※サブタイトル追加しました。
空から落ちてきた少女は気を失っているらしい。
どうすりゃいいんだよ…こんなの個人で解決できないって!
「……よし、アルゴに相談しよう!」
「…もう一回言ってくレ。聞き逃したかもしれなイ」
アルゴの顔が引きつっている。
僕も同じことをキリト辺りに言われたらおなじ反応をするだろう。
「…風を浴びていたら空が割れて女の子が落ちてきました。」
「ね、寝言は寝て言えヨ!?アインクラッドでそんなバグじみたことが本当に起きたのカ!?」
「そこに寝てる子が証拠です。…NPCが落ちてくるんなら、クエストとかが発生したんでしょうが…彼女、プレイヤーです」
宿屋のベッドで寝かせている女の子を見て、アルゴはため息をついた。
「クエストを失敗してこうなったんなら、かなりまずい状況だゾ…。今もクエストが存在しているってことダ。
それ以外が原因だとしても、第二、第三の被害者が出てくるかもしれなイ。」
情報屋二人があーでもないこーでもないと議論を交わしていると、
「う、うぅん…」
と少女が起きそうな声を出した。
「…こうして議論するより、あの
「…そうだな。」
<SIDE:???>
…誰かが話し合いをしている。多分男女の二人だろうか。
目を開けると、そこは知らない天井だった。
体を起こすと少年と目が合った。その隣の女性が私に声をかけてくる。
「ヨっ!…目が覚めて良かっタ。大丈夫かイ?」
彼女はどことなく浮世離れした風貌だった。
茶色のフード付きマントに巻き毛の金髪、顔には動物のヒゲらしき化粧をしている。
まるでファンタジーに出てくる隠者のようだ。
「えっと、体の方は大丈夫。…それよりも、ここは…?」
それに答えたのは少年。
「ここは僕が借りている宿屋。四十九層だ。」
なるほど、たしかに周りは木でできた一室のようだ。
少年を観察してみると、中性的な顔立ちをしていた。
少し長めの髪を後ろにまとめ、黒色に所々シャープな赤いラインの入ったコートを着ている。
…なにより目を引いたのは背中に背負った大剣だった。
「あなたたち、これからコスプレ大会にでも出るの?すごい格好してるわね。」
二人は顔を見合わせた。彼らに困った顔で質問される。
「…ここがどこか分かるかい?」
「…えっと、ごめんなさい。分からないわ。」
「ここは《アインクラッド》。ソードアート・オンラインっていうデスゲームの中だ。」
「…聞き覚えはある気がするけど…」
「ここにくるまエ、何してたか覚えてるカ?」
「………!? わ、わからない…!思い出せないわ…」
自分の名前は辛うじて覚えているけれど、それ以外は全く思い出せなかった。
…つまり、私は記憶喪失になってしまったらしい。
「最後に、自分の名前は分かるかい?」
「…朝田詩乃。」
「…本名じゃなくってキャラクターネームの方だよ」
「あ、そっか。ここゲームの中なんだ。…メニューを開けば多分わかると思うんだけど…」
「そうだね。僕の右手の動きを真似してごらん」
そう言うと彼は右手の人差し指と中指をまっすぐ揃えて掲げ、真下に振る。
私には見えないが、おそらく彼の目には自身のメニュー画面が見えているのだろう。
私も真似をすると、シャランという音と一緒にウィンドウが出現した。
幸い、自身の名前はメニューの初期場面に書いてあった。
「えっと…S、I…《シノン》、かしら」
あー、これほぼ本名のもじりだ。なんか恥ずかしい気がする。
「いい名前だと思うよ。僕も似たような感じだし?」
名前で思い出した。そういえば彼らの名前を私はまだ知らない。
「…そういえば、あなたたちの名前、まだ聞いてないわ」
「あ、そうだね。僕はキリヤ、こっちはアルゴ。よろしく」
「オレっちたちは情報屋なんだヨ。あらゆる情報を収集シ、対価に応じて拡散シ、公利に適えば拡散しテ、場合によっては
あんたがヤバい情報を持っている可能性があったかラ、こうして質問してるってことサ」
やばい情報?一体どういうことなんだろう。
