ポケモン世界に転生したら悪の女幹部になった 作:すごいぞ!すえはら
とげだまポケモン、ナットレイ。
宇宙人の乗るUFOのような外観をした博士のポケモンが繰り出された時、ルリナは心の中で小さくガッツポーズをした。
『招待選手のナットレイに対するルリナの先発はペリッパーだあああああ!!! しとしとと降りはじめた雨の中でも両者やる気十分! その熱気が実況席まで伝わってくるぞ!!』
スタジアムにハイテンションの実況の声が響く。
ペリッパーを繰り出した際にレイコ博士の目が僅かに細くなったのをルリナは、見逃さなかった。
研究に研究を重ねて選んだ、ペリッパー、カジリガメ、ミロカロスの3匹のうちで、雨を降らせ特殊攻撃メインで戦うペリッパーは、物理防御力の高いナットレイとは抜群に相性が良い。
試合前から想定していたこの対面。
明確に有利な対面はポケモンを交換されてしまって、優勢を継続できないことも多い。
——交換されるかもしれないけど……ここは押していくしかないよねっ! ダンデくんに勝った実力、見せてもらうよ!
「ペリッパー! ぼうふう!」
ぼうふう 威力110 命中率70
強烈な 風で 相手を 包みこんで 攻撃する。相手を 混乱させることが ある。
ルリナの指示を受けてペリッパーは、クチバシに比べて小さな羽根を一生懸命パタパタと羽ばたかせて暴風を発生させる。
風圧が鋼を切り裂く刃となってナットレイの硬い体を傷つける。
後続に交換された場合でも可能な限りのアドバンテージを残すために、ルリナはペリッパーにこだわりメガネを持たせていた。
超火力のタイプ一致技をなんとか耐えたナットレイは、やどりぎのたねをペリッパーに向けて打ちつける。
「……なかなか、やるわね」
大ダメージを受けたナットレイの様子を見ながら、苦々しげにレイコ博士はそう呟いた。
——よしっ!!! これで先制! 博士は受け出しも難しいはずっ!!!!
防御力の高いナットレイが深傷を負うペリッパーの攻撃を受け止め切れるポケモンは、限られている。
ルリナはペリッパーにもう一度、ぼうふうの指示を出した。
『ペリッパーの追撃の暴風がナットレイに襲い掛かる!!! しかし、ここは防御を固めていたかナットレイ! 無傷でやり過ごした!!! やどりぎがじわじわとペリッパーの体力を奪います!!!』
追撃を守られることは、ルリナも想定していた。
じわじわと回復されることに焦ることなく、何度も何度も攻勢をかけていけば良い。素早さで上回るペリッパーが、ナットレイの反撃に当たることはない。
「ペリッパー! 気にせず攻撃を続けて!!! 貴方は強いわ!」
「戻りなさい、ナットレイ!」
ルリナがペリッパーに攻撃の継続の指示を出すのとほぼ同時に、レイコ博士はナットレイをモンスターボールに戻し、ワルビアルを繰り出した。
激烈な暴風がワルビアルの体を切り裂いたが、あまり大きなダメージには至らなかった。二足歩行するワニはやる気十分といった風体で、腕を何度も回しながらペリッパーのことを眺めやった。
——ペリッパーの暴風を受けて、こんなにダメージが入らないなんてこと……あるかな?
