ポケモン世界に転生したら悪の女幹部になった 作:すごいぞ!すえはら
チャンピオンの ダンデが
勝負を しかけてきた!
チャンピオンのハイパーボールが着地しドラパルトが繰り出された。
ドラパルトは、抜きん出たすばやさを持つガラル地方固有種のドラゴンポケモンだ。ダンデの手持ちの中でももっとも速い。
対するこちらは——
ゲロwwww ゲロロロロロロwwwwwwww
カエル界の皇帝、ニョロトノ。
彼の登場とともに青空に雨雲が集まって、猛烈な雨が降り始める。
「あめふらし……だが、強い雨でもオレのこころは、誰よりも燃えているぜ!」
いちいちエンターテイナーじみた口調のダンデだが、鍛えられたドラパルトの姿を見れば彼が一流のトレーナーであることがわかる。
本気でかからなければ、負ける。
幸い、はじめのポケモンの相性は悪くはない。ドラパルトに先行されてしまうが、ニョロトノのれいとうビームが刺さるし、後ろに控えているガマゲロゲでも処理することが可能だ。
チャンピオンのポケモンは過去の大会の優勝メンバーと同じであるとすれば、
リザードン、オノノクス
ドラパルト、ドサイドン
ギルガルド、バリコオル
の6匹。
チャンピオンの性格を考えれば間違いなく3匹の中に、リザードンを選んでいるだろうから不明なのは残り1枠。
このうちドラパルトを先発にしてきたということは、同じドラゴンタイプのオノノクスは選出していない可能性が高い。
最後の1枠がドサイドンなら私が有利だ。だが、チャンピオンの選択は違うだろう。
「ニョロトノ! ほろびのうた!」
「戻れ、ドラパルト!」
私が指示を言い終えるよりもはやく、チャンピオンはドラパルトをハイパーボールのなかへと戻した。
交代したのは、ギルガルド。
剣と盾を使いこなすはがねポケモン。
そして、私のパーティでもっとも突破の難しいポケモンだ。
ゲコ、ゲコ、ゲロロロロロロwwww
グワッグワッグワッ
少し先の未来のほろびを伝える
ほろびのうた。
ニョロトノの可愛らしい歌声を聴いて、チャンピオンの目が少し鋭くなる。
彼は、れいとうビームを予想していたのだろう。みず技とこおり技しか使えないニョロトノから、ギルガルドへの有効打はない。
本来であれば圧倒的にギルガルドが優位な状況。しかし、ほろびのうたの効果が入ったことで盤面は一気に複雑化した。
ほろびがギルガルドを冥界へと誘うまで、時間を稼ぐ。
「ギルガルド! シャドーボールだ!」
「ニョロトノ! まもって!」
ギルガルドのシャドーボールをニョロトノは綺麗に避けて身を守る。
ゲコ………… ゲコ…………
だんだんとほろびの声が近づく。
攻撃をかわしつづけてきたニョロトノの限界が近づいているのを悟った私は、攻撃がヒットする前に、ニョロトノをモンスターボールの中へと戻す。
「いけ! グラエナ!」
ボールの中からでてきたグラエナにシャドーボールが当たり、グラエナの顔が歪む。
しかし痛みに耐えて必死にグラエナはギルガルドのことを威嚇した。
悪タイプのグラエナは、ゴーストタイプのギルガルドへの相性が良い。
そして何より、ニョロトノが歌ったほろびのうたの効果でギルガルドはかなり苦しんでいるように見えた。
隙を見せた相手は、徹底的に。
「噛み砕け!」
「ギルガルド!!! 戻れ!」
グラエナの牙が剣の幻影に届くかという刹那、ダンデはポケモンを交換した。
牙は一度空を切って……それから、リザードンの首元を貫いた。
炎龍の大きな咆哮が周囲に響く。何度も何度も首を振って、執拗に噛みつくグラエナのことを振り払い地面へと叩きつけた。
かなりのダメージを負ったように見えたが、グラエナはなおも懸命に立ち上がり、リザードンのことを牽制する。
