ポケモン世界に転生したら悪の女幹部になった 作:すごいぞ!すえはら
感想等はすべて確認しており、非常に励みになっております。これからもよろしくお願いします。
「はぁ……やっぱりホップ君は可愛いわねぇ」
私はケロケロ団のアジトの自室でコーヒーを飲みながら、ロトム図鑑から送られてくるホップ君の映像をのんびりと眺めていた。
ナックルシティでメスガキ達と別れたホップ君は、フレンドリーショップでボールの調達をしてから、ラテラルタウンの周辺の草むらでポケモン集めをしているようだ。
ホップ君が危険な目にあったりすることがないように、ロトム図鑑を更新してあげた際に録音機とビューカメラの機能を私のロトム図鑑とリンクさせておいた甲斐があった。
「ホップ君は連れているポケモンが微妙なのが多いから、少し補強すればすぐに強くなれると思うんだけど……」
ホップ君の連れているバチンキーは強いポケモンへと成長するだろうが、ウールーなんかは必要ないと思う。特に可愛いわけでもないし、強くもないポケモン。そんなポケモンは、パーティから外してしまった方が良い。
「やっぱりここは強くて可愛いワルビアルとか、ドクロッグあたりのポケモンをプレゼントしてあげるべきかしら?」
成長をひっそり見守りたい気持ちもあるが、ある程度強くなれるように、誘導してあげるのもお姉さんの役割かもしれない。
幸せな気持ちでホップ君の様子を見守ると、コンコンと部屋のドアがノックされる音が聞こえた。
「入れ」
「おう団長、入らせてもらうぞ」
「なんだ、グズマか」
したっぱの人かもしれないと思い威厳のありそうな声を出した私だったが、グズマの声を聞いてふっと肩の力を抜く。
「なんだとは酷えじゃねえかよ」
「んーそうね。ごめんごめん」
ロトム図鑑のスクリーンに映る映像を見ながら、雑にグズマに返事を返す。
「団長が言っていたマグノリア博士のこと調べてきてやったぜ」
グズマはいつものようなガニ股の歩き方で私の方に寄ってくると、数枚の紙資料を机の上にパサリと置いた。
「あら? 仕事が早いわね」
ロトム図鑑からいったん目をきって、グズマの用意してくれた資料を読み込む。経歴、年齢、研究内容がざっくりとまとめられている。かなり整っているから、細部を作成したのはグズマではないのだろう。
「あら? この子……」
「ん? どうしたんだ?」
家族構成の欄にナックルシティで出会ったケバ子の写真があった。ケバ子はマグノリア博士の孫娘らしい。そういえば、研究者志望と言っていた。
「知り合いの子がいたからね」
資料に映るケバ子の写真を人差し指で指差しながらグズマに見せる。
「ああ、その可愛い子か」
「え? 可愛い?」
あなた目が腐ってるんじゃないの? という言葉が喉まででかかったが、異性の好みは人それぞれなのでなんとか抑える。
グズマはこういう頭にフリフリのハートマークをつけたケバケバしい女が、好みということなのだろう。
部下の好みを否定するのは、ボスがやってはいけないことだから気をつけないといけない。
「で、マグノリア博士には協力してもらえそうなのか?」
「そうねぇ……あまり、お金に関心はなさそうだし、研究成果のためにどんなことでもするようなタイプには見えないわ」
「そりゃあまずいんじゃねえのか?」
グズマがバリバリと頭を掻きながら、ブスッと資料を眺めやった。
「私もそう思ってたんだけど、幸い孫娘との仲は良好と書かれているから、そこまで心配はしていないわ」
「……ん、どういうことだ?」
「まあ、交渉次第だけど……マグノリア博士とソニアちゃんの2人を拉致してきて、孫娘の指でも2本くらい切り落としてあげれば、協力してくれると思うのよねえ」
察しの悪いグズマにそう伝えると、だんだんとグズマの眉間にシワが寄っていった。
「し、知り合いなんじゃなかったのかよ……」
