ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ 作:たかてつ
アインクラッド編です。
七十四層攻略中のお話。
「えー、この数日間たくさんの方からー、お叱りのー、クレームをー、いただきましたがー、身に覚えはありますでしょうーか?」
「せっかくリーテンさん、来てくれたのに、何考えてるの?」
正座がきつい――耐えろ、脚。いつかは終わる。
《血盟騎士団》 は辞めたほうがいい。それと 《桃色鍛冶屋》 に横取りされる前に既成事実を。
――それはもう遭難してもおかしくないほど遠回りしたはずだった。だが、どうやら俺の選んだルート、アスナにとっては 《直登コース》 だったらしい。
やれやれ、ほんとにめんどくさい少女だ。 《攻略の鬼》 なんだから、もっと鬼らしくすればいいのに。
そんなわけで俺の大切な友人ふたりは、上司その他各方面から様々なご意見をいただいたらしい。良かったじゃないか。ますます親交が深まったじゃないか。
――共通の敵を見つけるのが、その人と仲良しになる最も簡単な方法。
それは歴史が証明している。学校で教わったはずだ。
いまさらひとりふたり敵対視してくるめんどくさい人が増えたところで、俺は困らないし、面白いし、変わらない。
「はい……すいませんでした」
素直に謝った。悪いと思った。
ナナミのいれてくれたすっかり冷めてしまったお茶をすすっていると、
「シュウは複雑なこと、簡単にまとめすぎ。だから誤解される」
白い湯気が急須の注ぎ口から立ち昇る。俺は一息に飲み干すと、
「いいんだよ……めんどくさいことを俺に聞くほうが間違ってる……」
かしこまって会釈をして注いで貰う。
「でもさー、懇切丁寧ーに説明したところでー、それを受け入れてもらえるかは、別だよねー」
チョコクッキーの味がする煎餅を片手に、コムロンは先週新調したばかりのソファーでごろごろしている。やめなさい、怒られるぞ。
「まあ……それは分かってる。何と戦えばいいのか、分からなくなったら……やってられなくなるよな……」
ほどよい梅の風味がきいた煎餅のようなクッキーをぱかっと割って、その大きいほうを俺に手渡しながらナナミは、
「そういう言い方。それが伝わらないって、言ってるの」
顔を見るなり溜息を吐かれた――どうなっているんだ、この店の接客態度。
「あのなぁ、 《攻略集団》 ってのは、昼間は前線に行くもんだぞ……」
最近になってようやく慣れてきたウインドウ操作。あれからずいぶん俺も進歩したものだ。
「そいつらが来たから……今、来たんですけど……」
やれやれと天を仰ぐと、嫌々感を漂わせながらエギルは査定を始めた。
うん、やっぱりナナミかシリカに頼むべきだった――どうせ俺は 《かわいい女性》 ではないから、せっかく持ち込んだアイテムも適当に安く買い叩かれる。そろそろ別の買取屋を見つけたほうがいいかもしれない……あっ、そういえばコムロンが 《セルムブルグ》 に新しいプレイヤーショップが出来た、とか言ってたな……そっちに移るか? でも、六十一層か……オシャレな感じのお店だったら、めんどくさいぞ……
「まあな……オマエの持ち込むアイテムを見れば、めんどうなモンスターやクエストをひとりでこなしているのは分かるけどよっ」
表示された金額――あれっ、そうでもない? やっぱり良心的なお店かも。店主、いかついし、めんどくさいけど。
にやにやしている俺を見て、また溜息をつくエギル。
「あぁ! そういやシュウ、新しい片手直剣どうだ? オマエなら大丈夫だろ……」
「えっ……リズに、」
俺の言葉を無視して、ずかずか二階に上がっていく……ちょっと、買わないし、いらないよ。
カウンターに頬杖をついて待つこと三分、にやにやしながらエギルはそれを持って降りてきた。
「ちょうど困ってたんだよ。こんなバケモノ扱えるヤツは限られるし、かといって変な野郎に転売目的で買われるのも、どうかと思ってな……」
「ふーん、珍しいね。そんなの、思いっきりふんだくればいいのに……」
エギルから渡されたそれは、デザイナーの手抜きを感じさせる真っ黒な鞘――そこから地味な濃紺と漆黒の柄を握って、いかにも 《怪しげな剣》 をゆっくり引き抜いた。
「重っ……いや、そうでもないか……」
「固有名は 《デスブロー》 。七十三層フロアボスの 《ラストアタックボーナス》 だそうだ。コイツを持ち込んだヤツは……まあ、分かるよな」
「ふーん、自分で使えばいいのに……あぁ、いっぱい持ってるのか、こんな感じの……」
俺は、 「ちょっと、ごめん」 エギルに背を向けると、適当に剣を振った。とはいえ、 《スラント》 からの 《ホリゾンタル》 だが。
あれっ怒られない? すぐさま怒声が飛んでくると予想したのだが……むしろ気持ち悪い静寂が続いた。
「しかし……速え、とは分かっていたが、目の前で見ると……恐ろしくて、笑っちまうぜ」
鞘に戻して振り返ると、引きつった笑みを浮かべて固まっているエギル。ちょっと面白い。
「いいね、これ……さっきのお金返すから、それで、ください……」
その言葉によって、あっさり硬直から開放されたようだ。ふにゃっと崩れ落ちた。
【変な剣、買わされた】
【いいね!前線おいでよ!】
【本部前デュエル申請了承】
迷うことなく七十四層へ転移した。本日三回目の前線攻略だ。偉いな、俺。
「邪魔すんな、このヘビムカデ!」
気持ち悪い生き物ばかり襲ってくる。それらを相手に 《デスブロー》 の試し斬りをしながら、森の奥の迷宮区に向う。
「でか過ぎだろ、トカゲタヌキっ!」
「……お前、何? 鳥? 虫?」
もう二時間以上、全速力で走りながら森林の 《害獣駆除作業》 を続けている――若干の疲労を感じてきたうえにやっぱり飽きてきた。しかし、ここで帰ったら、また怒られそうなので、頑張って進む。
ようやく迷宮区の入り口が見えて――あれ、わざわざお出迎え?
いつもとは違う変な笑い方で俺に手を振るコムロン。
「悪い、遅くなった。思いっきり走ってきたけど……」
なぜかコムロンは申し訳なさそうに頭を掻いている。
「いやー、なんかさー、前線、進んじゃったんだよねー」
「そうなの? やっとボス部屋、見つかったのか……あっ、攻略会議、欠席で……」
これからコムロンはあの 《鬼》 と攻略会議の準備に取り掛かるはずだ。よし、すぐに帰って遅くなるであろう夕飯までぐっすり寝よう。
「えーっと、多分だけどー、攻略会議は来週以降ーになる、と思うんだよねー」
すでに踵を返した俺は、その言葉に首を傾げながら振り返る。
「……何で? 見つかったんだろ、ボス部屋……」
コムロンは頬っぺたを両手で押さえながら口をとがらせると、
「いやー、デートのついでにボスー、倒しちゃったみたいなんだよねー。いやー、ほんとにあのふたり、凄いよねー……」
絶句した――それはデートじゃないよ、心中だよ、コムロン。
(終わり)