ポケモン世界に転生したら悪の女幹部になった   作:すごいぞ!すえはら

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第2話 ガラル地方の探索とのんびりキャンプ

 

「ねえ、グズマあなたも少しは手伝ったらどうかしら?」

 

「ああ? せっかく作ってるカレーがぐしゃぐしゃに破壊されても良いってのか?」

 

「はぁ……」

 

 オレンの実とクラボの実がたっぷり入ったカレー鍋を火にかけてパタパタと扇ぐ。

 カレーは1人で作るよりも2人で作ったほうがおいしいものが出来上がるのだが、協力してもらうことは難しいらしい。

 

 グズマはポケモンバトルの腕はそこそこだが、それ以外の仕事はからっきし駄目である。カレー作りくらいはと思ったが、おそらく料理もほぼできないだろう。ただ、跳ね返りの集まった不良集団のボスをしていたというだけあって、ケロケロ団のしたっぱたちからの人望は厚い。

 

 組織とは適材適所。

 

 真の悪の頭領たる者、部下の適性を瞬時に見抜き適切な仕事を与えなくてはいけない。

 

 サカキ様もそうおっしゃっていた。

 

 ヤンキー座りでぼうっとしているグズマのことは置いておいて、私は火加減を見ながらポケじゃらしを取り出した。

 キャンプの近くの河原でグズマのドクロッグと遊んでいたガマゲロゲが、目敏くそれを見つけて寄ってきた。

 

 ゲコwwww ゲコwwwwwwゲココッwwww

 

 凛々しい顔でポケじゃらしを叩くガマゲロゲの愛らしさに悩殺されそうになるが、悪の女幹部たるもの表情を崩してはいけないので、澄ました顔でカレー作りを続ける。

 

 ガマゲロゲに構いすぎたのか、ドクロッグが少し寂しそうにしていたので、ボールを投げてあげると、嬉しそうにこちらに持ってきてくれた。

 ドクロッグといいグソクムシャといい、グズマは連れているポケモンのセンスがなかなか良い。

 

 あの悪人然とした風体で可愛らしいポケモンばかりを集めているのは笑ってしまうが、カエルポケモンを育てたくなるのは人のサガなので仕方がないのかもしれない。

 

 ガラル地方には珍しくからりと晴れた青空が、川の水面に反射する。この地方は、雨が多い。

 

 鍋の中のカレーを混ぜ混ぜして、最後にあらびきヴルストを乗せて完成。

 

 カレーの良い香りがキャンプ場に広がって、グズマとポケモンたちが集まってきたので、人数分よそってあげる。

 分け前に差が出ないように、公平におたまですくって配分する。

 

「あーうめぇ! ダイオウドウ級のうまさだ! カレーはやっぱうめえなあ」

 

 切り倒されたカエデの木に座って、むしゃむしゃとカレーを食べるグズマの様子を一瞥してから私もカレーを一口たべる。

 

 うん、なかなかおいしい。

 

 ポケモンたちも仲良く思い思いに幸せそうに食べているので、やはり作って正解だった。

 グズマも手伝っていれば、リザードン級のおいしさを狙うことも出来たのではという気もするが、それは口には出さないでおく。

 

 悪の女幹部たるもの、空気が読めてこそ一流なのだ。

 

「探索なんてまどろっこしい、さっさとまたぶっ壊させてくれよ」

 

 グズマはカレーを食べ終えると、ぐるぐると腕を回した。

 やる気があるのは良いことなのだが、今のところ彼には仕事がない。マクロコスモステクノロジーのプロジェクトチームには、ロケット団のエリート研究員を手配して、ローズ会長からの評判も上々だ。

 

 それだけではなくエネルギーやネットワーク部門にも産業スパイとして専門の研究員を派遣し、マクロコスモス側の技術を確認している最中だ。

 

 ロケット団の人員と裏の研究成果が欲しいマクロコスモスと、最新の製造技術の欲しいロケット団の利害が一致した形だ。

 人道に外れた研究成果はなかなか表には出てこないから、一昔前の研究でも非常にありがたがられる。

 

 先方の最新技術とこちらの古い研究成果。一見釣り合っていない取引が、当然のように成立する。

 ネームバリューや実績を活かしたBtoB取引には、他の悪の組織と比較してもロケット団に一日の長があった。

 

