ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ 作:たかてつ
アインクラッド編のおまけ回です。
二〇二五年五月頃のお話。
「ふーん。なるほどね……とりあえず、お疲れ様でした、なのかな……?」
チームの地域イベント以来だから、おそらく四年ぶりになるのだろう。
《懐かしい》 という感覚を全く感じさせない現代的な校舎の雰囲気に 「今の子はいいなー」 と羨ましい気持ちが半分、そして学生なんてもうめんどくさいから勘弁、そんな気持ちが半分。
とはいえ、正直、学校なんて絶対通いたくない。めんどくさい。
それが本音かもしれない。
「……そういえば、エギルから聞いてるだろ? 明日のオフ、お前は参加しないのか?」
面談室、というよりもオフィスのミーティングルームといった感じの一室で、学生さんは飲み会に俺を誘う。
――こらこら、未成年がそんなところに出入りしちゃいけません。不良になっちゃうぞ。
しかし、そんな彼が上手い具合に手続きをしてくれたおかげで、俺はこの 《帰還者学校》 に潜入できたわけだが。
「でもさ……どうせ俺たちはまた外の席だろ? 店の中の楽しそうなおしゃべりを聞きながら、まったり飲むのも悪くは無いけど……」
「……ああ、そんなこともあったな」
すでに懐かしい、楽しかったあの日――それをお互い思い出したのか、顔を見合わせて苦笑いする。
「とりあえず……瑞希と相談してみるよ。行けそうだったらエギルに連絡入れる……と、思う」
「ミズキ? ……誰だよ、それ?」
あ、そうか――キリトくん、いや和人君は知らないのか。
「ごめんごめん、ナナミだよ。週末、彼女の実家に行くことになってて……他の用事もあるけど、今回はその為に東京に戻ってきたんだよ……」
「そうだったのか……お前らって、いつも一緒にいたから、こっちでもそういう感じなんだな……」
おや、ちょっと面白い反応してる。ここでさらに押してみるか――
「ああ、近々結婚するからな。ちゃんと挨拶しておこうと思って……」
「えっ、そうなのか!? それはおめでとうございます……って結婚? ……えっ、えええーーー!!!」
俺は、この少年と遊ぶのが面白くてたまらない。それを再認識した。
まだ動揺がおさまらない和人を楽しみながら校舎のエントランスから出ると、十名程の男子生徒が狭いながらも立派なグラウンドでボールを追いかけている。
「ごめん、和人くん、ちょっと 《嘘つき野郎》 に挨拶していっていい?」
「ああ、構わないけど……俺は校門で待ってるから」
それはそうだと思う。どうしていいのか分からないのだろう。いかにも少年らしい。
和人と別れ、俺はグラウンドに向かう。
そこから聞こえてくる走る音、いつも耳にしていたボールの音が心地良い。
「……ごめーん、ちょっと抜けるねー! ……おつかれー、結構早かったねー。もう終わったの?」
俺の姿を見つけると、 《あっち》 より、かなり遅いダッシュで駆け寄ってくる。
汗でびっしょりと濡れたTシャツ姿の 《小村龍司》 に、
「ああ、それよりおまえ……めっちゃヘタクソだな。何が 《東京選抜》 だよ。ほんと嘘ばっかりだな……」
「いやー、やっぱりプロの目はごまかせないかー……ごめんねー。でも、幼稚園の頃は本当に凄かったんだよー!」
その言葉に呆れながら、 「はいはい」 とエナメルバッグからペットボトルのお茶を取り出して、いつものようにぽーんと放った。
彼はそれをいつものように左手でキャッチして、蓋を開けるなりぐびぐび喉を鳴らすと、
「明日、オレは行くけど、秀はどうするのー? みっちゃん家に行くのは土曜の午後だっけ? 二日酔いになっても午後なら何とかなるんじゃない?」
――おまえ、未成年だろ。二日酔いを語らないでくれ。
「まあ、瑞希と相談するよ……おまえはこっちに帰ってくるのをずっと待っていてくれた可愛いゲーマーの 《彼女さん》 をみんなに紹介しに行くんだろ? ……それに加えて俺と瑞希……大パニック、確実だろうな……」
「えー、大丈夫だよー……多分」
俺たちはその光景を想像して、同時に変な笑顔になった。
「それにさ、もし二日酔いが抜けなくて失礼があったりしたら……瑞希のお父さんの 《リアルソードスキル》 発動とか……絶対嫌だし……」
「うん。オレも観たよー、みっちゃんのお父さんの動画……凄いよねー。あんなスピードで飛んでくるボールとかBB弾とか、本当に斬っちゃうんだもん。あっちなら秀とか和人くん、出来たかもしれないけどさー、こっちではありえないよねー……」
瑞希の 《剣才》 は見事に父親から受け継いだものだった――彼女の父親はそちらの界隈では超有名な 《現代の侍》 だった。
「……なんか、あのお父さん、 《アミュスフィア》 買ったらしくて…… 《ALO》 で立会いやろうぜ、とか言ってるらしいんだよ……そうなったらさぁ、どうしたらいいのか分かんないだろ……」
「それは……大変だねー。手加減するのも違う気がするしー、かといって本気でやるのもー……秀、大変だね……」
俺たちは変な笑顔から同時に苦笑いに変わる。それからすぐに、 「悪い、和人待ってるから」 と言って校門へ向かう俺の背中に、 「またねー」 の声。
俺は振り返らずに、何度か手を振った。
「ふーん、その学校、私も行ってみたいかも」
ちょっと熱そうなお茶を注ぎながら、瑞希は羨ましそうにそう言う。
「でも、学校って感じがあんまりしない……最近出来たやつはみんなあんな感じなのかもしれないけどね……」
海苔が固くて上手に割れた煎餅の大きさを比べながら俺はそう言う。
「こっちがいい……リズさん、里香さんと明日奈さんは元気だったよ。でも、やっぱり、凄く驚かれたけど」
俺の右手から煎餅を奪い取ると、美味しそうにぽりぽりしている。
「和人くんも……面白かったよ。久しぶりにからかえて、ほんと楽しかった……」
瑞希はちょっとだけ俺を睨むと、すぐにいつもの優しい笑顔に変わった。
「でも……」
「だよな……」
俺たちは、お互いの目をまっすぐに見る――
「めんどくさいよな」 「めんどくさいよね」
ふたつ同時に溜息。それからすぐに、ふたりとも俯いたまま笑う。
(終わり)