ポケモン世界に転生したら悪の女幹部になった   作:すごいぞ!すえはら

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第16話 作戦会議

「だから、ジョウトの企業群に仕事を斡旋するのは辞めろと言っているんだ! ガラルの事情にこちらは関係ない!!!」

 

 シルフカンパニー本社ビル10階会議室。

 ロケット団の首脳陣が揃うその部屋に、アポロの怒号が響いた。

 

「マクロコスモスの市場は多岐にわたっていますし、グループ企業を儲けさせるのはロケット団全体の利益になるので当然のことです」

 

 相手のペースに合わせず、私は冷静にそう言った。

 

 ローズ会長と手を組んでから私は、ジョウトやカントー地方のロケット団と関わりのある企業へと大量の仕事を発注することにした。

 マクロコスモスの事業は幅広く、取引先も多いため、いくらでも贔屓の企業をねじ込むことが可能だ。

 

 副社長のクソブスは私の動きを察知して、面白くなく思っているようだったが、ローズ会長の方は特段気にも止めていないような様子だった。

 

 マクロコスモスという巨大な取引先を確保することで、ロケット団の関連企業が利益を上げる機会を提供することで、組織全体の利益に繋げることが出来る。

 

 しかし、それは表向きの理由だ。

 本当の狙いは別に2つある。

 

 まず、1つ目は

 私のキャリアが、マクロコスモスと一心同体であるのと同じように、マクロコスモスにもロケット団が必要不可欠な存在になってもらうこと。

 企業の成長と共にじわじわと依存度を引き上げていって、切っても切れない関係を構築しなければならない。

 

 そして、2つ目がこのアポロ。

 ロケット団のナンバー2を務める男が、その理由だ。

 

「ガラルとイッシュはそちらに任せる代わりに、ジョウトはこちらが担当するという取り決めだったが?」

 

「ええ、もちろん。ジョウトの収益があがることは、アポロさんにとっても結構なことでしょう?」

 

 私がそう言い終えると、アポロは青筋を立てて苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

 ロケット団は決して一枚岩ではない。

 サカキ様を頂点として、その下にはいくつもの派閥が覇を競っているのが現状だ。

 

 そしてその派閥のなかでも、特に大きいものがアポロ派と私が率いるケロケロ団である。

 

 私が幹部養成学校にいるころや、幹部になりたての頃は、アポロは私にとても良くしてくれて色々と便宜を図ってくれた。

 

 しかし、私が組織内で力をつけていくにつれて、だんだんと風当たりが強くなっていき、今では対立姿勢を互いに隠そうともしていない。

 

 今にして思えば、アポロが過去に私のことを引き上げたり良くしてくれていたのも、自己の派閥へ引き入れるための打算的なものだったのだろう。

 

「とにかく! こんなものは認められない。レイコ君がガラルで成果をあげているのは結構なことだが、ジョウトやカントーのことに口出しされるのは困るんだよ」

 

「口出しをしたつもりはありませんが……」

 

 ガラルやイッシュを中心に成長著しいケロケロ団にたいして、アポロは従来からロケット団の影響力の大きいカントーやジョウトを根城にしている。

 いわば既得権益となっているそれらの地方の企業に、ケロケロ団の影響力が強くなってしまうのは彼らにとっては死活問題なのである。

 

——ま、だからこそやっているんだけどね。

 

 ロケット団のナンバー2の座にいるアポロだが、いつまでもその地位を預けておいてやることはない。

 近い将来、私が彼にとって代わってカントー、ジョウトの企業群も手中におさめてやる。そのためには、ガラル地方での成功が必要不可欠だ。

 

 私たちの譲らない主張のぶつけ合いが終わると、アクロマとアポロ派のアテナの言い争いも始まって会議は何も決まらない平行線のまま一触即発の雰囲気となった。

 

「もういい。やめろ」

 

 会議の行く末を腕を組んだまま黙ってご覧になられていたサカキ様が低い声でそうおっしゃると、会議室はシンと静まり返った。

 

「小娘の好きにさせてやれ」

 

 そう言って席を立ち出入り口のドアへと向かわれるサカキ様に、私は立ち上がって深く頭を下げた。

 カツン、カツンと靴の革底がタイルの床に響く音が私の前で停止した。恭しく私が頭を上げると、サカキ様は透かすような瞳で私のことを眺めあげた。

 

「だか、おまえもやりすぎるなよ。そして常に結果を出すことを忘れるな」

 

「はい、わかっております」

 

 私がそう答えると、サカキ様は言いたいことは終わったとばかりに会議室を後にした。

 

 サカキ様が帰られたことで、派閥同士の友好的でない重々しい空気がさらに鮮明になった。

 

