ポケモン世界に転生したら悪の女幹部になった   作:すごいぞ!すえはら

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第1話 ガラル地方にこんにちは

 

 私の前世は平凡なOLだった。

 

 ニホンという国の都会で、二流私立大学を卒業し大手商社の一般職になった。主な仕事は、備品の調達と営業資料作り。

 仕事はそれほど面白くなかったが、給料は悪くないし、激務でもないのでアフターファイブには、習い事をしたりとそれなりに充実していたと思う。

 

 あとは結婚かなー、いい人が見つかるといいな。そんなことを思っていた矢先、私は死んだ。

 死因はわからない。ただ、今でも炎が苦手だから、火事なんじゃないかと私は思っている。

 

 死んだら虚無になり、真っ暗な世界を漂うのだと前世の私は思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 

 気がついたら私は、ポケットモンスターの世界に転生していた。

 

 ポケモンは小さい頃に赤緑しか遊んだことがなく、記憶もあやふやだったがマサラタウンのサトシという名前は憶えていた。それと、相棒のピカチュウ。

 

 ゲームへの思い入れはそれほどなかったが、ポケモンの世界に生まれたからには、主人公と肩を並べて胸躍らせる冒険をすることになるんじゃないかとワクワクした。

 

 しかし、現実は非情である。

 

 転生先の世界に家族はいなかったので、私は孤児院で生活することになったが、そこでの生活は最悪だった。ゴミを見る目で接する大人に、性格の悪いメスガキ達。

 

 ジメジメとしたカビ臭い子供部屋で、大勢のガキどもと雑魚寝をしていると、自分が無価値な虫ポケモンになったような気分になった。

 

 孤児院の子供部屋に、光は刺さない。

 

 特に、メスガキ達からは、陰湿なイジメを受けた。前世の記憶が朧げながらあって、大人びているのが良くなかったらしい。ムカつくので、メスガキの一人に渾身の右を喰らわせてやったら、たちまち孤児院の問題児扱いである。

 

 せっかくゲームの世界に転生したのに、運がないことこの上ない。

 

 孤児院での生活にメゲて、近くの水辺で唯一の友達のオタマロと遊んでいたところを、私はロケット団に拉致された。たしか、8歳の頃だったと思う。

 

 私は見てくれが良かったので、人買にでも売られる予定だったらしい。

 

 しかし、何故か私の境遇に同情されてしまい、私をさらった組織のしたっぱ達に、ロケット団に入るよう説得された。人買に売られるよりかはマシだし、私が悪事を働いて悲しむ人もこの世界にはいないので、私はロケット団に入団することを決めた。

 

 ロケット団の人たちは優しかった。

 

 この世界にはクズしかいないと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。悪の組織に入って私は、はじめて家族ができた。

 

 みんなが喜ぶのが嬉しくて、私は一緒に悪事を重ねた。奪ったポケモンを売り捌いたお金で仲間と食べるすき焼きは、たまらなく美味しかった。

 

 孤児院にいたころには気づかなかったが、私にはポケモンバトルの才能があった。狙った獲物は百発百中、絶対に手に入れる。力で相手をねじ伏せるのは、気持ちが良い。

 

 10歳になるころには、窃盗や強盗みたいなちゃちな犯罪をするのにも飽きてきて、私は大きな仕事がしてみたいと思うようになっていった。

 そして、そのチャンスはすぐにやってきた。

 

 私のはじめての大仕事は、デパート襲撃のお手伝いだった。ブーバーを使ってデパートに火をかけて、逃げ惑う人々を尻目に金品を回収する。そんな計画だった。

 私の役割は、みずタイプのポケモンを使って組織の幹部に火の粉が飛ばないよう、お守りすることだった。しかし、燃え盛る炎の勢いは凄まじく身がすくんだ。

 

 仲間達のまえで大口を叩いた挙句に、この有様である。情けなさと恐怖で私の足がすくみ上がった。

 

「小娘、炎が怖いのか?」

 

 サカキ様に低い声で、そう問いかけられて、私はコクコクと肯くことしかできなかった。役立たずの私は、殺されるんじゃないかと思った。

 サカキ様は宝石売り場のダイヤモンドのネックレスを乱暴に掴んでから、私の首にかけてくれた。

 

