ソードアート・オンライン 暗黒剣の使い手   作:シャザ

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第四十二話 取引

 五十層の主街区、アルゲード。始まりの街に次いで最大級のデカさを誇るこの都市にやってきた僕は、エギルと交渉していた。

 スペルビアのドロップ品の換金だ。

 

「もう一回言ってみろよエギル!スペルビアの革、何コルだって??」

 

「だーかーらー、五枚で一万だって言ってんだ!!これ以上は上げられねぇ!!」

 

「高レベル素材だぞ、一枚二千コルは安すぎるだろ!!」

 

 交渉は難航している。…うん、いくら親しくてもぼったくるのは論外だ!!

 

「おいおい、勘弁してくれ。これでも十分高いと思ってるぞ」

 

「一枚四千だ、それ以下だったら新しいレザーコートに加工してやる!!」

 

 言い争いをしていると一人の客がエギルの店にやってくる。

 なんとも気の弱そうな槍使いだ。僕たちの剣幕にビビっているようだ。

 

「あー……お取込み中っすか。」

 

「……おい、キリヤ。少し落ち着いたらどうだ?

興奮しすぎてるみたいだからな、先にこの客を対応させてもらうぞ。」

 

「あ゛ー…。…わかったよ。ちょっと椅子に座っていいか、頭冷やすから。」

 

 エギルから借りた椅子を店の端っこにおいてから腰を下ろす。

 僕はエギルと槍使いの商談を横から見ていたが、エギルの強面な顔に押されて高性能防具の素材である《ダスクリザードの革》を二十枚で五百コルで取引されてて顔が引きつる。

 ホクホク顔のエギルにキリトが苦笑いしながら入店してきた。

 

「おっす、相変わらず遠慮ない商売だなエギル。あの槍使い涙目だったぜ」

 

「まあな!安く仕入れて安く売るのがオレのモットーでな、キリト!」

 

「おう、後半ウソだろおまえ。さっきの哀れな客を見て同じことが言え………そうだなあ…。」

 

 彼のモットーに思わずツッコミを入れた僕に気づいたのか、兄は手をヒラヒラと振った。

 こちらも手を振り返す。

 

「よ、元気そうだなキリヤ!…なんで店の中でくつろいでるのかは聞かないでおくよ。」

 

「ああ、気にするな。それよりなにかいいものが手に入ったのか?」

 

「そのことなんだが、エギル。これ買い取ってくれよ」

 

 キリトがトレードウインドウをエギルに見せると、エギルが大きな声で驚いた。

 

「…な、なにィ!?《ラグー・ラビットの肉》だと!?S級食材じゃねえか!!

現物を見るのは初めてだぜ…」

 

「えええええ!!ちょ、見せて見せて!」

 

 僕はキリトのウインドウを覗き込む。…たしかに《ラグー・ラビットの肉》があった。

 S級食材なんて食べたことがないのでむっちゃ羨ましい…。

 

「うわ、まじでラグラビだ!自分で食べようとは思わないのか!?」

 

「ムリだろ…、俺料理スキル持ってないし。もったいないけど金にしたほうがいいって判断したんだ」

 

「だからといってオレのとこに持ってくるなよ…。」

 

 ぐだぐだ話していると、僕は誰かが静かに店の中に入ってきたのを感じて後ろをチラ見した。

 アスナさんは唇に人差し指を当てている。…気づいてないフリしとくか。

 

「キーリト君♪」

 

 アスナさんはキリトの肩をつっつきながら楽しそうに名前を呼ぶ。

 兄は声を聞いた瞬間彼女の手を掴むとそのまま向き合った。

 

「シェフ捕獲!」

 

「わっ!ど、どうしたのキリト君?」

 

 意味不明なことを口走ったキリトに、KOBの副団長は目を白黒させている。

 後ろにはストーカーのクソ野郎ことクラディールといかにもモブっぽいKOBの団員がいる。…護衛か。

 

「珍しいな、アスナ。こんなとこに顔を出すなんて」

 

「もー、連絡つかないんだから直接来てあげたのに!」

 

「フレンドリストからわざわざ追ってきたのか…?」

 

「…まったく、君にメッセージを送ったらだいたいダンジョンに潜ってるから届かないのよ…。

…で、シェフ云々ってなに?」

 

 キリトはその質問には直接答えずに、アスナさんに質問を返した。

 

「アスナ、たしか料理スキル上げてたよな、今いくつ?」

 

「ふふふ…先週《完全習得(コンプリート)》したわ!」

 

「な、なんだと…。……いや、むしろ好都合だ!その腕を見込んで頼みがある」

 

 キリトはアイテムストレージをアスナさんに見せる。

 

「わわっ!これってS級食材!?」

 

「料理してくれるんなら一口食わせてやっても…」

 

 キリトは話している途中で襟首を掴まれぶんぶん振り回される。

 

「はーんーぶーんー!!」

 

「わ、わかったわかった!それでいいよもう!