「ガラル地方での結果がどうだか知らないけど……サカキ様のお気に入りだからって、あまりデカい顔するんじゃないわよ」

 

 アテナは小さい小さい背丈で、私のことをギロりと睨みつけた。

 小さな体に大きな態度。実力差もわからないとは、三流に相応しいおめでたい脳みそだな。

 

 手がモンスターボールに伸びそうになるのを私は必死に抑えた。ロケット団同士でのポケモンバトルは後々面倒だ。

 そのあたりのことはわかっているアポロが、チビスケのことを声で制した。

 

「やめろ、アテナ。サカキ様の命令は絶対だ」

 

「はい……アポロ様」

 

 アポロは悪の組織らしからぬ貴公子然としたところがあって、仲間同士での争い事は本質的には好まない性格だ。

 黒色のロケット団の制服ではなく、特注の白色の制服を身につけているところにも表れている。

 

「では、レイコ君。失礼させてもらうよ。ガラルは寒いから体には気をつけて」

 

「ええ、そちらこそ」

 

 優雅な動作で席をひいて、アポロは会議室を後にした。その後ろを飼い犬のように、醜い顔のチビスケが付き従う。

 

「それでは我々ももう帰りましょうか?」

 

「ええ、そうね。今日は悪かったわね、わざわざ着いてきてもらって」

 

「いえいえ、研究のパトロンさんですから。礼には及びませんよ」

 

 今日はアクロマには、研究成果の報告を補佐する目的でついてきてもらった。

 彼自身が、ドロドロとした長い会議が嫌いなことは、火を見るよりも明らかであったので私はそうお礼を言った。

 そもそも、アクロマはロケット団の今後について一切の関心などないだろう。

 

「でも、あなたがアテナと論争をするとは思わなかったわ」

 

「研究の真偽性を疑われたのには腹が立ったのでつい、申し訳ありません」

 

「いえ、別に構わないわ」

 

 こういう場には腕っぷしだけのグズマよりも、アクロマに来てもらった方が助かる。

 もう少し落ち着いてロジックを踏めるようになるとグズマも成長できると思うのだが、もはやそれはグズマではないような気もする。

 

 彼には彼の居場所で、仕事を頑張って貰うことにしよう。

 

「アクロマはヤマブキシティは初めて?」

 

「いえ、タマムシ大学での学会の帰りに寄ったことがありますね」

 

「ああ、なるほど……たしかにそうね」

 

 彼ほどの研究者にはたしかに野暮な質問だったかもしれない。タマムシシティの方には何度も足を運んでいるだろうから、訪れていることがあるのが普通だろう。

 

「せっかくカントーまで来たのだから、観光でもしていかないかしら? 少し足を伸ばせばデパートもあることだし」

 

「デパートですか……」

 

 明らかに不服そうな顔をしたアクロマに、私は別の提案をした。

 

「ああ、それは少し遠いかしら? リニアの駅があるから、車両を見学しに行くのはどう?」

 

「ああ、良いですね。楽しめそうだ」

 

 顔を綻ばせたアクロマの様子を見て、私はほっと一息ついた。どうせ出かけるのなら、お互いに楽しめる場所がいい。

 

「それにしても、驚きました」

 

「ん? なにがかしら?」

 

「レイコさんは、ロケット団の仲間は家族のようなものとおっしゃっていましたが、なかなかうまくいっていないようで」

 

 興味深そうに言ったアクロマの言葉に、私は眉が動いてしまったのを自覚した。

 

「ええ、そうね。でも、サカキ様もアポロも私にとっては大切な仲間なのよ」

 

「向こうは、そうは思っていないかも知れませんよ?」

 

「……ま、そのときはそのときね」

 

 あまり話していて気分の良い話でもないので、私は曖昧にそう答えてこの話を打ち切った。

 

「それにしても、意外ね。あなたは研究さえできれば、ロケット団に興味なんてないと思っていたわ」

 

「ええ、ロケット団に興味はありませんが……私の研究には関係がありますから」

 

 メガネの奥にある好奇心の塊のようなアクロマの瞳が、じっと私のことを見つめていた。

 

「ああ、たしかにそうね。私が倒れたら貴方も研究が難しくなるでしょうし」

 

「勿論です、レイコさんには頑張って頂かないと」

 

 私とアクロマ以外には誰もいなくなった会議室。

 サカキ様が腰掛けていた椅子の後ろの窓まで私は歩を進めて、私はヤマブキシティの街並みを一望した。

 シルフカンパニーの本社ビルはずいぶんと古くなってしまって、再開発の進んだこの周辺には、ここよりも高いビルがいくつも立ち並んでいる。

 

 でも、私にはこのシルフの本社ビルから見えるビル街と人の往来が1番なのだ。

 

 だって、5年前。いや、10年前からずっとこの景色が大好きなのだから。

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