ポケモン世界に転生したら悪の女幹部になった   作:すごいぞ!すえはら

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第17話 トップモデル

 モデルの仕事は順調みたいですねぇ……

 でも、ジムリーダーもやって、モデルもやってだと結構忙しいのでは?

 

 スタジアムのロッカールーム。

 試合前の緊張感漂うその部屋でルリナは、かつてローズから言われた言葉を心の中で反芻させていた。

 

 一年前のリーグ戦。負けた後に浴びせられたその言葉は、拭っても拭ってもルリナの心の奥底に燻り続けていた。

 

 

「どこまで上を目指すのかは……君次第……か」

 

 

 ルリナはそう呟いてから、郵便手紙に記載されたこの試合の対戦相手の名前を褐色の長い指先で、何度もなぞった。

 

 

 レイコ博士。

 

 

 ダンデ君の連勝記録を止めた怪物。

 ジムリーダーがどれほど挑んでも、誰も勝つことのできなかったダンデ君を破ったと言う話を聞いた時、ルリナは信じることが出来なかった。

 

 しかし、メロンさんとの試合を見せられた今はそれが間違いではないと確信している。

 

 あの試合、博士は自分が勝つことに絶対的な自信を抱いていた。ポケモンバトルの技量もそうだが、負けることなどこれっぽちも考えていないような姿。

 ポケモンたちに、安心と信頼を与えるその立ち振る舞いは明らかに一流のそれであった。

 

「でも、今日の試合……絶対に勝ちたい」

 

「私が……私が勝つんだ!」

 

 自分を鼓舞するように、ルリナはそう自分に言い聞かせた。

 

 二兎を追うものは一兎をも得ず。

 

 そんな言葉は、絶対に間違っている。

 ひとつの夢を掴むために、もう一方の夢を諦めるような生き方をしてはいけない。

 

 モデルとトレーナーどちらの世界でもトップを目指す。

 

 親友のソニアに励まされて、そう決意することができた。

 

 レイコ博士は、研究者としても超一流だと聞く。

 ソニアも、彼女のことをすごいすごいと褒めていた。歳もそう変わらないだろう博士のことを思うと、ルリナの心に嫉妬の炎が灯りそうになる。

 

 でも、そんな人がいるから。

 

——私だって……ミロカロスのようになれる

 

 美しさと強さを兼ね備えたポケモン。

 二足の草鞋を履いて進んでいくことが不可能ではないのだと、示してくれた対戦相手にルリナは感謝した。

 

「でも、私がそうなれると信じてくれたソニアのためにも……私が勝つよ」

 

 博士に勝つことが出来れば、トレーナーとしてもモデルとしても、また一歩成長できる。

 そして、火事で行方不明になってしまったソニアと再会した時に、誇らしく2人でハイタッチが出来るように。

 

 

「絶対に生きているって信じているから……あとは私が輝くだけ」

 

 

 今日の試合に備えて、ルリナは博士のポケモンバトルの情報を、収集できるだけ収集していた。

 

 メロンさんとの試合では、博士はナットレイとマタドガスをサイクルさせて、受け潰すように戦っていた。本質的に攻めよりも、守勢が上手い選手だとルリナは感じた。

 

 

 何度も裏をかかれるような展開になると、巻き返しは難しい。

 

 

 マタドガスにクリアスモッグを覚えさせていたところからも、獲得したアドバンテージは絶対に手放さないような、手堅いバトルスタイルをしていた。

 それに、水タイプのポケモンをメインに使うルリナにとって、草はがねタイプのナットレイは天敵と言ってもよい。

 

 レイコ博士もそう考えて、この試合でもナットレイを選出してくるだろう。そこに付け入る隙があると、ルリナは考えていた。

 確実に選出してくるとわかっていれば、対策は容易い。警戒されているであろう、弱点のほのおタイプの技を当てずともナットレイは突破出来る。

 

