、見える?」

 

 …《KOB》のメンバーをよく見てみると、たしかにその特徴に一致する男を見つけた。

 ミトがなんだかいらだっているのはあの男が原因らしい。

 

「……いるな。あいつがどうかしたか?」

 

「あいつクラディールっていうんだけど、アスナに心酔してるんだよね。

しかも今回護衛だからって無理矢理アスナについてきたんだよ?サイテーなんだあいつ」

 

「あ゛。」

 

 なんか、前にアスナさんから聞いた覚えがあるな…。

 彼女がホロウ・エリアの攻略の時に愚痴っていたのを思い出す。

 

「あー……前に聞いたことがあるな。ってことは、あいつがストーカー野郎か。」

 

「………ちっ!やっぱり、あの男ストーカーしてたのか!!」

 

「…()()()()?」

 

「…アスナの家には何度か遊びに行ったことがあるけど毎回出くわしたんだよね、()()()

…でもさ、おかしくない…?だって、()()()()()()()()()()()()()……。」

 

「………………………回廊結晶、つかう?」

 

 ヤベーよヤベーよ!!ガチのストーカーじゃねぇかクラディール!!!

 黒鉄宮(ろうや)に今すぐぶちこみてぇんだけど!!

 

「あのさぁ、クラディールのこと《KOB》の団長はどのくらい把握してるんだ?こんなやつとっとと除名するべきだろ」

 

「……それがわからないんだ。まったく知らないかもしれないし…あるいは全部知ってて放置してるのかもしれない。

どっちにしろ期待はしないほうがいいよ、だってヒースクリフ団長は放任主義だから。」

 

「…しってるよ。有名だもんな、ヒースクリフはボス戦以外の仕事は他のメンバーに一任してるって。

それでもギルドが機能不全にならないのは、やつのカリスマと実力か…。」

 

「たまにさ、団長に試されてるって感じるときがあるんだ。

…もしかしたら、あいつを放置してるのも…?」

 

 本人たちがどう対処するかを見てる…とでも言いたいのだろうか。

 そこまでいくともはや陰謀論に片足つっこんでるレベルだ。

 

「そういうわけだからさ、クラディールのヤツには十分注意してよ?…なにしでかすかわかんないし。

それじゃまたあとで。」

 

 ミトはそう言い残しアスナさんの方へ歩いて行った。

 

「…ガチで苦労してるんだな、アスナさん…。」

 

 

 十時を少し過ぎたころ、件のNPCの老人が港に現れた。

 クジラへの憎悪が老人の瞳から溢れるほどに感じられる。

 

「…きたか、小僧。」

 

「おう、人数集めてきたぞじいさん。」

 

「ここにおる連中はほぼ全滅するじゃろうなぁ、やつは不死身じゃ。全員あの怪物に食われ、死ぬ」

 

 老人は僕らを嘲笑う。相変わらず諦めてるくせに口が悪いな。

 心が折れているのに憎悪の火がくすぶり続けるのは、きっとひどい苦痛なのだろう…。

 

「生きてるなら倒せるだろう。」

 

「………ふん。乗れ、ヤツの縄張りまで連れて行ってやろう」

 

 …クエストが進んだな。一人で来た時は一人でなにができると怒鳴り散らされたが。

 周りで会話を聞いていた連中は態度の悪い老人に困惑している。

 

「…なんだあのじぃさん!!あれがクエストNPCの態度かよ!?」

 

「落ち着けクライン。キレんのはわかるが、今回おれたちはあくまで助っ人だ。

それに依頼人がどんな奴でも苦労すんのはキリヤだろ?」

 

 クラインは老人の態度が気に食わなかったのか怒りをあらわにした。

 隣にいたエギルが彼をなだめているが、あまり納得できていないようだ。

 

「でもよぉ、さすがに舐めすぎだぜあのじぃさん。ここに集まってるやつらは最前線で揉まれた猛者(もさ)ばかり。

フロアボスよりヤバくねーと犠牲者なんてでねーよ、なぁ?」

 

 クラインは僕に視線を向けている。

 

「…犠牲はゼロにするって言ったヤツが一刀両断されたから断言したくねぇんだけどなぁ…」

 

「懐かしいな、ディアベルのことだろう。

…あの時一層攻略に参加した連中は、今じゃ聖竜連合の幹部とかソロでちょこちょこやってるお前らとかアスナしか残っていない。」

 

 エギルの目は、どこか遠いところを見ているように細められた。

 

「一層ボス戦で唯一死んじまったんだろ?…オレらはまだ参加してなかったからどんなヤツだったかは想像するしかねーけど。」

 

「どうせクジラの出た海域に着くまで時間はあるからそん時教えるよ。」

 

 

 僕らを乗せた船が、六十一層の水上を往く。

 船上でできることは少ないので、僕はパーティメンバーのシノンとおしゃべりをしていた。

 

「…キリヤって船酔いとかしたことある?」

 

「ナーヴギアってその辺の描写リアルだからどうしてもVR酔いしやすい人はいるっぽいよ。

吐けないからきついんだってさ。幸い僕は三半規管強い方だからそんな経験ないけど」

 

「うわぁ悲惨…。」

 

「あと二時間くらいで縄張りに着く。もし死にそうな目に遭ったら出し惜しみしないでね。」

 

 シノンはピースサインをしながらにこりと微笑んだ。かわいいなもう!

 

「任せて頂戴、最悪《射撃(アレ)》を使わせてもらうわ。

…隠していたほうがいいのはわかるけれど、みんなの命には代えられないから。」

 

「ああ、頼むぞシノン。」

 

 

 僕は決意を固めた。この船に乗っている人たちはもちろん守るけど…シノンはなんとしても守りたいな。

 守られてばかりの子じゃないのはわかってるけどね。

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