……つーわけだエギル、取引は無しなー。」

 

「別にいいがよ、オレらダチだよなキリト??味見くらいいいだろ?」

 

 キリトはすごくいい笑顔でエギルを地獄へ叩き落とす。

 

「おまえに向けて感想文を書いてきてやるよ、八百字以内でなあ!!はーはっは!!」

 

「鬼かてめええええ!!?」

 

「うーむ人の心がない…。」

 

「……で、どこで料理すればいいのかしら。わたしの部屋でいい?」

 

 アスナさんはとんでもないことを言いだした。

 その発言にストーカー(クラディール)は凄い顔をしている。

 

「それじゃあもう護衛は充分よ、ここから直接ホームまで転移しますから。」

 

「ア、アスナ様!!?こんな薄汚いスラムなんぞに足をお運びになるだけに留まらず、ドブネズミを持ち帰るなど…!?」

 

「キリト君はドブネズミなんかじゃないわ!!!あなたよりもずっと強いんだから、クラディール!!」

 

 あんまりにもな彼の発言にアスナさんは怒りをあらわにする。

 

「こ、こんなヤツが…!?……いや、待てよ…?てめえビーターだな!!」

 

「……そうだ。」

 

「アスナ様、こいつら自分さえ良けりゃいい連中ですよ!こんなクズに時間を浪費するのは…」

 

 アスナさんの目は不愉快そうにクラディールを貫くと、

 

「…副団長としての命令です。…ここで帰りなさい!!」

 

苛立ちを隠そうともせずにキリトを連れて店を出ていった。

 エギルは客ではないKOB団員に笑顔を見せながら、こう言い捨てた。

 

「客じゃねえなら帰れ」

 

「クズが…こ、このことはギルド内で報告させてもらうからなァァ!!」

 

「人の店で騒ぐんじゃねえ!」

 

 クラディールは舌打ちしながら店から出ていき、モブ顔はぺこりと会釈をする。

 ちゃんと礼儀正しいやつは好きだよ僕、頑張って生きてほしいな。

 

 

<SIDE:キリト>

 

 …こうして彼女と食事を共にするのはいつぶりだろうか。

 ラグー・ラビットのシチューをつつきながら俺はアスナの方をじっと見つめていた。

 

「どうしたの、キリト君。あんまり見つめられたら困っちゃうよ?」

 

「……わるい、なんか懐かしいなって…」

 

「こうやって誰かと食べるのが?」

 

「いや、アスナとの食事が。」

 

 アスナはにっこりと笑う。

 

「ふーん…?ねえキリト君、わたし覚えてるよ。クリーム乗せた黒パンの味。」

 

「……?ああ、初めて一緒に食べたものか!あの時の初心者がトップギルドの実質リーダーだからなぁ。

…嫌われ者の俺とはえらい違いだ…。」

 

「あのね、みんながみんな君のこと嫌いだなんて思わないで。君に助けられた人だって…」

 

 …慰めてくれてるんだろうか…。いや、余計なお世話だ。俺に、彼女に優しくしてもらう資格なんてない…。

 

「俺はビーターサマだぜ?極悪非道でニュービーを見殺しにしてLA取りまくって自分だけが生き残ればそれでいいクズ!!

…そういうことにしておいたほうが俺も楽……なんだ…」

 

 視界が涙でにじむのを、彼女に気づかれないように拭う。

 

「まーたそうやって自分を悪くみせようとして…。そんな悪い人だったらわたしは今頃生きてないわ。」

 

「………。俺が決めた生き方だからいいんだよ。」

 

 ああ、せっかく美味しい食事なのになんだか湿っぽくなってしまった。

 …もう帰ろう、これ以上彼女の気分を損ねてしまわないように。

 

「…ごめん、せっかく作ってもらったのに…。じゃあ、帰るよ。

気分悪くさせて、ごめん…」

 

 椅子から立ち上がり、帰ろうとする俺の手を彼女は強く掴んだ。

 

「待って!!」

 

「…あ、アスナ…?」

 

「キリト君、そんなのいやだよ…。そんな生き方を続けてたら、キリト君がひとりぼっちで死んじゃう!!

お願い、わたしともう一回コンビを組んで!」

 

 涙を流すアスナに俺は驚愕で言葉がうまくでない。一旦深呼吸をした俺は、彼女を説得しようとする。

 泥沼に沈むのは俺だけでいいんだ、俺なんかとつるまない方が、彼女にとっても幸せなんだ…!

 

「い、いやいや…もうアスナが俺とコンビを組むのは無茶だろ…。

だいたい、ギルドはどうするんだ!こんな根無し草(ソロ)に構ってる暇ないんじゃないか!?」

 

「じゃあギルドやめる!!もうあんな場所知らない!!」

 

「うわああああ!!?わ、わかったわかった!!俺の負けだ…。

頼むからギルドをやめないでくれ…。コンビくらいでいいならやるから…!」

 

「ほんと…?」

 

 ぶんぶんと首を縦に振る。…なんて女だと思わなくもないが、なんだか怒るのも違う気がした。

 彼女の言っていることはめちゃくちゃで意味不明だが、俺を純粋に心配していることは理解できたから。

 

「ああ、本当だ。…じゃあ、明日の朝九時、最前線のゲートで。」

 

「うん、また明日。…逃げたらゆるさないからね、キリト君?」

 

「………ハイ、ワカリマシタ」

 

 アスナの笑顔がまぶしいなあ…。

 

 

 暗い夜道を一人で歩きながら、俺はどうしてこんなことになったのかぼんやり考えていた。

 …もう、誰かを相棒にする気なんてなかったのにな。

 

「でも、こんなにいい気分は久しぶりだ。……明日が楽しみだな」

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