「そうなると本当に怖いのは、ダンデくんの言っていたエースポケモン……」

 

 ガマゲロゲ。

 

 不気味な容姿でどちらかと言えば気持ちが悪い、そのポケモンを強いと感じたことは、ルリナの生涯で一度たりともない。

 しかし、ダンデくんがあれほど興奮して話していたのだから、やはり特筆したなにかを持っているのだろうとルリナは思った。

 

 

 試合開始の準備を告げる無機質なブザーの音がロッカールームに響く。

 

 

 どくん、どくんと心臓が跳ねて……それからルリナの背筋を重圧とゾクゾクとした恐怖が駆け抜けていった。

 

 

 深呼吸をして緊張を落ち着かせる。

 

——大丈夫だ。私は強い。それに、あれほど準備をしてきたじゃない!

 

 ルリナはベンチから立ち上がり部屋から出て、ゲートを抜けて試合会場へと向かう。

 

 グリーンのターフが近づくにつれて、だんだんと観客の歓声が大きくなっていく。

 

 

 スタジアムの通用口は、まるでファッションショーのランウェイのようだ。

 

 

 一歩、また一歩と歩を進めるにつれてユニフォームに滲む不快な冷たい汗が、その熱量に当てられて熱くなる。試合前の緊張が徐々に高揚感へと変わっていく瞬間。

 

 その感覚が、ルリナは大好きだった。

 

「あら? ずいぶん遅かったわね……今日はよろしくね、ルリナちゃん」

 

「よろしく……お願いします」

 

 満員のスタジアムの中央で待つ、黒のユニフォームに白衣を羽織った怪物から話しかけられたルリナは、短くそう返した。

 

 すらりと伸びた手足に、ふわふわとした短い栗色の髪の毛。そして、端正な顔立ちには不釣り合いな程ギラギラと輝く猛禽類のような瞳が印象的だった。

 

「私のポケモンへの対策は、準備万端かしら?」

 

 くすくすと可笑しそうに笑ってからレイコ博士は、ルリナにそう問いかけた。

 口元が笑っていても、目は一切笑っていないなとルリナは感じた。対戦相手の一挙一動を見逃さないように目を皿にしている。

 

「ええ、もちろん。博士こそ、私への対策は万全ですか?」

 

「ええ、ルリナちゃんのファンになっちゃいそうな程」

 

 血に飢えた獣が舌なめずりをするように、レイコ博士はそう言った。

 遠目で見るのと、こうして相対してみるのとでは大違い。立ち振る舞いやバトルのスタイルから考えて、ルリナはもっと落ち着いた知的な研究者気質の女性だと想定していた。

 

 

 しかし、蓋を開けてみれば博士はダンデくんと同じようにポケモンバトルが好きで好きでたまらない好戦的な雰囲気に満ち溢れていた。

 

 

——もっとも、試合前だからっていうのはあるんでしょうけどね。

 

 ルリナは博士の腰につけられた3つのモンスターボールに一瞬目を向けてから、慌てて視線を外した。

 こうしたわずかな動きから、考えが読まれてしまうこともある。

 

『無敗の招待選手に対するは、バウタウンのジムリーダールリナ!!! 敗れてしまったメロン選手の無念を晴らして、ガラル地方の意地を見せつけることが出来るのかあああああ!!!!!』

 

 ハイテンションな場内実況の声がスタジアムに響き渡る。

 歓声をあげて盛り上がる群衆とは裏腹に、ルリナは落ち着いていた。

 

 集中で血が冷えていく感覚を覚えながら、ルリナはレイコ博士と正対する。

 

 超えなければいけない壁。

 

「ふふっそれじゃあ、はじめましょうか?」

 

「ええ」

 

 ルリナはその言葉に小さく頷いて、モンスターボールに手をかける。

 博士は、手のひらの上で弄んでいたボールの手を止めて不敵に笑った。

 

 

「最強のトレーナーの腕前、見せてあげるわ」

 

 

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