意気揚々と博士の指示を待つワルビアルの様子を見て、ルリナは疑問に思った。
ワルビアルは、ガラル地方にはいない、あく、じめんタイプの珍しいワニのポケモンだ。
いかくポケモンと名付けられているとおり、物理攻撃を主軸とするポケモンには繰り出しやすいが、ペリッパー相手に有利をとれるとは通常考えにくい。
こだわりメガネさえ持たせていなければ、ハイドロポンプで一瞬で倒せるポケモンでもある。
——ペリッパーにこだわりメガネを持たせているというのは、見切ってきたから繰り出してきたんだろうけど……このまま居座ってぼうふうをうつこともできる……
ワルビアルと対戦経験のないルリナはわずかの間逡巡したが、ペリッパーをモンスターボールに戻すことを決断した。
ペリッパーを失えば、ナットレイの突破が難しくなる。
博士の指示を受けて猛進するワルビアルが、かみなりのキバを繰り出して今まさにペリッパーの喉元を引きちぎろうとするタイミング。ルリナはペリッパーをモンスターボールへと戻して、ミロカロスを繰り出した。
こうかばつぐんの電気技を受けて、ミロカロスは苦痛を訴える鳴き声を漏らしたが、致命傷には至らなかった。タイプ不一致の電気技で倒れるような耐久はしていない。
ふしぎなうろこ
状態異常に なると 不思議なウロコが 反応して 防御が 上がる。
持たせておいたかえんだまの効果が発動し、ミロカロスが火傷を負ったことで、さらに防御力が高くなる。
——危なかった。ペリッパーを倒されていたら、挽回は難しかったかもしれない! でも、ここで一旦仕切り直し!
「ミロカロス! じこさいせい!」
ルリナの声に合わせて博士は、ワルビアルをモンスターボールへと戻し、ナットレイを繰り出した。
じこさいせいでミロカロスの傷がみるみる塞がっていく。
試合開始直後から、ペリッパーの特性で降り続いていた雨の勢いに僅かに翳りが見える。
——雨の勢いが弱い……もうすぐ雨は降り止むはず。一度ナットレイの攻撃をまもるで受け止めてから、ペリッパーに交換しよう。
ナットレイのパワーウィップを一度ミロカロスでやり過ごして、雨が止んだことを確認してからルリナはペリッパーを繰り出した。
『ペリッパーの登場です! スタジアムに再び雨が降り始めます!!! そして、ナットレイの渾身のパワーウィップがヒット!!! 片や余裕綽々、片や疲れを見せております!』
たべのこしの効果で、ナットレイにかなり体力を回復されてしまったことを、ルリナは苦々しく思った。
博士はカントー地方のトレーナーと噂されているだけあって、ポケモンの交換を積極的に行うサイクル戦の腕が抜群に良い。
「ペリッパー! ぼうふう! 一撃でたおして!」
ペリッパーは、再び降り始めた雨の力を利用してぼうふうを発生させた。
その風の刃がナットレイに届くまでの間、ルリナは祈るような気持ちで見守っていたが、ナットレイに皮一枚のところで耐え切られてしまった。
それを確認して不敵に笑った、レイコ博士の指示が飛ぶ。
「ナットレイ! パワーウィップ! ペリッパーを粉砕なさい!」
ペリッパーが植物の蔦に当たり地面に落とされる絵がルリナの頭に浮かんだが、ナットレイは指示を受けても動くことなく周囲をキョロキョロと見回している。
そして、わけもわからずじぶんをこうげきした。
轟音と共にスタジアムの壁に体当たりをして動かなくなったナットレイの様子を見て、レイコ博士は眉間に皺を寄せた。
「……おつかれさま、戻りなさいナットレイ」
これで2対3。みずタイプのポケモン全般に有利なナットレイを最初に倒せたのは大きい。
ルリナは勝利の女神が自分へと微笑みかけてきているのを実感していた。ラッキーもあったが、運も実力のうちだ。
ゲロwwww ゲロロロロロロwwwwww
奇怪な鳴き声をあげてレイコ博士のエースポケモンであるガマゲロゲが、ルリナの前に立ち塞がった。
——きた! ダンデくんも言っていたガマゲロゲ! でも、今の状況なら私が有利。ペリッパーを突破されてもミロカロスで受けきることが出来る。
