ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ    作:たかてつ

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SAOです。
新生アインクラッド編です。
二〇二五年七月のお話。


025 奇跡のゲーム

御徒町のエギルの店、 《ダイシーカフェ》 の黒いドア。

無造作に掛けられた傾いた木札に 《貸切中》 の無愛想な文字。

集合時刻を二十分ほど過ぎた時、カランと乾いたベルの音。

「わりぃわりぃ、もう始まっちまったか?」

冷たい視線が一斉に向けられる――

「敵だ」 「敵襲ー」 「敵です」 「裏切りものー」 「裏切り者は、お断りだぜ」

カウンターのスツールで、角田はその光景に苦笑いを浮かべる。

額のバンダナから滑る汗。

「もうみんなして、いじめるなよお。だから何回も謝ったじゃねえか……」

ふらふらと肩を落としながらスツールに腰掛けると、申し訳なさそうに角田が 「すいません」 と頭を下げた。

クラインは苦笑いしながら、 「コイツら、ひどいだろ?」 と右手を差し出す。

「レクトプレゼンツ―― 《GEO2025キックオフゲーム》 それでは選手、入場です!」

スピーカーからのアナウンス、大型モニターに映し出されたスタジアムは一瞬で暗転した。

正面スタンド下の選手入場ゲートに眩いスポットライトが集中する。

「ジャパン・ドリームブルー、背番号、1――」

スタジアムDJが背番号と名前をコールする。続々と登場する歴代の名選手達――その姿に超満員のスタンドから大歓声が送られる。

「おいおい、セルジ本郷も出んのかよ……うわあっ! ファンタジスタ三村じゃねえか。いやあ、懐かしい!」

選手が入場するたびに、ひとり盛り上がるクライン。

テーブル席のキリトはカウンターに怪訝な表情を向けると、

「お前、サッカー、見てたの?」

興奮するクラインは立ち上がって胸を張ると、キリトを若干見下すように、

「ったりめえよ。社会人なら当然だぜ。お前ェみたいにゲーム知識だけじゃ、大人の世界は渡っていけねぇ、ってことだな」

「どうせ、ワールドカップの時だけ騒ぐ 《にわかサポーター》 だろ」

エギルの的確なつっこみに、焦ったクラインは 「うるせえ」 と食って掛かる。

やれやれと、モニターに視線を戻したキリトの袖をくいくいと直葉が引っ張った。

「ねえ、お兄ちゃん……この人達って、みんな凄いひとなの?」

困ったように首を傾げてこめかみを掻くキリトは、

「うーん、サッカーとか、全然分からないからなあ。でも、凄いんじゃないかな?」

にやにやしながらリズベットは、

「あんた、体育の球技、全然駄目だもんねー」

「うるさいな、しょうがないだろ……あんまり好きじゃなったから、やらなかっただけだよ」

めんどくさそうに、じとっとした目でキリトは睨みつける。それに悪戯な笑みを返すリズベット。

その様子に苦笑いを浮かべたシリカは、大型モニターに視線を戻すと、

「でも、もしかして、シュウさんって……凄いひと、だったんじゃないですか?」

しばし静寂――沈黙をキリトが破る。

「いや、絶対にそれはない。嘘とめんどくさいしか言わない奴だ」

「うん、それに冗談ばっかり。ほんとにむかつく」

「ないないっ! あんな適当なやつ、凄いわけないでしょー」

「だよなあ。あいつ本当にやる気ねえからなあ……」

「ああ、攻略もさぼってばかりだったしな」

「そうだったんですか!?」

驚く角田に視線が集まる。

「「うん!」」

あはは、と困ったように小さく笑うシリカ……

「――背番号、21、中島、秀――!!」

その名前が店内に響き渡った瞬間、それぞれ複雑な表情で大画面に眼差しを向ける――

 

 

いや、それにしても絶景――

最大収容人数六万の大規模スタジアムに超満員のサポーターと……珍獣が大集合。

様々なアバターで来場された方々が、今日の試合の為に用意された特別な代表ユニフォームを纏って楽しそうに観戦していらっしゃる。

――本当にありがたいことである。

まあ、このゲームは 《サッカー好き》 でなくとも面白いはずだ……だって、こんなの、見たことないし。

 

 

おじさん達が現役時代そのままのフィジカルで、きれっきれのプレーを披露している。

当然公式戦ではないから……とはいえ、みんな公式戦とは違う方向で 《がち》 っぽい。

――すげー面白い。ずっと観ていたい、この試合。

ウォーミングアップゾーンで適当にジョグとストレッチをしていると、今回参加したメンバーの中で唯一、全く気を使わなくてもいい人が、

「なあシュウ、これ、俺たち出なくてもいいんじゃないか? 面白いから見てるだけでいいんだけど」

やはり同じ気持ち――現役の日本代表選手だったとしても、この状況は……さすがに引くようだ。

「だよな……シンでもそう思うんだから、俺なんかが出て行ったら……場違い感、凄いだろ……」

そう言ってがっくりと肩を落とした俺を見て、過去の戦友であり、現在も親友の 《中村真一》 は苦笑いを浮かべる。

「プレーはともかく、有名人ばっかりだから……こんなのキツイよな」

俺たち二人が出場した 《U-20ワールドカップ》 の直後、ポルトガルのクラブに移籍して活躍、現在はフランスの名門クラブに所属しているシン。

そんな彼ですら、このピッチで元気いっぱい好き放題暴れまくっているおじさん達に……知名度では全く敵わない。

「「おっ、きたか!?」」

右サイド奥からのピンポイントクロスに 《持ち場を放棄して》 疾駆した奈良さんがダイビングヘッド……正確には、ヘッドダイビング。

湧き上がる大歓声――素早く立ち上がり、ちょっとだけ伸びた坊主頭をぺちぺち叩きながらバックスタンドに駆け寄っていく。

――すげー面白い。さすが奈良さん。持ってるなあ。

後ろから引っ張られて派手に倒れた 《高校時代》 の奈良さんを押し潰すように次々とおじさん達が重なっていく。

その時――内澤さんが叫んだ。

「シン、シュウ、いくぞ!!」

 

