ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ 作:たかてつ
新生アインクラッド編です。
二〇二五年六月頃のお話。
アミュスフィア、買ったよ――
「パパ、ママ、すごいです! お客さん、いっぱいですね!」
くるくると飛び回りながら、ユイが歓声を上げる。
――唖然とした。キリトを肘で突付きながら、
「ちょっと……これじゃ、モンスターバトルだよ……」
カジノの地下一階、 《バトルアリーナ》 の客席は、色とりどりの妖精達で埋め尽くされている。
キリトの後ろに隠れ、その光景に愕然とするリーファは、
「す、すごい、いっぱい集まってるね。これ、あたし、緊張しちゃうよ……」
それは……そうだろう。
「スグ、大丈夫だ。七十五層のコロシアム――これよりもっと酷かった。しかし、客を入れるとはなあ……」
――あれと比較してどうするんだよ。それじゃ妹、可哀想すぎるだろ。
頭を掻きながら、このイベントのプロディーサーは申し訳なさそうにしている。
「すごいね……でも、やっぱり団長との時よりは、うん、お客さん少ないかなぁ……」
頑張ってフォローするアスナ。だが、まったくフォローになっていない。
「おいおい……あと五分で始まっちゃうけど、お前の友達、本当に間に合うのか?」
落とし戸の向こう側から観客の大歓声が漏れ聞こえる。
キリトの不安そうな顔を楽しみながら、俺は笑顔で 「大丈夫!」 とは言ったものの、若干の焦りはあった。
――あいつが来なかったら、アスナに頼むか。お客さんもそっちのほうが盛り上がるだろう。
「すいません、遅くなりました」
突然の声にぎょっとする四人――同時に振り向く。俺は、ほっとして溜息をつくと右手を差し出して、
「お久しぶりです。こちらこそ、すいません。なんか大事になってしまって……」
握手を交わしながら小さく頭を下げると、
「大丈夫ですよ。私も一度くらいは表舞台に立ってみたかったので。それに有名な 《攻略集団》 のおふたりと、その妹さん、それに娘さんにお会いできて光栄です」
深く被ったフードを脱いでハンチング帽をとると、四人にむけて丁寧に頭を下げた。
ゴゴゴ……という重い音が鳴り響くと同時に会場を揺らすほどの大歓声――
「それでは、選手の入場です!」
NPCのアナウンスが聞こえると俺は、 「じゃあ、いこうか」 と、だらだら歩いて入場する。
俺の後ろにフロッガー、キリトとアスナに挟まれるようにして、めちゃくちゃ恥ずかしそうにしているリーファが続く。
入り口からちょっと進んで横一列に並んだ。正面に一礼、振り返って一礼。
横目で相手陣営を……ひとりだけ、そっちにいてはいけない奴がいる。
頭に手をやりながら 「悪りぃ」 といった表情でこちらを見ているが……俺たちの視線は冷たいものだった。
「とりあえず、俺、フロッガーさん、リーファの順番で。先に二勝するから……あとはリーファ、楽しんで!」
そう言ってすたすたと中央へ。
「すいません……館長が、絶対参加って言ってきかなくて……僕は全然やりたくないんですけど」
師範代の角田さんは、すまなそうに右手を差し出した。
「いや、こちらこそすいません……俺もやりたくないんですよ。ほんとに……」
握手をしながら苦笑いする二人。とてもこれから立会いをする雰囲気ではない。
俺たちはお互い下がって距離をとる。
剣を鞘から抜いた。だが、角田さんは抜かない。
――さすが、七瀬の抜刀斎。
「それでは、第一試合――はじめっ!」
瞬間、歓声が消える。
俺は迷うことなく中段に構えたまま突っ込んだ。ソードスキルなら 《ヴォーパル・ストライク》 のように。
眼鏡の奥の瞳がにやりと笑う――読まれていた。剣尖が触れる寸前、僅かな重心移動と捻り。
高速の抜刀――右上から迫る刀身。
俺は、それを待っていた。
剣に導かれるように、宙に浮いた俺の身体は反転する。
「えっ、」
刀を握り締めたまま右手首が吹き飛ぶ。角田さんは動かない。
胴、右、背、左――滑るように四閃。
固まったままの角田さんの首に剣身を当てると、
「……すいません」
ぽろんと落ちて、ころころと転がるその顔は、笑顔だった。
静寂……お客様、どん引き。なんか、申し訳ない。
「おーい、リーファ、生き返らせてー」
その声に、はっと我に返ったリーファは、あわててこちらへ駆け寄ってくる。
ふわふわした歓声と拍手の中、俺は自陣の方へすたすたと歩く途中、客席に瑞希の姿を見つけると、ピースサインを送った。
瑞希は無表情で小さくピース……おい、隣の猫二匹、それやめろ。ひょこひょこしない。
にやにやしながら椅子に座ると、肘で俺を突付きながら小声でキリトが、
「おい、何だよ、今の? ソードスキルじゃないだろ……」
俺は耳元に顔を近づけると、
「アスナから聞いてない? ほら、これこれ。奇跡的に残ってたんだよ……」
俺はコムロンから返してもらった 《愛剣》 を指さした。
それに目を落とすと、苦笑いのキリト。
「なるほどな。その剣……あの頃、リズは 《意味不明》 って呼んでたな。まあ、アスナから聞いて納得したけど」
くすくすと笑う俺たちふたりの間にぐいっと割り込んできたアスナが、
「とりあえずおめでとう。でも、あの人、本当に大丈夫なの? 失礼だけど……ただのおじさん、って感じだけど」
心配そうなアスナに、胡散臭い笑みを浮かべた俺は、
「大丈夫。間違いなく 《対人戦》 だったら……ここにいる誰よりも強いよ。こっちでも、あっちでも、絶対に勝てないから……」
「それって、どういうこと?」
角田さんの蘇生を終えて戻ってきたリーファ。不思議そうに首を傾ける桐ヶ谷家の面々。それから視線を闘技場の中央へ移す。
向かい合う二人。握手の最中、フロッガーはいつものように笑顔で何かを伝えたようだ。門弟さんの表情が一気に曇る。
――はい、終了。俺はこの 《ゲーム》 の勝利を確信した。
「それでは、第二試合――はじめっ!」
その後は、一方的なものだった。
勝敗はついたものの、第三試合は素晴らしかった。
流石、の一言である。
瑞希の父親はリーファの剣を上手く受けて見せ場を演出――互いに剣技を存分に披露し、客席を大いに沸かせた。
試合には負けたものの、 「悔しいけど、すごく面白かった!」 と満足気なリーファ。アスナとユイも嬉しそうだ。
幸せそうで、何より――
ということで俺はキリトのロングコートの背中をくいっと引っ張る。
「ちょっと……儲かりました? 最低でもビーチの分、勝ちました?」
ぎくっとして、ゆっくり振り返ると、あらぬほうに視線を向けながらキリトは、
「いや、実はカジノのオーナーに 《無料でいい》 って言われてさ……お前、ナナミと一緒に来る?」
焦る表情の少年が面白すぎて、にやにやが止まらない俺は、
「いいよ、俺たちは……あっ! あの 《猫耳カップル》 招待してあげて。きっと喜ぶから……」
ふっと笑顔を見せると、 「ああ、分かった」 と、キリトは前を見据える。
俺は、そこで彼らと別れた。
【お疲れ様でした。ありがとうございました】
【こちらこそ楽しませてもらいました。またお願い致します】
(終わり)