ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ 作:たかてつ
アインクラッド編、完結です。
お願いいたします。
どうやら今年は暖冬のようだ。
もう一月だというのに、圧雪どころか凍結もしていない。
すんなり実家に到着――日陰にほんの少しだけ残っている。
「お帰り。雪、少ないだろう?」
父は忙しいのか、それだけ言って作業小屋に戻る。
「ただいま。そうだね……」
かさっとお土産袋を見せると、俺は久々に玄関の扉を開けた。
きっと母が掃除をしたのだろう。とても綺麗だ。
とはいえ、そもそも物が全く無い部屋なので、そう見えるだけかもしれないが。
目の留まるものと言えば、窓、パイプベット、壁に写真……以上。
――それも失礼か。
俺はバッグをどすっと床に落として、そのままばたんと倒れ込む。
「……おやすみなさい」
枕に埋めた顔。ふわふわすぎて苦しい。ごろんと仰向けになる。
ふと、写真に目を向けた。
水色、黄色、青色、赤と黒――その胸と袖の文字、溜息が零れた。
「中島さん、勝ったら焼肉、お願いします!!」
その威勢のいい約束に、俺は苦笑いで答えると二階のフロアへ上がる。
「今の子はいいよな……これ、十年前に出来てほしかった……」
改修工事が終わったばかりの総合体育館。
めちゃくちゃ綺麗だし、何より暖房のおかげで暖かい。昔は 《冷凍庫》 だったのに……
客席に人はまばら――当然である。平日開催の地方大学フットサルリーグなんて見に来るやつは、よっぽど暇なやつだけだろう。
――そんな暇なやつ、無職の俺くらいだ。
しかし、二年間も寝たきりだったわりには、可愛いマネージャーさんにサインを求められたりするくらいの知名度は残っていたようだが。
大学生になっても弟は相変わらず、 「みんなで楽しむ」 そのプレースタイルを貫き通していた。
そんな彼に自然とボールは集まってくる。チームの 《呼吸》 を生み出している。
「おいっ、出せよ!」
小中高、海外、国内……いつもピッチで喧嘩ばかりしていた俺とは大違い。それが嬉しくて、羨ましい。
けしてレベルは高くない。けれど、楽しそうだ。みんな、嬉しそうだ。
だが、そのプレーする喜びが、俺には眩しくて、何よりも辛い。
ベンチに戻りながら、二階に俺の姿を見つけると笑顔で手を振る。
俺もそれに小さく返すと、隣の席に置いたペットボトルを手に取った。
「……無い……あっ、」
習慣とは怖いものだ。いつものようにぽいっと放り投げそうになる。
やれやれと、空のペットボトルをエナメルバッグに戻そうとした。が、すっと消えて、空いた席にぽすんと座った。
小さな蒼い水筒から注がれる。白い湯気が立つ。手渡される温かそうなプラスチックのコップ。
自然に受け取って、その薄めのお茶をすすりながら、
「あいつ、余計なことを……遠かっただろ?」
うんうんと頷きながら、小さな煎餅をふたつに割ると、自然にその大きいほうを俺に手渡す。
久しぶりの醤油らしい味の煎餅。ぽりぽりとかみしめる。
コップをよこせと手を伸ばす――黙って渡す。また、注ぐ。
「とりあえず、こんな所まで来てくれて、ありがとう……」
唇にコップをつけたまま、うんうんと頷く。
そして、溜息――
「何しに来た、とか、あんた誰って、言うのかと思ってた」
俺は苦笑いで 「誰だよ、それ」 とコップを要求したが、首を振って拒否される。
「でも、可愛い娘に甘いの、こっちでも変わらないね」
――見てたのかよ。
深い溜息を吐くと俺は、
「立場ってものがあるの。こっちでは……」
それを聞いてふふっと笑う。
「だから、誘っても、誘われても、ギルドに入らなかったわけ……めんどくさいね」
「ああ、めんどくさい……」
少しの静寂……ふたりは小さく笑う。
「秀……約束、覚えてる?」
「ああ、おぼえてるけど……」
湯気が立ち昇るコップを渡された。俺はそれに口をつける。
あれ? ほとんど残ってない。しかたなく隣の席に置いた。瞬間――
俺は細い腕で優しく抱きしめられた。
「……ゲームは嫌い、こっちで剣は使えない、だからもう、ナナミじゃない……瑞希で、いいよね」
俺たちは、いつも間違えてばかりだった――きっとそれは、こちらでも同じなのだろう。
素直に言った。 「はい」 と。
(終わり)