「やる……」
チャンピオンのファンの悲鳴のような歓声に混じって、ダンデがそう呟くのが聞こえた。
それはこちらのセリフだ。ガラルの田舎のチャンピオンだとたかを括っていたら、彼は本物だった。
ロケット団の名にかけて敗北は許されない。
たとえそれが、地方のチャンピオンであっても。
ここでグラエナを交代をする選択肢もある。
しかし、ここで交代すればニョロトノに深いダメージが入ってしまう。だから、ここは非情にならなくてはいけない。
「グラエナ! もう一度、奴の喉元に牙を突き立てろ!」
最後の力を振り絞り臆することなく炎の龍王へと駆けていくグラエナに、リザードンの翼から放たれた空気の刃が突き刺さる。
毛並みの良い体が大きく反り返る。一歩、二歩とリザードンの方へと歩みを進めていって……そして糸が切れたようにバタリと地面へ倒れて、グラエナは動かなくなった。
「おつかれさま、ゆっくり休んでね」
グラエナの背中をそっと優しく撫でてから、モンスターボールの中へとしまう。
いつのまにか雨は止んでいて、空には日差しがさしていた。これで3対2。
リザードンには一撃を入れることが出来たが、まだギルガルドにもドラパルトにもダメージは与えられていない。
「強いわね、あなた」
私がそう称賛すると、ダンデは帽子のつばに右手を当ててから小さくうなずいた。その視線は、じっと私の腰につけているモンスターボールに向けられている。
彼から見えているのは、今リザードンが倒したグラエナとニョロトノだけ。最後のポケモンである私のエースは見えていない。
モンスターボールを下から軽く放り投げて、ニョロトノを繰り出す。
一度晴れた天気が再び曇っていって、そして強い雨が降り始めた。
リザードンの尻尾の炎が陰り、翼が雨に濡れていく。
カエルの皇帝に炎は効かない。
ダンデの表情が、一瞬曇ったのを私は見逃さなかった。
リザードンにとってニョロトノは相性が悪いから勿論それもあるだろうが、彼は私の3匹目のポケモンの影を見ている。
ニョロトノもグラエナも優秀なポケモンだが、敵を蹂躙できるようなポケモンではない。チャンピオンにとってのリザードンと同じように、私もエースを隠し持っていると彼は考えているのだろう。
その嗅覚は賞賛に値するが、その洞察力が彼に迷いを生じさせている。
ニョロトノとドラパルトの対面で、ドラパルトの交代を読まれて、ほろびのうたを当てられた印象は、チャンピオンに強く残っているだろう。
でも、彼はギルガルドに交換する。
だって彼は強いトレーナーだから。まだ見ぬ3匹目に備えて……もっとも安全で、効率的な戦い方をしてくるはずだ。
「戻れ、リザードン!!!」
チャンピオンの声に合わせて、私はニョロトノをモンスターボールへと戻す。
そして、くりだすのは最強のカエルポケモン。
ガマゲロゲ。
ダンデの繰り出したギルガルドと対峙したガマゲロゲは、大粒の雨粒を一身に浴びて光り輝く。
「リザードンを交代しないほうが、よかったのではないかしら?」
「君の最後のポケモンが知れただけでも、交代した価値があった」
「あら? ずいぶんと余裕ね」
私の揺さぶりにも慌てることなく、冷静な口調でダンデはそう言った。
彼のポケモン3匹に対して、こちらは2匹。加えてこちらのポケモンが知られていないアドバンテージも、ガマゲロゲを繰り出したことでなくなってしまった。
ホップ君やローズ会長、そしていつのまにか集まった大勢のギャラリーもチャンピオンの勝利を信じて疑っていない。
だが、真のエースはどんなに不利な状況であってもそれを打開する力を持つ。
にわかは相手にならんよ。
お見せしよう! 王者の勝ち筋を!