「…
…からかわれているのかと一瞬思ったが、彼の表情は真剣そのものだった。
「……本当に…?記憶を失う前の私、一体何をしていたのかしら?」
「困ったなー。謎だらけでなにが起きてるのかさっぱりだ!」
私も彼の立場なら、同じ様に頭を抱えるだろう。…なんだか申し訳なくなってきた。
「なんか、ごめんなさい。少しでも思い出せたらよかったんだけれど…」
「なーに、大丈夫サ。あんたは運がいいヨ、最近はきな臭い匂いが強くなり始めテ、何かと物騒なんダ。」
「オレンジプレイヤーたちの様子がなんかおかしいからな。警戒しておいて損はないと思う」
キリヤは疲れたように笑った。
…彼らは、きっとこの世界だけではなく、同じプレイヤーとも時には対立したのだろう。
助けになりたかった。自分をどんな理由があったとしても、助けてくれた二人の力になりたい。
「……。ねえ、アルゴさん、キリヤさん。私にも、できることをおしえて。」
少しだけ、彼らは考えて、大きく分けて三つの道を示した。
一つ目は、逃げること。下層の町でクリアされるまで待つ。
二つ目は、造ること。クラフト系のスキルを取得しアイテムの製造、修復を行う。
三つ目は、戦うこと。攻略組に入り、アインクラッドを制覇するまで命を賭ける。
一つ目は論外、二つ目はきっと間に合わない。だから、私は。
「戦うわ。生きて帰るために、あなたたちを助けるために」
「本当に、それでいいんだな?」
「ええ、それに戦っていたら記憶が戻るかもしれないし」
と、そこでアルゴが質問してくる。
「それはいいんだガ、レベルはいくつダ?それによっちゃ計画立てなきゃいけないゾ。」
さっきメニューに書いていた数字を思い出す。
「さっき見たら、五十二ってなってたけど…?」
「…わりと高いな。それなら戦い方を知ってレベリングをちゃんとすれば十分追いつけると思う。」
「キリヤ、お前が助けたんダ、もちろんこの子を任せてもいいよナー?」
「も、もちろん。というわけで、君に戦い方を教えてあげる。お礼は…余裕ができてからでいいよ」
私は、この日キリヤと一緒に戦うことを選んだ。…自分が何者かも知らないままで。
<SIDE:キリヤ>
十二月もあと数日で終わり、この世界で二度目の新年が始まることに若干うんざりしながら、僕は自身の初めての弟子シノンとフィールドに出ていた。
シノンは先ほど購入した短剣と、数本の投擲用のナイフを腰に着け、こちらについてきている。
五分も歩くと亜人型MOBの《オーク・チョッパー》を見つけた。オークはこちらにはまだ気付いていない。
「さっき亜人系の特徴は教えたよね。こいつらは人間と同じ様にソードスキルを撃ってくる。
オークは打撃以外ならダメージが通るから、射程に気を付けて」
「…わかった。で、早速攻撃してもいいのよね?」
「いいけど…ナイフのダメージは急所つくとかじゃなければかなり低いよ?」
「急所に当てればいいだけよ。首辺りがいいかしら?」
「……危ないと思ったら助けるぞ」
シノンは投剣スキルの基本的なソードスキル、《シングルシュート》の構えを取ると、オークにソードスキルを放つ。
ナイフは見事にオークの首に直撃し、派手なエフェクトを放った。敵のHPが四割も減少する。
シノンは不意打ちに慌てるオークに急接近し、短剣ソードスキルの《ファッド・エッジ》を放った。
オークは何の抵抗もできずに爆散した。
「…なんだ、わりと簡単に倒せたわね。私、意外と戦えるみたい」
「…すげえ。結構な距離があったのに、宣言通り当てちゃった…!」
とんでもないダイヤの原石を見つけてしまった。彼女は、きっと物凄く強くなる。
第二の閃光になり得る逸材に、興奮が止まらない。
こうして、僕はシノンの師匠として彼女に戦い方を教えた。
水を吸ったスポンジのように教えたことをグングン吸収する彼女を見て、とてもうれしかったんだ。
そして、大晦日。大事件が起きることを、まだこの時の僕は知らなかった。