「よく憶えておけ、恐怖とは己の内側から生まれるものだ。真の悪とはそれを克服する。炎をよく見てみろ、敵と正対せず克服はない」

 

 恐怖を押し殺して俯いた顔をあげてみると、キラキラと輝くダイヤモンドと同じように、サカキ様の周りで燃え盛る炎も輝いているように見えた。

 サカキ様に降りかかる火の粉を私は、ニョロゾのみずてっぽうで撃ち落とした。気がついたら震えは止まっていた。

 

「ほう? いい腕じゃないか」

 

 この人はカリスマだ。褒められただけで心が温かくなる。多くの団員を従える、悪のカリスマ。

 恐怖や困難と正対する術を、私は悪の頭領から教わった。

 

 こうして私は、テレビの大画面に映るポケモンリーグのトッププレイヤーよりも……

 

 ギャングスターに憧れるようになったのだ。

 

 主人公と冒険がしたいと思っていたのに、気がつけば、悪の組織ロケット団に入団し組織の大幹部にまで昇進してしまった。

 

 人生とはままならないものである。

 

 組織から命じられ、私はガラル地方の征服を一任されることになった。豊かなエネルギー資源は、喉から手が出るほど欲しい。

 私はロケット団のしたっぱと、そこらで燻っていたゴロツキどもを集めて、ロケット団の下部組織としてケロケロ団を結成。

 

 ガラル地方の征服に乗り出すことになる。

 

 ロケット団から独立させて新組織を作った理由は、自分の子飼いの部下が欲しかったからだ。地盤を持たない幹部は、ロケット団内部で発言権を得られない。

 

 そこらで燻っていたゴロツキや、優秀な科学者達を味方に引き入れていく。ロケット団の名前よりも、加入することに罪悪感を憶えるものが少ないことも拡大を後押しした。

 なにより、ケロケロ団のほうがロケット団よりも語感が良いし、カエルは可愛いのでこの結果は必然といえる。

 

 ケロケロ団を大きくすることに成功した私がまず行うことにしたのは、ガラル地方を牛耳る巨大企業グループ、マクロコスモスへの襲撃である。

 

 巨大企業への強襲という単語に私の心は踊った。

 

 巨大企業を傘下に置けば、悪の組織への恩恵は計り知れない。ガラル地方の制覇への大きな足掛かりとなる。

 しかし、そんなことよりももっと大事なことがあった。

 

 すっごく! 悪っぽい!!!

 

 やっぱり悪の組織たるもの、財閥を襲撃しないといけない。

 シルフカンパニーを襲撃したサカキ様は超カッコよかったし、悪と巨大企業の相性は最高である。

 

 襲撃が成功したら、企業を隠れ蓑に悪いこといっぱいするんだ!

 

 高揚感に包まれながら、私は強襲用のヘリコプターに乗り込む。

 ロケット団始まって以来の天才である、この私に死角などないのだ。

 

❇︎

 

「な、なんなんだね君たちは!?」

 

 ガラル地方を取り仕切る、巨大企業グループマクロコスモスの会長であるローズの叫び声が会長室に響く。

 

「私の名前はレイコ。ロケット団の団長サカキの1人娘にして悪の女幹部。今は、ケロケロ団の団長を務めております。以後、お見知りおきを」

 

 私はそう言いながら、スーツのジャケットの右ポケットからモンスターボールを取り出し、床に無造作に放る。

 

「いけ、グラエナっ」

 

 私の意図を正確に読み取ったグラエナは、一直線にローズ会長へとっしんを仕掛ける。黒く賢い獰猛な忠犬が会長を絨毯の上へと引き倒し、身動きを封じた。組み伏せたローズ会長の喉仏に、牙を突き立てようとしているのを、会長は必死に両手を使って防いでいる。

 

 ん……身動きを封じたところまでは良いんだけど、なんだかそのまま喰い殺そうとしてない!? 

そいつが死んだら困るから! ウエイト! ウエイト! ウエーイト!!!

