【悲報】深海棲艦、艦娘側よりホワイトな件。   作:初月にたらふく食わせ隊

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高評価も感想も貰ってヤル気が天元突破。

それはそうと提督の曇らせって需要ある?


第2話「残された者」

僕にとって初月は、恋人なんて言葉では言い表せない存在だった。

 

師であり、姉であり、母であり、恋人であり…

 

そんな彼女を表現する言葉を、僕は知らない。

 

彼女はいつも側にいて僕を支えてくれた。

 

僕はそんな彼女の役に立ちたくて必死にいろんな事を勉強したんだ。

 

提督としての心構え、艦隊の指揮能力、鎮守府の運営能力等の全てを鍛えてきた。ここまで鎮守府を大きくできたのも、偏に彼女の支えあってのものだ。

 

彼女がいなければ、この鎮守府はとっくに終わっていた。

 

だから僕は彼女に指輪を捧げた。僕の想い全てを彼女にぶつけた。彼女はそれを嫌がらず、真正面から全て受け止めてくれた。

 

彼女は、僕の希望だ。僕の、全てだった。

 

 

そんな彼女が、轟沈(戦死)した。

 

 

相手はたった五体の深海棲艦だ。その程度の戦力なら僕らでも簡単に殲滅できた。しかしその五体全てが進化した姫級だったのだ。

 

そいつらに、僕の全てを破壊された。今まで培ってきた鎮守府での皆との思い出が、一瞬のウチにすべて破壊されてしまった。

 

建物も、工房も、僕がプロポーズをした広場でさえも全てぐちゃぐちゃに粉砕された。

 

奴らはいつもそうだ。僕から大事なものを全て奪い去っていく。

 

妖精さんから一人一人の轟沈報告を聞かされた。嗚咽を溢す妖精さんに喪失感と焦燥感に蝕まれる。大丈夫、彼女ならきっと切り抜けてくれる。そう信じても焦りはちっともなくならない。

 

そうして時間は過ぎていく。1秒経つ度に心を強く掻き乱されて頭の中身がぐちゃぐちゃになった。

 

何十分か、あるいは数十秒か。

 

俯いた妖精さんが、最後の連絡を伝えてくれた。

 

『駆逐艦初月 轟沈』

 

僕の光は 僕の希望は 粉々に打ち砕かれた

 

 

だが、絶望はこれで終わらなかった。

 

「…もう一度、言ってくれ。」

 

『…深海棲艦化した初月さんを発見しました。』

 

鎮守府を奪還するべく第2艦隊に偵察を行わせた。そして得られた情報は、最悪の凶報。

 

心が真っ黒に塗り潰される。どす黒い感情が全身を埋め尽くし思わず握っていた万年筆を粉々に握り潰してしまう。

 

奴らは、なんだ?本当になんなんだ?どうしてそこまで人を不快にさせる?

 

彼女を弄んで、楽しいのか…ッッ!!

 

「…そう、か……初月は、どうなった?」

 

『現在逃走中、行方は不明です。』

 

…深海棲艦が、逃走?逃げたのか?

 

「戦闘は、あったのか?」

 

『僕達が一方的に撃った以外はありません。』

 

「…一方的に?」

 

『はい。撃ち返される事はありませんでした。』

 

撃たれていたにも関わらず、逃げた?一度も撃ち返さずに?あの理性の欠片も感じない奴らが?いくら深海化直後だったとしても、あまりにも不自然すぎ…る…

 

…まさか…?いや、これは予測でも何でもないただの願望だ。こんなことがあり得るハズがない。あの大和型でさえ精神を蝕まれたんだぞ。

 

だが、もし。それを彼女が克服したなら。

 

「…わかった。損害はないんだな?」

 

『はい。全艦損傷ありません。』

 

「なら、即刻帰投してくれ。詳しい報告はこっちで聞くよ。それと、戦力をできるだけ集めてくれ。大至急で、だ。」

 

『…了解!』

 

時雨もこちらの意図が分かったらしい。生気に満ちた返事を返してきた。

 

絶望だけじゃない。まだ、希望はある。

 

もし僕の予想が正しいなら。もしこの願望が本当に合っているのなら。

 

僕は…俺は、彼女にもう一度…!