 だんだんと良い報告が上がってきている現状で、下手に動くことはない。果報は寝て待てという言葉もある。

 

「派手に動くことって、しばらくの間はないのよねえ」

 

 私がそう言うと、グズマはがっかりしたように大きなため息をついて、再度カエデの木に腰掛けた。

 

「それで、探索で面白いポケモンとやらは見つかったのか?」

 

 グズマにそう問いかけられた私は返事の代わりに、モンスターボールを放り投げる。

 

 もくもくと頭の煙突から、排煙を吐き出すポケモンの姿が現れる。

 

「少し変わった見た目だが……マタドガスか?」

 

「この地方だけの姿、面白そうだと思わない?」

 

「興味ねえな」

 

 そうぶっきらぼうに答えたグズマだったが、マタドガスの間抜けな顔と煙突を隅から隅まで見渡している。

 

「しばらく仕事はないんだし、貴方も何匹か捕まえておくといいわよ?」

 

「だから、興味ねえって言ってんだろうが!」

 

「はいはい」

 

 グズマのことは放っておいて双眼鏡で周囲のポケモンを観察していると、川を挟んだ遠くの道を歩く少年の姿が見えた。

 褐色の肌に大きなおめめ。動きやすそうなボアつきのデニムジャケットを着た少年の姿に、私は心を奪われた。

 

「あ、見て見て! あの子可愛くない? 可愛いよね!?」

 

「ん……ああ、そうだな可愛いな」

 

「ねー。超タイプ、あの子。可愛い」

 

「いや、俺はもっと大きくなってからの方がいいが」

 

「え?」

 

「あ?」

 

 いまいち成立しないグズマとの会話に違和感を感じながら、双眼鏡を使って眺めていると男の子の横に、メスガキが1匹歩いているのが確認できた。

 どうやらグズマは、このメスガキを見て可愛いという感想を漏らしていたらしい。

 グレーのニットに派手な緑の帽子を被っている。世間一般的にはグズマの言うように、可愛いのだろうが、私はこういう可愛い子ぶった女が一番嫌いなのだ。

 だいたいこういう女は、性格が悪いと決まっている。

 

「こんなところを歩いてるってことは、トレーナーなのかな」

 

「じゃねえの? ジムチャレンジってやつだ」

 

「旅かぁ……憧れるなあ」

 

 転生したばかりの時、あの少年のような主人公然とした男の子と冒険の旅をしたいと思っていたのだ。

 

「やめとけ、旅なんて良いもんじゃねえぞ」

 

「それは、やってみないとわからないじゃない?」

 

「…………まあな」

 

 グズマはブスっとした表情でそう呟いてから、グソクムシャの肩をそっと撫でた。

 

 一直線に組織のトップを目指す人生。

 

 それも悪くはないけれど、元々描いていた未来とは相反している。

 

「せっかくだし、話しかけてみようかな」

 

「おいおい、組織の団長がわざわざ顔を売っていいのかよ?」

 

「こういうのはね、バランスが大切なのよ」

 

 私はフィールドジャケットを脱いでドラムバックの中に放り込むと、かわりに白衣を身にまとう。

 悪の幹部たるもの、組織に引きこもっているだけではいけない。サカキ様のように企業経営者やジムリーダー、様々な顔を持ってこそ真の一流たりえるのである。

 

「私のことはレイコ博士と呼ぶように。あ、でもでも……グズマの場合はサングラスとかネックレスとか、いかにも悪人顔だから、人前では私に話しかけないほうがいいかも?」

 

「うっせえよ!」

 

「はいはい、それじゃあ行ってくるね」

 

 ガマゲロゲとマタドガスをモンスターボールに戻してから、キャンプ地を離れて坂道を下る。

 少し距離はあるが子供の足だ。

 30分もしないうちに追いつくだろう。

 

 あの可愛い男の子にはどんな夢があって、どんなポケモンを連れているんだろう?

 

 いっぱい、お話ししたいな!

 

「ふふっ、待っててね!」

 

 まだ名も知らぬ年下の少年との交流に期待に胸を膨らませ、不気味な笑顔を見せる残念な美人は、意気揚々とガラル地方の大地をかけていった。

 

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