 

 手で制した私の意思が通じたのか、グラエナは噛みつこうとするのを止めて、押さえつけることに専念してくれた。よしよし良い子だ。

 

「レイコと言いましたね!? なんですかあなたは、何処からこのローズタワーに入って来たのです!」

 

 ローズ会長の横にいた秘書姿のクソブスが、憤怒の形相で私のことを睨みつけてきた。たしか、オリーヴという名前の副社長だ。   

 クソブスの分際で、身長171cmの私よりも背が高いのがムカついた。綺麗な黒いハイヒールを履いているので、蹴り飛ばしてやれば、ヒールが脱げて私より小さいということを確認できるかもしれない。

 

 クソブスの隣に、ダストダスが控えていたのを見て思わず私は舌打ちした。会長のときのように、不意打ちでポケモンで、抑え込ませるという手法は使えなそうだ。

 

「ずいぶん高いビルだったからね、下から登るのは大変だから、ヘリポートから強引に入らせて貰ったよ」

 

「警備の者がいたはずです!」

 

「ああ、あんな雑魚ものの数には入らないよ? 今はグズマが相手をしているんじゃないかな? 私はああいう下っ端とは、触れ合わない主義だから」

 

 ダストダスとは、クソブスらしいお似合いのポケモンだ。

 

 私の可愛らしい相棒の足元にも及ばない。

 

 そして、私の相棒は容姿に優れているだけでなく強い。

 タイプ相性的にも悪くない。エースという手の内を見せるのはシャクだが、ここで格の違いをローズ会長とクソブスに、見せつけておいても良いかもしれない。

 

「いけ、ガマゲロゲ!!! 本当の強者というものを教えてやれ」

 

ゲコwwwゲコゲコゲコゲコwwwwww

 

 ガマゲロゲは愛らしい鳴き声で、私の指示に応えてくれた。ガマゲロゲは、可愛いだけでなく、凛々しさが声からも感じられてとても頼りになる。とても男前のポケモンなのだ。

 

「ダストダス! やっておしまいなさい!!! この傲慢で無礼な女に、鉄槌を下すのです」

 

 ダストダスは、ダストシュートの構えをとったが、あまりにも遅すぎる。ガマゲロゲの敵じゃない。

 

「だいちのちから!」

 

 ダストダスの足元に大地の力が集約していき、ガマゲロゲの渾身の一撃が炸裂した。

 

 こうかはばつぐんだ。

 

 一撃でひんしの状態に追い込まれたダストダスを見て、クソブス女がへたり込んだ。

 

 そうそうそれで良い。私より頭を高いところにして生活しないでね。見上げながら話をするのは大変だから。

 

 今後は、ガマゲロゲの大きな大きな影に怯えながら生きろよ。

 

 バトルが終わって、無様な敗北者を上から眺める。ポケモンバトル最高の瞬間である。これのためにやっていると言っても過言ではない。

 トレーナーとしての格の違いを見せつけたところで、グラエナに退くよう指示を出した。邪魔者はいないこれでようやく話ができる。

 

「こんな美女のほうから押し倒してくれるとはね、ずいぶん積極的じゃないか」

 

 グラエナがグシャグシャにしたスーツの襟を両手でなおしながら、ローズ会長は私に話しかけてきた。

 

「ローズ会長は魅力的な方ですから……おっと、まだボールには手を伸ばすなよ。話はまだ終わってない」

 

 ローズ会長が腰元のモンスターボールに手を伸ばそうとしたので、私は声で制した。

 

「悪名高いロケット団、その幹部がわたくしになにか用かな?」

 

 応接セットのソファーにローズ会長が腰掛けたのを見て、私も腰かける。相手が座っているのに、こちらが立ったまま話を続けるのは矜恃に傷がつく。

 

「ローズ会長、あなたがエネルギー問題に強い関心を持っていることは知っている。そして、1000年後にはこの世界から化石燃料は消え失せ、人類は衰退の一途を辿るということも」

 

「ほう」

 

「そのための代替エネルギーをあなたは求めた、そしてあなたはひとつの可能性にたどり着いた」

 

「そう、ムゲンダイナに」

 

 ガラル地方に、ブラックナイトを引き起こしたとされる伝説のポケモン、ムゲンダイナの名前を出した途端、ローズ会長の顔色が変わった。大きく眉を動かしてから無理矢理、平静を装うような表情をつくった。