「そ、知ってるだけね」
まだ決まったわけではないが、解決の糸口が見つけられた事をひとまず安堵する。研究内容が有用なようなら、マグノリア博士はずっと研究室に閉じ込めておいてもいい。
そのあたりの判断は、アクロマがうまくやってくれるだろう。
グズマから受け取った資料の端をトントンっと机の天板にあてて整えてから、ロトム図鑑を再度確認する。
見ていない間にホップ君のポケモン集めは終わったようで、ガラの悪そうな見知らぬメスガキとのポケモンバトルが始まっていた。
「な、なによこれ!!!」
「ん? ど、どうしたんだ急に」
緊急事態なので、グズマに慌ててロトム図鑑を見せる。
「なんだよ、このあいだのガキじゃねえか。こいつがどうかしたか?」
「ホップ君が剃り込みの入った不良のメスガキに絡まれてる。悪い影響があるかもしれないじゃない!?」
「なんで、団長がそんな肩入れしてるんだ……」
グズマの呟きをスルーしながら画面を食い入るように見つめる。パンクの服装に剃り込みの入ったイキった髪型といいこの女は、悪いやつに違いない。私には人を見る目があるから、直感でわかるのである。
ラテラルタウン周辺の山間部特有のパサパサとした砂の上でホップ君のスナヘビとモルペコが睨み合っている。
「ガキのポケモンは2体だが、嬢ちゃんのポケモンはモルペコだけだぜ? 勝てるんじゃねえの?」
グズマのその発言に私は画面から目を切らずに小さく頷いた。
たしかにグズマの言うように、勝てばいいのだ。勝てばこのメスガキの悪影響を私のホップ君がうけることもない。
じめんタイプのスナヘビは、でんきタイプのモルペコとは相性がよい。しかし、モルペコには時間経過でタイプがあくタイプに切り替わるという厄介な特性がある。
今メスガキが連れているモルペコの色は黒色。あくタイプの状態だ。
「こん技ば受けてみろ! もう止められんけん! オーラぐるま!!!!!!」
メスガキの声が響いてから、モルペコは素早い動きで悠然と突進して、スナヘビの腹部に渾身の一撃をぶち当てた。
大きく折れ曲がったスナヘビは口から砂を吐いて、それから息が切れたようにパタリと倒れた。
これで、1対1。しかし、ホップ君の最後のポケモンはバチンキーだろうから、モルペコとの相性は悪くはない。モルペコの色は黒色から段々と黄色を帯びた色が混ざりはじめ、でんきタイプへと変化していっている。
スナヘビが吐き出した砂はすなあらしへと変わっていく。カメラの表面に付着した砂でピントがあわなくなって、だんだんとビューカメラの映像が悪くなってきた。
「え! 嘘でしょ!? こんなすなあらしで映らなくなっちゃうの? ねえ!」
私ロトム図鑑をバシバシと何度か叩いてみたが、映像は悪くなる一方でホップ君が最後の一匹であるバチンキーを繰り出したところで、映像は完全に映らなくなった。
すなあらしが吹き荒れる音がスピーカーから流れる。
「ううっ……大丈夫かな、ホップ君」
バチンキーがモルペコに遅れをとることはないと頭ではわかっていても、不安なものは不安である。
「大丈夫じゃねえかな? 団長が心配しなくても……」
「そうだといいけど」
コーヒーがなくなってしまったので、椅子から立ち上がって、部屋の隅のラックに置かれたコーヒーメーカーのボタンを押す。カタカタと小さい音を立てて、まっくろの液体がマグカップに注がれていく。
せっかくだから、グズマのぶんも作ってあげよう。
「というより、なんでガキのバトルのビデオなんか見てるんだ? なんの参考にもならんだろ?」
デスクの前の応接セットのソファーにでんと腰掛けたグズマにそう聞かれたので、私は高らかに宣言した。
「私には少年の成長を見守る義務があるからね!」
夢を追いかけるあどけない少年たちのことを追いかける不審者。その旅路は今日も続く。続くったら続く。