 

日本で開催されたワールドカップの代表監督だった 《赤鬼》 こと、フランス人のおじいちゃんは、俺達の肩をぽんぽんして、にこっとウインク……それだけだった。

「ロス入れても二十分だから! シンはがんがん回していけ。シュウも取られんの、気にすんな。ふたりとも思いっきりやってこい!」

懐かしくて相変わらずな内澤さんの指示を適当に聞き流してピッチサイド中央へ向かう。

「やっぱり、場違いだよなあ……」

「もうやるしかないだろ。裏も出すから走れよ」

俺達はレフリーチェックを受けながら握手を交わした。

ふと、 《家族ゾーン》 に目を向ける。

――あら、嬉しそう。

青のユニフォームに袖を通した 《緑の妖精さん》 と 《赤いお侍さん》 と 《化け猫バカップル》 は笑顔でこちらに手を振っている。

妖精達に挟まれた瑞希……恥ずかしそうだ。なんか面白い。

それから豪華な 《VIPゾーン》 に……あ、いた。

疲れた様子を見せず、こちらに上品な笑顔で手を振るアスナの姿。

――かわいそうに。あと二十分、頑張れ、お嬢様。

ボールがタッチラインを割った。長いホイッスルがスタジアムに響き渡る。

「行くぞ」 「行こうか……」

《奇跡の世代》 を牽引して、強豪アルゼンチンからふたりで三得点を奪ったものの、その後のPK戦で二人とも見事に外した残念すぎる 《奇跡のコンビ》 は、その絶妙すぎるタイミングに、あの頃と全く変わらない、へんてこな笑みを浮かべてくすくす笑った。

無意識に――久しぶりに俺は、胸の誇り高き 《代表エンブレム》 を握り締めていた。

 

 

「お前、決めろよー。アシストついた、って思ったのにさあ……」

シンはようやく起き上がった俺のお尻をキックする――蹴るな、ポンコツボランチ。

「はい決まった、って思ったよ……ま、こんなもんっすよ……」

にやにやしながらシンと握手を交わす。

――ちょっとまだ怒っている。相変わらず、こいつの不機嫌な顔は面白い。

そのまま二人でだらだらと歩いてセンターサークルに向かう途中、いきなり背中をどんっと思いっきり叩かれた。

「おいシュウ、またやられたって思ったぞ。マジ焦ったし。右利きのくせにオマエの左、やっぱりヤバイなー!」

俺の首に太い腕を回してぐいぐい締める。

――めんどくさい。離してくれ。筋力値、考えてくれ。

十五年間も日本代表のゴールマウスを守り続け、二〇二二年に引退した水口さんは笑顔で俺の頭をぽんぽんと叩く。まじうっとうしいおっさんだ。

「現役最後のゴールがお前でさー、またここで決められたらマジで嫌いになりそうだったからさー、クロスバーに救われたよ、オマエ!」

嫌いになってくれても構わないですよ……とは、絶対言えない。

胡散臭い笑みを浮かべながら、 「すいません」 と適当に頭を下げた。

「おい、シュウ、急げ」

シンはそう言って足早にセンターサークルに駆け出した。

……あ、めっちゃ怖い先輩方が睨んでいらっしゃる。

 

 

ひたすら気を使い続ける過酷な時間がようやく終わり、全てのめんどくさいことから解放された俺は、隣のメンタルが疲れ切って変な笑顔になっているシンと握手を交わす。

「暇だろ? 都合のいいタイミングで 《優》 誘ってマルセイユに来いよ。またみんなで飯食おうぜ」

「了解。大学の休みに合わせて一緒に行くよ。けど、それまでクビになるなよ。ポルトガルの田舎とか、絶対行きたくないし……」

「うわっ、ありそうで怖いな。その時はスペイン行こうぜ。バルサのたっちゃんに奢ってもらおう」

にやにや笑う俺の胸をぽんと叩くと、「またやろうぜ」 さやわかな笑顔でそう言ってシンはスタッフと共にログアウトした。

それを見届けて、俺もウインドウを操作する。眩い光に包まれる――あーまじで疲れた。

 

 

優しくアミュスフィアを外された。

「はい、そのまま。動かない」

瑞希の柔らかい指先が俺の瞼を閉じさせる。ちょっと怖い。

暗転して静寂――唇が。

すっと身体を起こして、ぴょんっと立つ。

「はいっ、残念賞。でも、格好よかった」

ふふっと笑ってくるりと反転、 「これ、買ってみた。似合う?」 俺のネームと背番号を見せるなり、恥ずかしそうに隣の部屋へすたすた向かう。

――なんだ、今の。こんなこと、出来るひとだったの?

 

 

(終わり)

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