 

 焦りとこちらに対する僅かな期待がチラついている。

 

 巨大財閥の長が聞いて呆れる。不測の事態とはいえ感情が顔に出過ぎている。悪というものは常に堂々とし、不敵な笑みをたたえていなければならない。

 サカキ様から、そう教わった。

 

「それで? 君たちには関係のない話だ」

 

「ポケモンを支配する技術と、ポケモンバトルにおいて、ロケット団の右に出るものはいません」

 

「ムゲンダイナを安定させる磁場フィールドに戦闘員、一企業では到底用意できないものです」

 

 ロケット団の科学班は本当に優秀だ。少ない資金で最大の成果をあげてくれる。しかも、強奪したポケモンの売れ残りさえ渡していれば、文句も言わず働く。

 それどころか、昼夜研究をさせ続けている私へ感謝の言葉を向けてくれるくらいだ。

 

 ブラック企業も真っ青の就労環境だが、アットホームな職場と、道徳に囚われない進歩的な企業理念が売りで、なかなか就活生の科学者さん達からは人気がある。

 

「マクロコスモス・テクノロジーは高いテクノロジーを有しているし、我が社の社員は優秀だ。帰ってくれたまえ」

 

「私とガマゲロゲ一匹とめられない社員が優秀ねえ……」

 

 私がクソブスに蔑みの視線を送ると、憤怒の表情を返してくれた。

 

 ああ、これだから悪はやめられないのだ。

 

 表の企業で、ポケモンをボールから出したまま拘束する技術など、持ち合わせているはずがない。私には確信があった。

 ローズ会長は、顎に手を当てて思案に暮れる。

 

「まことに遺憾ではあるが……君と手を結ぼう、しかし犯罪の片棒を担ぐ気はないぞ」

 

「ええ、黙認していただければ、それで構いませんので」

 

「決まりだな」

 

 ローズ会長と私はかたい握手を交わした。

 お互いの欲望と、打算が混ざり合う感覚が堪らない。

 

「会長!? そんな……こんなやつらのいうことを聞いてはいけません!」

 

 クソブスが抗議の声をあげているが、もう決まったことだ。ローズ会長は私を……いや、ロケット団を選んだ。

 

「ふふっ……感謝しますよ、会長」

 

 交渉がうまく行ったことに、私は内心ほくそ笑んだ。

 マクロコスモスの関連企業に、どれだけ研究員を送り込めるだろうか? 

 エネルギー資源を本部に流したらどれだけの利益になる?

 頭の中に電卓が現れて、パチパチと音を立てて計算されていく。お金のことを考えると、笑いが止まらない。

 

 経理としての血が騒ぐ。

 

 しかし、仔細はこれから決めていけば良い。今は交渉に集中しよう。

 

「しかし、君の本当の目的はなんだね?」

 

 ローズ会長は、私のことを窺うような目をしながら、そう問いかけた。

 

「本当の目的?」

 

「そうだよ、レイコくん。君が犯罪行為をしたいだけの小悪党には思えない。なにが目的なんだね?」

 

 さすがローズ会長、なかなか良いことを聞いてくれる。悪の組織の目標を示す機会なんてなかなかあることじゃあない。

 私は胸が高鳴るのを感じながら、会長室のガラス張りの大きな窓へと近づく。

 

 真っ暗な夜の常闇に浮かぶように、ガラルの工業地帯が煌々と輝いていた。

 

「まずは、このガラル地方の工業地帯とエネルギー資源を足掛かりに最終的な狙いは——」

 

 ロケット団の活動目的を発表する前に、私は大きく息を吸い込む。

 

「世界征服よ!!!」

 

 私は、そう高らかに宣言する。

 ローズ会長とクソブスの目が丸くなって、パチクリしている。

 

 あ、こいつなに言ってるんだって思っているわね……クソブスはともかく、ローズ会長にそう思われるのは悲しい。

 

 まあ悪の組織の崇高な目標は、一般人からは、なかなか理解されにくかったりするものなので気にしないでおく。

 

 

 世界征服。その目的の為に出会いと別れを繰り返し、レイコと、その仲間達の旅路は今日も続く。続くったら続く。

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