ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ 作:たかてつ
新生アインクラッド編です。
二〇二五年六月頃のお話。
確か、あれは四層を攻略していた時だ。
やたら人懐っこい熊やでかいクマやバケモノグマに怯えながら、明け方まで 《天然素材の収集》 に励み、船大工のめんどくさいおじいさん家の木の椅子で寝る気満々な俺に、半分瞼が閉じていたはずのコムロンは、何を思ったか唐突に語りだした。
「シュウくん、ナーヴギアの電子信号に対して、脳の反応速度……」
速攻で俺を眠らせるには、間違いなく最適解だった。
とりあえず、そのめんどくさいお話の結論は 《結局、才能》 だった気がする。
「球を蹴っ飛ばすだけで、いっぱいお金を貰えていいね」
社会に生きる結構な人数の方々から、散々そう言われ続けている職業に間違って就いてしまった俺は、それを小さい頃から嫌になるほど経験してきた。
とはいえ、正直言ってそんなものを考えても意味は無い。
――世界とは、カオスでありフラクタルである。
間違いかもしれない。しかし、それがサッカーでしか生きられなかった俺の答えだ。
だが、ちょっとカオスすぎやしませんか?
「だめです! このひと……あたしの彼氏なんです!」
……あんた、誰?
赤組のふたりのお兄さんに 《スイルベーン》 まで案内してもらった俺は、街の良さげな酒場に彼らを招待……といっても、彼らに連れていってもらったのだが、お礼に一杯おごることにした。
乾杯の合図と共に怒涛の 《ALOチュートリアル》 がはじまり、魔法やらアイテムやら何やらかにやら、一時間以上途切れることなくずーっと彼らはしゃべり続けた。
――この種族の人間はどこでも変わらないな。
ということで、すぐに飽きた。顔や言葉には絶対出せないが。
そんな時だった――
「あれっ!? ひょっとして、中島選手ですか!?」
ちょうど店に入って来た二人組みの友人らしき人物――赤い鎧を装備した背の高い若者は、どうやらマニアックなサッカー経験者のようだ。店中に響き渡るほどの大声で 《俺の苗字》 を叫んでしまった。
――あっ、まずい。
俺の前にダッシュで駆け寄ってきたその若者は、スタジアムで実際に俺のプレーを見たそうだ――にこにこしながら握手を求められる。当然、すぐに立ち上がってそれに応じた。そして、 「誰?」 訝しがる友人達に対して、めちゃくちゃ興奮しながら俺に変わり 《自己紹介》 をしてくださった。ありがたい……ことである。
「「えっ!!! マジの日本代表選手なんすか!?」」
……いえ、世代別代表程度の者です。ごめんなさい。
そんなことを説明してもしょうがないので、瞬時に 《営業モード》 に切り替えると、頑張ってにこにこした。
すぐに 《お決まり》 の握手とサインと 《記録結晶》 的なアイテムでの撮影会が始まった。
「すいません。ちょっとスポンサー的なやつで……SNSはNGでお願いします」
みんな、にこやかに 「OKです!」 と、言ってはくれたのだが……まあ、その時は怒られるだろう。内澤さん、ごめん。
彼らは同じ高校の同級生だったらしく、卒業してもこのゲームで一緒に楽しく遊んでいる、とのことだった。
「せっかくだから、もう一軒行きましょうよ!」
ちょっと断り辛い雰囲気。これはどうしたものか――と、言い訳を考えていた時だ。
天空から金髪の美少女が落下してきた。
いや、物凄いスピードで墜落気味に着地した、のほうが、より正確だろう。
彼女はすくっと立ち上がると開口一番、
「だめです! このひと……あたしの彼氏なんです!」
そう言い放つと同時に、ぐいっと俺の襟首を掴んで一気に急上昇。
赤組の皆さんの呆気にとられた表情はあっという間に見えなくなった。
「ちょ、ちょっと……人違いでは?」
「いいからっ!」
あまりの速度と高度にびびる。もう月まで飛んでいってしまう勢いだ。
そこからジェットコースターなんて目じゃないほどの猛スピードで放物線を描く。
――本気で気絶しそう。何なんだ、これは。何したいんだ、この娘。
この街で最も高いであろう塔の展望デッキに到着――ぽとっと、落とされた。まるで物扱い。ひどい。
彼女はすたっと軽やかに着地を決めると振り返って、
「もう! 何で 《スイルベーン》 で飲み会なんてやってるんですか!? 見つけるの大変だったんだからー!」
とりあえず……この緑の 《金髪美少女》 は俺を探してくれていたらしい。べたっと、格好悪くうつ伏せに倒れていた俺は、ゆっくりと起き上がりながら、
「痛ったたた……えっと、ごめんなさい。見つけてくれて、ありがとう……」
先ほどまでの名残のような、営業スマイルでお礼を述べる。
だが、彼女はその言葉と態度に大変驚いたようで、それまで怒っていた眼がいきなり大きく見開いた。
「あれっ? もしかして……人違いかも。でも、写真と同じ顔だよね……」
ささっと近くに寄って、俺の顔をじろじろと見る。いや、何か怖いんですけど……
「うん、やっぱり。あっ、……あの、シュウさん、ですよね?」
顔が近すぎることに気付いたのか、若干紅潮しながら目を伏せて俺が何者かと彼女は問う。
「えっと……ごめん。俺の名前はキリトだよ。きっと人違いだね……」
ほーら始まった。これだからVRMMORPGなんか参加しちゃ駄目なんだよ、俺。
しかし彼女は 「あはは」 とにっこり笑う。
「うん、シュウさんですね。お兄、キリト君から 《あいつの口からは嘘とめんどくさい以外の言葉は絶対に出てこない》 って聞いていたんで、さっきのはちょっとびっくりしちゃった。けど、やっぱりキリト君の言うとおりの人ですね!」
「…………あはは、そうだね」
――何故だろう? 今まで似たようなことを多くの方々から散々言われながらこれまで生きてきたけれど、この娘に言われると、凄く、傷つく。
そして、この兄妹、ひとさらい……いや、人助けが出会いとは……偶然とは面白いものだ。
「あたしはリーファ。キリト君とエギルさんに頼まれて、シュウさんを迎えにきました!」
金髪美少女は、にこやかな笑顔で右手を差し出した。
とりあえず、クライン氏がわざわざメールで教えてくださった 【今後成長に期待する若手ナンバーワン】 その意味がようやく理解出来た。
あいつ、アホだ。まあ、この目で理解したけれど。俺もアホだ。というか男はみんなアホだろう。うん、それでいい。ごめんなさい。
そんな理解が深まったところで、
「改めて、シュウです。よろしくお願いします。あっ、今日は俺達ふたりの記念日になるね……」
ん? っと握手をしたまま不思議そうに首を傾けたリーファに、
「いや、お付き合いを始めたわけだから、これからは毎年今日が記念日だろ? そうそう、お兄さんにもご挨拶しないとね!」
――ああ、やっちまった。もう駄目だ。
リーファは顔を真っ赤にすると、一気に飛び立った。
「もう、ほんとにお兄ちゃんの言ったとおりだっ!! すっごいむかつく! ほらっ、さっさとついてきて!」
猛烈なスピード、あっという間に見えなくなりそう。まあ、しょうがない、自業自得だ。
やれやれと、羽を広げて俺の 《友達の妹さん》 の後を追う。
……これ、追いつけるのか?
(終わり)