 

川島(かわしま)君!」

 

背後から声が掛かる。いきなりの事に思わずビクッと反応してしまい相手を驚かせてしまった。

 

「と、利根川(とねがわ)提督…?」

 

「い、いや、すまない。何度も声を掛けたのに反応しないので、無断で入らせてもらいました。大事ないようでよかったよ…」

 

彼は…利根川提督はそう言うと胸を撫で下ろした。自殺したんじゃないかと思ったようだ。

 

やってしまった。焦りすぎた。恩人にこれ以上迷惑を掛けるな僕!

 

自分をそう戒めていると、利根川提督が目の前のソファーに座った。そして肩に手を起き、落ち着いてくれと優しく声を掛けてきた。

 

「気を落ち着けて…すぐに切り替えろ、とは言いません。私もケッコン艦がいるのでね、あなたの気持ちは痛いほど分かる。」

 

「えッ…あ、あなたも!?」

 

「ええ…まぁ、まだまだ現役ですがね。」

 

利根川提督は、この日本帝国海軍の中でも上位に食い込むレベルの実力者だ。そんな彼がケッコンカッコカリをしたなんて噂は、全くない。

 

「実は私、大本営にケッコン報告をしていないんですよね。」

 

「え!?それ大丈夫なんですか!?」

 

ケッコン報告は重要だ。なにしろケッコンカッコカリは艦娘の能力の限界を突破させる唯一の方法。そしてそれはつまり『限界突破できるレベルにまで艦娘の能力は高められている』という事でもある。大本営のお偉いさんは僕みたいな弱小鎮守府にそんな艦娘が居る事を容認しない。

 

だからいきなり遠征や戦闘の頻度が以前よりも激増したのだ。さすがに戦艦が居ないのは不味くなったので遠征で資源を集めて建造するつもりだったのだが…それがあんな事になるなんて。

 

「そりゃ大丈夫では無いですよ。…ですが元帥殿にはキチンと報告しています。彼は、“こちら側の人間”ですからね。」

 

「…”こちら側“?」

 

「良いですか、川島君。今から言うことは他言無用ですよ。」

 

真剣な眼差しでこちらを見る利根川提督。それに思わず身がこわばり固唾を飲んでしまう。

 

「…大本営の中に、深海棲艦に通じている者がいる可能性があります。」

 

「…ッ!?」

 

それは、またしても凶報。そして脳裏を過る予想がどす黒い感情を噴出させる。

 

“初月は、大本営の人間に殺されたのでは?”

 

そして、それにストップを掛けた。

 

「い、いや、それはおかしいでしょう!?だって奴らは対話すら出来ない!人語を話す個体は居ても会話する個体は今まで出現したことはない!それが大本営の人間と…!?」

 

「そうですね、普通ならあり得ない。だがもし、『人間に寄生する個体』が現れたなら?」

 

「ッッ…!」

 

人間に、寄生する…!?

 

「この写真を見てください。」

 

利根川提督が懐から一枚の写真を取り出した。

 

写真に写っていたのは、生理的嫌悪感を感じるおぞましい姿をした深海棲艦だった。目や口が付いた機雷のような物にナメクジのような触手が複数生えているソレは、大本営に教えられたどの個体とも合致しない。

 

それは、間違いなく“新種”だった。

 

「こ、これは?」

 

「去年に行われた“佐渡島奪還作戦”を覚えていますか?」

 

「え、えぇ…あの作戦には後衛とはいえ、僕も参加しましたから。」

 

 

「これは、その時救出された民間人から奇跡的に摘出できた小型の深海棲艦です。」

 

「…こ、これが…」

 

…これが、“寄生する個体”…!?

 

「信じられないでしょうが、これは彼らの脳髄…それも脳幹に寄生していました。あの時の民間人は衰弱死したのではなく、コイツに殺されたのです。」

 

「…これを知っているのは?」

 

「私と元帥殿と、あともう一人います。」

 

「その人は?」

 

「元帥殿直轄の艦隊にいる明石君です。これを摘出したのも明石君のおかげですよ。」

 

…先程から、とんでもない情報ばかり知らされて頭が混乱している。

 

人間に寄生する個体?大本営の人間が寄生されてる?そして初月は、奴らに殺された可能性があるだと?