しとしととスタジアムのターフに雨が降り注ぐ。
ルリナが傷ついたペリッパーに攻撃を継続するよう指示を出すよりも早く。ガマゲロゲの作り出した水の刃が、ペリッパーの体を引き裂いた。
数回、力なく翼を羽ばたかせてから、浮力を失ったペリッパーが地面へと倒れ込んだ。
「————速いっ」
「あなたは、私のガマゲロゲを止められるかしら?」
「止めて見せるわ!」
唇に手を当てながら自信満々でそう言ったレイコ博士の言葉にあわせて、ルリナはミロカロスを繰り出した。ふしぎなうろこの特性が発現している今の状態のミロカロスを、同じみずタイプのガマゲロゲが突破できるとは思えない。
「ガマゲロゲ! あなたの力を知らないガラル地方の人々の前へと躍りでろ!」
高らかに宣言したレイコ博士のダイマックスバンドが光り輝き、ガマゲロゲの体が大きくなる。
ダイジェットが繰り出されミロカロスの体を貫いたが、大きなダメージはない。やはり突破は難しいのだろう。
ミロカロスのハイドロポンプがガマゲロゲに命中したが、こちらもあまりダメージを与えることは出来なかった。
しかし、長期戦になるのであれば自己再生を持つミロカロスの方が有利だ。じわじわとダメージを与えて、どこかのタイミングでカジリガメにスイッチする方法もある。
ルリナが長期戦を覚悟して、ミロカロスに自己再生を支持しようとした次の瞬間、ガマゲロゲのダイソウゲンがミロカロスの体を貫いた。
『決まったあああああああ!!! ガマゲロゲのダイソウゲンでミロカロスがダウンだあああああああああ!!!!! これで2枚抜き! とてつもない強さ! ガマゲロゲ!!!』
大音量で会場に響く実況の声は、ルリナには遠くに聞こえた。
ルリナは、小刻みに震える右手を押さえつけてモンスターボールを手に取って、倒れ動かなくなったミロカロスと雨に打たれて輝くカエルポケモンの姿を見つめた。
どこで、負けにしてしまったのだろうか?
自分のもとへと引き寄せていたはずの勝利が、一瞬で手の中からこぼれ落ちいく。
ペリッパーでナットレイを処理したところまでは良かったはずだ。終始有利に試合を進めていたにも関わらず、ガマゲロゲ1匹の力で全ての計算が狂わされた。
最後の1匹であるカジリガメをダイマックスさせて、ダイウォールでガマゲロゲのダイソウゲンを防いだが、勝負の結果は変わらない。
通常の大きさに戻ったガマゲロゲがパワーウィップで、ダイマックスしたカジリガメを一撃で葬り去った。
グラスフィールドが発生した状態での弱点攻撃。受け止め切れるはずもない。
『試合終了!!!!!! 勝ったのは招待選手! またもガラル地方のジムリーダーを破り、チャンピオンカップに王手をかけました!!! 今日も王者のバトル! とてつもない強さ!!!』
ルリナは肩の力を抜いて、ふうと一息ため息をついた。
途中経過がどうであれ、負けは負け。
ナットレイへの対策に重点を置きすぎて、ガマゲロゲへの警戒が甘かったということなのだろう。
ルリナは試合直後の悔しい気持ちを切り替える。すると、対戦相手のポケモンたちへの敬意が湧いてきた。
エースに全てを託して、試合を作っていった博士の指示も合理的だった。
——まだ、届かなかったけど……いつか私もこの人みたいに強いトレーナーになるんだ!
そう強い決意を固めてルリナは、ゆっくりとスタジアムのターフの中心へと歩みを進める。
「いい試合でした。ありがとうございました、レイコ博士」
「ええ、こちらこそ。なかなか良い読みをしていたから、何度か焦らされたわ。あなたは良いトレーナーになるわね」
ルリナの差し出した右手を、レイコ博士はガッチリと握りしめて微笑んだ。
試合の興奮と緊張感がすっと消えて、レイコ博士の手のひらの温かさを感じる。こんな気分も悪くはないかもしれないとルリナは思った。
2人を包み込むように満員の観客の拍手と歓声が、スタジアムに響いた。