 

頭がどうにかなってしまいそうだ…

 

「…まだ、確定してないんですか?」

 

「えぇ。寄生されても性格や記憶は以前のままらしくまだ特定できていません。」

 

「…特定できた場合、どうなりますか?」

 

「直ぐ様身柄を拘束し、明石君によって寄生個体を摘出してもらいます。その前になんとか情報を聞き出したいですが…まぁ、無理でしょうね。」

 

「えっ、どうして…あっ」

 

「殺された民間人は、皆脳幹を吹き飛ばされていました。奇跡的に摘出できたこの個体も、数日後に自爆してしまい調査不可になってしまいましてね。つまりそういう事です。」

 

…口封じに、自爆するのかよ…ッ!!

 

初月を殺した奴に復讐できるかもしれない、そんな思考が頭を過ったがそれが不可能と分かった途端大きく落胆してしまう

 

「…あ。」

 

…が、深海棲艦となった初月を思い出す。もし、あの初月と対話できるなら、あるいは…!

 

「ん?どうしました?」

 

と、なにやら利根川提督が不思議そうな顔でこちらを見ていた。そう言えば、まだ利根川提督には報告していなかったか。

 

前の自分なら隠すだろうが…今は、話した方が都合がよさそうだ。

 

 

 

 

「…そんなことが。」

 

「ハイ。もしかしたら初月は、世界で初めて対話できる深海棲艦になるかもしれないんです!」

 

「フム…確かに、ケッコン艦の深海化は私も聞いた事がない。初めての例になるのか…!分かった、私の方で元帥殿になんとか無傷で確保できるようお願いしてみる。」

 

「お願いします!」

 

頭を机にぶつける勢いで下げる。もう一度初月と会えるかもしれない、その僅かな希望に全力で縋り付く。そのためならなんだってする覚悟だ。

 

「フフ…君は本当に初月君が好きなんだね。」

 

「えっあっいや、そりゃアイツの事は好きですし今は恋人みたいなものですけどなんていうかいやそのえっと」

 

「初月君とはどこまでいったんだい?チューはもうしたんだろう?」

 

「ちゅーッッッッ!?」

 

えッ!?こ、この人いきなり何言ってるんだッ!?

 

「おや?その様子だとまだですか?」

 

「いや、そのあの……い、一回だけ……

 

「おやおや。随分と(うぶ)ですねぇ…青春してますねぇ…」

 

「~~~っ!!」

 

は、恥ずかしい!なんだこれ超恥ずかしいぞ!恥ずかしさで脳が沸騰しそうだチキショウ!

 

「と、利根川提督はどうなんです!?」

 

「ん?」

 

「利根川提督はどこまでしたんです!?」

 

「そうですねぇ…強いて言うなら、あんなことやこんなこと…ですかねぇ。」

 

「あ、あんなことやこんなことッッッ!?」

 

それは具体的にどういう…!?

 

と、そんな時「コンコン」と扉をノックする音が部屋に響く。僕は頭に冷や水を被せられたようになり羞恥心から縮こまってしまう。

 

な、何をしてるんだ僕は…めっちゃからかわれてるじゃないか…!

 

「入りたまえ。」

 

「ハッ!川島提督、第2艦隊帰還しました。戦況報告を…って、どうしたんですか?」

 

「あぁ、少しからかい過ぎてしまって。気にしないであげてくれ。」

 

「はぁ…」

 

うぅ…くっ、殺せ!もういっそのこと殺せ!




川島 隼人(かわしま はやと)

弱小鎮守府の提督。可愛らしい外見をしているため女装させたら最早男の娘。初期艦が初月であり何年も一緒にいたため端から見るとすごくいちゃいちゃしてるようにしか見えなかった。リア充爆発しろ(した)。サブ主人公のようなもの。

イメージCV「松岡 ◯丞」

利根川 翔平(とねがわ しょうへい)

上から数える方が早いレベルの鎮守府の提督。お人好しで小さい頃は正義の味方を夢見ていた。しかし早くも現実を分からされた彼は文字通り血の滲むような努力で今の地位にたどりついた。元帥とは仲良し。

イメージCV「森川 智◯」

元帥

おじいちゃん。めっちゃ優しい。近所の優しいおじいさんみたいな外見してるけど本気出すとすんごい威圧感が出る。初期の頃の戦争で片足を失っており退役を考えていた。本編未登場。

イメージCV「大塚 ◯忠」

初月

この作品の主人公()。転生者であり掲示板を覗いたりたまにスレ立てしたりしていた。川島提督に好意を寄せており(無意識)たまにからかって遊んでいた。鎮守府でいろんな艦娘にアドバイスしたり面倒見たりしていたのでほぼお母さん。深海棲艦化してしまった。
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